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貴族社会を奇策で殴る  作者: 水守 鳴
22章 末っ子マキュナは調香師で伯爵夫人
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ep.116 アヤナお姉さまの恋の陰謀

◇◇◇ 

「卒業おめでとうマキュナ。頑張ったな」


「ダータン伯爵! ありがとうございます!」


 卒業式が終わると、ダータン伯爵がチューリップの花束を持って迎えに来てくれた。


「今日まで頑張れたのは、ダータン伯爵のおかげです!」


「そんなことないよ。マキュナが頑張ったからさ」


 嬉しさのあまり抱きつくと、ダータン伯爵は優しく抱きしめ返してくれた。


 マインも見送りに来てくれた。


「卒業おめでとう! これ、私が自由課題で作った石鹸よ。良かったら使ってね」


 そう言って、袋いっぱいの石鹸をプレゼントしてくれた。


 マインは物作り科に進学していた。通常なら今年で卒業だが、あと三年は学校に残り、今度は香料専門科に進学するそうだ。


「マイン! 頑張ってね! 今日までありがとう!」


――魔界に帰ったら、皆は私のことを忘れちゃうんだ……。マインの中からも私は消えるんだ……。


 寂しくなったが、私はマインに笑顔を向けた。


 そして、石鹸の袋を握りしめた。


――絶対に、一つは使わないで残して永久保存しよう!


 後にその石鹸は、お金では買えない私の大切な宝ものになる。


◇◇◇ 

 魔界に戻ると、私は香水ブランドフクシェルの調香師になった。


――よし! 素敵な香水を沢山作るぞー!


 やる気がある私を、先輩調香師は熱心に指導してくれた。


 魔法を使った香水の作り方から珍しい植物のブレンドまで、色々と丁寧に教えてくれたのだ。


 フクシェルは父のブランドで、私は公爵令嬢だ。けれど、フクシェルの調香師たちは誰も私を特別扱いしなかった。まだ幼いのに、子ども扱いされることもなかった。


 充実した日々を過ごしていたが、すぐに心にガタがきた。


――ダータン伯爵に会いたい!


 原因はそれだった。


 毎日彼に会い、学校での出来事をつまびらかに報告する内に、そんな日常が当たり前になってしまっていた。


 彼の笑顔を見て、今日あったことを報告したかった。


 けれど、ダータン伯爵は週三日は人間界で皇帝に、週三日は魔界で悪魔の魔王様に仕える方だ。


 ヴァンパイアの国から悪魔の国までは魔道で二十時間かかる。


 会いたいからと言ってすぐに会えるわけでもない。


――研修期間が終わったら、会いたいって手紙を出そう! それをモチベーションに頑張るぞ!


 心に決めると、さらに熱心に研修に打ち込むようになった。


 しかし覚えることが多かったので、研修時間は予定より長びいた。気づいたら十二月になっていた。


 その間、ダータン伯爵も私も忙しかったので、一度も会えなかった。


 けれど、私の誕生日の十一月一日にはダータン伯爵から誕生日プレゼントが届いた。四つ葉のクローバーの模様のひざ掛けだった。


 大きめのひざ掛けだったので、私はそれを毛布代わりにして、毎晩眠った。


 ようやく研修期間が終わると、ダータン伯爵に手紙を書いた。


 返事はすぐに来た。ダータン伯爵も久しぶりに会いたいと言ってくれたのだ。


◇◇◇ 

「ダータン伯爵! 会いたかったです!」


 再会するなり、私はダータン伯爵に抱きついた。彼は笑って受け止めてくれた。


「俺も会いたかったよ。学生時代は毎日会ってたのにな」


 ダータン伯爵は、ヴァンパイアの国までわざわざ来てくれたのだ。


 私たちはレストランで食事を楽しんだ後、美術館を三つも巡った。


 けれど、楽しい時間はあっという間だった。すぐに、ダータン伯爵が帰国する時間になった。


「じゃあね、マキュナ。香水作り、頑張って。マキュナならきっと良い香水が作れるよ」


 そう言って、ダータン伯爵は馬車に乗り込もうとした。


――行かないで!


 広い背中に抱きつきたくなった。でも、できなかった。


 再会したときは彼に抱きついたのに、なんだか恥ずかしくなってしまった。


 その瞬間、気づいてしまったのだ。


――ああ! 私、ダータン伯爵が好きなんだ!

 

◇◇◇ 

――人気調香師になって、私が作った香水をプレゼントして告白しよう!


