ep.6 贈り物作戦と粋な魔王様
◇◇◇
献上と言っていたが、魔王様は帰る際に砂金とサファイアを私にくれた。
私が金髪碧眼が好きと知ったからだろうか?
――魔王様って、粋なのね。
◇◇◇
献上が終わると、私は化け猫の国に帰国した。五日後、ウィブルー公爵夫人とジュナドイ公爵夫人が屋敷に来た。私が大伯父に頼み、二人を呼んでもらったのだ。
「おはよう。リト」
「単刀直入ですけどね。私たちに見せたいものってなんですの? その箱の中身かしら?」
ウィブルー公爵夫人とジュナドイ公爵夫人は、興味津々で身を乗り出してきた。
「はい。そうなんです。こちらの銀色の箱はウィブルー公爵夫人に、こちらの虹色の箱はジュナドイ公爵夫人へのプレゼントです。どうぞ受け取ってください。開けてみてくださいね」
二人はリボンを解き、箱の蓋を開けた。その瞬間、銀色の箱からは眩い白い光が、虹色の箱からはプリズムのきらめきが溢れ出した。
「まあ! なんて美しいの!?」
「これはまさか……色炎!? どこで手に入れたのですか?」
驚愕した表情で固まる二人に、私は微笑んだ。
「これは、私が作ったんです。実は私、色使いなんです。少し前に覚醒しましたの」
「ええー!?」
「一体、どういうことですの!?」
二人から質問攻めにされたが、私は丁寧に事の成り行きを説明した。
「……というわけで、五日に一回であれば、虹色の炎玉と銀色の炎玉を作ることが可能なんです」
ウィブルー公爵夫人とジュナドイ公爵夫人は目を見合わせた。
「まあ、凄いわ……。化け猫の国史上二人目の色使いが誕生ね」
「これはビッグニュースですわ」
ジュナドイ公爵夫人は困った顔で首を傾げた。
「でも、デビュタントまでリトの存在は秘密でしょう? それまでは色炎の魔法のことも内緒にするの? なんだかもったいないわ」
私は心の中でにやりと笑った。
「いえ。ある程度秘密にしますが、私に考えがあります。それより、お二人にお願いがあるのです」
「まあ。何かしら?」
「遠慮せずに言ってちょうだい」
「明日のお昼に、ウィブルー邸とジュナドイ邸で、それぞれパーティーを開くと聞きました。それぞれ、ユリジェンヌも含めて侯爵家を四家ずつ招待されるとか」
「ええ。そうよ」
「私からのお願いです。どうかそのパーティーで、燭台を使ってください。ウィブルー邸では銀色を三十本、ジュナドイ邸では虹色を三十本、燭台に灯していただきたいのです」
ウィブルー公爵夫人とジュナドイ公爵夫人の瞳がぱっと輝いた。
「それは素敵なアイディアだわ! ぜひそうさせて頂くわ!」
「元々室内で開催する予定でしたし。照明を少し暗くすれば映えそうね」
「ありがとうございます。……その、もう一つお願いがあるのです」
「何かしら? 言ってみなさい」
「侯爵家の皆さんに、私が色使いとして覚醒したと伝えてください。それと、この力はまだ秘密にして欲しいとも。あと、私が侯爵家の皆さんにも炎玉をプレゼントしたがっているとお伝えください」
――自分から『私は色使い』って言うより、公爵夫人から宣伝してもらった方が印象アップよ。それに、侯爵家の皆さんもプレゼントが楽しみになるでしょう。
私が頼むと、二人は楽しそうに笑った。
「お安い御用よ」
「これは明日のパーティーが楽しみだわ。皆さん、どんな反応をされるかしら」
――やったぁ! 成功よ! これで、公爵家と侯爵家との仲をさらにがっちり固めるわ!
