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貴族社会を奇策で殴る  作者: 水守 鳴
11章 国一番の富豪×宝石料理×公爵家
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ep.48 宝石料理パーティーに参加しないか?

 クレイ侯爵は顔を上げると、私たちに冷ややかな微笑みを向けた。


 タシュビッツは、花人魚の国の侯爵家だ。侯爵家中、序列は十位で最下位。


 しかし、タシュビッツは領地に金鉱脈や宝石鉱山を大量に所持している。それらを加工する技術も発達しているため、交易で莫大な富を生み出している。花人魚の国一番の富豪と有名だ。


 私が少し緊張して微笑んでいると、クレイ侯爵は椅子を手で指し示して言った。

「どうぞ座りたまえ」


 私たちが座ると、シェルバ公爵はクレイ侯爵に微笑んだ。

「良かったら、一緒にお話ししませんか?」


 クレイ侯爵は口角を上げると頷いた。

「構わないよ。お隣失礼」


 クレイ侯爵はシェルバ公爵の左隣に座った。


「マスター。ストロベリーアッシュを頼むよ」

「かしこまりました」


――ストロベリーアッシュってなんだろ?


 私が首を傾げると、クレイ侯爵が私を見て言った。

「ストロベリーアッシュを知らないのか? 魔界の珍しいカクテルだからな。まあ、マスターが作るところを見ているといい」


「え? はい……」

 私はマスターの手元をじっと見つめた。


 マスターはロンググラスを用意した。次に、バックバーから紫の小瓶と瓢箪形の白い瓶を取り出した。そして、冷蔵庫からは大きめのタッパーと水色の瓶を取り出した。


 マスターはカウンターにそれらを並べると、私に微笑んで言った。

「この紫の小瓶はラズベリーシロップ。白い瓶はクウという名の珍しい蒸留酒です。水色の瓶は炭酸水ですよ」


「へえ。そうなんですね」


 マスターはまず、タッパーを開けた。中には、半分にカットされた苺が沢山入っていた。


 マスターはスプーンで苺を取り出すと、苺をロンググラスに入れ始めた。


――ええ!? そんなに入れる?


 マスターはなんと、グラスの口付近まで苺を入れたのだ。苺と苺の間に隙間はあるが、グラスは苺でいっぱいだ。


 次にマスターはラズベリーシロップをメジャーカップで測り、グラスに入れた。そして、クウを測らずにグラスの半分まで注いだ。最後に、口の近くまで炭酸水を注いだ。


 目の前に、真っ赤なカクテルが出来上がった。


「ストロベリーアッシュは、氷を使わないカクテルなんですよ。苺を氷に見立てるのです。しかも、苺は食べないで残すのがルールです。ステアもしない変わったカクテルです」


 そう言うと、マスターはストロベリーアッシュをクレイ侯爵に差し出した。


「ありがとう。マスター。良い色だな」


 クレイ侯爵はストロベリーアッシュに口をつけた。


――なんか……。美味しそうかも。でも、苺が食べたくなっちゃうから、私は飲めないわ……。


 そんなことを考えていると、チェーザマリーがクレイ侯爵に聞いた。

「クレイ侯爵と、このバーでお会いするのは初めてですよね?」


 クレイ侯爵はグラスを置くと答えた。

「ああそうだな。私は半年前に初めてこのバーに来たんだ。昨日、突然マスターのカクテルが飲みたくなってね。再来店したわけさ」


 クレイ侯爵がそう言うと、マスターは嬉しそうに笑ってお礼を言った。

「ありがとうございます。光栄です」


 クレイ侯爵は静かに頷くと、私を見た。

「すすきパーティーの話は聞いたよ。銀色と虹色の色炎で会場を一時間彩ったんだって?」


「はい! 色炎を竜王様と皇太子様に献上させて頂きました!」


 クレイ侯爵は興味深そうに口角を上げた。

「そうか。ぜひ見てみたかったな。ところでな。単刀直入で悪いが、ユリジェンヌ侯爵令嬢に依頼をしようと思ってたんだ。すでにユリジェンヌ邸に依頼書を送ったし」


「……依頼ですか?」


 私が問い返すと、マスターとチェーザマリーとシェルバ公爵も怪訝な顔をした。


「そうだ。色炎を買いたい。十月十日に、我が家で小規模なパーティーをするんだ。花人魚の公爵夫妻五組だけを呼ぶ。そのときに、色炎を飾りたいな。報酬は言い値で構わないよ」


――言い値!? 豪快……!


