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貴族社会を奇策で殴る  作者: 水守 鳴
21章 次女、エンナは"騎士"で"社交界のスター"で"王妃"
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ep.110 面倒な皇太子をノックアウト

◇◇◇ 

「……エンナ卿からの快諾のお返事? おめでとう! 兄上!」


 俺は心の中で拍手した。


 エンナ卿に返事を保留されてから、兄上はずっと苛立っていた。常に笑顔だったが、俺には兄の不機嫌がすぐに分かった。


 次期竜王の機嫌は、俺の身の安全に直結する問題だ。


――これで、兄上の不機嫌とはおさらばだ!


 先ほど、ワルシャワ公爵家から連絡鳩が飛んできて、嘴に咥えていた手紙を兄上に渡した。


 内容を確認した兄上――皇太子は、歓喜の笑みを浮かべた。


「手紙にはなんて書いてあったんですか?」


「アメシストも読んでみろ」


 兄上は上機嫌で俺に手紙を渡した。


~皇太子ルビー=オン=デ=ファル=ブラック様~


 先日は告白してくださり、ありがとうございます。


 皇太子様のあまりにも真剣な眼差しを見て、私もあなたと真剣交際をしたくなりました。


 家同士の話などは、機会を設けてじっくり話し合いましょう。


――まじ? たった三行?


 俺はちらりと兄上を見た。兄上は幸せそうに笑っている。


――まあ……。兄上が良いならいいか。


 手紙を返すと、兄上の顔つきが急に変わった。


「エンナ卿は私に気がないみたいだ。皇太子妃の座が欲しくなって承諾したようだな」


「……やっぱりそう思います? 甘い雰囲気ゼロですもんね」


「だが、別に良いよ」


「は!? 良いの!?」


「交際して、結婚したら私の女だ。まずは手に入れる。時間をかけて惚れてもらえば良いだけだ」


――まじかよ!?


「エンナ卿はレディに大人気だ。強い女性ネットワークを持っている。王妃に向いている。それに、私は元々外国人と結婚したかったんだ」


「今までは、ジュエルドラゴン同士でしか結婚できなかったから、国内貴族としか結婚できませんでしたもんね」


「そうだ。だがこれからは、外国人と結婚するジュエルドラゴンが勝つ。外国の新しいコネやパワーが入ってくるからな」


「だから、エンナ卿にされたので?」


「いや。彼女がジュエルドラゴンでも求婚したよ。魅力的すぎるからな」


 兄上はうっとりした顔をした。完全に、恋する男の目をしている。


――俺もルージュナのこと考えるとき、ああいう顔してんのかな?


