ep.59 嫉妬の芽
◇◇◇
私たちは、花人魚の国の隣国、怪鳥の国に一カ月滞在することになった。
怪鳥の国は、自然が多くて肥沃な大地だ。美しい景色も沢山ある。
魔鳥の中では、怪鳥だけが人型になることができる。
怪鳥たちは普段は人の姿で暮らしていて、魔族語を喋り、文明を持っているのだ。
しかし、必要があれば怪鳥の姿に変化する。彼らは特別な魔術で魔獣や魔鳥を従えることができる。魔獣と魔鳥たちの長のような存在なのだ。
――怪鳥の国って、どんなところなのかな?
私はドキドキしながら怪鳥の国へ向かった。
花人魚の国の王都関所から、怪鳥の国までは魔道で約十五時間だ。
朝早くに出発した私たちは、馬車に揺られて魔道を走り、途中下車して昼食と夕食をとった。
滞在先に着いたときには深夜になっていた。
私たちの滞在先は、怪鳥の国のラスマン領だ。
◇◇◇
ラスマン領は、序列一位公爵のイザベラ=デ=ラスマンが治める広大な土地であり、怪鳥の国の一大観光地だ。
リドル公爵とイザベラ公爵が旧知の仲なので、旅行中、私たちはご厚意でラスマン邸に滞在することになった。
「ようこそいらっしゃいました! リドル公爵、モモン前公爵夫人、ソウ前公爵、ケイミル公爵令嬢! ゆっくり寛いでくださいね!」
イザベラ公爵は私たちを大歓迎してくれた。
彼女は漆黒の髪と水色の瞳を持つ美女だった。
イザベラ公爵は、自ら屋敷の案内をしてくれた。
「ラスマン公爵邸には、広いプールがありますよ。いつでも人魚姿に変化して泳げますから、自由に使ってください」
中庭に出ると、そこには本当に、広いプールがあった。
「俺は泳ぐのが嫌いな人魚なんだ。知ってるだろ? プールは母上と父上とケイミルだけで楽しんでくれ」
リドル公爵が苦笑すると、イザベラ公爵とモモン夫人とソウ様は可笑しそうに笑った。
――え……。リドル公爵、人魚なのに泳ぐの嫌いなの?
来て早々に、私は彼の意外な一面を知った。
◇◇◇
私たちはラスマン領の美しい景色を見て回った。
郷土料理に舌鼓を打ち、博物館やプールも楽しんだ。
晩餐は、イザベラ公爵と一緒にとることが多かった。
ラスマン領は王都のすぐ隣にあり、イザベラ公爵は王城に出勤する際は自邸から通勤していた。仕事は毎日十八時に終わることが多いので、二十一時に五人で食卓を囲んだ。
イザベラ公爵とリドル公爵は、どちらも財務部所属だった。だから、食事の時間は二人で経済の話をしていることが多かった。
――リドル公爵って、仕事の話をするときはこんな顔するんだ……。かっこいい!
初めて見る仕事人の顔に、尊敬の念を抱いた。
やがて、三週間が経過した頃、イザベラ公爵が私たちに提案した。
「王城で、怪鳥の王女様がパーティーを開くんだ。一緒に行かないか?」
私たちは賛成した。そして、私とリドル公爵とイザベラ公爵の三人でパーティーに参加することになった。
イザベラ公爵は私のために、青いドレスを贈ってくれた。私が参加すると思って、事前に用意してくれたらしい。
「ケイミル公爵令嬢の瞳の色と同じだ。きっと似合うよ」
そう言って、青い鳥のイヤリングまで贈ってくれた。
「ありがとうございます!」
――イザベラ公爵って、優しいのね。でも、なんで私だけに贈るんだろう?
不思議に思っていると、イザベラ公爵は少しにやにやしながらリドル公爵を小突いた。
「王女様のパーティーで意中の相手に告白した貴族はな、毎回成功してるらしい。最近、王女様は縁結びの力があるっていう伝説が生まれてるんだ。お前、そろそろ相手を見つけて結婚したらどうだ?」
「俺はまだ結婚する気はないよ。イザベラこそ結婚したらどうだ?」
「は? 私は面食いなんだ。私より美形の男じゃないと嫌だな」
楽しそうに喋っている二人を見て、なぜか私は胸がもやもやした。
――イザベラ公爵とリドル公爵って、仲良いんだな。なんか、嫌かも……。あれ? なんでかな?
私は心の中で首を傾げた。
――イザベラ公爵、未婚なんだ……。もし、リドル公爵とイザベラ公爵が結婚したら、お似合いなんじゃないかな……。序列一位の公爵同士だもん……。話も合うみたいだし……。
「どうした? ケイミル公爵令嬢? 顔が暗いぞ」
私ははっとした。イザベラ公爵とリドル公爵が心配そうに私を見ていた。
「えっと……。王女様のパーティーなので、緊張してるみたいです」
私が無理やり微笑むと、イザベラ公爵は優しく微笑んだ。
「そうか。安心するといい。私が有力者の怪鳥貴族と王女様に君を紹介してあげよう」
「ほんとですか!? ありがとうございます!」
――イザベラ公爵って、なんて親切なの……。魅力的な女性だな……。モテそうだな……。リドル公爵は女嫌いなのに、イザベラ公爵とは仲良いんだ……。
私は、もやもやした。自分より魅力的な女性に嫉妬してるみたいで、嫌になった。
これ以上考えたくなくて、私は自分の気持ちに蓋をした。




