ep.42 私たちは世紀のカップル?
◇◇◇
そして、あっという間にすすきパーティー当日になった。
「緊張してるか?」
私は背の高いチェーザマリーを見上げた。
「少し。でも、心配無用ですわよ」
「おいこら。俺の忠告忘れんなよ」
私たちはクスリと笑い合った。
私はチェーザマリーの腕に自分の手を添えた。
「チェーザマリー=ファル=ワルシャワ公爵とリト=ユリジェンヌ侯爵令嬢のご入場です!」
私とチェーザマリーが入場すると、司会者が声を張り上げた。
会場は一気にどよめき、会場中の魔族たちの視線が私たちに集中した。
「あのレディが色使い? 美しいな……」
「嘘……。あのユリジェンヌとワルシャワがペアなの?」
「化け猫の国の三名家とヴァンパイアの国序列一位の公爵家だぞ?」
「二人ってどういう関係?」
「ユリジェンヌとワルシャワって親したかったっけ?」
「両家に婚姻歴はないぞ……」
「どういうこと?」
そんなざわめきが聞こえてきた。
――まずい……。なんか色々と誤解されてる気がするわ……。
すぐに二人の女性と男性が私たちに歩み寄って来た。
女性は金髪にペリドットのようなジュエルアイ、男性は銀髪にオパールのようなジュエルアイをしていた。
女性はチェーザマリーに声をかけた。
「ご機嫌よう。チェーザマリー公爵。素敵な衣装ね」
「ありがとうございます。マリア公爵とフィリップ公爵夫の衣装も綺羅びやかで美しいですね」
笑顔で称賛すると、チェーザマリーは二人を手で指し示した。
「リト。こちらはドラゴンの国のマリア=デ=スカーレット公爵だよ。宰相なんだ。こちらはフィリップ=デ=スカーレット公爵夫。竜王様の近衛隊に所属されていらっしゃるんだ」
私は即、ドレスの裾をつまんで優雅に一礼した。
「お初にお目にかかります。リト=ユリジェンヌと申します」
私が顔を上げると、マリア公爵は穏やかに微笑んだ。
「まあ。美しい礼ね。流石はユリジェンヌだわ。ねえ、フィリップ」
「ああ。美しい色彩の男女が並んでいるとやはり映えるね。ところで、二人はどういう関係で? 今回限りのパートナーなのかな?」
チェーザマリーが即座に答えた。
「それは今後の状況次第ですね。私たちはバー・ゴスメーデで知り合ったんです。それで何回か交流する内に仲良くなり。自然な流れでパートナーになりました」
「へえ。何回か交流? 食事とか?」
フィリップ公爵夫はチェーザマリーではなく、私に視線を流した。
「えっと……。チェーザマリーは人間界に不慣れな私に首都を案内してくれたんです。私は今は、帝国で猫生活をしてますから」
私が微笑むと、マリア公爵が私に聞いた。
「首都を案内か。素敵ね。どこを案内されたの?」
「チョコレートの店と香水店と乗馬クラブですわ」
「食事は? ランチを楽しんだの?」
「ランチも頂きましたが、ディナーも頂きました」
マリア公爵とフィリップ公爵夫は驚いた顔をした。すると、チェーザマリーが笑顔で口を開いた。
「仕事終わりの夕方に香水店を案内しましてね。ついでに、人間界のおいしいご飯をごちそうしたかったので、二人でディナーを楽しんだんですよ」
マリア公爵は意味ありげに目を細めた。
「へえ……。そうなの。仲が良いわね」
――まずい……。なんか誤解されてる気がする……。ていうかよく考えたら、凄くデートっぽくない?
私は笑みが引きつりそうになった。対照的にチェーザマリーは余裕のある笑みを浮かべて言った。
「お二人はいつも仲がいいですよね。その揃いの衣装はどちらで仕立てたんですか?」
――ナイス! チェーザマリー! 上手く話題を変えてくれてるわ!
「アルファントムだよ。ドラゴンの国一番の仕立て屋だからね。俺のお気に入りなんだ」
フィリップ公爵夫がネクタイをつまむと、マリア公爵も口を開いた。
「やっぱり、ドレスはアルファントムよ。私はアルファントムの店長のデザインがシックで好きよ」
「分かります。俺もアルファントムで仕立てたことがありますが、アルファントムは魔界屈指の仕立て屋ですよ」
チェーザマリーがそう言ったときだ。司会者が声を張り上げた。
「竜王様と皇太子様と第二王女殿下のご入場です」
会場中の魔族たちが、声を揃えて一斉に王族に挨拶をした。
「ドラゴンの国の太陽と次期太陽、月であらせられる王家の方々にご挨拶いたします」
頭を下げながら、私は思っていた。
――王妃様と第三王子と第四王子が風邪で急遽欠席って、本当だったんだ……。三人も風邪だなんて、どうしたんだろ?
竜王は右手を上げると、笑顔で言った。
「顔を上げたまえ。秋を無事に迎えることができて嬉しいよ」
私たちが顔を上げると、皇太子が言った。
「今日は秋の味覚を沢山用意したよ。ぜひ楽しんでくれ。会場に飾られたすすきの美しさも堪能して欲しい」
私は周囲を見渡した。
会場中には美しい縦長の壺が設置されており、中にはすすきが飾られていた。
シャンデリアの明かりも、秋の夕暮れのようなオレンジ色だ。
――綺麗だな……。私、思ったより緊張してたのかも。全然すすきが目に入らなかったわ。
見惚れている内に竜王と皇太子と第二王女は会場の奥まで歩いて行った。そして、竜王は会場の奥に設けられた玉座に優雅に腰掛けた。皇太子と第二王女は玉座の両隣に立った。
すると、第二王女が笑顔で口を開いた。
「お父さま。パーティー開始前に、素敵な前座をご用意しましたわ」
竜王は第二王女を愛しそうに見ると口を開いた。
「前座? なんだろう? 楽しみだな」
「お父さまは前に、銀色の色炎が見てみたいとおっしゃっていたでしょう? 私、お父さまの願いを叶えて差し上げたくて。ユリジェンヌ侯爵令嬢にそのことをお話ししましたら、彼女が色炎を献上してくれることになりました」
「それは嬉しいよ。気が利く娘だな」
第二王女はおっとりと微笑んだ。
「ありがとうございます。実は皇太子殿下にも献上の色炎を用意しました。愛するお兄さまですからね」
皇太子は第二王女にやんわりと微笑んだ。
「嬉しいよ。ありがとう」
すると、会場中の魔族たちが囁いた。
「まあ。第二王女はやっぱりお優しいですわ」
「家族思いですわね」
「色炎の献上品か。素敵な贈り物だな」
だが、私はチェーザマリーの言葉を思い出して背筋が寒くなった。
チェーザマリーは「あれはな。"こんなに野心のない妹を過剰に警戒する皇太子"っていうイメージを作ろうとしてんな。皇太子が悪いみたいな印象を作ってんのさ」と言っていたではないか。
――まさか、家族思いで野心がない私を皇太子は過剰に警戒してますって、皆に印象付けるつもり? いや、私の考えすぎ?
そう思ったときだ。第二王女が優雅に私を指差して言った。
「ユリジェンヌ侯爵令嬢。こちらまでいらっしゃい」




