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貴族社会を奇策で殴る  作者: 水守 鳴
11章 国一番の富豪×宝石料理×公爵家
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ep.51 宝石料理の仕掛け

「わあ! 素敵です!」


 部屋自体は、二十畳くらいのこじんまりした窓のない空間だ。天井も壁も床も真っ白だった。


 壁には八十本の燭台が設置され、壁際の床には等間隔に、白百合が生けられた花瓶が置かれていた。


 部屋の中央には、七人掛けの丸テーブルが二卓設置されていた。


 片方のテーブルクロスは光沢のある銀色、もう片方のテーブルクロスは艶のある虹色だ。


 テーブルの上にはそれぞれ、十本ずつ黒いキャンドルが置かれていた。


「では、早速だが燭台とキャンドルの炎を変色させて欲しい。銀の丸テーブルのキャンドルは銀色に、虹の丸テーブルのキャンドルは虹色にしてくれ。壁の燭台は特に色の制限はないよ」


「分かりました! では、壁の燭台は銀色と虹色が交互になるようにしてみますね!」


 私は指を鳴らした。すると、燭台の炎が揺らぎ、燭台とキャンドルの炎が銀色と虹色に変色した。


 会場は、眩いばかりの白い光と、プリズムの輝きで満たされた。


「これが色炎……! 美しいな!」

 クレイ侯爵は目を見開いた。しかし、すぐに表情を引き締めた。


「すぐに、ノワールに案内されて、公爵家の方々とチェーザマリー公爵が来る。私たちは並んで皆さんに一礼しよう」

「はい!」


 私が元気よく返事をした瞬間、扉をノックする音が聞こえた。

 私とクレイ侯爵は即、扉の方に向き直った。


「お待ちしておりました」 


 クレイ侯爵がそう言うと、扉が開き、ノワール卿とチェーザマリーと十人の公爵夫妻が現れた。


「まあ! 色炎!?」

「美しいわ……」

「なんだこの幻想的な空間は……!」


 公爵夫妻たちは、目を見開いて感嘆のため息を漏らした。ノワール卿も驚いた顔をしていた。チェーザマリーだけはにこにこしていた。


 私とクレイ侯爵は丁寧に一礼をした。


「本日は我が家のパーティーにお越し頂き、ありがとうございます。どうぞ試食会を心ゆくまでお楽しみくださいませ」


「はじめまして。リト=ユリジェンヌと申します。色炎で空間を飾らせて頂きました。本日は同席させて頂き、光栄です」


 私とクレイ侯爵が顔を上げると、公爵夫妻たちは全員が笑顔で拍手をした。そして、金髪碧眼の夫人が口を開いた。


「見たことがないような素敵な会場ね。今日は一緒に楽しみましょう」

「はい!」


 私が金髪碧眼の夫人に微笑むと、クレイ侯爵が扉に向って声をかけた。

「執事! くじ箱を用意してくれ」


 すぐに扉が開き、燕尾服を着た男性が入室してきた。


 男性は白い箱を持っていた。


――あの箱、なんだろ?


 私が少し首を傾げると、ノワール卿が笑顔で私たちに言った。


「本日は食卓が二卓ございます。銀色と虹色の食卓、どちらで召し上がるかはくじ引きで決めようと思います。皆さま、順番にくじをお引きください」


「まあ。楽しそうね」

「俺はどっちの食卓になるかな?」

 公爵夫妻たちは楽しそうに笑い合うと、箱に手を入れて、順番にくじを引き始めた。


 公爵夫妻が引き終わると、私とチェーザマリーもくじを引いた


「チェーザマリー、どっちでしたか?」

 私がチェーザマリーに歩み寄って聞くと、チェーザマリーは楽しそうに笑った。

「虹色だよ。リトはどっちだ?」

「私も虹色ですわ! 一緒ですわね!」


 私たちが微笑み合うと、ノワール卿が丸テーブルを手で指し示した。

「では皆さま。お座りください」


 チェーザマリーが椅子を引いてくれたので、私は彼の右隣に座った。


 すると、私の右隣に金髪碧眼の女性が座った。先ほど、私に声をかけてくれた女性だった。


 虹色の食卓のメンバーは、私、クレイ侯爵、チェーザマリー、金髪碧眼の女性と男性、銀髪碧眼の男性、黒髪赤目の男性になった。


「では。試食会を始めましょう」


 クレイ侯爵がそう言うと、金髪碧眼の女性が口を開いた。


「食べる前に、まずは皆で簡単に自己紹介しない? ひとまず、名前と趣味と職業だけでいいわ。私、ユリジェンヌ侯爵令嬢と話すのは今日が初めてだし」


「それもそうですね。では主催者の私からさせて頂きます。クレイ=デ=タシュビッツと申します。趣味はトランプ。特にポーカーです。職業は領地運営と投資です。今日はよろしくお願いします」


 クレイ侯爵が会釈すると、金髪碧眼の女性が私を見て口を開いた。


「私の名前は、ケイミル=ファル=ウララよ。趣味はフラワーアレンジメント。職業は王城装飾課の課長よ。よろしくね」


――ウララ!? 花人魚国公爵家序列一位の家門だわ……。いきなり最高位貴婦人がきたー!