◇◇◇
公爵邸でのパーティーは大成功に終わった。
ウィブルー邸のパーティーに参加した大伯父曰く、「皆が銀と白の輝きに夢中になっていたよ。プレゼントも楽しみで仕方ないらしい」だそうだ。
◇◇◇
その後、私は定期的に公爵家と侯爵家の皆さんに炎玉を贈った。
悪魔の魔王様にも頻繁に献上をした。
色炎を献上する度に、悪魔の魔王様は、菓子や髪飾りや宝石などくださった。
そんな日々が続き、私は十八歳になった。
私はいつものように、祖母と共に魔王様に謁見した。
色炎を献上すると、魔王様は扇子で口元を隠した。そして、祖母に問いかけた。
「マリアンヌ。そなた、リトを悪魔の高位貴族に紹介したがってたな。なんだっけ? 紹介したいのは、お前と仲良しの、ゴスメーデ公爵家とレックウ公爵家とアリス侯爵家だったかな?」
祖母は嬉しそうに笑った。
「まあ。私の雑談を覚えていてくださったんですか?」
「うむ。気まぐれだけどな。でも、リトはわらわに色炎を献上したら、すぐに帰らなくてはいけないだろう? 用が済んだらすぐに帰るようにと、化け猫の魔王がユリジェンヌ侯爵に釘をさしたそうじゃないか」
「ええ。そうなんです。まあ、陛下の命なら仕方ありませんわ」
――お祖母様。絶対に本心じゃないわね……。
「そこでだな。わらわが特別に、悪魔の国での長期滞在を許可してやろう」
私と祖母は目を見開いた。
「十五日あれば十分ではないかえ? どうせ、ゴスメーデ公爵家とレックウ公爵家とアリス侯爵家に炎玉を贈るのだろう? 五日に一回なら炎玉を作れるのだろう?」
私は勢いよく頷いた。
「はい! そうです!」
魔王様はゆるりと扇子で自分を仰ぐと、不敵な笑みを浮かべた。
「化け猫の魔王とは旧知の仲だ。わらわから上手く言っておこう。これからは、献上に来たら毎回、十五日滞在していいぞ。意味が分かるな?」
――人脈作りを応援してくれるって意味ね!
「ありがとうございます! 魔王様の寛大さに、感謝いたします!」
私と祖母は何度もお礼を述べた。
「あの猫魔王はめんどくさい女だ。念の為、外出は、ゴスメーデ公爵家とレックウ公爵家とアリス侯爵家だけにしとけ。観光も、マリアンヌの領地だけにするのじゃぞ」
――悪魔の魔王様、気っ風がいいわ!
私が頷くと、魔王様は金の目を細めた。
「ところで、化け猫の国の公爵家と侯爵家の連中と、優先提供契約を結んだらしいな?」
「はい。そうなんです……」
実は、半年前に、化け猫の国の公爵家と侯爵家の者たちから、優先提供契約を打診されたのだ。
私が炎玉を寄贈している内に、ただでもらうのが申し訳なくなったらしい。さらに彼らは、私の炎玉を、将来は人気で買えなくなるかもしれないと危惧した。
莫大な報酬と引き換えに、私は公爵家と侯爵家に、優先的に炎玉を売ることが決定した。
「その優先提供契約、わらわも結びたいな。報酬はこれでどうだ?」
魔王様はそう言うと、懐から翡翠色の扇子を取り出した。
受け取り、扇子を開いて驚いた。扇子には、金や銀や宝玉、貨幣などを含めて、化け猫貴族の二倍の報酬が記されていた。
――化け猫貴族の報酬も莫大だったのに……。二倍!?
驚いていると、魔王様は優雅に微笑んだ。
「わらわが色炎を見せたらな。猫の魔王まで色炎が欲しくなったらしい。近々、化け猫の王城に呼ばれるだろう。だがな、わらわへの献上はおろそかにしてくれるなよ」
――それで優先提供契約……。この報酬か……。
「もちろんですわ! 悪魔の魔王様!」
◇◇◇
その後、私は悪魔の国のゴスメーデ公爵家とレックウ公爵家とアリス侯爵家と親交を深めた。
色炎は、彼らの心を鷲掴みにした。また、単純に私のことも気に入ってもらえたようだ。
そして、化け猫の魔王様に取り入ることにも成功した。
化け猫の魔王様は、銀色の炎の輝きがいたくお気に召したようだ。
時が経ち、私は二十歳になった。
ついに、デビュタントの日が訪れたのだ。