「申し訳ありません……。優先提供契約の関係で、次に炎玉を提供できるのは一月の末になってしまいますわ……。パーティーに間に合いません」


 私が謝ると、クレイ侯爵は気を悪くすることもなく笑った。


「構わないよ。炎玉じゃなくていい。ユリジェンヌ侯爵令嬢は燭台の炎を百本まで変色できるとか。それだと燃焼時間は一時間だっけ?」


「はい。銀色の炎と虹色の炎、共に五十本ずつですわ」


 クレイ侯爵は満足そうに笑った。

「パーティーという名の二時間程度の試食会だから、一時間輝けば十分だよ。当日は私の屋敷に来て、照らしてくれないか?」


「ええ!?」


「もちろん、前日からタシュビッツ邸に滞在してくれて構わないよ。なんなら、何日か滞在して、タシュビッツ領を見学してくれて良いよ。滞在費やお土産代は当然、こちらで持つから」


――めちゃくちゃ太っ腹だわ……。というか、お土産って何?


「タシュビッツ領には、ジュエリーの名店が沢山ある。来店して、好きなアクセサリーをお土産にしたらどうだ?」


「ええ!? お土産!?」

 私が驚いて声を上げると、シェルバ公爵も声を上げた。

「豪快で気持ちいい使い方ですね! いや、凄い……!」


 しかし、マスターは視線を鋭くした。

「公爵夫妻五組だけとは……。豪華な顔ぶれですね。何の試食会ですか?」


「宝石料理さ」


――宝石料理?


「料理に宝石を飾った料理さ。腕の良いシェフたちと接待用に開発したんだ。宝石は食べられないからな。当然、ただの飾りだが」


――ええ!? なんですか!? その料理は……!?


「当日は、宝石を使ったスイーツを三種類提供する。試作品なんだ。公爵家のお墨付きがもらえれば、本格始動するつもりだ」


 マスターとチェーザマリーとシェルバ公爵は驚いた顔をして口々に言った。

「宝石料理!?」

「それは凄い……」

「そんなの食べたことないよ!」


――何その無限の財力……!?


「どうだろう? ユリジェンヌ侯爵令嬢。パーティーには当然、君も参加してくれて構わないよ。ぜひ、宝石料理の感想が聞きたいね」


――どうしよう……。参加したいかも……! 宝石料理も見たいし、観光もしてみたい……。


「あの……。明日ユリジェンヌ邸に帰る予定ですので、一回、大伯父に相談してみます。外泊に賛成してもらえたら、ぜひ協力させてください」


「それは嬉しいな。良い返事を期待してるよ。銀色と虹色の輝きの中で食べる宝石料理は、さぞ特別な体験になるだろうね」


 クレイ侯爵は嬉しそうに笑った。しかし、柔らかな笑みですら、どこか冷たい印象を受けた。


 クレイ侯爵はストロベリーアッシュを一口飲むと私に聞いた。


「花人魚の国ではな。パーティーでは男女ペアで参加がルールだ。他国は一人参加もざらにあるが、我が国は禁止だ。パートナーは誰にする? パートナーの滞在費とお土産代もこちらで負担しよう。パートナーと観光も楽しんだらどうだ?」


――ええー! パートナー誰にしよう……。


 私が困った顔をすると、シェルバ公爵が私に言った。


「絶対、ユリジェンヌ侯爵と参加しな。チェーザマリーと参加なんてしたら、噂が加速だよ?」


「うっ……。でも、大伯父様が『十月は忙しい』って言ってました。無理かも……。でも、噂が加速は嫌だし……。シェルバ公爵、よければパートナーになってもらえません?」


 シェルバ公爵は少しだけ冷たい笑みを浮かべた。

「それはできないな。一歩間違えば、俺とユリジェンヌ侯爵令嬢とチェーザマリー公爵の三角関係説が浮上するよ。しかも泊まりだよ?」


「ううっ……! そうですよね」


「俺、パーティーでパートナーは持たないことにしてるんだ。すすきパーティーでも舞手だからって理由でパートナー持つのは免除してもらったし。花人魚のパーティーには参加したことすらないよ。パートナー必須だからさ」


「え? それはなんでですか?」


「俺、これでも有名人なんだよね。パートナーになりたい女性がいすぎて、パートナーにしてくださいって迫られるのがめんどくさいの。パーティーのパートナー作れば、多少はその女性と噂もされるし。ほら、常に注目の的だからさ? 自慢みたいでごめんね」  


「いえ……。事実なんだと思います……。シェルバ公爵は凄くモテそうですし」


「うん。でも、恋愛も結婚もだるいから来世でいいかな。」


――まじか……。


 私はそろそろとチェーザマリーを見上げた。

「チェーザマリー。大伯父様が無理そうなら、パートナーになってくれません?」

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