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貴族社会を奇策で殴る  作者: 水守 鳴
4章 170年連続公爵
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ep.21 堕天精霊の国のぶっとんだ建国秘話

◇◇◇

「……という作戦なんです。いかがでしょう?」

 私が聞くと、ダータン伯爵は笑顔で頷いた。


「上手いな。仮面舞踏会にはぜひ参加させてくれ。俺は病弱設定だから、ダンス開始前には帰るよ。開始までの一時間あれば十分だな」

「ありがとうございます!」


 私は瞳を輝かせた。すると、マスターとチェーザマリー公爵とネルヴァー卿は楽しそうに笑った。


「私が精神干渉を使うより、面白いですね。箔もつきますし、この作戦でいきましょう」

「なかなか名案じゃないか」

「これは男爵夫妻のリアクションが楽しみだー! あとでダータンに詳しく聞かなきゃ!」


 ネルヴァー卿はうきうきした声を出すと、ワインの残りを飲み干した。

「マスター! 同じのもう一杯ちょうだい!」


 ネルヴァー卿が注文すると、マスターは微笑んだ。

「かしこまりました」


 マスターがそう言った瞬間だった。

――リリリン。

 ベルの音が鳴り、一人の男性が入店した。


「いらっしゃいませ」

 マスターが微笑むと、男性は明るく笑った。


 その男性は、オレンジ色の髪にピンク色の瞳をもつ美男だった。

「マスター! こんばんは! 人間界に半年ぶりに来ちゃったよ……」

 言いかけて、男性は私を見るとはっとした顔をした。

「ええ!? ユリジェンヌ侯爵令嬢!? ほんとにいた!」


――え? 誰?


 私が戸惑うと、チェーザマリー公爵とネルヴァー卿が私に聞いた。

「こいつと知り合いか?」

「えー? 堕天精霊と接点あったの?」


 私が首を振ると、オレンジ色の髪とピンク色の瞳をもつ男性は笑った。

「いきなりごめん。びっくりしたよね」


――この男、ほんとに誰?


 混乱してると、男性は微笑んだ。

「俺は堕天精霊のシェルバ=ファル=チョコレータ公爵です。はじめまして。ユリジェンヌ侯爵令嬢」


――ええ!? あの有名なシェルバ公爵!?


 私は立ち上がると、丁寧に礼をした。

「はじめまして。リト=ユリジェンヌと申します。お会いできて光栄です」


 私が顔を上げると、シェルバ公爵は拍手した。

「凄い! 超綺麗な礼だね! ユリジェンヌ侯爵が自慢してたのも分かるー! ただの親ばかじゃなかったんだね!」


「あの……どうして私を知ってるんですか?」

 私が戸惑った声で聞くと、シェルバ公爵は明るく笑った。


「数日前にさ、ユリジェンヌ侯爵邸のパーティーに行ったの。それで、『久々に人間界に行って神隠ししてきます』ってユリジェンヌ侯爵に言ったわけ。あっ。俺は神隠し精霊だからさ」

「神隠し……精霊?」


「うん。物とか子どもを隠す悪い精霊のことだよ」

 シェルバ公爵はあっけらかんと笑った。


――へえ。堕天精霊には色々な種類がいるって聞いたけど、神隠しなんて聞いたことないジャンルだわ。シェルバ公爵は音楽に長けてるってしか知らなかった……。


「それで、ユリジェンヌ侯爵に言われたんだよね。『またバー・ゴスメーデに寄るのか? もしかしたら、私の大姪がいるかもしれない。ダークブラウンのロングヘアにダークブラウンとスカイブルーのオッドアイの娘がいたらリトだよ。大姪に会ったらよろしく』ってね」


「なるほど……。そういうことだったんですね」


 私が頷くと、ネルヴァー卿が明るい声で言った。

「びっくりしたー! シェルバといつ知り合いになったんだって感じだよ。化け猫は成人するまで領地から出られないじゃん? また凄技使ったのかと思ったよ」


「ほんとだよ。俺なんて、貴族で混血の化け猫がいるのかと初見で困惑したからな」

「ええ。ユリジェンヌ侯爵令嬢がいるなんて聞いたことなかったですし」

 チェーザマリー公爵とダータン伯爵が同調すると、シェルバ公爵が驚いた声で言った。


「ええ!? お前ら、ユリジェンヌ侯爵令嬢を知らないの? 今、超有名だよ」


「え? そうなの?」

 ネルヴァー卿が驚くと、シェルバ公爵は呆れた声で言った。

「有名にならない方がおかしくない? 史上七人目の色使いだよ? お前らは逆に、なんで知らないわけ?」


 すぐにネルヴァー卿が答えた。

「僕さー。ドレスの注文で、ここ二カ月くらい忙殺されてたんだよね。やっと片付いて、久々にゴスメーデに来たんだよ」


「俺は悪魔の魔王様から二カ月の完全休暇を頂いてたんだ。『いつも代筆で激務をさせてるから褒美だ』ってな。それで、人間界でゆったり過ごしたり旅行してた。一週間前に、この首都に帰ってきたんだよ」


「なるほどね……。魔界の情報に触れる機会がなかったのか? チェーザマリーはなんで?」

 シェルバ公爵が聞くとチェーザマリー公爵が答えた。


「俺も二カ月間、仕事で忙殺されてた。新作香水十種類販売キャンペーンとか開発でやばくてな。その間、ゴスメーデには一回しか来れなかったから、他の魔族とあんまり喋ってないんだよ。領地にも帰ってなかったし」


「香水……?」

 私が呟くと、チェーザマリー公爵は誇らしそうに笑った。


「俺は人間界では、調香師のチェーザマリー=アヴェランなんだ。サイモン化粧品店のトップ調香師さ」

「ええ!? サイモン!? 人間の女子の憧れブランドですわよね! アンもサイモンの化粧品が好きなんですよ」


――ところで、なんでチェーザマリー公爵は人間界で調香師をしてるんだろ?


