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貴族社会を奇策で殴る  作者: 水守 鳴
10章 実はどす黒い、秋の王城パーティー
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ep.45 華やかなパーティーの裏の思惑

「えっと……」

 私が言いかけると、チェーザマリーが笑顔で遮った。


「ユリジェンヌ侯爵とマリアンヌ男爵夫人はリトに結婚を勧めたらしいですが。ユリジェンヌ侯爵令嬢はまだ結婚する気はないようです。二人も彼女の意思を尊重してるそうですよ。なあ、リト?」


「ええ。大伯父と祖母は優しいので、私の希望を聞いてくれるんです。しばらくお見合いは保留になりました」


「まあ。そうなの? では、ユリジェンヌ侯爵令嬢のタイプは? チェーザマリーみたいに色彩が綺麗な方?」


 私は第二王女に慌てて手を振った。

「いえ! 私たちは友人です!」


「まあ。そう。てっきり。仲が良さそうだから交際されていらっしゃるのかと思ったわ。ねぇ、アクアマリン?」


「ええ。ユリジェンヌとワルシャワなんて映えますしね」 


――まずい……。誤解されてる!


「違いますよ。私とチェーザマリーはそんな関係じゃありません!」


 第二王女は目を細めると言った。

「そう。ところで、チェーザマリーは結婚する気はあるのかしら。もう五百年も独身じゃない?」


 チェーザマリーは笑顔で即答した。

「あります」


――あるの!? 結婚めんどくさいんじゃなかったの!?


「あと九年で宰相に復帰予定ですし。パートナーがいてもいいかと。跡継ぎも欲しいですし」


 第二王女とアクアマリン卿は驚いた顔をした。

 すぐに第二王女が聞いた。      

「まあ。もうお相手がいるの?」


「お相手はじっくり時間をかけて選ぼうかと。長く一緒にいるなら、安らげる相手がいいですからね」


「そう。ところで、アクアマリン卿がユリジェンヌ侯爵令嬢に色々お話を聞きたいそうよ。色炎に興味があるんですって。

私もチェーザマリーに聞きたいことがあるの。新作のフラシェルのゼリーについてよ。

よければ私とチェーザマリーが話してる間、アクアマリン卿とユリジェンヌ侯爵令嬢でお話ししたら? あっちに美味しい美酒もあるわよ」


 アクアマリン卿は私に微笑んだ。


「ユリジェンヌ侯爵令嬢。ぜひ、お話ししたいです。あちらにドラゴン酒と種類豊富な柿のプリンがありますよ。先程食べたらおいしかったので、一緒に食べながらお話しませんか?」


――どうしよう……。断りづらいな……。


 私が困ると、即座にチェーザマリーが微笑んで第二王女に言った。


「わざわざ別々に話さなくてもいいのでは? 四人でフラシェルと色炎の話をしましょう」


 第二王女は一瞬黙ると、優雅に微笑んだ。

「それもそうね。そうしましょう」

 

◇◇◇ 

 私とチェーザマリーと第二王女とアクアマリン卿は、柿のプリンを食べて美酒を飲みながら談笑した。


 しばらくするとチェーザマリーは第二王女とアクアマリン卿に言った。


「では私たちはこれで。これから栗のマカロンを食べに行くんですよ。沢山の魔族に囲まれて疲れたのでね。二人でゆっくり楽しみたいんです。私たちは甘党仲間なので」


――ん? チェーザマリーってば。二人でゆっくりってとこだけ微妙に強調しなかった?


「あらそう。ごゆっくり」

 第二王女とアクアマリン卿は引き留めなかったので、私たちは二人から離れた。


 歩きながら、チェーザマリーは声をひそめて私に言った。


「いや危なかったな。ムーンってば、自分と親しくしてるアクアマリン卿とお前をくっつける気満々だぞ? 自分が仲人になって影響力をもって、色使いを取り込む気満々だ。気をつけろ」


「チェーザマリー。色々フォローしてくれてありがとうございます」


「お安い御用さ。まいてやるって約束したし」


 私とチェーザマリーはその後、ソファに座って栗のマカロンを心ゆくまで楽しんだ。


 しばらくすると、司会者が声を張り上げた。

「皆さま! ダンスタイムが始まります! ご準備ください!」


 司会者が声を張り上げた途端、近くにいた男性と女性たち二十名が一斉にこちらに歩いてきて、私たちに声をかけた。


「ユリジェンヌ侯爵令嬢! ぜひ俺と踊ってください!」

「チェーザマリー公爵! 私と踊ってくださいな!」

「ぜひ私と!」

「俺と!」


――えっと……。どうしよう……。すすきパーティーでは三曲しか踊らないのよね……。誰と踊ろう? チェーザマリーと踊りたいけど、女性に大人気みたいだし。


 よく考えて見れば、チェーザマリーはヴァンパイアの国序列一位の公爵。元宰相で次期宰相。人間界では調香師としても活躍しているし、彼の部下は三つも影響力のあるブランドを持っている。しかも、未婚だ。モテないわけがない。


