ep.14 逃亡先でデザイナーになって成功します
マオ師匠は僕を徹底教育した。
出勤時間は、八時から十八時。
初めは客人へのお茶出しや掃除をさせられた。
七歳の僕がお茶を出すと、来店した貴婦人たちは驚き、僕を褒めてくれて色々話しかけてくれた。
「婦人はどうしてレディマオのドレスが好きなんですか?」
「フリルが大好きだからよ。レディマオのふんわりしたシルエットが好きなのよね」
「どうしてフリルが好きなんですか?」
お客さんと話す時間は、僕にとって興味深かった。
僕が話好きの客につかまっても、長時間話していてもマオ師匠は咎めなかった。
「客とのコミュニケーションは大切だ。今から練習しとけよ」
そう言ってくれた。
八歳になると、本格的な裁縫の勉強がスタートした。ミシンや手縫いの仕方を学び、裁縫魔法についても教わった。慣れてきたら、刺繍などの勉強も始まった。
十二歳になったとき、僕は初めてデザイナーコンテストに応募した。
残念ながら、受賞はできなかった。けれど、最終選考には残った。
「この悔しさをバネに、来年は受賞しろ」
「はい! 師匠!」
僕はより一層、勉強に打ち込んだ。
そして、僕は十三歳になった。このとき初めて、 デザイナーコンテストにいくつか入賞したのだ。
「やったあ! ついにやったぞ!」
僕は飛び上がらんばかりに喜んだ。
僕は五つのコンテストに応募していた。
一つ目は、グリフィンの国ロングドレスコンテスト。僕はこのコンテストで佳作を受賞。二つ目は、新人の登竜門と呼ばれている魔界デザイナーズフェスティバル。ここで、三等賞を受賞。三つ目は、グリフィンの国ロマンチックコンテスト。ドレス部門で特選を受賞した。
両親もミマサク夫妻も喜んでくれた。
師匠も僕を褒めてくれた。
「五年間よく頑張ったな。これからは、デザイナーとしてこの店で働け。客から注文を受けて、オーダーメイドのドレスを作ってみろ」
僕はマオドレス店で、デザイナーとして働き始めた。
初めは慣れないことも多くて大変だったが、徐々に慣れていった。そして、少しずつ人気も出てきた。
僕は四年で、店で二番人気のデザイナーになった。
四年の間に、いくつかのコンテストで賞も受賞した。
僕は気づいたら、十七歳になっていた。
ある日、僕は師匠に呼び出された。
◇◇◇
「セバスのデザイナーが二人、高齢になって辞めたらしい。お前、セバスで勤めてみないか? ほら。最近、魔界デザイナー大会春期で、ドレス二着が二等賞と特選をそれぞれ受賞しただろ? セバスの店長が、お前の特選ドレスのデザインを気に入ったらしい」
「ええー!? セバス!?」
僕は人生で一番、大きな声を出した。
セバスは、悪魔の国にあるオーダーメイドドレス店だ。魔界一と言っていいほどの人気店で、予約が困難なことでも有名な超一流店だ。
「そうだ。このチャンスを逃がすな。行ってこい、ネルヴァー」
足が震えた僕の背中を、マオ師匠は押してくれた。
僕は悪魔の国に帰国することになった。
ミマサク伯爵夫妻は、別れを惜しんでくれた。
僕は気づいたら、十年もの月日をミマサク邸で過ごしていたのだから。
別れ際、僕は自分でデザインして作ったドレスとネクタイを伯爵夫妻に贈った。二人は感動して泣いていた。
◇◇◇
帰国して一年は、仕事だけに打ち込んでいた。
僕は持ち前の社交力とデザインで、あっという間に人気デザイナーの一人になった。
◇◇◇
一年が経ち、僕は十八歳になった。
ある日、母に言われた。
「久しぶりに、社交界に行ったら?」
――確かに。毎日仕事しかしてなかったもんな。セバスにはそろそろ慣れてきたし、パーティーに行くか。
