ep.44 第二王女が勧めてきた結婚相手
私が慌ててチェーザマリーを見上げると、チェーザマリーは優しく微笑んだ。
「リトは緊張しているようです。今日は伯爵以上の貴族と大商人、各国来賓の千人が集まる日ですからね。彼女はまだデビュタントしたばかりですし……。代わりに俺がお話しします」
「そうか。なんだい?」
――チェーザマリー! ナイスプレー! 自然にリードしてくれてるわ!
「実は……。リトは献上のお礼に第二王女から竜牙宝石をもらう予定だったのですが。今回は辞退したいそうです」
――ええ!?
「ほう……。辞退?」
皇太子は興味深そうに目を細めた。
チェーザマリーは余裕のある笑みを浮かべながら続けた。
「ええ。皇太子様と竜王様の威光の前では、自分の色炎の輝きも不十分だと思ったとか……。ぜひもう一度献上させて欲しいそうです。次はより美しい色炎を献上したいとのことです。竜牙宝石はそのときに改めて頂きたいとか」
――なるほど! 私を下げて皇太子と竜王様を立てたのね! 謙虚な印象が作れていいかも!
「今日の炎が六十点なら、次は一点でも上げられるように、六十一点以上を目指しますわ」
私が皇太子に微笑むと、皇太子は感心したように笑った。
「謙虚なレディだな。また献上してくれるなんて嬉しいよ」
「ありがとうございます。優先提供契約の関係で、献上は三カ月後になります。それまで輝きに磨きをかけておきますわ」
「実はリトはかなり張り切っていたんですよ。第二王女からはバー・ゴスメーデにいるときに話を持ちかけられたんですけどね。俺はリトを帰り道送ったのですが。そのときに、皇太子様と竜王様に色炎を献上できるなんて光栄だとはしゃいでおりました」
「そうか。こちらとしても嬉しいよ」
――凄い! 私が第二王女寄りじゃなくて、皇太子と竜王に献上できることを喜んでるから、第二王女の提案に乗った形に書き換えてるわ……。
「ところで、皇太子様の今日の衣装は緑で素敵ですね。夏の残り香を感じさせますよ」
チェーザマリーがそう言うと、皇太子は衣装を見せるように軽く腕を広げた。
「そうだろう? ドラゴンの国の秋の葉のラリン草と同じ色なんだ。ラリン草で染めたんだよ」
「ああ。やはりラリン草染色でしたか。素晴らしい色彩です。流石は皇太子様。センスがありますね」
「ありがとう」
「そういえば、先程の舞の献上とお言葉は素晴らしかったです」
「息子なら、父上を立てるのは当然だよ」
「竜王家の威光は代を重ねるごとに増すばかり。太陽は夕日となり、優しい光で包み込むこともできます。皇太子様が竜王になられた際も、太陽の威光による豊穣は間違いないでしょう」
「チェーザマリー公爵にそう言ってもらえるなんて嬉しいよ」
皇太子は気分が良さそうに笑った。
――チェーザマリーってば、褒め上手ね。淀みないわ……。
私は皇太子に微笑んで言った。
「竜王家のますますの繁栄をお祈りいたしますわ」
皇太子は嬉しそうに笑った。
「ユリジェンヌ侯爵令嬢にまでそう言って頂けて嬉しいよ」
◇◇◇
その後も私とチェーザマリーと皇太子は談笑した。
十分程度談笑すると、皇太子は別の貴族や来賓とも話し出した。
私たちは再び魔族たちに囲まれた。しかし、チェーザマリーが貴族や商人たちを上手くさばいてくれたので、私はそこまで負担なく話すことができた。
チェーザマリーは各国の重要な来賓やドラゴンの国の高位貴族と私を引き合わせてくれた。そのおかげで、私の人脈も広がった。
私は竜王とも話すことができた。
竜王は色炎を大絶賛してくれて、「三カ月後の献上も楽しみだ」と言ってくれた。
私たちに話しかけてくる貴族の中には、嬉しい再会もあった。
