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貴族社会を奇策で殴る  作者: 水守 鳴
11章 国一番の富豪×宝石料理×公爵家
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ep.52 観光案内は、公爵と公爵夫人にお任せください!

「実は、ノワールが浮遊魔法を改良しました」

「浮遊魔法? 物体を浮かせる魔法を?」


「ええ。逆に、浮かないようにしたんですよ。グラスにその魔法をかけたので、ダイヤは動きません。安心して飲んでください」


「浮遊魔法を改良!?」

「なんだそれは!?」

 私たちがどよめくと、クレイ侯爵はカトラリーケースを指差した。

「カトラリーケースを開いてください」


 私たちはカトラリーケースを開いた。

 ちなみに、スプーンとナイフは最初からテーブルに並べられていた。


 カトラリーケースの中には、太くて大きめのピンセットのようなものが入っていた。


「これで宝石はつまんで、避けながら召し上がってください。これには滑り止めの魔法を施しましたから、宝石もつまみやすいですよ」


「なるほど……。でも、カトラリーがぶつかったりしたら、宝石が傷つくんじゃないか? 食べ終わったら宝石は捨てるのか?」


 リドル公爵が慎重な声で聞くと、クレイ侯爵は冷ややかな笑みを浮かべた。

「ご心配なく。ノワールが防御魔法を改良して、ぶつけても落としても、宝石が傷つかないようにしました」


「ええ!? それは凄いな」

「といっても、この魔法の持続時間は三時間です。逆浮遊魔法も同様です」

「なるほどね……。一皿食べる時間を考えたら、三時間あれば十分だな」



「ゼリーの中の宝石も、レモンの上の宝石も、グラスのダイヤモンドも、後日自宅まで郵送させて頂きます。残りの二皿の宝石も同様です。中にはネックレスなどに加工した宝石見本のカタログも入れました」


「カタログ?」


「はい。気に入ったデザインがあれば、格安で今日の宝石は加工させて頂きます。なければ、ご自身でジュエリーショップに宝石を持ち込んで、好きな装飾品に加工なさってください」


「ほう。それはいいね。食べた後は手ぶらで帰れるわけか」  


 リドル公爵が呟くと、ササラ公爵が笑った。


「なかなか商売人だね。食べた後に、宝石加工で二次利益を生み出してるよ。接待用って聞いたけど、商売もするわけか。抜け目ないね。じゃ、頂きます」


 ササラ公爵がスプーンでゼリーをすくうと、チェーザマリーとリドル公爵とカルマ公爵もゼリーを食べだした。


――ササラ公爵。なかなか鋭い指摘ね。


 ゼリーをすくって食べ、宝石が近づくとピンセットカトラリーで宝石をつまんで、ゼリーから引き抜いた。


――意外とつまみやすいかも。


 ハート型のダイヤとルビーは、皿の脇に避けた。


「おいしいな。宝石を避けながら食べるのも、なかなか斬新で面白い」


「ええ。ゼリーを食べた後に、ハートを皿に並べるのも楽しいですね。お皿が可愛くなりますわ」


 私とチェーザマリーが微笑み合うと、ササラ公爵が私に聞いた。

「仲良いね。もう婚約の日取りは決めてるの?」


 私は手に持っていたピンセットカトラリーを落としそうになった。


「えっと……! 私とチェーザマリーは恋人じゃありません! 噂は誤解です!」

「そうだ。ただの友人だ」


 私が慌てて言うと、チェーザマリーもやんわり訂正した。


 すると、ササラ公爵とリドル公爵とカルマ公爵とケイミル公爵夫人は驚いた顔をした。


「ええ!? 人間界でショッピングも食事も乗馬もして、すすきパーティーで三曲全部踊る約束までしたのに!? まじか……」


 ササラ公爵が言うと、ケイミル公爵夫人が上品に笑った。

「まあまあ。そうなの。お似合いだし、勘違いしちゃったわ」


――あれ? 意外とすんなり信じてもらえるのかな?


 私はカルマ公爵とリドル公爵を見た。二人はゼリーを食べながら、観察するように私とチェーザマリーを見ていた。


「実は……。明日と明後日はタシュビッツ領をチェーザマリーと観光する予定なんです。でも、そんなことしたらますます勘違いされそうで……。どうしたらいいでしょうか?」


 私が困った顔で言うと、ケイミル公爵夫人が私に優しく微笑んだ。


「あら。なら、協力してあげるわ」

「協力? ケイミル公爵夫人が?」

 とチェーザマリーが聞くと、ケイミル公爵夫人は続けた。


「ええ。こんなシナリオはどう? 私がユリジェンヌ侯爵令嬢とチェーザマリー公爵に、タシュビッツを観光するように勧めたのよ。タシュビッツは綺麗な景色がいっぱいあるから、私は過去に夫と旅行したことがあるわ。で、私が案内役を買って出たのよ。理由は、私が二人と仲良くなりたかったから」