「よろしくお願いします」

 私がケイミル公爵夫人に微笑むと、彼女も微笑み返してくれた。


 すると、金髪碧眼の男性が口を開いた。

「俺の名前は、リドル=ファル=ウララだ。趣味は琴とハープ。職業は公爵として領地運営と管理。それから、王城では財務部で予算管理とかをしているよ。よろしく。ユリジェンヌ侯爵令嬢」


「よろしくお願いします」


 私が頭を下げると、銀髪碧眼の男性が明るく笑って自己紹介した。


「どうもどうも。僕の名前はササラ=デ=ジュベニーです! 趣味はショッピング。職業は公爵なので領地運営! 王城では、季節行事課の副課長をしてます! よろしくね! ユリジェンヌ侯爵令嬢!」


――ジュベニー!? 序列二位の公爵家ね……。


「よろしくお願いします」

 私が頭を下げると、ササラ公爵は太陽のような笑顔を向けてくれた。


 次に、黒髪赤目の男性が口を開いた。


「はじめまして。俺の名前はカルマ=オン=リプリー。趣味は水泳。職業は公爵だから領地運営。王城では花人魚の魔王様の書記官をしてる。よろしくな」


――リプリーは確か、序列四位の公爵家だわ。カルマ公爵自身は、花人魚の魔王様の超側近か。


「よろしくお願いします」

 私が頭を下げると、カルマ公爵は口角を上げた。


 すると、チェーザマリーも自己紹介した。

「俺の名前はチェーザマリー=ファル=ワルシャワ。人間界だとチェーザマリー=アヴェラン。趣味は香りを生み出すこと。職業は、公爵として領地の管理、あとは調香師だ」


――来た! 私の番!


「リト=ユリジェンヌです。趣味は乗馬です。職業は炎職人です。よろしくお願いします」


 私が再度頭を下げると、皆が拍手をしてくれた。


 拍手が終わると、クレイ侯爵が右手を挙げ、扉の前に控えていた執事に言った。

「では、試食会開始だ。一皿目を頼む」


 執事は笑顔で頷くと、扉を開けた。すると、サロンをつけた十四人の給仕たちが皿を持って入室してきた。


 給仕たちは私たちの前に皿を置いた。そして、全員分置き終わると、一斉に蓋を開けた。


「わあ! 可愛いですわ!」

「宝石ゼリーですか。斬新ですね」


 私とケイミル公爵夫人がはしゃいだ声を上げると、クレイ侯爵は嬉しそうに笑った。


 給仕たちも嬉しそうに微笑むと、一礼して退出した。


 リドル公爵とササラ公爵とカルマ公爵とチェーザマリーは、考え込むような顔で、無言でじっとゼリーを見つめていた。


 平らな楕円形の皿に盛られたゼリーは無色で、透きとおっていた。ゼリーの中には、ハート型のダイヤとルビーが三個ずつ入っていた。


 皿の右下には、薄くカットされたレモンが二枚並べられ、その上にはハートのダイヤとルビーが一つずつ乗っている。


「一皿目は、レモンゼリーです。中にはハートシェイプカットのルビーとダイヤが入っています。タシュビッツ領のハウス栽培レモンを使いました。どうぞ召し上がってください」


 クレイ侯爵に笑顔で勧められ、私は一口スプーンですくって食べてみた。


――おいしい!


「甘酸っぱくて、おいしいですね!」

 私がケイミル公爵夫人に話しかけると、彼女は微笑んだ。


「ええ。とても酸味が強いわ。それに、虹色の輝きに照らされたゼリーなんてわくわくしちゃうわ」

「ありがとうございます。そう言って頂けると嬉しいです」


 私たちが微笑み合うと、クレイ侯爵が右手を上げた。

「執事。炭酸水を頼む」


「かしこまりました」

 執事が一礼して扉を開けると、ワイングラスを持った給仕たちが入室してきた。


 給仕が置いたグラスを見て、私はごくりと唾を飲んだ。


 中には、ラウンドブリリアントカットのダイヤが五つ、底に沈んでいた。


――飲み物だけでも、すでにゴージャス!?


 驚いていると、チェーザマリーが言いづらそうに口を開いた。

「とても美しい見た目だが……。炭酸水のダイヤは誤飲が心配だな。うっかり口の中に入らないか?」


 ササラ公爵も微妙な笑みを浮かべると、言いづらそうに言った。

「ゼリーの中の宝石。どうやって避けたらいい? スプーンだと宝石がすくいづらいかも」


 リドル公爵とカルマ公爵も静かに頷くと、クレイ侯爵はむしろ楽しそうに笑った。


「ワイングラスを振ってみてください」


 私たちは言われた通り、スワリングをしたり、グラスを傾けたりしてみた。そして、驚いた。グラスが揺れているのに、ダイヤは少しも動かないで底にあるのだ。


「どうです? 誤飲の心配はありませんよ?」


 クレイ侯爵が言うと、カルマ公爵が不思議そうな顔で聞いた。

「どうしてダイヤが動かない?」

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