ep.20 伯爵と組んで、奇策で解決ですわ!
◇◇◇
「クレハ! 私ね、リコと結婚できるのよ! リコはとっても優しいの! 嬉しいわ!」
私がアンの寝室を訪れると、アンははしゃいでいた。
「アスカ伯爵とも婚約破棄できたし! 嬉しいわ!」
――よかったわね! アン! ふふん!
私は得意気になった。しかし、アンは急に顔を曇らせた。
「結婚式は三カ月後よ。結婚したら借金を返す約束だからね。シバ家は早く借金を返したいみたい。スピード結婚になったの」
――生々しい事情ね。
「でもね、それは別にいいの。それより、クレハとお別れすることが悲しいわ……。私がシバ家に嫁いだら、離れ離れになっちゃうもの……」
私ははっとした。
――そうじゃん! アンがいなくなったら、見栄っ張りの男爵夫妻と生意気なタンしかこの屋敷には残らないわ……!
「私、クレハと離れたくないな……。でも、あなたを連れていきたいなんて言ったら、家族に大反対されるわ……。お母様とお父様はあなたを他の貴族に見せびらかす気満々なんだもの」
――私が認めた飼い主はアンだけよ! ……でも、精神干渉魔法で私をアンに譲らせるのは無理だわ。男爵夫妻は嫌がるだろうし、そこまでの精神干渉はできないし……。アンについていってシバ邸で暮らしたいけど、どうしよう?
◇◇◇
「というわけで、困ってます。大伯父様に相談したら、『スノーレディ男爵家なんて出ていけ。もっと品のある家に行け。私が一から記憶を改変してやるから』って言われました。大伯父様、ずれてます。だから一旦、この問題は保留にしてもらいました」
私がため息をつくと、マスターが優しく微笑んだ。
「つまり、精神干渉でアンにクレハを譲るように、男爵夫妻を誘導すればいいんですね。それくらいなら、私が手を貸しますよ。私は超上位悪魔なので、人間への多少の干渉は朝飯前です」
「ええ!? いいんですか?」
私が驚くと、マスターは頷いた。チェーザマリー公爵とダータン伯爵とネルヴァー卿も口々に賛成した。
「それはいい。これで全部解決だな」
「シバ家で暮らせば、ユリジェンヌ侯爵の『もっと品のある家に行け』問題も解決じゃないか」
「そうだよ。マスターはユリジェンヌ侯爵令嬢の面倒を見るように頼まれてるんだし。適任だね」
「ありがとうございます! 感謝してもしきれな……」
言いかけて、私ははっとした。
「あっ! 解決方法分かりました! ちょっとだけ魔法が必要ですけど……」
「ええ!?」
全員の声がぴたりと重なった。
「えっと……。若干回りくどいやり方ですけど、こっちの方が面白いかも! ただし、ダータン=ファル=ショウ伯爵の協力が必要です!」
「は? 俺? しかも、魔界のダータン=デ=アーチャーじゃなくて、人間のダータン=ファル=ショウ伯爵として協力するのか?」
ダータン伯爵は怪訝な顔をした。
「はい! そうです! それに、皇帝の代筆官のダータン=ファル=ショウ伯爵が結婚祝いを述べてくだされば、アンの結婚に箔もつきますわ!」
私は笑顔で頷いた。
◇◇◇
「はい! そうです! それに、皇帝の代筆官のダータン=ファル=ショウ伯爵が結婚祝いを述べてくだされば、アンの結婚に箔もつきますわ!」
――俺が協力すんのか?
「お願いです! 今度、スノーレディ男爵家が主催する、ペット同伴可の仮面舞踏会に来て頂きたいんです。招待状がなくても、事前に連絡すれば参加可能ですから。それで、私がシナリオを作るので、これから言うセリフを男爵家の皆さんに言ってくださいませんか?」
――シナリオ?
「それと、アンには精神干渉で、私のつくったセリフを一言だけ言わせてください。もちろん、お礼はします。虹色の炎を贈らせてください」
――超名門のユリジェンヌ侯爵令嬢に親切にしといて損はない。彼女は権力者たちに可愛がられてるし。それに、色炎には興味がある。……けど、ちょっと困らせてみようかな。
「どうしようかな? 俺は炎を飾る趣味はないんだ」
俺が首を少し傾げると、ユリジェンヌ侯爵令嬢は俺から視線を外し、マスターに聞いた。
「私、ダータン伯爵にお願いを聞いてもらいたいんです。どうしたら聞いてもらえますか? どんなお礼ならいいんでしょう? マスターならご存じでしょう? どうか教えてください」
――なんだその戦略!?
マスターは俺に微笑んだ。
「どうか聞いてあげてください。私からのお願いです」
――まじか。マスターは元宰相でゴスメーデ公爵家の後継者で、魔王様の第十四夫だ。アルフィス=デ=ゴスメーデの頼みなら断れないな。
俺は感心して、自然と口角が上がった。
「わかったよ。作戦に協力しよう」
――結局協力するなら、せっかくだし色炎が欲しかったな。
ユリジェンヌ侯爵令嬢は俺に笑顔を向けた。
「ありがとうございます。もしよければですけど、銀色の炎だけでも貰ってください」
「ありがとう。せっかくだし頂くよ」
――この令嬢、配慮が上手いな。
ユリジェンヌ侯爵令嬢は嬉しそうに笑い、マスターに言った。
「マスター。ありがとうございます。今度、炎玉をもってきますね。人間出禁の営業日に、店のランプで使ってください。銀色と虹色、どちらが良いですか?」
「虹色ですね。店に飾ったら、虹色の輝きが落ちて綺麗でしょうから」
マスターは嬉しそうに笑った。
ユリジェンヌ侯爵令嬢は微笑むと、ポシェットから丸薬がいくつか入った袋を取り出した。
「それはなんだ?」
チェーザマリー公爵が聞くと、ユリジェンヌ侯爵令嬢が袋を開けながら答えた。
「お祖母様から念の為渡されました。私は酒に強いですが、酔わないようにする薬です」
「その丸薬はなんでそんなに小さいんだ? 小指の先くらいしかないぞ?」
チェーザマリー公爵は不思議そうな顔をした。
「特注だからです。私、錠剤飲めないんですよ。粉薬しか飲めません。だから錠剤を飲む練習で、超ミニサイズです」
――まじかよ。なんか可愛いな。それとも、あえてギャップを狙ってんのか? いや……んなわけないか。
「それで? ユリジェンヌ侯爵令嬢の作戦ってのはなんだ?」
「気になるー! ダータン=ファル=ショウ伯爵は帝国だと伯爵家序列三位だよ! 最強だよ!」
チェーザマリー公爵とネルヴァー卿が身を乗り出して聞いた瞬間、マスターが水が入ったコップをユリジェンヌ侯爵令嬢に差し出した。
「どうぞ。お水です」
「ありがとうございます。マスター。……飲み終わったらお話しますね」
ユリジェンヌ侯爵令嬢は、丸薬を飲み干すと語り出した。