――なるほど……。


「どう? これなら、二人は私の提案にのっただけよ。ついでに、二人には恋愛っぽい雰囲気はなくてただの友人だったって、私が噂を広めておいてあげるわ。案内して実際に見た私が言うなら、信憑性あるわよ?」


「凄い……! ぜひそのシナリオでお願いしたいです!」


 私が身を乗り出すと、チェーザマリーが慎重な声で聞いた。

「わざわざ案内をお願いしてよろしいのですか?」


「ええ。私、明日と明後日は仕事もお休みだし。できれば夫も連れていきたかったわ。ほら、二対二の方が話しやすいでしょ?」


「すまないね。明日と明後日は会議がいくつかあって忙しい。」

 リドル公爵が微笑むと、ササラ公爵が手を挙げた。


「なら、僕も案内役になろうか? 三年前に妻と、タシュビッツを観光したことがあるんだ。そしたら人数的にもちょうどよくない? 美味しい店も知ってるよ」


「まあ! ササラ公爵! ナイスアイディアですわ! 私と案内役になりましょ! いかが? ユリジェンヌ侯爵令嬢、チェーザマリー公爵?」


「ありがとうございます! ぜひお願いしたいです!」

「ササラ公爵とケイミル公爵夫人に案内してもらえるなんて贅沢だな。よろしく頼むよ。ありがとう」


 私とチェーザマリーがお礼を言うと、二人は嬉しそうに笑った。


 すると、クレイ侯爵が右手を上げて言った。


「皆さま、食べ終わったようだな。二皿目を頼む」


 給仕たちが皿を下げ、二皿目を運んできた。

 給仕が皿の蓋を開けると、私は目を見開いた。


「うわぁ! 可愛いですわ!」

「まあ! このイガグリは飴細工かしら? 素敵ね!」


 私とケイミル公爵夫人は微笑み合った。


 皿の上には、モンブランが乗っていた。しかし、ケーキのてっぺんにあるのは、栗ではなくて、丸いブラウントパーズだ。


 さらに、皿の縁には半分に切られた栗の殻が等間隔に四つ並べられていた。殻の中には、三角の黄色いシトリンが入っている。まるで、栗のようだ。


 モンブランと皿全体には、金箔がかけられ、華やかな印象だ。


「二皿目はモンブランです。今回はてっぺんにカボションカットのブラウントパーズをのせたシンプルなものです。ケーキの中には宝石はありません。しかし、栗の殻を茶色い飴細工で再現しました。中に入れたトリリアンカットのシトリンを栗に見立てました。どうぞお楽しみください」


 クレイ侯爵が解説すると、リドル公爵が感心した声で言った。

「これは華やかだな。見た目が楽しい」


 カルマ公爵は楽しそうに笑って言った。

「こっちは構造がシンプルだね。さっきのゼリーは宝石をすくうのも楽しかったけど。これは食べやすくていいかも」


 私たちはフォークでブラウントパーズを除けると、モンブランを食べ始めた。


「栗のクリームが濃厚でおいしいね。甘さが控えめで食べやすいよ」

 カルマ公爵が言うと、クレイ侯爵は嬉しそうに笑った。

「ありがとうございます。実は、栗もタシュビッツ産です」


「クレイ侯爵ってば商売人だね。めちゃくちゃタシュビッツを推してるよ」

 ササラ公爵が楽しそうに言うと、クレイ侯爵は誇らしそうに笑った。


「タシュビッツは野菜の産地ですがね。フルーツもおいしいので。秋の味覚として、ふんだんに栗を使いましたよ」

「なるほど! 上手いね!」


 私たちが談笑しながら二皿目を食べ終えた瞬間、ちょうど燭台とキャンドルの色炎が消えた。


 会場は白一色の空間に戻った。

「給仕はテーブルのキャンドルを下げてくれ。執事は炎魔法で再度、壁の燭台を照らしてくれ」


 クレイ侯爵が指示すると、執事が指を鳴らした。

 次の瞬間、壁の八十本の燭台に火が灯った。


 給仕たちはテーブルのキャンドルを片付けた。


「虹色と銀色の空間は煌びやかで素敵だったけど、シンプルな炎の空間も素敵ね」


 ケイミル公爵夫人が微笑むと、クレイ侯爵は頷いてから言った。


「ええ。私もそう思います。では、三皿目をご用意しましょう!」


 クレイ侯爵がそう言うなり、給仕たちが皿を持って入室してきた。


――うわ……来た! あれが虹色の真珠スイーツ!?

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