 私は決心した。そして、商品開発に打ちこんだ。


――もしダータン伯爵が恋人になったら、こんな香りを嗅いでもらいたいな……。


 彼のことを思い浮かべるだけで、調香技術に磨きがかかった。


 得意のフルーティー系香水の研究に打ち込み、ターゲットをデートする女性に絞った。


 私は社交界にも頻繁に行くようになった。レディたちに試供品を試してもらい、その場で感想を聞くことができるからだ。


 フクシェルが有名ブランドなのと、私が公爵令嬢だったこともあり、皆が快くモニターになってくれた。


 この香りは好き。これは嫌い。こういうときにつけたい。もっとこうして欲しい。


 そういったフィードバックが、私の成長を後押ししてくれた。


 私は急速に調香の腕を上げた。


 十六歳になったときに、ついに私はヒット商品を生み出した。


 甘酸っぱくて新鮮な苺の香りをメインにした香水、ラブベリーシリーズが大ヒットしたのだ。


 自信をつけた私は、ウッディ系やグリーン系の香水の研究にも打ち込むようになった。


 他の調香師仲間とも協力して商品開発をするのが、楽しくて仕方なかった。


 時が経ち、私は十九歳になった。


◇◇◇ 

「悪魔国の王城パーティーの招待状?」


「そうよ。一緒に行きましょうよ。ダータン伯爵も来るんですって。二人、仲良しでしょ?」


 マキュナはぱっと笑顔になった。


「行く! 行きたい! アヤナお姉さま、一緒に行こう!」


――分かりやす……。


 純粋な妹は気づかないだろう。


 私が主催者に頼んで、わざわざ招待状を二枚にしてもらったことに。


「で、いつ告白するの?」


 私がストレートに聞くと、マキュナは飲んでいた紅茶を吹き出した。


「ええ!? なんで分かったの!?」


「逆になんで分からないと思うのよ。三カ月に一回、デートしてるじゃない? その日はうきうきで帰ってきてるわよ。ていうか、彼のこと話すときの顔で一発よ」


「デートじゃないもん! 一緒にご飯食べて、観光してるだけだもん!」


「ふーん。ダータン伯爵はわざわざ二十時間かけて、ヴァンパイアの国までマキュナに会いに来てくれるのに? 毎年誕生日プレゼントもくれるのに?」


 マキュナは真っ赤になった。


「告白……はまだ先かな……。もっと素敵な香水を作ってから、彼にプレゼントするの。そのときに言う」


「何悠長なこと言ってんのよ。権力者たちに重用される序列一位の書聖伯爵よ? 超美形だし、あいつがどれだけモテるか知らないわけ? さっさと告白しなさいよ」


「ダータン伯爵、モテるの?」


 マキュナの顔が、急に不安でいっぱいになった。


「そうよ。でも、結婚する気ゼロらしいわよ。爵位目当ての女がうざくて、パーティーだと既婚女性としかダンスしないんだって。未婚令嬢はけんもほろろよ。あなた、特別枠よ」


「……だって、小さいときから可愛がってくれてたし。でも、全然女性として見られてない気がする」


――そんなこと、ないと思う。


 マキュナを家まで送ってくれたときのダータン伯爵の目は、好きな女を見る目だった。


――ダータン伯爵は、家格を気にしてるのかしら? 


なら、自分から告白を遠慮するのも自然ね。 それなら、マキュナから言い出さなきゃ関係は進展しないわよ。


 可愛い妹の結婚相手にふさわしいか調べるために、私はダータン伯爵の情報を集めた。


 結果は合格。そもそも、マキュナの恋なら応援してあげたい。


――パーティーで、一芝居打ってやりますか。



◇◇◇ 

 会場に入ると、貴族たちが一斉に私たちを見た。


「見て。ワルシャワ家のご令嬢方よ」


「美しいわね……」


「竜王家の姻戚だぞ。三女のルージュナ公爵令嬢と第三王子様が結婚なさるからな」


 ひそひそ声が聞こえてきたが、私は特に気にしないで辺りをきょろきょろ見回した。


――ダータン伯爵、いるかな?


 すると、アヤナお姉さまが私の手を引いた。


「まずはこの会場で上位の有力貴族たちに挨拶よ。私が紹介してあげるから付いてきなさい」


――アヤナお姉さま、頼もしすぎ! でも、早く終わらせてダータン伯爵と話したい!


◇◇◇ 

「わざわざ人間界で五年も学ばれてたのですか。 その経験も、ラブベリーシリーズの開発に活きているんでしょうね!」


「ありがとうございます……」


――話、長いな。早く終わらせたい……。


 ある程度挨拶回りを終えた私とアヤナお姉さまは、二人の男性とお喋りしていた。


 一人は悪魔の魔王様の第一夫で宰相のザクロ公爵。もう一人は第三夫で魔王様の書記官のスカーポリー侯爵だ。


――お姉さま、人脈、えぐいって……。


 先ほどから、超大物たちと立て続けに話している。そろそろ緊張で疲れてきた。


「ところでマキュナ……」


 お姉さまが言いかけたときだった。


「あれ? マキュナ公爵令嬢じゃないか? 久しぶりだね」


 背後から美しい声が聞こえ、私は振り返った。


 そこにいたのは赤銅色の髪と、銀色の瞳を持つ美男だった。


――なんか、見覚えのある男性だな……。誰だろ?


 私は急にはっとした。


「あなたは、グリフィンの国のハノン=オン=カノン公爵!? お久しぶりです!」


「ああ。月日が流れるのは早いね。あのとき君は七歳だったっけ?」


 ハノン公爵が微笑むと、スカーポリー侯爵が驚いた顔で私に聞いた。


「ハノン公爵と知り合いなのかい?」


 ザクロ公爵も興味深そうに目を細めた。


「ハノンから話しかけるなんて。珍しいこともあるものだな」


「えっと……。私とハノン公爵はバー・ゴスメーデで会ったんです。そのときにジュースを奢ってもらいました」


「そうなんだよ。今君はいくつだい?」


「十九です」


「十二年前か。感慨深いな。よかったら、あっちのソファで俺と少し話さないか?」


 ハノン公爵は静かに微笑んだ。

 お断りする理由もないので、私は頷いた。


「まあ。良かったじゃない、マキュナ。お話してきなさい」


 アヤナお姉さまは軽く私の肩を叩いた。



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