ep.108 女騎士は、皇太子と剣でバトルをする
◇◇◇
「ってことは……。エンナお姉さまってば、今日もファンを沸かせてたのね! 相変わらずイケメンね!」
「当たり前だろ、ルージュナ。私よりイケメンな男を見たことないよ。ギョクリンとひいおじいさまくらいだな」
「もー! 三人が並んだらレディが卒倒するから禁止よ! 三人とも顔がそっくりなんだから! でも、エンナお姉さまがやっぱり一番イケメンかも!」
「なんでだ?」
私が機嫌よく笑うと、ルージュナはため息をついた。
「ギョクリンは身長百八十五、ひいじいさまは百八十六。百九十超えのお姉さまの圧勝よ。同性だから、いくらでもレディにファンサービスできるわ。未婚のレディに男が顎クイやったら問題よ?」
「まじで、性別が女でよかったよ」
私は笑い声を上げると、キッシュを一口つまんだ。ルージュナは紅茶を一口飲んだ。
ワルシャワの王都別邸に帰宅すると、ルージュナが帰国していて、お茶の席を用意してくれていた。
ルージュナはもうすぐドラゴンの第三王子の王子妃になる予定だ。
彼女の女優としてのキャリアは輝かしく、ドラゴン国民から絶大な人気を誇っている。
初めて妹の舞台を見に行ったときは感心したものだ。そこには、ルージュナではなくユリアがいた。
貴族らしくないこの妹を、私は尊敬していた。
「それで、第三王子様とは楽しく過ごしてるか? 惚れたポイントは何だ?」
「楽しく過ごしてるわ! ポイントは、優しいところかな。私のことを凄く気遣ってくれるのよ! それに、イケメンなの!」
「ハハハッ。やっぱりお前は面食いなのか」
「社交場でも、リードしてくれるのよ」
「社交か。そういえばルージュナは、全然社交界に出てないな。もし社交界で誰かに嫌なことを言われたら私に言え。私のファンのレディたちを使って、そいつを孤立させてやる」
「エンナお姉さま、頼もしすぎ!」
ルージュナは尊敬の眼差しで私を見つめた。
私はふと思い出した。
「……そういえば、ドラゴンの国の社交場にはここ一年行ってないな」
「そうなの?」
「ああ。他国のは行ったがな。それに、騎士団の昇級試験や剣舞の練習で忙しかった」
「エンナお姉さまってば、かっこよすぎ。ヴァンパイア王城剣舞大会六年連続一位よ。ヴァンパイア剣術大会は五年連続一位。何回優勝するの? もう肩書が反則よ?」
「ありがとう。アヤナに負けるわけにはいかないからな。私は公爵になりたいんだ」
「そっか! 頑張って! そうだ! 気晴らしで私とパーティーに行かない? 今日から四日間お休みでしょ?」
「なんのパーティーだ?」
「ジュエルドラゴン全員が集まる王城定期パーティーよ。王妃様は最近体調が悪いから欠席だけどね」
ジュエルドラゴンとは、宝石のようなジュエルアイを持つドラゴンだ。彼らは侯爵、公爵、竜王家のみに存在する。
つまり、ジュエルドラゴン全員が集まる王城定期パーティーとは、公侯爵家と王族全員が集まるパーティーだ。
最高の権力舞台だ。これは行くしかない。
「私が行っていいのか? 私はジュエルドラゴンじゃないぞ?」
「うん。アメシスト様から、家族を呼んで良いって言われたんだ。アヤナお姉さまとギョクリンお兄さまとマキュナは仕事だし。エンナお姉さまが来たら、レディが喜ぶもの」
――ルージュナ、ありがとう! 人脈を作らせてもらうよ!
