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貴族社会を奇策で殴る  作者: 水守 鳴
9章 あいつには警戒しろ
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ep.40 第二王女と皇太子の亀裂

「こんばんは。ユリジェンヌ侯爵令嬢。この色炎は君のものかい?」


 エメラルド公爵に聞かれて、私は即立ち上がって優雅に礼をした。


「こんばんは。はい。私の色炎ですわ。先程、マスターに贈ったのです」


「いやぁ。とても美しいね。ところで、こちらは第二王女のムーン=オン=デ=ファル=ブラック殿下だ。こちらは第三王子のアメシスト=オン=デ=ファル=ブラック殿下だよ」


「はじめまして。リト=ユリジェンヌと申します。ドラゴンの国の月であらせられる両殿下にお会いできて光栄です」


 ドラゴンの国では、王位継承者以外は月と呼ぶのが挨拶の定型文だ。


 私が再度スカートをつまんで礼をすると、二人は穏やかに笑った。


「はじめまして。私はムーンよ。あなたが色使いのユリジェンヌ侯爵令嬢ね。可愛らしい方ね」


「俺は第三王子のアメシストだ。いや、来店してラッキーだよ。いいもの見られたぜ」


 第二王女と第三王子は仲良さそうに微笑みあった。


 すると、チェーザマリーとダータン伯爵も立ち上がって四人に声をかけた。


「ドラゴンの国の月に挨拶いたします。エメラルドとディスシーンもご機嫌よう」

「お久しぶりです。ドラゴンの国の月であられる両殿下にお会いできて光栄です。エメラルドとディスシーンにも挨拶させて頂きます」


 チェーザマリーとダータン伯爵がそろって一礼すると、第二王女と第三王子はクスリと笑った。


「もう。バーではそんなにかしこまらなくて良いって言ってるのに」

「そうだ。俺とムーンに遠慮するな」


「いえいえ。礼儀は大切ですからね」

 ダータン伯爵がそう言うと、ディスシーン卿が言った。


「虹の中でカクテルを飲める体験ができるなんて嬉しいわあ。さあ、エメラルド、ムーン、アメシスト! 座りましょ!」


 四人は奥の四人掛けのテーブル席に座った。

 私とチェーザマリーとダータン伯爵も席についた。


「マスター! マディを四杯ちょうだい」

「かしこまりました。少々お待ち下さい」

 第三王子が注文すると、マスターはグラスや瓶を用意し始めた。


 すると、第二王女が私を見て手招きした。

「ユリジェンヌ侯爵令嬢。ちょっとこっちに来てくれない?」


――え? なんだろ?


 私が側まで歩み寄ると、第二王女は私に微笑んだ。


「実はね、私のお父様が、色炎に凄く興味があるんだって。ほら、第十二代竜王が銀色の色炎の輝きを愛したのは有名な逸話でしょう?」


「ええ。聞いたことがありますわ」


「だからね。銀色の炎を頂けないかしら? よければ、私が仲介するからお父さまに献上してほしいのよ。建前は献上だけどね。もちろん、私からお礼はするわ。竜牙宝石とかどう?」


――竜牙宝石!? 確か、竜王家が流通を管理していて侯爵家以上にしか売らない宝石だわ……!


「竜牙宝石ですか……。滅多に国外に出回らない希少な宝石ですよね。ユリジェンヌ邸には二十個しかありませんわ」


「ええ。献上してくれたら、お礼に好きな種類を五つ差し上げますわ」


――どうしよう……。欲しいかも……。 


 そう思ったときだ。急に、第三王子とエメラルド公爵の表情が変わった。ディスシーン卿はいつも通りにこにこしているが、第三王子とエメラルド公爵の表情は、有能な王族と公爵の顔になっていた。


 第三王子はにやりと笑い、人差し指で机をこんこんすると口を開いた。


「おいおい。父上からの印象アップを狙ってんのか? ムーンがユリジェンヌ侯爵令嬢に接触して、父上が欲しがってる色炎をわざわざ献上させたってなったら、ムーンへの好感度はさらにアップだ。わざと回りくどいことしてんな」


「ええ。購入ではなく、献上という形が大切です。史上七人目の色使いが、わざわざ竜王家に献上してくれるんだから、王家の威光と面子はアップ。それを仲介した私の政治力もアピールできますわ」


 ムーンがさらりと言うと、エメラルド公爵は慎重な顔で口を開いた。


「ただでさえムーンは竜王様から寵愛されてますからね。あまりに偏愛されると、皇太子から警戒されかねませんよ。一応、ムーンは後継者争いから降りてはいますが」


 第三王子も頷いた。

「そうだぞ。最近父上はお前をますます可愛がってるじゃないか。体が回復してからはお前は外交で活躍してるからな。少し自粛しろ」


「あら。私はお父さまに喜んでもらいたいだけですわよ。それに、皇太女になる気はありませんが、王族としてもっと活躍したいのです。それには寵愛が手っ取り早いですわよ?」


 第三王子は肩を落としてため息をついた。

「いやお前な。そういう、したたかなとこが問題だぜ。今までは病弱だから警戒されなかったけどな。最近兄上はお前を警戒してんぞ?」


「まあ。私は後継者争いから降りてますわよ」

「再参加は申請すれば可能だぜ?」

「再参加する気はありませんわ」


 第二王女はおっとりと微笑むと私に聞いた。

「ユリジェンヌ侯爵令嬢、どう思う?」


――まずい……。今、第二王女と皇太子が微妙な関係なら、私が第二王女の提案に乗るのはまずいわ……。


 了承したら、私が第二王女のアピール実績に貢献してしまうわ。私が第二王女寄りだと周囲から思われるでしょう……。


なにより、皇太子と第二王女の仲が悪くなったら、次期国王と微妙に気まずくなりかねない。でも、わざわざ頼まれたのに断りづらいわね……。どーしよー!


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