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貴族社会を奇策で殴る  作者: 水守 鳴
12章 国一番のロマンチック・ドラマチックカップル
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ep.56 本当の妹みたいだ

◇◇◇ 

 しかし、私の緊張は空回りしていた。ウララ公爵邸での暮らしは、それはそれは快適だったからだ。


 リドルに爵位を引き継ぎ、公爵を引退した前公爵夫妻は、自由気ままに暮らしていた。時間がたっぷりあったので、二人は頻繁に私にかまってくれた。


「娘ができたみたいで嬉しいわ! 私たちには一人息子のリドルがいますけどね。私はずっと娘が欲しかったのよ」


 前公爵夫人、モモン=ファル=ウララはそう言って、特に私を可愛がってくれた。


 彼女は娘を持つのが夢で、娘のドレスや髪飾りを一緒に選んだり、お出かけするのが夢だったらしい。


 私の外見も、モモン夫人が喜んだポイントだった。


 私は彼女と同じで金髪碧眼であり、ぱっちりした二重をもっていたからだ。


 私の体調が良い日は、モモン夫人は屋敷に頻繁に商人を呼んで、私の髪飾りやドレスなどを買ってくれた。


 前公爵のソウ=ファル=ウララは、部屋で寝ていることが多い私のために、私の部屋を花で美しく飾ってくれた。


 さらに、リボンや紙の飾りで部屋を彩り、頻繁に模様替えをしてくれた。


「ソウ様はどうして、こんなにセンスがあるんですか? フラワーアレンジメントも凄くお上手ですね」


 私が聞くと、ソウ様は誇らしそうに笑って教えてくれた。


「私は昔、王城装飾課で働いていたんだ。今は高齢になって退職したけどね。課長だったんだよ」


「王城装飾課ってなんですか?」


「花や剪紙、宝石などを用いて花人魚の王城を美しく彩る仕事さ。花人魚の王城では、二週間に一回、装飾を取り替えるよ。そうやって、来客の目を楽しませるのさ。我が国のセンスや財力を見せつける大事な仕事さ。花人魚の王城は魔界一アーティスティックだと言われているからね」


「へえ! かっこいいですわ!」


「花人魚の王城では、季節行事が毎月行われるんだ。王城装飾課は、季節の舞の舞台を設計したりもするよ」


「季節行事?」


「ああ。フェアリーの国は年中春だけどね。他の国には、四季があるんだよ。季節行事は花人魚の王城では特に大切なんだ。建国の歴史と、王家への支持が結びついているからね」


 ソウ様は私に、花人魚の国の歴史を詳しく教えてくれた。


 花人魚の国は元々、穢れに満ちた土地だったのだ。


 しかし、初代花人魚王族が浄化の力と神聖力を駆使して土地を浄化した。


 以来、花人魚たちはこの土地に住むようになった。


 再び土地が穢れることがないように、花人魚の王族は定期的に穢れを払い、今でも土地を浄化している。


 つまり、季節行事として、花人魚の国では浄化の儀式や感謝祭などが定期的に行われているのだ。


 季節行事を催すことで、国民は王族に感謝し、王家への信仰を深めるのだそうだ。


――季節行事か! 国が変わると文化が違うのね!


 私は花人魚の国に興味を持ち、モモン夫人とソウ様に色々と質問した。二人は喜んで花人魚の国について教えてくれた。


 私は次第に、フラワーアレンジメントや装飾にも興味を持ち、ソウ様からデザインや装飾について習うようになった。


 そうやって暮らしている内に、春と夏と秋が過ぎた。


 そして、十二月になった。


 私が暖炉の火の側で読書をしていると、モモン夫人が私の部屋に駆け込んできて、嬉しそうに言った。


「リドルが帰ってきたわ! 一緒にお出迎えに行きましょう!」

 

◇◇◇ 

 リドル=ファル=ウララ公爵は普段は王都の屋敷で暮らしている。王城の財務部に勤めているためだ。


 ウララ公爵領は隣国との国境にあり、王城のある王都まではかなり遠いのだ。


 そもそも、王城勤めをしている貴族が王都で暮らすことは珍しくない。


 彼は、春夏秋は王都で過ごし、冬になると長期休暇を取得して、ウララ領に帰る生活を送っていた。


 私がウララ夫人と階段を降りて玄関ホールまで行くと、玄関扉が開き、金髪碧眼の美男が現れた。


「ただいま! 母上!」

「お帰りなさい。リドル」


 二人はハグを交わした。抱擁を解くと、リドル公爵は私を見た。


「その子がケイミル? なんだか母上に似た子だね。目元とかそっくりだよ?」


「そうなのよ。まるで本当の娘みたいだわ!」


 私はスカートの裾をつまむと、リドル公爵に一礼した。


「はじめまして。ケイミル=オン=アラクアです。こちらで療養させて頂いてます。よろしくお願いいたします」


 私が顔を上げると、背の高いリドル公爵はしゃがんで目線を合わせてくれた。


「はじめまして。俺はリドル=ファル=ウララだ。よろしくね。小さなレディ」

 

