ep.25 恋敵を完璧に排除する
◇◇◇
新たな夫は三人だった。第二夫のラクライ侯爵、第三夫のスカーポリー侯爵、第四夫のソソノ子爵の三名だ。ソソノ子爵は、金鉱山などを持ち、とても裕福な子爵だった。
ザクロ公爵は、嫉妬の炎を燃やした。ソソノ子爵を徹底的にいじめて、精神干渉魔法まで使った。
ある日、ソソノ子爵は心を病んで部屋から出てこなくなった。
私と大臣たちとザクロ公爵と書記官と魔王様が会議をしていると、執事の一人が慌てて会議室にやってきて魔王様に報告した。
「ソソノ子爵が食事中に倒れました。今は薬を飲んで容態は安定してます」
魔王様は冷ややかな声でザクロ公爵に言った。
「いつかこうなる気がしていたよ。ソソノ領地の領地運営はどうするんだ? 子爵は倒れてしまったぞ?」
――おい。心配するとこそこなのかよ。
私の目には、魔王様がソソノ子爵を心配しているようには見えなかった。
ザクロ公爵は微笑んで答えた。
「僕が夫仲間に礼儀を教えようと厳しくしたせいかもしれません。何分、ソソノ子爵は爵位をわきまえないことが多かったもので。責任をとって、ソソノ領地運営は私が代行します。同じ夫仲間ですから」
――なんて白々しい奴だ……。
私が引いていると、魔王様は片眉を跳ね上げた。
「それではな、公爵領に加えてソソノ領まで持つのか? お前が莫大な資産を持ちすぎてしまうな。君主としては歓迎できないな」
「領地の管理はしますが、ソソノ領地に関する最終決定は魔王様がなさってください。僕は不正はしません。お疑いでしたら古代魔法で何でも調べてください」
――なるほど。ザクロの奴、上手いな。
魔王様が頷くと、ザクロ公爵は思い出したかのように顎に手を当てた。
「そういえば、ソソノ領地は税収のわりに王城への上納金が少なくないですか?」
――何?
「これを機に上納金だけ上げましょう。僕が完璧に管理します。領民への税収負担は増やしませんよ。なんなら、ソソノ領は税金自体が多いのでは? 領民への負担が多いですし、これを機に減らしましょう。領民は領主代理の私にさぞ感謝するでしょうね」
魔王様は笑って快諾した。しかし、私は背筋が寒くなった。
――この二人、もしかしてここまで計算してたのか? だから子爵が病んでも魔王様は介入しなかったのか? 心配する気配はゼロだからな。
ソソノ子爵の代理をザクロ公爵は完璧に務めた。
税は減った。さらに、ソソノ領地は以前よりも整備された。
当然、領民は喜び、ザクロ公爵に感謝した。領民は誰も、ソソノ子爵に回復して欲しいなどとは言わなかった。
さらにザクロ公爵は、自分の死後は、領地運営はソソノ子爵の甥に任せることにした。ソソノ子爵には弟がいて、二人の甥がいたのだ。
当然、ソソノ子爵の弟夫婦は喜んだ。後継者問題は起きず、つつがなく領地は運営された。
つまり、ソソノ子爵が倒れても誰も困らず、誰もソソノ子爵の回復を願わなかった。
――ザクロめ。とんでもない奴だ。
私は舌を巻いた。
◇◇◇
その後の百年間、魔王様は追加で、裕福な子爵四名、伯爵三名、侯爵二名と結婚した。
ザクロ公爵は子爵だけを徹底的にいじめた。その結果、合計で五人の子爵夫が心を病んだ。
その度にザクロは領主代理になり、税収を下げて上納金を上げた。領民からは人気を獲得した。さらに、後継者に子爵の親族を任命した。ソソノ子爵のときと同じで、親族に子爵位を継がせることにしたのだ。
やはり誰も、子爵たちの回復を願う者はいなかった。
五人の子爵夫たちは、王城の離宮で療養することになった。
――ザクロの奴、もはや最初からこの展開を狙ってるだろ。やっぱり魔王様も、ぐるか? 裕福な子爵と結婚してるからな。ていうか、子爵も結婚すんなよ。魔王の夫の地位に目がくらんだか? ザクロに潰されるって分かんないのか? まさか、精神干渉魔法で警戒心を緩めてる? ザクロならやりかねん。
このとき、私は四百歳になっていた。そして、誕生日から一カ月が過ぎた頃、魔王様に呼び出された。
魔王様は、私と二人だけの食事会を開催した。そして、デザートを食べ終わると私に言ったのだ。
「アルフィス。私たち、結婚しないか?」
――結婚しようかな。
私の頭は高速で回転していた。
――悪魔の魔王は高位貴族の夫か妻を複数持つのが常だ。それに、自分の曾祖母は王女。ゴスメーデ家は王家と何度も婚姻している。私たちは完璧な組み合わせだな。両家のためにも結婚するか。
私は微笑んだ。
「我が家はゴスメーデ公爵家ですからね。結婚しましょう。これからは夫婦としてもよろしくお願いします」
私がそう言うと、魔王様は口角を上げた。
「嫌なら断ってもいいんだぞ?」
「そんな……恐れおおいです」
私が控えめに微笑むと、魔王様は艶っぽい笑みを浮かべた。
「愛のない結婚はつまらない。アルフィス。お前を惚れさせてやる」
――は? 私を?