「行く! 連れて行ってくれ!」
◇◇◇
私がパーティー会場に入ると、レディたちが歓声を上げた。
「見て! エンナ=ファル=ワルシャワ卿よ!」
「うわぁ……。イケメンだわ!」
レディたちが色めき立つと、先にペアで入場していたルージュナと第三王子が歩み寄って来た。
「エンナお姉さま! 来てくれてありがとう」
「お久しぶりですね。エンナ卿」
第三王子に礼をしようとすると、第三王子が手で制した。
「堅苦しいのは止めてくれ。もう少しで義姉ですからね」
「そうか。妹を泣かせたら、容赦しないよ」
「お姉さま! かっこいい!」
ルージュナがはしゃいだ声を上げると、第三王子がルージュナを抱き寄せた。
「泣かせたりしないよ。そんなことをしたら、父上にも義姉さまにも、誰にでも言いつけてくれ」
第三王子は愛おしそうにルージュナを見つめた。ルージュナは嬉しそうに笑った。
――こいつに妹を任せて大丈夫かな?
私はじっと第三王子の目を見つめた。
許容範囲ではあるが、支配欲と独占欲が強い男の目をしている。
――まあ、ルージュナが好きなら仕方ない。最悪、レディネットワークで守ればいいな。
そう思ったときだった。
会場の扉が開き、二人の男性が現れた。
ストロベリーブロンドに、ルビーのようなジュエルアイを持つ男性――皇太子と、ストロベリーブロンドの髪にダイヤのようなジュエルアイを持つ男性――竜王だ。
会場の全員が、二人に一斉に礼をした。
「ドラゴンの国の太陽と次期太陽にご挨拶いたします」
竜王は機嫌良さそうに笑った。
「楽にしなさい。今日は楽しんでくれ」
私たちが顔を上げると、竜王と皇太子は私たちの元へ真っ直ぐに歩いてきた。
「やあ。エンナ卿。来てくれて嬉しいよ。これからは竜王家とワルシャワ家は姻戚だし、気兼ねなく話してくれ」
「竜王様、光栄です」
私は騎士らしく、隙のない所作で一礼した。すると、皇太子がクスリと笑った。
「何かあったら、私にも遠慮なく言ってくれ」
「ありがとうございます」
私は一礼すると、まじまじと皇太子を見つめた。
――皇太子は、ドラゴンの国一番の剣の使い手と名高いな。いつか、対戦してみたいな。
「どうした? 私に何か言いたそうだね」
皇太子は柔らかく微笑んだ。私はぎくりとした。
――流石は権力の猛者。鋭いな。嘘をついたら一発でバレるな。……正直に言うか。
「皇太子様は剣聖と名高い方。もしよろしければ、いつか手合わせしてみたいです」
「なんだ。そんなことか。なら、今やるかい?」
――パーティー会場でバトル!? いいのか?
「会場も盛り上がるし……。義妹の姉の頼みだしね」
――まじか!? よし! 皇太子だろうが遠慮はなしだ。絶対に勝つ!
「手合わせ、お願いします!」
◇◇◇
テーブルやソファを使用人にどかしてもらい、広いスペースを作ると、私たちは向き合った。
「エンナ卿! 頑張って!」
「皇太子様! 頑張ってください!」
レディたちは私に、男性たちは皇太子に声援を送った。
第三王子とルージュナと竜王だけは、わくわくした顔で、黙ったまま私たちを見つめている。
どちらか一方を応援するのを避けているのだろう。
「女性人気が凄いね。各国にエンナレディファンクラブがあるって本当かい?」
皇太子は興味深そうに聞いてきた。私は冷ややかな笑みを浮かべた。
「料金を払うファンクラブはありません。しかし、ファンは大勢いますよ」
「そうか。噂通り大人気だね。試合で私がレディに応援されないなんて、初めての経験だよ」
皇太子は楽しそうに笑った。
――こいつ、超ナルシストだな。
考えてみれば当然か。皇太子という至高の地位。圧倒的な政治力。絵画から抜け出したかのような美貌。身長は百九十五センチ。モテない方がおかしい。
私は詠唱すると、魔力を右手に収束させた。
詠唱が完了すると、右手に氷の剣が現れた。
次に、皇太子が詠唱した。詠唱が完了すると、皇太子の右手には光の剣が現れた。
私たちが剣を構えると、会場はしんと静まり返った。
「では、はじめ!」