◇◇◇ 

 私たちが食堂に移動すると、ソウ様も遅れて食堂にやって来た。


 私たちは美食を楽しみながら、談笑していた。


 しかし、メインの肉料理を食べているときに、私は突然咳が止まらなくなってしまったのだ。


「大丈夫? ケイミル? すぐに薬を用意して。ケイミルを部屋で休ませてあげて。白湯も用意して」


 モモン夫人が侍従に指示すると、すぐに薬が運ばれてきた。


 私が薬を飲み込むと、リドル公爵が心配そうな顔で私の顔を覗き込んだ。


「咳は止まったみたいだが。大丈夫かい? 部屋まで送るよ」


 私はリドル公爵に付き添われて部屋まで戻った。


 毛布にくるまると、私はぼそりと言った。

「デザートが食べたかった」


 リドル公爵は、私のむくれた顔を見て吹き出した。

「ハハハッ。可愛いな」 


「だって、スイーツ大好きなんですもん」

「また明日食べるといいよ。スイーツは何が好き?」


「私、モンブランが好きです」

「なら、明日のディナーで、モンブランを用意するように、厨房に頼んでおくよ」

「ほんと!? 嬉しい!」


 リドル公爵は優しく微笑むと、私に言った。

「寝る前に、ハープを奏でてあげるよ。俺は演奏が好きなんだ。優しい音色で、よく眠れるよ」


 リドル公爵は侍従に頼み、ハープを持ってこさせると、私の側で演奏してくれた。


 心地良い音色に、私はすぐに眠くなって眠りに落ちた。


――リドル公爵って、優しいのね。


◇◇◇ 

 その日から、私はリドル公爵になつくようになった。


 リドル公爵はハープと琴の名手だった。彼の演奏が好きになった私は、彼から琴の弾き方を教わるようになった。


「琴を弾くときは、弦をはじくんじゃなくて、押すイメージで弾くんだよ」


 リドル公爵は実演しながら、手取り足取り丁寧に教えてくれた。


 彼は夕方になると領地運営の仕事を切り上げて、一緒に遊んだり、楽器を教えてくれるので、私は毎日夕方になるのが待ちきれなかった。


 そんなある日、私はリドル公爵に言った。

「私、リドル公爵が羨ましいな」


 リドル公爵はトランプをめくる手を止めて、私に尋ねた。私たちは神経衰弱をしている最中だった。

「なんでだい?」


「だって、序列一位の公爵家の一人息子で、頭が良くて、優しくて、健康で、楽器の名手で、イケメンなんですよ? 勝ち組すぎます。私は病弱だし。お母さまとお父さまと離れて暮らさなきゃいけないし……。寂しいです。外を元気に駆け回ってみたいです」


 私がぽろぽろ泣き出すと、リドル公爵は優しく頭を撫でてくれた。


「十五歳になったら、治るらしいじゃないか。健康になったら、俺が色んな場所に連れて行ってやるよ」


「ほんとですか?」

 私が涙に濡れた瞳でリドル公爵を見上げると、リドル公爵は柔らかく笑った。


「約束するよ。一緒に旅行に行こう。綺麗な景色を沢山見せてあげるよ」

「嬉しい! わーい!」


 私がにっこり笑って万歳すると、リドル公爵は微笑ましそうに笑った。しかし、急に暗い笑みを浮かべたのだ。


「でもね。勝ち組は勝ち組で大変さ」

「……どういうことですか?」


「皆、俺の肩書ばっかり見るよ。公爵っていう肩書さ。媚びてくる奴も多い。俺自身より、肩書さ。俺はそういう奴らが嫌いだ。特に、女が嫌いだ。公爵夫人になりたくてすり寄ってくる女が多すぎる」


「リドル公爵は女嫌い? なら、私のことも嫌い?」


「そんなわけないよ。ケイミルは妹みたいだ。子どもは良いね。純粋に俺を慕ってくれるから」


「リドル公爵の周りは、打算的な魔族ばっかり?」


「そうさ。おこぼれに預かって甘い蜜を吸いたい輩は沢山いる」


――公爵って、大変なのかな?


「リドル公爵は寂しいの? 公爵の肩書じゃなくて、自分を見てほしいんですか?」


「そうだよ。虚しい社交辞令は嫌いさ」


「ほんと? なら私は、ずっとあなたを好きでいてあげる! 公爵を辞めても大好きだよ! 優しいもん!」


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