ep.55 私は飛べる!
私たちは思わず大爆笑してしまった。
「イケメンですって。オウムにもササラ公爵の美しさは伝わるんですね」
「ササラ公爵の銀髪は美しいですからね」
「セリフが面白すぎる」
笑いが収まると、今度はケイミル公爵夫人が聞いた。
「こんちにちは。魔鳥園のおすすめを教えてくれないかしら」
「ユキトリ、オススメ。フワフワ、ダヨ」
「ユキトリ? なんですか? それ?」
私が聞くと、ササラ公爵が答えた。
「あー! 雪鳥ね! あっちに雪鳥ふれあいブースがあるんだよ。雪鳥は撫でられるのが好きなんだよ。行ってみよう」
◇◇◇
私たちは雪鳥ブースに移動した。
そこには、丸太の椅子が三十個並んでいて、何組かの家族連れが楽しそうに白い鳥を撫でていた。
私たちが空いている丸太椅子に並んで座ると、白い制服を着た女性職員が歩み寄ってきて、笑顔で話しかけてきた。
「こんちには。雪鳥ふれあいブースにようこそ今、雪鳥をお呼びしますね」
――雪鳥を呼ぶ?
職員は首にかけていた笛を咥えると、鳴らした。
直後、近くの草むらから四匹の白い鳥が現れた。
四匹は、よちよち歩きで私たちの足元まで来た。
「うわあ! 可愛い! 真っ白だ!」
私が瞳を輝かせると、足元にいた雪鳥がぴょんっとジャンプして私の太ももに乗った。
「可愛いー!」
私はそっと雪鳥の頭を撫でた。すると、雪鳥は気持ちよさそうに目を細めた。
チェーザマリーとササラ公爵とケイミル公爵夫人は雪鳥を抱き上げると、撫で始めた。
職員は笑顔で説明を始めた。
「雪鳥は人懐っこいんですよ。スキンシップが大好きです。この四匹は、半年前に生まれたばかりの赤ちゃんなんですよ」
――へえ。そうなんだ。
私は雪鳥の羽を撫でながら、隣に座るチェーザマリーを見上げて言った。
「もふもふですわね。雪鳥、可愛いですわね」
「ああ。可愛いな」
チェーザマリーは愛しそうに目元を柔らげた。
――チェーザマリーも雪鳥が気に入ったのかな?
私は上機嫌で雪鳥を撫でていて気づかなかった。
ケイミル公爵夫人とササラ公爵が、目だけで会話していたことに。
――ユリジェンヌ侯爵令嬢、にぶいわね。
――可愛いって、鳥じゃなくて、ユリジェンヌ侯爵令嬢のことじゃないの?
二人は鋭い視線で意見を交わすと、優雅に微笑んだ。
「雪鳥は、深い雪山の中に住んでいるのよ。雪の中に潜ることもあるから、見つけるのが難しいんですよ」
「実は雪鳥は肉食なんだよ。雪の下のネズミを食べるんだ」
――へえ! そうなんだ!
「可愛いのに意外ですわ! ところで、この子たちは赤ちゃんなんですね。ずんぐりむっくりしてるから、大人かと思いましたわ」
私がそう言ったときだった。四匹の雪鳥の視線が、微妙に鋭くなった。
しかし、私はそれに気づかずに続けた。
「こんなに重かったら、飛べそうにないですわね」
「アハハハハハハッ」
チェーザマリーとササラ公爵とケイミル公爵夫人が笑い出したときだった。
私に撫でられていた雪鳥は、血走った目で私を睨んだ。そして、くちばしを開いた。
「ワタシハ、トベル!」
苛立った声音は、枯れ木を連想させるようなしわがれ声だった。
――ええー!? 喋ったー!
