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貴族社会を奇策で殴る  作者: 水守 鳴
1章 じっくり仕込んで、デビュタントでぶっ潰しますわ ※本作は短編集ではありません。第一話から物語が続いていく長編小説ですので、第一話から順番にお楽しみください。
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ep.4 デビュタント前の仕込みを開始ですわ!

◇◇◇

 三日後、ユリジェンヌ邸に研究者が来た。


 彼の名前はシュクカイ=デ=フッカ。権威のある研究所の研究者の一人だそうだ。


 彼は化け猫とドラゴンの混血で、普段は祖国のドラゴンの国で暮らしているらしい。伯爵家の次男で、柔らかい雰囲気を身に纏う男性だった。


「リト=ユリジェンヌと申します。遠いところをご足労頂き、ありがとうございます。今日からよろしくお願いいたします」


 私がスカートの裾をつまんで一礼すると、シュクカイは目を丸くした。


「今まで社交界で様々なレディを見てきましたけどね。こんなに美しい礼をする令嬢は初めて見ました。流石はユリジェンヌですね」


 手放しで称賛されて、私は素直に嬉しくなった。

 側でやりとりを見ていた大伯父は、誇らしそうに笑った。

「そうだろう? 自慢の大姪なんだ」


「ダークブラウンの髪と、オッドアイが美しいですね。右目がマリアンヌ男爵夫人譲りのダークブラウンで、左目がユリジェンヌ侯爵譲りのスカイブルーだなんて、羨ましいですよ」


――この研究者、褒め上手ね。やっぱり貴族だわ。大伯父様に刺さる褒め方してるわ。


 案の定、大伯父は嬉しそうに笑った。

 私はあえて、おっとりと微笑んだ。


「フッカ先生の黒髪と黒目も素敵ですよ。まるで、黒曜石みたいですわ。黒曜石は天然のガラスと言われますけどね。先生の髪と瞳は透明感があって美しいです。黒曜石の実物を見ているようですわ」


――きっと、女性たちにモテるんだろうな。


「ありがとうございます。美しい令嬢に褒められて悪い気がする者はいません」


「まあ。お上手ですね」


「よければ、フッカ先生ではなくシュクカイ先生と呼んでください。化け猫の国は姓で呼び合うのが普通ですが……。他国では名前で呼び合うのが一般的ですからね。私は化け猫の国にはあまり来ないので、姓呼びは慣れてないんですよ」


「分かりました。それではシュクカイ先生。よろしくお願いいたします。よろしければ、私に屋敷を案内させてください」


「ユリジェンヌ邸を見学させて頂けるなんて光栄です」


――シュクカイ先生は、私が人間との混血だって見下さないんだ……。ドラゴンの国には人間との混血は普通にいるらしいし。先生は半分化け猫だけど、ドラゴンの国育ちだから、価値観が違うのかも?



◇◇◇

 その日から、シュクカイ先生と私による実験の日々が始まった。


 朝食が済むと、私たちは夕食の時間まで議論をしたり、文献を調べたり、実験をして試行錯誤を繰り返した。

 シュクカイ先生は、研究が大好きな男性だった。私との時間が終わると、夜は遅くまで自分の研究や論文作成に没頭していた。


 試行錯誤を繰り返して六十日。私はついに、炎玉の作成に成功した。


 私とシュクカイ先生は、手を取り合って喜んだ。しかし、私の炎玉からは、三十本の蝋燭に着火するのが限界だった。


「記録によると……色使いは、最初から完璧な炎玉は作れないみたいだ。アレン=カイコーですら、王城勤め初期は四十本着火の炎玉を作るのが限界だったようだ。練習する内に、五十本に近づくみたいだよ」


 先生はそう言って、私を励ましてくれた。


――よし! いつかは五十本を達成してみせるわ!

 私は固く心に誓った。


 成果は炎玉だけではなかった。前よりも、炎の輝きを美しくすることに成功したのだ。


 虹色の炎であれば、半径三十センチまでをプリズムのような輝きで照らすことができるようになった。きらきらとしたきらめきが、床やテーブルに散った。

 銀色の炎は、前よりも強く、白く発光するようになった。


 シュクカイ先生曰く、練習を積み重ねていけば、炎の美しさも徐々に増すらしい。それに比例して、安眠などの効果も増すようだ。


 しかし、問題が二つあった。私が一日に変色できる蝋燭の数は、百本が限界だった。しかも虹色の炎と銀色の炎は、一時間すると消えてしまうのだ。


 唯一の例外は炎玉。炎玉だけは一日中消えることがなかった。さらに、炎玉から着火した蝋燭の炎も、一日中消えることがないのだ。


 二つ目の問題は、五日に一回しか炎玉を作れないことだ。文献を調べた結果、この二つの問題だけは解決できないことが分かった。色炎は色ごとに、燃える時間などが決まっていたのだ。


――いいなー。黄金の炎玉だったら、二日に一回のペースで作ることができるんだ。虹色と銀色は五日に一回か……。まあ、一日経ったら消えちゃうとこは、黄金と同じだけどね。


 アレンが羨ましくなったが、どうしようもないので、私は諦めた。


◇◇◇

 あっという間に八十日が経ち、シュクカイ先生は帰国することになった。


 お見送りのときに、私は丁寧に礼をしてお礼を伝えた。


「今日までお世話になりました。私、もっと炎を美しくできるように、日々精進いたします。このご恩は忘れません」


「いえいえ。こちらこそ、楽しく研究させて頂きましたよ。あなたの将来は、炎職人確定ですね。過去の色使いたちは職人として大活躍しましたから。いつか、完成した炎玉を買い取らせてください。ぜひ研究に使いたい」


 シュクカイ先生は爽やかに笑った。彼は馬車に乗り込み、帰国した。


 馬車に手を振りながら、私は高揚していた。

――さて、準備は整ったわ。あとは、計画実行よ。


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