↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貴族社会を奇策で殴る  作者: 水守 鳴
9章 あいつには警戒しろ
42/133

ep.41 私も盤面の駒

 困ったときだった。マスターがショートグラスを四杯トレーに並べて、こちらに歩いてきた。


「お待たせしました。マディです」


 マスターは優雅な所作で、一杯ずつ四人の前に置くと、第二王女に微笑んだ。


「先程から会話を聞いてましたがね。どうも、皇太子に警戒されないかと皆さんは心配しているようだ」


 第二王女は蛾眉をひそめた。

「ええ。でも、野心のない妹をお兄さまが誤解なさってるんですよ」


「でしたら、私からの提案です。竜王様には銀色の色炎を、皇太子には虹色の炎を献上されていかがですか? 皇太子にも、献上するのです。そうすれば、第二王女は皇太子を立てたことになりますよ。これならあなたが仲介しても角が立ちません」


 マスターの提案に、第三王子とエメラルド公爵は顔を明るくして言った。


「それは良い! ムーンが兄上を立てれば、兄上の警戒も少しは薄まるだろう」

「そうだ! 流石、元宰相。ナイスアイディアだ」


 第二王女も微笑んだ。

「ぜひそうさせて頂きますわ」


 私がほっと息を吐くと、マスターは私に優しく微笑んだ。


――マスター。助け舟を出してくれたんだ。助かったわ……。


 私はマスターに目礼で感謝を伝えた。すると、マスターも目礼を返してくれた。


「上手くまとまってよかったわね!」 

「ディスシーン、お前、あんまりよくわかってないだろ……」


 第三王子が呆れた声で言うと、第二王女とディスシーン卿とエメラルド公爵は楽しそうに笑い合った。


 マスターは四人に微笑むと、カウンターへ戻ってしまった。


 すると、第二王女が私に言った。


「ユリジェンヌ侯爵令嬢。献上は、一カ月後の王城すすきパーティーでしてくれない? ついでに、パーティー会場には燭台を用意するわ。燭台の炎を、虹色と銀色に変えて欲しいのよ」


「分かりました。私が変色できるのは、銀色と虹色共に五十本ずつです。変色した色炎の燃焼時間は一時間です」


「そう。なら、燃え尽きたら燭台はすぐに下げることにしましょう」


「分かりました」


「ところで、パーティーにはユリジェンヌ侯爵をパートナーにして参加されたら? 王城すすきパーティーは、男女のパートナー参加がルールよ。皇太子は例外だけどね。私はアメシストお兄さまと参加するわ」


「えっと……。すすきパーティーは確か、毎年九月一日に行われましたよね。残念ですが、大伯父はその日は予定があるのです」


「まあ。そうなの? なら私が素敵なジュエルドラゴンのパートナーを見繕ってあげましょうか?」

「え……。えっとぉ……」


――全然知らない男性とパートナーとか、やりづらいかも……。でも第二王女直々だし……。断りづらいな……。


 私の目が泳いだときだった。カウンターでカクテルを飲みながらダータン伯爵と談笑していたチェーザマリーが立ち上がり、こちらまで歩み寄って来た。


 彼は私の隣に立つと私に言った。

「良かったら、俺をパートナーにしないか? 王城すすきパーティーは伯爵以上じゃないと参加不可だ。俺は休暇中だが、公爵だし」


 私の瞳がぱっと輝いた。

「助かりますわ! ぜひ、よろしくお願いします! ありがとうございます」


 私が笑顔でお礼を言うと、チェーザマリーは微笑んだ。


「チェーザマリーがパートナー? めっちゃいいじゃん! 公爵だよ?」

「ユリジェンヌとワルシャワですか。文句無しのパートナーですね」

「素敵な組み合わせね。私はエメラルドと参加するわ。当日会場で会いましょ」


第三王子とエメラルド公爵とディスシーン卿も賛成すると、第二王女はおっとりと笑った。


「私が紹介するまでもなかったわね。そうしましょう」


――チェーザマリーの方が、知らない男性とパートナーになるよりやりやすいかも! よかったあ。


 私が安堵すると、チェーザマリーはポケットから折りたたまれたメモ用紙を私に渡した。


「これ、今度ランチに行く店の地図だよ。念の為渡しておこうと思って。後で見てくれ」


――? なんでわざわざ地図? 乗馬が終わったら、一緒にお店に行ってランチをとるのに? 地図いらなくない?


 不思議に思ったときだ。第二王女が私に言った。

「ユリジェンヌ侯爵令嬢。献上の具体的な手順とかを決めたいわ。少しお時間いいかしら?」


「はい! もちろんです!」


◇◇◇ 

 第二王女との打ち合わせが終わると、私は席についてマスカットジュースを飲んだ。


 すると、チェーザマリーが私に話しかけた。

「衣装はどうしようか? すすきパーティーでは、パートナーの男女でお揃いの色を着るのがルールだ」


「私、赤色が好きなんです。赤色はいかがでしょう? チェーザマリーは髪も瞳もターコイズブルーですし。赤と青で映えそうですよ」


「いいな。赤にしよう。ところで、さっき会話が聞こえたんだが、前日と当日は王城の貴賓室春塔の三十号室に泊まるんだって?」


「ええ。そうです」


「なら、三十号室まで当日は迎えにいくよ。俺も王城の貴賓室に泊まるから。ドラゴンの国のマリア宰相とは知り合いだから、彼女に頼んで、春塔の部屋が空いてたら当てがってもらおう。冬塔とかにされるとかなり遠いからな」


「ナイスアイディアですね。当日は楽しみですわ」

 私はチェーザマリーに微笑むと、はっとした。


――そういえば、さっきの地図はなんだったんだろ?


