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貴族社会を奇策で殴る  作者: 水守 鳴
7章 兄妹より不利だけど、公爵位も初恋も手に入れる!
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ep.31 竜王様に挨拶?できません!

 両親は幼少期から、僕を社交界で連れ回した。それは、人脈を作らせるためだ。しかし、それは兄や姉も同様だ。年上の彼らには、年齢差の分だけ、交流や人脈があった。


 先に生まれれば、人生経験を積める。魔術の練習時間だって、倍になる。遅く生まれた僕は、兄と姉たちの間に、経験の壁があった。


 だが、僕には強みがあった。それは、占星魔術と欺きの魔術だ。


――この力で、兄と姉は潰す。 

 僕は決心した。


 占星魔術は複雑な高等魔術だ。術者と星には相性があり、最も相性の良い星とのみ、術者は直接交信できる。


 僕と相性が良かったのは、真実を教える一等星星ベラと危機を教える二等星ナネブ。


 僕が祈ると、ベラは聞きたいことを教えてくれた。ただし、なんでも教えてくれるわけではなかった。


 誰かの好きな食べ物や色など簡単なものは教えてくれる。しかし、国家機密や、兄妹の誰が公爵になるか、などは聞いても教えてくれなかった。


 困惑する僕にベラは教えてくれた。どこまで真実を知ることができるかは、術者の経験と力量次第なのだと。


 対照的に、ナネブは最初から心強い味方だった。僕が聞かなくても、危険を教えてくれた。


 例えば、社交界に行く前日に、話しかけられても仲良くなってはいけないドラゴンの名前などを教えてくれた。


 どの兄と姉が危険なのかも、ナネブは教えてくれた。


 実は、占星魔術は、生まれた時点で、使えるか使えないかが決まっている。星たちの声が聞こえないと、占星術師にはなれないのだ。


 僕は赤子のときから、夜になると星の囁く楽しそうな声が聞こえていた。それで、自分の適性を知ったのだ。


――僕には生まれ順のハンデがある。だが、恵まれている。こんなに素晴らしい力をもっているんだから! この力でのし上がってやる。


 僕は強く決心した。そんな僕に、ある日転機が訪れた。


 ナネブが僕に教えてくれたのだ。


――短時間の記録的大雨で、ウル地方の大河が氾濫する。大河付近に住んでいる小型火竜たちが危険だ。彼らは泳げないし、飛べない。人型の姿にもなれないからな。日時は、一月三日だ。


 寝ていたら、突然ナネブの声が聞こえて、僕はとび起きた。そして、歓喜した。


――これは使える。もうすぐ年末王城パーティーが開催されるからな。


◇◇◇ 

 このとき、僕は七歳だった。七歳になると、年末王城パーティーの参加資格が得られるのだ。


 年末王城パーティーは、全ての公爵家、侯爵家、伯爵家のドラゴンと、全子爵と男爵の半数が参加する大規模パーティーだ。 


 年末王城パーティーでは、序列が高い家門から順番に、竜王に挨拶することになっている。


 挨拶といっても、型通りのセリフを言って礼をするだけでいいのだ。

 

◇◇◇ 

 年末王城パーティー当日になった。


 モスグリーン公爵家のドラゴンたちは、玉座の前に一列に並び、一礼をした。


「竜王様に挨拶いたします。今年も新年を無事に迎えることができて嬉しゅうございます」


 十人の兄も姉も、父と母も礼をした。しかし、僕はセリフを言わず、礼もしなかった。わざとだ。


 当然、会場はざわついた。竜王は不思議そうな顔をした。


「何をしてるんだ! 早く竜王様に挨拶しないか!」


 僕の隣に並んでいた長男が、僕を叱責した。だが僕は長男を無視した。そして、竜王をまっすぐに見つめると、声を張り上げた。


「新年を無事に迎えられないので、挨拶できないのです!」


 会場がどよめいた。竜王は驚いた顔をした。家族たちは、僕の突然の奇行に青くなった。


 僕はその場に跪くと、竜王を見上げて言った。

「一月三日に、ウル地方の大河が氾濫します。短時間の記録的大雨が降るからです。大河付近に住んでいる小型火竜たちが危険です。すぐに避難させてください!」


 会場のざわめきはさらに大きくなった。

「あの子は何を言ってるんだ?」

「モスグリーン家のエメラルド令息はどうしてしまったの?」

「なんでそんなことが分かるんだ?」


 竜王が冷たい表情をして右手を上げると、会場はしんと静まり返った。


 竜王は面白そうに口角を上げると、口を開いた。


「その根拠はなんだ? 俺には、お前が嘘を言ってるように見えないな。見る目には自信があるんだ。それに、こんな場所で虚言を言ったなら、お前の信頼は地に落ちる。ここには貴族の大半と王族全員がいるからな。考えなしにそんな馬鹿なことをするとは思えん」


 僕は頷くと、口を開いた。


「実は、僕は占星魔術が使えるのです。危機を教える二等星ナネブが、僕に洪水が起きると知らせてくれました。僕は子どもなので、普通にお伝えしても、信じてもらえるか分かりません。だから、大胆な行動に出ることにしました」


 竜王は大爆笑した。静まり返った会場に、竜王の笑い声だけが響いた。


「そんな馬鹿な……。占星魔術は超高等魔術だ……。七歳のガキが使えるわけないだろ」


 長男がぼそりと呟いた。他の兄と姉たちは、警戒の眼差しで僕を見ていた。両親は、心配そうな顔で僕を見ていた。


――使えます! だって僕、星の声が聞こえるし。今日までこのことを内緒にして良かった。兄と姉を出し抜いてやる!


