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貴族社会を奇策で殴る  作者: 水守 鳴
6章 魔王からの追放? むしろ魔王に打撃だ
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ep.27 宰相は好条件をぶんどって人間界に行く

◇◇◇

 ヴァンパイアの魔王様は特別な存在だ。彼は子どもをつくることができない。結婚もしない。


 ただし、千年に一回、十年間、棺の中で眠りについて生まれ変わるのだ。


 彼は少年の姿になり、前の人生の記憶をもったまま別人の姿に生まれ変わる、唯一無二の特殊個体なのだ。

 

◇◇◇

 俺は宰相であり、ヴァンパイアの魔王様の側近だった。よって、魔王様が眠りにつく間は、魔王代理として摂政になることが決定した。


 魔王様が眠っている間、俺はさらに権力と実権を握った。


◇◇◇

 俺は棺の中で目覚めた。その瞬間、前の人生の記憶が一気になだれ込んできた。


 俺は思った。


――チェーザマリー公爵は権力をもちすぎてる。そもそもワルシャワ公爵家は宰相を多く輩出する名門一族。加えて、公爵家序列一位。さらに、肥沃な領土をもっている。ワルシャワ一族もチェーザマリー公爵も権力をもちすぎだ。


 俺が眠っている間に、チェーザマリー公爵は摂政としてさらに力をつけたはずだ。……彼の権勢を削りたいな。


◇◇◇

 俺は目覚めた魔王様から謁見室に呼び出された。功労者を労いたいと。


――やっとお目覚めか。これで安心だな。


 再会した魔王様は、金髪碧眼の美少年の姿をしていた。前の姿は、黒髪赤目の美男だったから、俺は少し驚いた。


――今の姿の方が、お美しいな。


 俺は魔王様に一礼すると口を開いた。

「無事にお目覚めになられて、なによりです」


「まあ、かけてくれ」

 魔王様は微笑むと、俺に向かいのソファに座るように促した。


 俺が座ると、魔王様は笑顔で言った。

「私がいない間、摂政として国に貢献してくれてありがとう。褒美に休暇をやろう」


――休暇?


「ヴァンパイアは寿命が千年以上あるからな。三百年休暇をやろう。領地の運営は部下にまかせて、人間界で羽を伸ばしてきたらどうだ?」


――はあ? 三百年だと?


 俺は瞬時に魔王様の意図に気づいた。


――俺を政治権力の中枢から外したいだけじゃねぇか! 三百年も人間界で遊んだら、政界復帰は不可能に近い。いくらなんでもブランクが長すぎる!


 俺は笑顔で応酬した。

「国に貢献するのは宰相として当然です。これからもお側で魔王様をお支えしたいですね」


 魔王様も笑顔で応酬した。

「いやいや。忠臣を労うのも君主の器だ。」


「忠臣であればこそ、報奨を辞退する謙虚さも必要です」


「いやいや! 一番の忠臣を労わなくては、臣下に示しがつかないよ」


 魔王様との笑顔の攻防戦の後、俺は三百年の休暇を承認した。ただし、魔王様には五つの条件を呑んでもらった。


一つ目は、三百年後に俺の宰相復帰の確約。


二つ目は、後任の宰相は俺が選ぶこと。


三つ目は、定期的にヴァンパイアの国に帰り、公爵として領地運営には携わること。


四つ目は、部下や知り合いの相談にのったり、困っていたら金銭面などの援助が可能であること。


五つ目は、貴族のパーティーや晩餐会、王城で開かれる年末大規模パーティーには参加すること。


 人脈や交流を維持するためだ。


 俺は後任の宰相をメーデスカイ侯爵に任命した。


 メーデスカイ侯爵は後継者争いで最初不利だったが、俺の支援で侯爵位を獲得した男。つまり、俺にでかい借りがある手駒だ。


――メーデスカイには、役に立ってもらうよ。


 俺は人間界に行くことが決定した。


◇◇◇ 

 俺はひとまず、人間界の帝国の首都へ行った。  


 そこで、ホテル暮らしをすることにした。


 そのホテルの近くには、サリスという有名な菓子屋があった。

 俺はそこの菓子をいくつか買って食べてみた。


――美味いな……! 人間界の菓子にはこんなにおいしいものがあるのか! 味が凄く俺好みだ!……これ、上手く加工して魔界で売り出せないか?