「それに、王子妃と皇太子妃が仲良し姉妹だなんて最高だ。もし仲が悪ければ、面倒事が増えるからな」


――兄上、現実的だな……。


「まずは贈り物でもするか。何が良いと思う?」


「ルージュナに聞いたんですが。エンナ卿はぶどうが好きだそうです。レッドドラゴンマスカットはいかがですか?」


「ありがと、アメシスト。そうするよ。変なものを贈って嫌われたくないからな」 


「もし……嫌われたらどうします?」


 兄上は可笑しそうに笑った。


「私を嫌いになっても、皇太子妃の位を嫌いにはならないだろ? 側にいてくれれば良いよ。その内挽回するから」


――そっか。自信満々だな。エンナ卿、頑張れ。


 兄は皇太子の座を獲得しただけあって、粘着質だ。


 俺ならこんな男と絶対に付き合いたくない。腹黒いし、めんどくさそうだ。


――エンナ卿、交際中に嫌にならないかな? 大丈夫か? ナルシストな男は止めとけって教えてやりたいくらいだ。


 だが、兄の決定に余計な口出しをするわけにはいかない。兄上がその気になれば、俺は紙くずのように吹き飛ぶだろう。


――妻も迎えるし、身の振り方にはこれからより一層気をつけなくては。


 ひとまず、兄上とエンナ卿の今後を見守ろう。


 俺はそう決心した。


◇◇◇ 

「それでね、ルビーってば、めんどくさいのよ。私が他の男と仲良く話すと嫌なんだって。余裕がない男は嫌いよ」


「……皇太子様にそんなこという女は、エンナしかいないわよ」


 私は呆れてため息をついた。他の女が聞いたらどれだけ羨ましがることか。


 いや、エンナはレディたちのスターだ。これぐらいの発言なら、かっこいいで終わるかもしれない。


「ルビーって、スキンシップ大好きなんだよね。接触で親密さが上がると思ってるみたい」


「それで? スキンシップもめんどくさいの?」


 エンナは驚いた顔をした。


「正解! アヤナ! 凄いね!」


「あなた、恋愛向いてないんじゃない?」


「私もそう思うよ。全くときめかない。私がときめくのは皇太子妃の位だけだ」


「はい、エンナ、最低ー」


「アヤナが言うか? アヤナも地位と権力で相手を選ぶ気満々だろ?」


「大正解。私に気がある男性の中から、一番良い男を選ぶわ。結婚なんて高みに昇るための手段よ」


「だがな、好きな男と結婚したらどうだ? アヤナはもう、公爵確定だろ?」


 私はにっこりと笑った。


「うん。私に譲ってくれてありがとう」


「お安い御用さ」


 エンナに「公爵位は継がない」と言われたときは驚いた。だが、理由を聞いて納得した。


 妹が王妃になると知り、少し嫉妬もしたが、嬉しくなった。


 エンナには至高の地位がお似合いだ。妹には優しいところも柔軟なところもある。努力家だし、王妃に向いているだろう。


「来年の春に結婚でしょ? そしたら私は皇太子妃の姉か。なかなか良い肩書ね。多いに利用させてもらうわよ」


 私がにやりと笑うと、エンナは吹き出した。


「アヤナなら特権を乱用しないだろ。力になれることがあったら何でも言ってくれよ」


「頼もしいわ。一緒にワルシャワ家を魔界最強にしましょ。そのためにも、皇太子様とは仲良くしてもらわなくちゃね」


「男は何されると嬉しいんだ? モテモテで男友達の多いアヤナなら知ってるだろ?」


「男は頼られるのと立てられるのが大好きよ。例えば、重い書類の束があるとき、持つのを手伝って欲しいって頼むの。喜ばれるわよ?」


「ハハハッ。私には使えないテクニックだな」


「なら、公の場で、さらっと皇太子様を褒めるとか」


「困ったな。レディたちは私に黄色い声を上げる。皇太子より私が人気だぞ? その状況で褒めんのか?」


「うーん。状況にもよるけど、こうこうこういうところを尊敬していますとか、チャンスがあれば皆の前でさらっと言うのよ」


「ほう?」


「一応ね、形式上は国王の方が王妃より上よ。王妃は夫を立てなくてはいけないわ」


「分かったよ。やってみる」


◇◇◇ 

「あの……皇太子様との馴れ初めを聞かせてください!」


 ドラゴンの王妃様主催の王城パーティーで、私はドラゴン貴族のレディたちに詰め寄られた。


――まじか。馴れ初めなんてない。それっぽく事実を捏造しよう。


 私は少し離れたところにいる皇太子――ルビーをちらりと見た。 


――あいつ、こっちに聞き耳立ててんな。


 皇太子はワイングラスを右手に持ちながら、外国の貴賓たちと談笑している。だが、馴れ初めの一言に意識がこちらに傾いてしまったらしい。


――よし! アヤナのアドバイスを実践だ!


「皇太子は、私の剣と剣舞の腕前と笑顔を見初めてくださったようだ」


「分かりますわ! エンナ卿の笑顔は爽やかで素敵ですもの!」


「ありがとう。でも、君の笑顔は愛らしくてとても素敵だよ」


「キャー!」


 私が甘く微笑むと、レディたちが騒ぎ出した。


「私は皇太子の、先見の明を尊敬している。臣下は君主を映す鏡だというけどね。ルビーを見てるとその言葉の意味が分かるよ」


「ラブラブですわね!」


 レディたちがキャッキャとはしゃいでいると、皇太子がこちらに来た。


「ありがとう。嬉しいことを言ってくれるね!」


――アヤナありがとう! 大成功だよ!


 内心でガッツポーズを決めたときだ。皇太子の唇の端に、赤ワインがほんのり残っていることに気づいた。


――とってやるか。 


「ルビー。ちょっとワインがついてるぞ」


 私は右手を皇太子の顎に添え、左手の人差し指でそっとワインを拭った。


 皇太子は軽く目を見開いた。


 その瞬間、レディたちが黄色い声を上げた。


 私は人差し指を軽く舐めた。レディたちの唇に生クリームがついていたときにこれをやったら喜ばれたことがあるからだ。


「またついてたらとってやるけどな。気をつけろ」


 私が皇太子に微笑むと、レディたちの歓声は最高潮に達した。


 皇太子は少しだけ頬を赤くした。



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