 私はポケットから紙を取り出し、地図を開いた。


――ええ!?


 そこには、地図はなかった。ただ、こう記されていた。


――ムーンは野心家で危険だ。あまり関わるな。すすきパーティー当日は俺から離れるなよ。ムーンから話しかけられたら上手くまいてやるから。退店したら詳しく話そう。


 私は驚いてチェーザマリーを見た。


 チェーザマリーは、私がメモを見たことを知っているのに、穏やかに微笑むとマスターに言った。


「アルフィス。俺は帰るよ。会計頼む」


 私は間髪入れずに口を開いた。

「あの! 私も帰ります。会計お願いします! チェーザマリー。途中まで一緒に帰りましょう!」

 「ああ。そうしよう」

 

◇◇◇ 

 退店するなり、私はチェーザマリーに聞いた。


「ちょっと! どういうことですの! 一から説明してください! 第二王女が危険?」

「歩きながら話そう」


 チェーザマリーの顔を見て、私ははっとした。


 経験を積んだ宰相らしい顔をしていたからだ。目つきも、いつもより鋭い。まるで、鷹のようだ。


「分かりましたわ……」


 私たちは並んで歩き出した。


 夜道にはほとんど人がおらず、歩を進める度に、私とチェーザマリーのブーツの音がコツコツと響く。


「ムーンは言ってたろ?『野心のない妹をお兄さまが誤解なさってるんですよ』ってな」

「ええ。言ってましたわ」


「あれは演技だ。権力と裏社会の真っ只中で生きて来た俺には分かる。あいつは野心満々だ。おそらく、後継者争いに再参加するぞ」


「ええ!?」


「あれはな。"こんなに野心のない妹を過剰に警戒する皇太子"っていうイメージを作ろうとしてんな。皇太子が悪いみたいな印象を作ってんのさ」


「……考えすぎでは?」

「王城では考え過ぎくらいが調度いい。それに、確証はある」

「確証……?」


 私がきょとんとすると、チェーザマリーは冷え切った眼差しで私を射抜いた。


 私の肩がびくりと震えた。


「いいか? これから俺が言う話は口外禁止だ」


 私は迫力に押されて、こくこくと頷いた。


「どの国にも密偵がいるものだ。当然、密偵の報告は宰相クラスの耳に入る。俺の後任宰相のメーデスカイ侯爵にもな」

「ええ……」


「メーデスカイは俺の後押しで侯爵になった男だ。つまり、俺にでかい借りがある。新宰相になってからも、俺に重要な情報は逐一報告してくれるわけだ。……ここまで言えば分かるな?」


――つまり、メーデスカイ侯爵が密偵から受けた報告は、チェーザマリーにも筒抜けってことか。つまり、これからチェーザマリーが私に教える内容は密偵からの報告だわ……。


「皇太子は間違いなくムーンを警戒してる。だから、エメラルドを第二王女と第三王子と友人にさせたんだよ」


「どういう意味ですか?」


「エメラルドは占星術師だ。"第二王女の何気ない発言から色々探るように"ってのが皇太子からの密命さ。友人なのは演技さ」


「ええ!? あんなに仲が良さそうなのに!?」


「エメラルドは欺きの魔術の達人だ。"自分は純粋にムーンが友人として好きだ"と暗示をかけられる。友人の演技は楽勝さ」


「そんな……」


「ディスシーンは何にも分かってない。彼女は馬鹿じゃないが、頭の中ネイルしかないからな。逆に、アメシストはムーンを気にしてる。皇太子から目をつけられないかってな。ムーンとアメシストが仲良いのは分かるだろ?」


「はい……」

「だがな。ムーンはアメシストすら利用するような冷たい女だ。まじで気をつけろ。竜王家は昔から泥沼だからな」

「……」 


「皇太子はただ者じゃない。才媛の第一王女と第一王子を亡き者にした男だ。あいつが皇太子の座を引きずり下ろされることはない。あの男が警戒するなら、ムーンは危険だ。仲良くするなら、ムーンじゃなくて皇太子だ。あいつは常に勝つ側だ」


「そうなんですか?」

「ああ。すすきパーティーでは、皇太子とできるだけ話せ。俺がフォローするから」

「分かりました。ありがとうございます」


 私が頷くと、チェーザマリーは困ったようにため息をついた。


「お前な。ムーンからジュエルドラゴンの男紹介されそうになってただろ。危なかったな。絶対にムーン側の男を紹介されるぞ?」


「ええ!?」


「仮にリトがその男と仲良くなったらな。ムーンは仲人だ。リトがムーンに取り込まれる可能性がでかい。お前は希少な色使いだ。権力者から見て、使い道は色々ある。利用されないように今後は気をつけろ」


 私ははっとした。自分が利用される側になるリスクを考えていなかったことに気づいたからだ。


――チェーザマリーは私を守ってくれたのかな? 第二王女に囲われて利用されないようにするために?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。