ep.54 魔鳥からの賛辞
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その後、私たちは宝石料理についてさらに詳しく聞いたり、意見を交わしたりした。
クレイ侯爵は真剣な顔で意見を受け止めていた。
それが終わると、ティータイムになった。
私たちは自由に談笑して過ごし、おいしいお茶を味わった。
席替えも行われ、私は銀色のテーブルに座っていた公爵夫妻とも話をした。
楽しい時間はまたたく間に過ぎていった。
最後に、私とチェーザマリーは、ササラ公爵とケイミル公爵夫人と明日からの観光の予定を詳しく話し、試食会はお開きとなった。
◇◇◇
「ケイミル。今日は楽しい時間を過ごせたね。虹色真珠が我が家に届くのが楽しみだな。真珠はネックレスに加工しようか。君の青い瞳を引き立ててくれそうだよ」
タシュビッツ邸からの帰り道。馬車に揺られていると、リドルが私を抱き寄せて囁いた。
――リドルったら、相変わらず私にベタ惚れね。
「そうね。今度、妹に自慢しようかしら? あの子、いつも私に張り合ってくるんだもの。魔界初の真珠ジュエリーを私が身に着けてたら、どんな風に悔しがるかしら? 妹は侯爵夫人なんだから、いい加減、身の程をわきまえてほしいわ」
「おいおい。相変わらず黒いね」
私たちはクスクスと笑い合うと、軽く口づけを交わした。
そして、私はリドルの肩に頭を預けた。
「でもね、今日一番の収穫は宝石料理じゃなくて、チェーザマリー公爵とユリジェンヌ侯爵令嬢ね。明日と明後日、二人をつきっきりで案内するのよ? 次期宰相と色使いの名門侯爵令嬢と距離を縮められるのよ? ついでに、噂の火消しまですれば、恩まで売れるわ」
「流石はケイミルだ。一手でいくつも利益を回収するね」
「ええ。でも、ササラ公爵ってば抜け目ないわ。本当は、私一人か、リドルが忙しくなかったら、あなたと一緒に案内したかったのに。その方が密に関われるじゃない? なのに、あいつの横槍が入ったわ。なんで一緒に来るのよ」
私が頬を膨らませると、リドルは愛しそうに私の頭を撫でた。
「ササラも君と似たようなことを考えたんだろうね。二対二の方が良いだなんて言わなきゃ良かったのに」
「だって、私一人だけで案内したら、打算的でがっついてるみたいじゃない?」
「そんなことないよ。ユリジェンヌ侯爵令嬢はケイミルが親切だと思ってるさ。チェーザマリー公爵は分からないな。彼は鋭いからね。君の思惑を見抜いているかもしれない」
私は少しだけイライラしながら髪をかきあげた。
「まあいいわ。明日と明後日は、ササラ公爵と仲良く案内してやるわ。抜け駆けさせないんだから。……それより、ユリジェンヌ侯爵令嬢とはぜひ仲良くなりたいわ。私も色炎の優先提供契約を結びたいもの」
「優先提供契約は、化け猫の侯爵家と公爵家と悪魔の魔王様としか結ばないらしいぞ?」
「まあ。そうだったの!? でもいいわ。何回か買えればいいのよ」
「王城の装飾にでも使うのか?」
「違うわよ。私とあなたの寝室に飾るの。銀と虹色の幻想的な空間で、朝まで楽しく過ごしたいわ」
私が艶めいた笑みを浮かべると、リドルは嬉しそうに笑った。
「なんだ。私たち用だったのか。そんな空間で一緒に寝られたら素敵だね」
「でしょ? 色炎は一説には、望むものを授けてくれるらしいわよ? 私、早くあなたと子どもが欲しいのよね。二人で色炎の空間で過ごせば、幸運が舞い降りて、子どもができるかもよ。素敵な験担ぎでしょ?」
「ああ。ケイミルに似た子なら可愛いだろうね。でも、我々魔族は子どもが出来づらいし、焦らなくていいよ」
「はあ……。ジュエルドラゴンとか悪魔の王家が羨ましいわ。魔族なのに多産の家系なんだもの」
私はため息をついた。
早く跡継ぎを産んで、さらに公爵夫人としての立場を固めたい。そんなことを思いながら。
◇◇◇
「わあ! ここが魔鳥園! 綺麗な鳥がいっぱい!」
私がはしゃいだ声を上げると、チェーザマリーとケイミル公爵夫人とササラ公爵は微笑ましそうに目を細めた。
私たちは、タシュビッツ魔鳥園を訪れていた。
タシュビッツ魔鳥園には、魔界中から、美しくて珍しい魔鳥たちが集められているのだ。
広い室内の温室には、様々な果樹が植えられ、色鮮やかな魔鳥たちが果実を突いたり、飛び交ったり、鳴き声を上げて思い思いに過ごしていた。
