ep.57 俺は君がずっと好きだった
「そうか。ケイミルといると癒やされるよ」
リドル公爵は嬉しそうに笑った。
彼が笑ってくれたから、私も嬉しくなった。
◇◇◇
そんな日々を過ごしている内に、あっという間に冬が過ぎていった。
二月末になり、リドル公爵は王都に帰ることになった。
「寂しい! 行っちゃやだ!」
私は泣いた。しかし、リドル公爵は私を抱きしめると約束してしてくれた。
「冬になったら、また来るよ。それまで、手紙を送るよ。一緒に文通しよう」
「ほんとに? 約束だよ?」
「ああ。約束だ」
「帰ってくる頃には、私、琴の達人になってます! 一緒に合奏しましょ!」
「ハハハッ。一年で達人になられたら、俺の練習期間はなんだったんだって話だ。達人になるのはまだ待ってくれ」
「フフフッ。待ったなしです!」
◇◇◇
私たちは、一週間に一回、文通をするようになった。
そして、冬になると再会し、一緒に演奏やカードゲームなどを楽しんだ。
やがて、私は十五歳の誕生日を迎えた。
誕生日の六月六日になると、リドル公爵から贈り物が山ほど届いた。
私は贈り物の箱のリボンを丁寧に解くと、一箱一箱ワクワクしながら開封した。
中には、髪飾りや香油、ドライフラワーやぬいぐるみなどが入っていた。
――リドル公爵ってば。私はもう十五歳よ。ぬいぐるみって……。もう子どもじゃないのよ。
私はクスリと笑った。
モモン夫人とソウ様からも盛大に祝われて、幸せな気持ちに包まれていた。しかし、医者からは、あと一年は安静にするようにと言われてしまった。
――あーあ。早く健康になりたいな。
◇◇◇
その年の十二月に、リドル公爵はお土産を持って帰ってきてくれた。
「はい。ケイミル。お土産だよ」
「ありがとう! 嬉しい!」
包み紙を解くと、中からウサギの指人形が出てきた。
「もう! リドル公爵ってば! 私はもう子どもじゃないの! お人形遊びはしないの!」
私がぷんぷんすると、リドル公爵は楽しそうに笑った。
「まだ子どもじゃないか。たった十五歳だよ?」
「リドル公爵は今いくつですか?」
「六百十歳」
「自分が大人だからって! 子ども扱いしないでください!」
私が拗ねると、リドル公爵はハープの演奏で機嫌をとってくれた。
私は自分が拗ねていたことも忘れて、演奏に聴き入ってしまった。
◇◇◇
その日から、再び私とリドル公爵の冬が始まった。
私たちは室内で一緒に遊んで、合奏をした。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまい、リドル公爵は冬が終わる頃に王都に帰った。
そして、春が過ぎ、夏が過ぎ、秋が過ぎた。
私はついに十六歳になった。しかも、とうとう病が完治したのだ。
◇◇◇
今年の冬は、私は燃えていた。
――子どもじゃないって、証明してやるんだから!
私は肩と胸元と背中が大きく開いた、大胆な黒いドレスを用意した。
それに着替えると、メイドに髪を丁寧に手入れしてもらい、モモン夫人に化粧を施してもらった。
――よし! 完璧よ!
私は全身鏡に自分の姿を映した。
そこに映っている自分には、もう少女の面影はなかった。
――大人っぽい私を見せて、美しいレディだって分からせてやるんだから!
◇◇◇
私は玄関ホールで、モモン夫人とソウ様と並んで、リドル公爵の帰りを待っていた。
「リドルったら、ケイミルを見て驚くんじゃない?」
「いやあ。綺麗なレディに成長したな。あんなに小さかったのに」
二人は私の計画を知っているので、楽しそうににこにこしていた。
やがて、玄関扉が開き、リドル公爵が現れた。
リドル公爵は私を見た瞬間、はっとした顔をして目を見開いた。
「リドル公爵! おかえりなさい! 待ってました!」
私が笑顔を向けると、リドル公爵は戸惑った声を出した。
「ただいま……。それより、その格好はどうしたんだ? いつもは寝やすいようにシルクのワンピースを着てただろ?」
「私、もう子どもじゃないんでーす。レディなんでーす。おめかししたんですよ? 綺麗でしょ?」
ちょっとすまして言うと、リドル公爵は優しく微笑んだ。
「ああ。とっても綺麗だね」
――やったわ! これで、子ども扱いからは脱却よ!
私たちのやりとりをモモン夫人とソウ様はにこにこしながら眺めていた。
◇◇◇
玄関扉を開けた瞬間、俺は驚いた。
そこには、白い肩を出して、艶っぽい化粧を施したレディがいたからだ。
それがケイミルだと理解するまでに、一秒はかかった。
――いつの間に、こんなに綺麗になっていたんだ?
少しだけ、自分の鼓動が早くなるのが分かった。
「私、もう子どもじゃないんでーす。レディなんでーす。おめかししたんですよ? 綺麗でしょ?」
――綺麗だ……。
素直に、そう思った。そして気づいた。ケイミルは気づいたら、美しい大人のレディになっていたのだと。
俺は自分の動揺をさとられたくなくて、優しく微笑んだ。
「ああ。とっても綺麗だね」
そう言うと、ケイミルは嬉しそうに笑った。
――ケイミルはもう、病が治ったんだ。これからは社交界にも出られるだろう。そしたら、他の男も、ケイミルのこの笑顔を見るのか……。惚れるんじゃないかな……。とられたくないな。
自分の感情に戸惑った。自分が恋をするなんて思ってなかったから。
――ああ。俺はケイミルが好きだったのか。