 私がチェーザマリーを見上げると、チェーザマリーは他の女性を気に留める素振りもなく、私に微笑んだ。

「リト。一緒に踊ろう」

「はい!」


 私が笑顔で返事をしたときだ。輪の外で、誰かが澄んだ声を張り上げた。


「ユリジェンヌ侯爵令嬢! 私と踊ってください!」


 私とチェーザマリーと男性と女性たちは一斉に彼を見た。

 声の主はアクアマリン卿だった。


「アクアマリン卿よ……」

「今日もお美しいわ……」

「マンダリンとユリジェンヌならお似合いだな……」

「彼が踊るなら……一曲分は諦めないと」


 周囲の女性と男性が囁き合ったときだ。

 チェーザマリーがソファから立ち上がってアクアマリン卿に言った。


「悪いね。彼女と俺は三曲全部踊る約束をしてるんだ」


 チェーザマリーが声を張り上げると、少し離れた場所にいた魔族たちまでが一気にどよめいた。


「嘘でしょ……。三曲全部一緒?」

「ワルシャワとユリジェンヌが?」

「二人って、そういう関係なの?」


――ええ!? そんな約束してませんけど!? もしかして……アクアマリン卿から遠ざけようとしてくれようとしてくれてる……?


 周囲がざわつき出し、アクアマリン卿が何か言いかけたときだ。


 遠くから、皇太子がこちらに歩み寄って来た。


 魔族たちは彼に一斉に道を開けた。


 皇太子は私たちの前まで来た。私は慌てて立ち上がった。すると、皇太子が跪いて私の手をとった。


「ユリジェンヌ侯爵令嬢。ファーストダンスはぜひ私と踊ってください」


――ええー!


 会場がどよめいた。全員が私たちを見ていた。


 皇太子は私の手の甲にキスをして立ち上がると、チェーザマリーに言った。


「ファーストダンスだけ、私に譲ってくれないか? 残り二曲は君のものだから」


 チェーザマリーは微笑んだ。

「もちろんです。皇太子様であれば、ファーストダンスであってもお譲りしますよ」


 そう言うなり、チェーザマリーはちらりとアクアマリン卿を見て言った。

「悪いね。二曲は貰うよ」


 アクアマリン卿は優雅に一礼して言った。

「皇太子様とチェーザマリー公爵の前に、私の出る幕はありませんね」


 私は気づかなかった。アクアマリン卿のジュエルアイに、苛立ちが滲んでいたことに。


 すすきパーティーは、大盛況の中で終わった。


◇◇◇ 

 すすきパーティーの翌日、私は書斎にアクアマリン卿を呼び出して叱責した。


「アクアマリン! ユリジェンヌ侯爵令嬢と親しくするように言ったのに! 失敗よ! ダンスなんて、お兄さまとチェーザマリーにぶんどられたじゃない!」


「申し訳ありません! 第二王女様!」

 アクアマリン卿は私に頭を下げたが、私の苛立ちは収まらなかった。


「チェーザマリーにしてやられたわね! まったく。よりにもよってチェーザマリー=ファル=ワルシャワ公爵がパートナーだなんて最悪よ! ああもう! アクアマリンとユリジェンヌ侯爵令嬢をくっつけようと思ったのに……!」


「私の魅力不足です。申し訳ありません」


 私は否定しなかった。 


「ユリジェンヌ侯爵令嬢はね、史上七人目の色使いよ! 色炎は色々使い道があるわ! あの子を妻にすれば、お前も販売先に口出しできるじゃない! 私の役に立ちそうな魔族に売るつもりだったのに!」 


「ええ。私としてもぜひ妻にしたい相手ですよ。権門出身の妻を持てば私の影響力はアップ。彼女のバックはユリジェンヌ侯爵とマリアンヌ男爵夫人。ぜひ、こちらの陣営に取り込みたかったですね」


 私はため息をつくと、アクアマリン卿に微笑んだ。忠臣を労うのも大切だからだ。


「でも。狡猾なチェーザマリー相手によくやってくれたわ。あなたは美しくて紳士的だし。ユリジェンヌ侯爵令嬢は好感を持ってくれたはずよ」


「ありがとうございます」

 アクアマリン卿は顔を明るくした。私は続けた。


「ユリジェンヌ侯爵令嬢がまたドラゴンの国に来たときがチャンスよ! なんとしても接触しなさい! 次のチャンスは三カ月後の献上のときだわ」


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