 僕は竜王に自信満々に言った。

「僕の発言が間違っていたなら、僕を処刑してください! 竜王様に偽りを述べた罪です!」


――星は嘘をつかない。予知が外れることはない。僕は処刑されない。これくらい強気に出た方が信じてもらえるだろう。


 会場が再びどよめいた。


 竜王様は大爆笑すると言った。

「面白い! 火竜たちを避難させてやろう!」


◇◇◇ 

 モスグリーン家の衝撃的な挨拶が終わり、僕たちは壇上から降りた。次は、玉座の前で侯爵家の挨拶が始まるからだ。


 モスグリーン公爵家は公爵家序列五位。五つある公爵家の中では、序列は最下位だ。


 壇上から降りた途端、僕は兄と姉に囲まれた。

「お前、何派手なことしてるんだよ!」

「占星魔術が使えたのか?」

「ほんとに氾濫が起こるのか?」

 兄と姉に口々に質問攻めにされた。彼らの視線は鋭かった。


 僕は兄と姉に言った。

「ほんとだよ。僕は星の声が聞こえるんだ」


 僕がそう言うと、兄と姉たちは敵意に満ちた眼差しを僕に向けた。

「ガキだと思ってたのに! そんな手札を隠してやがったのか……」


 長男が言いかけたときだ。黙って見ていた父と母が口を開いた。

「氾濫が起こらなかったらどうするんだ?」

「そうよ! 処刑されてしまうわよ?」


――んなわけないじゃん。星のお告げは外れない。てか、いくらなんでも七歳を処刑しないだろ。


 僕は心の中で突っ込んだ。そのときだった。


 ストロベリーブロンドに、ルビーのようなジュエルアイを持つ男性がこちらに近づいて来た。


 僕と家族は、彼に一斉に礼をした。


「皇太子様。息子がお騒がせしてしまい、すみません」

 父が謝罪すると、皇太子は楽しそうに笑った。


「なかなか大胆な子どもじゃないか。君の名前はエメラルドだったっけ? 前にも王城のパーティーで会ったよね。占星魔術が使えるの?」


「はい。僕は占星魔術が使えます。真実を教える一等星ベラとも交信できます。よければ、今から皇太子様の好きな色などを当てさせてください。今は夜です。祈れば、ベラは教えてくれますから」


 皇太子は驚いた顔をした。兄と姉はぎょっとした顔をした。両親は面白そうに口角を上げた。完全に、採点者の顔だった。


 皇太子はふっと笑った。

「面白い。では、私の一番好きな色を当てて見ろ。分かったら耳打ちで教えてくれ。次期君主としては、好みを周囲に知られたくないからね」


――君主は本心や好みを隠すものだもんな。だから耳打ちか。やっぱり皇太子は頭良いな。


「かしこまりました」

 言うなり、僕はその場に跪いた。そして、指を組むと祈りだした。


――ベラ。僕に皇太子の一番好きな色を教えて。


 僕が祈ると、すぐに声が聞こえた。それは、さざ波のような囁きだった。


――青色だ。特に、ネイビーが好きだ。


 僕は立ち上がると、すぐに皇太子に耳打ちした。

「青色です。特に、ネイビーがお好きですね」


 皇太子は目を見開くと、声を上げて笑った。

「これは凄い! 私は誰にも好きな色を教えたことはないんだ。普段着る服は白ばかりだしね。まさか、本当に星の声が聞こえるなんて!」


 兄と姉たちの顔は青くなっていた。両親は、満足そうに笑っていた。


「次は私の一番好きな本を当ててみてくれ」


 僕は頷くと、跪いて再び祈った。


――ベラ。皇太子の一番好きな本は何?


 ベラは答えた。

――推理小説の名作、怪盗アルシリーズだ。


 僕は立ち上がり、すぐに皇太子に耳打ちした。

「怪盗アルシリーズです」


 皇太子は楽しそうに笑うと僕に言った。

「これは面白い! では次は、私が第何話が一番好きか当てて見ろ」


「かしこまりました」

 僕は跪いて、ベラに祈った。


――ベラ。アルシリーズで皇太子の一番好きな話を教えて。


 ベラの囁き声が僕の頭の中に響いた。


――それは教えられない。だがな、アルシリーズの第八巻の中にある。


 僕は悔しくて歯ぎしりした。

――くっそ! ここでベラの制約発動か……。まあ、いい。乗り切ってやる!

 

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