「ユリジェンヌ侯爵令嬢! お久しぶりです!」
「まあ! シュクカイ先生! またお会いできて嬉しいですわ!」
一緒に色炎の研究をしたシュクカイ=デ=フッカが話しかけてくれたのだ。
彼はドラゴンと化け猫の混血であり、名門伯爵家の卿だ。王城すすきパーティーに出席しているのも納得だった。
「色炎のきらめきは、昔よりも美しさを増しましたね。素晴らしいですよ」
「ありがとうございます。これもフッカ先生のおかげですわ。でも、直接変色した色炎は一時間しか燃焼できないのが悲しいですわ……。もう蝋燭は燃え尽きてしまいましたし……」
「いやいや。一時間幻想的な空間にいられただけで嬉しいですよ」
私とシュクカイ先生が喋っている間、チェーザマリーはにこにこしながら話を聞いていた。
「シュクカイ卿の最新の光剣の研究の成果は素晴らしいと聞いたよ。良かったら詳しく教えてくれないか?」
チェーザマリーが聞くと、シュクカイは瞳を輝かせた。
「もちろんです……。実はグリップの部分を改良し……」
シュクカイ先生が言いかけたときだ。第二王女がこちらに歩み寄って来て、私たちに話しかけた。
第二王女の隣には、プラチナブロンドの髪とアクアマリンのようなジュエルアイを持つ男性がいた。
「ユリジェンヌ侯爵令嬢。チェーザマリー公爵。楽しんでるかしら?」
第二王女が私たちに話しかけると、シュクカイ先生は一礼して去っていってしまった。遠慮したのだろう。
「第二王女殿下。はい。楽しませて頂いております。何より、すすきが美しいですわね」
私が微笑むと、チェーザマリーは一歩前に出て男性と距離を詰めた。
「俺も楽しませて頂いてますよ。先程、栗のケーキを食べたんですけどね。濃厚なクリームが美味しかったです。すすきパーティーのごちそうは素晴らしい。流石、王城の料理人が張り切って腕を振るうだけあるよ。君もそう思うだろ?」
チェーザマリー聞かれて、男性は穏やかに微笑んだ。
「ええ。そう思います。私が先程食べた魚料理も美味でした」
――この男性、誰だろ? チェーザマリーとも知り合いなのかな?
私は男性をじっと見上げた。すると、男性は優雅に一礼して、私に自己紹介した。
「はじめまして。ユリジェンヌ侯爵令嬢。私は王城騎士団の副団長、アクアマリン=デ=マンダリンと申します」
――マンダリン!? ドラゴンの国で序列二位の公爵家だわ! 序列一位のスカーレット公爵家に並ぶと言われる名家じゃない!
私は即、優雅に礼を返した。
「はじめまして。お会いできて光栄です」
顔を上げると、第二王女が彼を手で指し示した。
「彼はね。マンダリン公爵家の卿で、公爵の弟なのよ。素晴らしい剣の腕前を誇る剣士よ。特に得意なのは闇の魔法ね」
「へぇ。そうなんですね」
――剣士か。かっこいいな。でも、優雅な雰囲気のせいか、逞しいのに、騎士より楽人っぽいかも……。
「実は私ね。ユリジェンヌ侯爵令嬢のパートナーにはアクアマリン卿を推そうと思ってたのよ」
「え……」
「ほら彼、青い瞳が素敵でしょう? ユリジェンヌ侯爵令嬢のスカイブルーの左目の色彩と合いそうだなって思って」
第二王女が微笑むと、アクアマリン卿は私とチェーザマリーに微笑んだ。
「こんなに美しい令嬢のパートナーになれたら嬉しいですけどね。チェーザマリー公爵には敵いませんよ」
チェーザマリーはアクアマリン卿に微笑んだ。
「そうか。そう言って頂けると嬉しいね」
アクアマリン卿が頷くと、第二王女が目を細めて私に言った。
「そういえば……。ユリジェンヌ侯爵とマリアンヌ男爵夫人は、あなたに素敵な結婚相手を探していると聞きましたよ? アクアマリン卿とかいかがです? 家柄も実績も申し分ないですわよ?」