果樹はどれも二メートルほどの高さなので、鳥が見やすいように設計されている。
「わあ! この魔鳥はなんでしょう? 羽が宝石みたいにきらきらしてますわ!」
私は、目の前でツツジの密を吸っている鳥を指差した。
小さな小鳥は、長いくちばしでおいしそうに密を吸っていた。
「それは、トルマリンハチドリだよ。個体によって体色が違うんだ。ツツジの蜜が大好物なんだよ。あとは、朝顔の密も好きだね」
ササラ公爵が解説すると、ケイミル公爵夫人も解説を始めた。
「トルマリンハチドリは、怪鳥の国の高山地帯に広く分布してる鳥よ。ハチドリだから、空中で羽ばたきながら止まるホバリングができるのよ」
「へえ。お二人とも、お詳しいんですね」
私が感心すると、ササラ公爵が嬉しそうに笑った。
「僕は季節行事課の副課長だからね。花人魚の国では毎年二月には、貴鳥感謝祭がある。だから、鳥についての知識は頭に叩きこんでるよ」
貴鳥とは、神聖力を使うことができ、魔族語を喋る特別な魔鳥だ。
貴鳥感謝祭は彼らに感謝と音曲を捧げ、魔鳥たちについての詩を詠む。花人魚の国の大切な年中行事の一つだ。
「私は王城装飾課の課長ですからね。花人魚の魔王様は鳥のモチーフがお好きなんですよ。だから、鳥の飾りやモチーフを作るために、鳥について猛勉強したわ。鳥博士にだって、負けない自信があるわ」
「凄いな。魔鳥園の職員に聞かなくても、お二人がいればなんでも教えてくれるな」
チェーザマリーが感心すると、ササラ公爵が近くの小リンゴの木を指差した。
「ほら見て。フクロウオウムだよ!」
私はそちらを見た。そこには、茶色いフクロウがいた。
「まあ。可愛いフクロウですわね」
「あれはね、フクロウじゃなくて、オウムの一種なんだよ」
「ええ!? フクロウにしか見えませんわ!?」
ササラ公爵は私のリアクションを見て、満足そうに笑った。
「あのオウムは元々はあんな外見じゃなかったんだよ。でも、天敵の巨鳥に捕食されるうちに、フクロウに見た目が似てきたんだ。巨鳥はフクロウが嫌いだからね。食べられないように見た目が進化したってわけ」
「なるほど! フクロウに見間違えられたら、食べられずに済みますものね!」
「オウムだからね。話しかけると、お喋りしてくれるよ。話しかけて見たら?」
「はい!」
私たちが小リンゴの木の下まで行くと、フクロウオウムはじっと私たちを見つめた。
「あの……。こんにちは」
私が話しかけると、フクロウオウムはくちばしを開いた。
「コンニチハ! ウツクシイレディ!」
「ええ!? 喋ってるー!」
私が思わず仰け反ると、ササラ公爵もケイミル公爵夫人もチェーザマリーも楽しそうに笑った。
ササラ公爵はフクロウオウムを指差しながら言った。
「ここの喋る魔鳥たちは、来園者を楽しませるために訓練されてるらしいよ」
「だから、美しいレディって言ってくれたんですね」
私がクスリと笑うと、チェーザマリーが微笑んで私に言った。
「いや、ユリジェンヌ侯爵令嬢が本当に可愛いからじゃないか? ダークブラウンの髪なんて特に綺麗だぞ」
「まあ。ありがとうございます。チェーザマリーもフクロウオウムに話しかけてみたらどうですか?」
「そうだな。こんにちは。オウムさん」
「コンニチハ! アナタハ、セガタカイデスネ」
「まあ。背が高いですって。そんなことまで喋るんですね。チェーザマリーって、何センチなんですの?」
「俺は百九十二センチだ」
「まあ。羨ましいですわ! 私、百五十センチぴったりなんですもの」
「別にいいんじゃないか? でかいと天井が低いとぶつけそうになって困るぞ」
私たちが盛り上がると、ケイミル公爵夫人とササラ公爵はちらりと意味深な視線を交わし合った。
――仲、良いですわね。さっき、可愛いって言ってましたわよ。さらっと美髪も褒めてますし。
――恋人じゃないんだ。まじで?
二人は視線で意思疎通すると、すぐに微笑んで言った。
「私たちも話しかけてみようかしら」
「そうだね。こんちには。オウムさん。僕は前にここに来たことがあるから、会うのは二回目だね。僕のこと、覚えてる?」
ササラ公爵が話しかけると、フクロウオウムはちょこんと首を傾げた。
「ウーン。コンナ、イケメンハ、ミタコトナイナ」