悪魔の国の社交界は、七歳のとき以来だ。
会場に入場すると、僕はレディたちに囲まれた。
「あの! ハエディスト家のネルヴァー卿ですよね!」
「私、セバスのドレスが大好きなんです」
「年末王城パーティーのドレスを仕立ててもらいたいんですけど!」
「ネルヴァー卿って、美形ですね……。こんなにかっこいい男性は見たことありません!」
僕はデザイナー業界で女性たちと日々関わり、レディの扱いは完璧だった。さらに、母親譲りの美貌をもっていた。加えて、名門出身の人気デザイナーなので、パーティーで女性たちから大人気だった。
レディたちと歓談した後、僕は一息つくためにバルコニーに出た。
――ちょっと疲れたな……。
風を浴びてリフレッシュしていたときだった。
「一杯どうだ?」
背後で、男性の声が聞こえた。
振り返ると、右手にワインを、左手にオレンジジュースをもった男性が、ジュースのグラスを僕に差し出した。
彼を見た途端、僕は笑顔になった。
「ダータン伯爵! 久しぶり!」
僕がはしゃいだ声をあげてグラスを受け取ると、ダータン伯爵はふっと笑った。
「なかなかやるな。若くして大成功じゃないか。セバスの人気デザイナーなんだって? セバスは魔界中から注文が来るレディたちの憧れだ。あのときお前を紹介しまくった価値があったよ」
僕は思わず笑ってしまった。
「見返り要求すんのかよ。だれか僕のドレスを着たいレディが知り合いにいるの? それとも恋人? 予約、優先してあげるよ。そのかわり、悪魔の社交界に馴染めるように力添えよろしく!」
◇◇◇
ダータン伯爵の職業は代筆官だ。彼の生家のアーチャー家は麗筆でその名を轟かせ、代々魔王様の代筆官をしているのだ。
そんな名門伯爵のダータンは不思議な男だった。
週三日は悪魔の魔王様に仕え、週三日は人間の皇帝に仕えているのだ。人間界では、もちろん、悪魔だということは内緒だ。
ダータン伯爵にとって、週一日の休暇は至福の時間らしい。その日に、社交や趣味を嗜んでいるそうだ。
「ダータン伯爵の趣味って何?」
「読書と書道だな。休日は代々の当主の作品の模写をしたりするよ」
――いや、休日も書いてるんかい。人間界でも魔界でも君主の代筆官なのに? どんだけ書くの?
ダータン伯爵は悪魔の公爵家と侯爵家の代筆もしている。だから、人脈が豊かだった。彼は社交の場で、僕を公爵家と侯爵家の悪魔に引き合わせてくれた。
ダータン伯爵の力添えもあり、僕はすぐに悪魔の社交界の上位層になじんだ。
お礼に、ダータン伯爵が親しくしている公爵家と侯爵家の女性には、ドレスの予約を優先して取った。割引や、カウンセリング時間の延長もした。
僕たちは、ウィンウィンの関係だった。次第に、僕は週一で、ダータン伯爵とつるむようになった。僕たちはとにかく気が合ったからだ。
僕らは気づいたら、お互いを呼び捨てで気安く呼び合う仲になっていた。彼の屋敷に遊びに行き、模写に没頭する姿や彼の書を眺めたことも何度かある。
友人がいて、社交界では人脈もでき、仕事も順調。そんな日々が流れ、僕は二十歳になった。
誕生日の三日後、事件が起こった。
◇◇◇
僕は、悪魔の魔王様に呼び出された。魔王様が、僕にドレスの注文をしたからだ。
緊張しながら謁見すると、魔王様は短く告げた。
「私に似合う色にしてくれ、今回はフリルが多めのドレスがいいな」
注文内容は、本当にそれだけだった。魔王様は細かく要望を伝えることもしなかった。僕はすぐに帰された。
――色々カウンセリングさせてもらえたらよかったのに……。いや、この注文は僕の裁量次第だ。絶対に成功させてやる!
僕の職人魂に火がついた。