私が驚いて固まっていると、雪鳥は不機嫌な顔をして床に飛び降りた。そして、羽を広げると、近くの草むらまで低空飛行で飛んでいってしまった。
様子を見ていた職員は、青い顔で頭を下げた。
「すみません! 雪鳥には喋らないように訓練をしてるんですが、あの子はまだ赤ちゃんなので、喋ってしまうんです!」
「……雪鳥って、喋るんですか?」
「はい! 賢いので、園で暮らしている内に、魔族語をある程度喋るようになるんですよ。ただ、あまり可愛くない声なので、喋らないように訓練しています。すぐに別の雪鳥を呼びますから!」
――まじか……。
私が呆然としている横で、チェーザマリーとササラ公爵とケイミル公爵夫人は大爆笑していた。
◇◇◇
次に、私たちは餌やりブースに向かった。
餌やりブースには、一メートル近い体長の灰色の鳥がいた。
魚のフレークをあげると、鳥たちは私たちの手から餌をおいしそうにつまんだ。
餌をあげ終わると、ササラ公爵が教えてくれた。
「この鳥はグリースっていうんだよ。別名はね、相思相愛鳥。魔鳥は浮気性な奴が多いけどね。この鳥は必ず夫婦で添い遂げるんだよ」
「へぇ! 仲が良いですわね!」
「グリースは子どものために、せっせと餌を調達しては、夫婦でお互いの羽のお手入れを頻繁にするんだよ。そうやって、絆を深めるんだ」
「素敵ですわ!」
私が瞳をきらきらさせると、ササラ公爵はケイミル公爵夫人を手で指し指した。
「魔鳥で相思相愛といえば、グリースだけどね。花人魚一番のロマンチックカップルは、ケイミル公爵夫人とリドル公爵だよ」
「ロマンチックカップル?」
「そうそう。恋愛小説みたいな馴れ初めなのさ」
「気になりますわ!」
私がケイミル公爵夫人を見ると、彼女は少女のように頬を赤らめた。
「そうなの。私の出身はフェアリーの国のアラクア公爵家ですけどね。私は五歳の頃から、夫の実家のウララ公爵邸で育ったのよ」
◇◇◇
私は、フェアリーの国の公爵家序列三位、アラクア家の長女として生まれた。
美しく輝く金髪を持って生まれたので、ケイミルと名付けられた。
ケイミルは、フェアリーの国の国花である金色の薔薇の品種の一つなのだ。
しかし、私は生まれつき体が弱かった。
赤子のときは何度も高熱を出した。三歳になると高熱は出さなくなったが、頻繁に咳をするようになった。
ある日、医者は両親に告げた。
「ケイミル様は、空気が綺麗な場所で療養する必要があります。この病は不思議な病でして、十五歳が峠です。安静にして、無事に十五歳を過ぎれば、自然と健康になりますよ」
両親は私を心配して、療養先を吟味した。そんなときに、前ウララ公爵夫妻が両親に声をかけた。
「ケイミル嬢は、ウララ公爵邸で療養してはいかがでしょうか?」
ウララ公爵邸は、森の中にある広大な屋敷だ。
その森には、浄化の花として名高いアークフラワーが沢山咲いているのだ。
「ウララ領地には、治癒にも使われる浄化植物が沢山自生してるわ。空気も綺麗だし、療養先として最適じゃないかしら?」
前公爵夫人がそう言うと、両親は歓喜した。
「ウララ公爵家は、花人魚の国の公爵家序列一位だ。最高の滞在先だ。夫人はケイミルの家庭教師やメイドまで揃えてくれるらしい。お行儀よくするんだぞ?」
「どうしてそんなによくしてくれるんですか?」
私が父に聞くと、父は満面の笑みで答えた。
「前公爵夫人とお前の母は、古い友人なんだ。だから、娘のお前にもよくしてくれるんだよ」
――ふうん。でも、アラクア公爵家に恩が売れるから親切にしてるんじゃない? 滞在中は気を引きしめなきゃ! アラクア公爵家の方が序列が低いもの。馬鹿にされないようにしなきゃ!
私は緊張して、変に意気込んでいた。