「……私だけが一方的に惚れるのですか?」
「そうだ」
魔王様はあっさり肯定した。
「お前はバーテンダーだろ? 明日、世界一のカクテルを作れ。ただしわらわは魔界一の酒を作ってやる。わらわの酒を越える酒は未来永劫無い」
――なんだって? バーテンダー大会一位の私の酒を越える? いいだろう。作ってやる。
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次の日魔王様に会いにいくと、第一夫のザクロ公爵もその場にいた。
魔王様は優雅にソファに腰掛けていた。ザクロ公爵はソファの隣に立っていた。
魔王様の前の低いテーブルには、小さな赤い箱と、ワインボトルとワイングラスが置かれていた。
ワインのラベルには、トーリ・ペリのロゴがあった。トーリ・ペリは魔界一高いワインだ。
――あれが魔界一の酒? いや、そんなはずはない。魔王様のことだ。何か細工してるはずだ。
私は持ってきた氷ケースやシェイカー、シロップ瓶などをテーブルに並べた。
私は、魔界一高級でシェイク難易度が高いカクテルを作った。
カクテルの材料は、五つ。猫目石シロップとドラゴンストロベリーシロップ。そして、トンカ、ウッカ、デキーラと呼ばれる魔界の蒸留酒だ。
このカクテルは、シェイクにより、美しいボルドーになる。シェイクの腕が悪いと、マゼンダになるのだ。一杯の値段は、カラファントムでは金貨五枚。
私はシェイクで完璧なボルドーを作り上げた。
魔王様はボルドーカクテルを飲むと、私に向かいのソファに座るように促した。そして、私が座ると言った。
「お前は世界一腕の良いバーテンダーだが、わらわの酒には負ける」
――は? なんだその酒は? トーリ・ペリごときで私のボルドーを超えるだと?
すると、魔王様はザクロ公爵に命じた。
「抜栓して、グラスに注げ」
ザクロ公爵は微笑むと、ジャケットのポケットからソムリエナイフとトーションを取り出した。
それを使い、優雅に抜栓すると、ソムリエさながらの所作でグラスにワインを注いだ。
――美しいな……。いつソムリエの動きなんて習得したんだ?
その所作に、私は少しだけ見惚れそうになった。
ワインを注ぎ終わると、魔王様は赤い箱の蓋を開けて、中身を私に見せた。
私は思わず、息を呑んだ。
――これは、王家家宝のレッドダイヤモンドだ。王家の所持数は五個しかないはずだ。……なんで酒対決で宝石……?
不思議に思ったときだ。
魔王様は私に微笑むと、レッドダイアモンドをワインの中にぽちゃりと入れたのだ。
――はあ!?
魔王様がワイングラスに手をかざすと、グラスの中に泡がいくつも現れた。そして、レッドダイアモンドはあっという間に溶けてしまったのだ。
魔王様は私にグラスを差し出して言った。
「これを飲め」
――なんて酒だ……。私の負けだ……。
「これは頂けません。王家の家宝の一つですから」
私が断ると、魔王様は私を指差して可憐に笑った。
「お前はそれだけ価値がある男だ」
私は衝撃を受けた。
私が言葉を失うと、魔王様はザクロ公爵を見上げて尋ねた。
「ザクロもそう思うだろう?」
ザクロ公爵は笑顔で頷いた。そして、一礼すると部屋から出て行ってしまった。
――なんで退出したんだ?
「アルフィス。ワインを飲み干せ」
私は頷くと、中身を全部飲み干した。
すると魔王様が、優雅に微笑んで言った。
「私にも一口くれ」
「あの……全て飲んでしまいました」
「お前の口の中に味が残ってるだろう?」
私が意味を理解すると、魔王様は挑戦的な笑みを浮かべた。
「どうした? 男なのにキスに自信がないのか?」




