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貴族社会を奇策で殴る  作者: 水守 鳴
12章 国一番のロマンチック・ドラマチックカップル
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ep.61 私にしてください!

リドル公爵が鋭い声で言い放つと、クレオミサ侯爵令嬢は真っ青になった。


「どうした? 嘘をついてないなら堂々としたらどうだ? 正直に謝罪すれば、抗議文は送らないでやる」

「……っ!」


 クレオミサ侯爵令嬢は唇を噛んだ。そして、悔しそうに顔を歪めると、頭を下げた。


「申し訳ありません。私が嘘をつきました」


 周囲の貴族たちが息を呑む音が聞こえた。


「嘘でしょ……。品がないわ」

「自作自演?」

「あれで侯爵令嬢? ひどいわね」


――やった! 誤解が解けたわ!


 クレオミサ侯爵令嬢は顔を上げると、リドル公爵に言った。


「私は嘘をつきましたけどね! それはあなたに見てほしかったからです! 好きな男性の側に綺麗なレディがいたら嫌に決まってます!」


「はあ? お前の都合など知ったことではない。俺は君なんて眼中にない。俺は心に決めた女性がいるのでね」


 周囲が再びどよめいた。


――ええ!? リドル公爵、好きな女性がいたの!? 誰!?


 傷ついた顔のクレオミサ侯爵令嬢から視線を外し、リドル公爵は王女様に向き直った。


「俺とケイミルは帰らせて頂きます。俺たちは旅行でこの国に来たんです。こんなことになって不愉快なのでね」


 王女様はさっと顔色を変えた。


「私の主催するパーティーで不快な思いをさせて申し訳ないです。……帰るのは、お二人ではなくて、そこの礼儀知らずですわ」


 王女様がクレオミサ侯爵令嬢を指差すと、リドル公爵は冷たく笑った。


「いえ。王女様の招待客を追い返すわけにはいきません。俺たちが帰らせてもらいますよ。行こう。ケイミル」


 リドル公爵は私の手をとった。


――私のこと、助けてくれたんだ……。


 じんわりと、涙が滲んだ。そのとき、黙って様子を見ていたイザベラ公爵がクレオミサ侯爵令嬢に言った。


「リドル公爵とケイミル公爵令嬢は私のお客さまだ。楽しく滞在してもらう予定だったのに……。君は私の面子まで潰すのか?」


 顔面蒼白の彼女を一瞥すると、イザベラ公爵は私たちに微笑んだ。


「後処理は私がやっておこう。二人は先に帰りたまえ」


「そうさせてもらうよ。ケイミル。行こうか」

 私はリドル公爵に手を引かれて歩き出した。


「お前、私のパーティーを台無しにして! どういうつもり? 私の顔に泥を塗るつもりなの!?」

 背後で、王女様の怒鳴り声が聞こえた。


◇◇◇ 

 馬車に揺られながら、私は何度もリドル公爵にお礼を言った。


「リドル公爵! ありがとうございます! 助けて頂けなかったら、どうなってたか……。怖かったです!」


「もう大丈夫だよ。今日のことは忘れて、明日は綺麗な景色を見に行こうか? ラスマン領には大きくて綺麗な湖があるんだよ。一緒にボードを漕ぎに行こう」


 リドル公爵は優しく笑うと、頭を撫でてくれた。なのに、私は彼の笑顔に胸が苦しくなった。


――リドル公爵には好きな女性がいるんだ……。この笑顔は、私だけのものじゃないんだ。


 その女性は誰だろう。リドル公爵は彼女とどんな風に喋るんだろう……。手を繋いだり、キスしたりするのだろうか。


――それは嫌だ!