 俺はひとまず、サリスの菓子職人になることにした。


――俺は公爵だが、菓子の研究に爵位は関係ないな。人間界の菓子には、魔界での新しい可能性を感じる……! ひとまず、人間界で菓子の研究をしてみよう!


◇◇◇ 

 俺は職人見習いになり、菓子作り修行に打ち込んだ。


 その中で、俺が注目したのは香料だった。


――良い香料はさらに味をよくして、嗅覚まで楽しませてくれる!


 熱心に研究に打ち込んだ結果、サリスの菓子開発研究部門に異動することになった。


 俺はそこで、香り高い高級ゼリー、フラワーシリーズを開発した。


 フラワーシリーズゼリーは女性に大ヒットした。さらに、その香りの良さとサリスが元々有名ブランドだったことから、フラワーシリーズは皇室御用達になったのだ。


 俺はサリスで成功した。しかし、ある悩みがあった。


 それは、人間の血が飲めないことだった。

 俺は血の好みが激しかったのだ。


 ヴァンパイアの国に住んでいた頃は、銀鹿の血を飲んでいた。銀鹿は銀色の毛をもつ鹿で、ヴァンパイアの国に広く分布しているのだ。


 しかし、人間界の空気にさらされると、銀鹿の血は変色して、不味くなってしまうのだ。


 俺はトマトジュースで餓えをしのいでいた。


◇◇◇ 

 その日、俺は仕事の予定が長引き帰宅を急いでいた。


――遅れたら、ホテルのバイキングが食べられなくなる!


 俺はホテル暮らしが気に入り、ずっとホテルで暮らしていたのだ。


 俺は腕時計を見た。

――まずい……。あと四十分でバイキングの入場は禁止になってしまう……。


 俺は近道をすることにした。いつもは通らない、暗い裏道を通ったのだ。


 帝国には闇がある。首都は貧富の差が激しく、裏路地にはホームレスなどがいるのだ。


 その裏路地には、ストリートチルドレンの姿もあった。


――裏路地はやっぱり、治安が悪いな。


 そんなことを考えながら、歩いていたときだった。


「薬をください……! 薬をくれ! どうか!」

 一人の薄汚れた身なりの男が、俺に駆け寄ってくると、ジャケットを掴んですがってきた。


――なんだこいつ? 薬?


 俺は懐から銀貨を一枚取り出した。さっさとどこかに行って欲しかったからだ。

「体調が悪いのか? これで買え」


 俺が銀貨を手渡すと、その男は何度も頭を下げた。

「ありがとうございます! これで麻薬が買える!」

 男は目をギラつかせた。


――薬って、そっちかよ。


 俺は関わりたくなくて、さっさと去ろうとした。そのときだった。男の首筋を見て、ふと思ったのだ。


――美味そうだな……。


 俺は困惑した。人間に対して、そんなことを思ったのははじめてだったからだ。 


 俺は周囲を見渡した。そして誰もいないことを確認すると、男の首筋に噛みついた。


 ちなみに、噛まれた人間がヴァンパイアになることはない。あれは人間の迷信だ。


 俺は魔法で男を眠らせて血を飲んだ。そして、驚愕した。


――美味い……! 人間の血なのに? ……まさか、薬物中毒の人間の血なら、美味しいのか? これなら餓えに苦しまなくていいんじゃないか?


 俺は翌日から、裏路地で薬物中毒の人間を探し、血を飲んだ。どの人間の血も美味かった。


 そして思った。

――麻薬についてもっと知りたい。



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