 不思議に思ったときだった。シェルバ公爵が私の左隣の椅子を引いて言った。


「隣に座ってもいい?」

「ええ。もちろんですわ」

 

 私が頷くと、シェルバ公爵は明るく笑って椅子に腰掛けた。

 その瞬間、マスターがネルヴァー卿にワインを差し出した。


「お待たせしました」

「ありがとう。マスター」

 ネルヴァー卿は受け取ると、一口飲んだ。すると、シェルバ公爵が私に話かけた。


「マスターってば、タイミングバッチリだよね。俺らの会話が一段落するまで出さないで待ってたんだよ」

「一流の接客ですわね」


「……ありがとうございます」

 マスターは嬉しそうに笑った。


すると、シェルバ公爵がマスターにひらりと手を振った。

「マスター! ブラッドオレンジジュースちょうだい! あっ。飲み終わったら、次はマスカットジュースね」

「かしこまりました」


 マスターが微笑むと、ネルヴァー卿が吹き出した。

「ちょっと! シェルバってばまたジュース? せっかくだしノンアルコールのカクテルにしなよ」

「いやいや。ここのジュースは美味すぎる。やっぱり原液でしょ?」

「バーに来てる意味が分からん」


 ネルヴァー卿が腹を抱えると、ダータン伯爵とチェーザマリー公爵も楽しそうに笑い出した。


 マスターも、冷蔵庫を開けながら、肩が少し震えている。


――シェルバ公爵って、個性的かも。


「いや、来てる意味はある。ここは楽しいし。マスターが好きすぎる。初来店のときにファンになっちゃったんだよ」


 シェルバ公爵がそう言うと、マスターはグラスに氷を入れながらお礼を言った。

「ありがとうございます。シェルバ公爵にそう言って頂けるなんて光栄ですよ。なにせ、百七十年連続公爵ですからね」


「もー。公爵なんかじゃないって。俺は純粋な貴族公爵じゃないしー」

 シェルバ公爵が明るく笑ったので、私は驚いた。


「ええ!? シェルバ公爵は公爵ですわよ?」

 私がそう言うと、シェルバ公爵はクスリと笑った。


「え? もしかして、堕天精霊の国について詳しく知らない感じ? 俺が今から教えてあげるよ」

「え? ……ああ。ありがとうございます」


 私が頷くと、マスターがシェルバ公爵にブラッドオレンジジュースを差し出した。

「お待たせしました」

「ありがとう。マスター」

 シェルバ公爵は一口飲むと、語り出した。


◇◇◇

 元々、全ての精霊たちは人間界に住んでいた。


 しかし、良い精霊と悪い精霊が対立していた。 良い精霊は浄化の力や木々を成長させる力などが強い。一方で、悪い精霊は木々を枯らしたり、水害や噴火を起こす存在だった。


 両者の溝は深まり、ある日人間界で精霊戦争が勃発した。


 そして、悪い精霊たちは思ったのだ。

――争いはめんどくさい。そうだ! 魔界に移住しよう。そしたら人間界に住む良い精霊と争う必要、なくないか?


 このとき、魔界には誰も住まない不毛の広大な大地があった。


 悪い精霊たちは、精霊の力でその土地を開墾した。


 他の魔族たちは、誰も止めなかった。不毛の土地など不要だと思っていたからだ。


 結果、悪い精霊たちは広大な王国を手に入れた。


――やったぞ! 我々の国の誕生だ!


 以来、悪い精霊たちは魔界に定住した。そして、ときどき人間界に行っては水害などを起こして暮らした。


 悪い精霊は次第に魔族たちから、堕天精霊と呼ばれるようになった。

 悪い精霊の国は、堕天精霊の国と名付けられた。

 

◇◇◇

 建国当初、堕天精霊たちは思った。


――戦いは好きだが、戦争はめんどくさい。もし、王や貴族制度をつくったら、権力争いが起きるのでは?


 そこで彼らは、十年に一回、精霊大会を開催することにした。


 筆記試験、武闘、舞、交渉戦などを行い、全員で投票をするのだ。


 そして、選ばれた十人の精霊が全員公爵になり、十年間国家運営をすることになった。


 十年後に爵位は返上される。そして、新たな当選者十人に公爵位が付与される。


 さらに彼らは毎年国民投票を実施した。

 不信任票三割で、公爵位は失脚になる。


 つまり、王不在、十公爵制度が誕生した。


――やったぞ! 自由で実力主義の素晴らしい国が生まれた!

 


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