 胸が引き裂かれるように痛くなった。

 気づいたら、私は涙を流していた。


「ケイミル、どうした? 怖かったのか? もう大丈夫だよ」


「違います! もっと怖いことがあるんです。リドル公爵は好きな女性がいるんですか? 誰ですか?」


――私、リドル公爵が好きだわ。


「私にしてください!」


 私が潤んだ瞳でリドル公爵を見上げると、彼は目を見開いた。そして、嬉しそうに笑った。


「ケイミルにするよ。俺が愛してる女性はケイミルだ。一生大事にする! 愛してる!」


 リドル公爵は私を抱きしめた。


◇◇◇ 

「それで、リドルと婚約したのよね。成人して二十歳になったらすぐに結婚したわ」

「凄い……! ロマンチックすぎます!」

「カー!」


 私がはしゃいだ声を上げると、グリースたちが同調するかのように鳴いた。まさか、グリースにも魔族語が理解できるのだろうか。


――いや、そんなわけないか。きっと、雪鳥だけよね。


 私は思考を振り払った。


「それで、ケイミル=ファル=ウララ公爵夫人になったんですね! 恋愛小説みたいです!」


「そうなのよ! お義母さまとお義父さまも、凄く喜んでくれたわ!」


「そうなんですね! ところで、クレオミサ侯爵令嬢はその後どうなったんでしょう? 私なら恥ずかしくて、もう社交界に出られません」


「ああ。彼女は怪鳥の社交界に居づらくなって、人間界に長期間旅行に行ったのよ。旅行先で、帝国貴族の侯爵と知り合って、恋に落ちたらしいわ。今は侯爵夫人として、人間界で幸せに暮らしてるそうよ。魔力を捨てて人間になったんですって」


「えー!? そういうオチなんですか!?」


 ケイミル公爵夫人はクスリと笑った。


「性悪女を心配するなんて、ユリジェンヌ侯爵令嬢ってば、優しいのね」


――性悪女ー! ケイミル公爵夫人ってば、ストレート!?


「いやあ。クレオミサ侯爵令嬢より、お兄さんの侯爵が可哀想だよ。侯爵就任早々、妹がそんな問題起こしてさー。僕ならウララ公爵家とラスマン公爵家と怪鳥の王家に全力で謝罪だね」


 ササラ公爵がそう言うと、チェーザマリーも頷いた。


「ああ。ケイミル公爵夫人とリドル公爵の怪鳥伝説は俺も聞いたことがあるがな。侯爵は徹底的に謝罪したらしいぞ?」


「そのエピソードは伝説になってるんですね……。ところで、それは何年前の話なんですか?」


「三十四年前の話ね。今は結婚生活三十年目よ」


「お二人って、もしかして、年の差五百九十五歳?」


 私が恐る恐る聞くと、ケイミル公爵夫人は笑顔で頷いた。


「そうよ。魔族は年の差婚は珍しくないけどね。私たちは結構年の差カップルかも。でも、花人魚は長命種よ。フェアリーの方が寿命が短いから、先立たれる心配はないわ。私、リドルに言ってるのよ。『私より先に死んだら承知しないわ!』って」


――仲良いな……。確か、フェアリーの平気寿命は五百歳で、花人魚が千三百年弱だったっけ。


「年の差婚はパートナーが死ぬと寂しい思いをするリスクがあるからね。長命種の花人魚はおすすめの結婚相手よ。超長生きだし健康な者が多いもの。あっ、ヴァンパイアもおすすめよ。ヴァンパイアは長寿で、最高寿命は千五百歳らしいし」


 ケイミル公爵夫人はちらりとチェーザマリーを見たが、すぐに視線を私に戻した。


「なるほど……。そういえば怪鳥も長命種でしたね」


――私は化け猫だから短いんだよね。化け猫の平均寿命、八百歳だし。


「さ、昔話はこの辺にして、魔鳥園をもっと楽しみましょう! 次は天の川カササギを見に行かない? 羽が綺麗よ!」


「ほんとですか? 見てみたいです!」


 その後、たっぷり二時間かけて、私たちは園の魔鳥たちを観賞した。


 そして、レストランに移動することになった。


 このときは思ってもいなかった。

 ケイミル公爵夫人が突然倒れるだなんて。


◇◇◇

「それでね、三歳下の私の妹が結婚相手を探してたの。同時期に、花人魚の侯爵が結婚相手を探してたのよ。だから、侯爵に妹を勧めたわ。縁談がまとまって、妹も花人魚の国に嫁いできたのよ」


「へえ! 姉妹揃って、国際結婚されたんですね」


「そうなのよ。ササラ公爵は国内婚よ。でも、ササラ公爵も私と同じで年の差婚なのよ」


「ええ!? そうなんですか!?」

「うん。妻は僕より七百歳年上だよ」

「えー! そうなんですね!?」


 私たちはお喋りしながら、レストランで食事を楽しんでいた。


 コース料理に使われているのは採れたての野菜で、新鮮でシャキシャキしした味わいが素晴らしかった。


 メインの肉料理を食べ終わったときだ。


 急に、ケイミル公爵夫人が口元を押さえた。そして、ふらりと倒れたのだ。


「ケイミル公爵夫人!?」


 隣に座っていたササラ公爵が、即座に彼女を受け止めた。


「夫人! どうされました! 僕の声が聞こえますか?」


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