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貴族社会を奇策で殴る  作者: 水守 鳴
21章 次女、エンナは"騎士"で"社交界のスター"で"王妃"
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ep.108 女騎士は、皇太子と剣でバトルをする

◇◇◇ 

「ってことは……。エンナお姉さまってば、今日もファンを沸かせてたのね! 相変わらずイケメンね!」


「当たり前だろ、ルージュナ。私よりイケメンな男を見たことないよ。ギョクリンとひいおじいさまくらいだな」


「もー! 三人が並んだらレディが卒倒するから禁止よ! 三人とも顔がそっくりなんだから! でも、エンナお姉さまがやっぱり一番イケメンかも!」


「なんでだ?」


 私が機嫌よく笑うと、ルージュナはため息をついた。


「ギョクリンは身長百八十五、ひいじいさまは百八十六。百九十超えのお姉さまの圧勝よ。同性だから、いくらでもレディにファンサービスできるわ。未婚のレディに男が顎クイやったら問題よ?」


「まじで、性別が女でよかったよ」


 私は笑い声を上げると、キッシュを一口つまんだ。ルージュナは紅茶を一口飲んだ。


 ワルシャワの王都別邸に帰宅すると、ルージュナが帰国していて、お茶の席を用意してくれていた。


 ルージュナはもうすぐドラゴンの第三王子の王子妃になる予定だ。  


 彼女の女優としてのキャリアは輝かしく、ドラゴン国民から絶大な人気を誇っている。


 初めて妹の舞台を見に行ったときは感心したものだ。そこには、ルージュナではなくユリアがいた。


 貴族らしくないこの妹を、私は尊敬していた。


「それで、第三王子様とは楽しく過ごしてるか? 惚れたポイントは何だ?」


「楽しく過ごしてるわ! ポイントは、優しいところかな。私のことを凄く気遣ってくれるのよ! それに、イケメンなの!」


「ハハハッ。やっぱりお前は面食いなのか」


「社交場でも、リードしてくれるのよ」


「社交か。そういえばルージュナは、全然社交界に出てないな。もし社交界で誰かに嫌なことを言われたら私に言え。私のファンのレディたちを使って、そいつを孤立させてやる」


「エンナお姉さま、頼もしすぎ!」


 ルージュナは尊敬の眼差しで私を見つめた。


 私はふと思い出した。


「……そういえば、ドラゴンの国の社交場にはここ一年行ってないな」


「そうなの?」


「ああ。他国のは行ったがな。それに、騎士団の昇級試験や剣舞の練習で忙しかった」


「エンナお姉さまってば、かっこよすぎ。ヴァンパイア王城剣舞大会六年連続一位よ。ヴァンパイア剣術大会は五年連続一位。何回優勝するの? もう肩書が反則よ?」


「ありがとう。アヤナに負けるわけにはいかないからな。私は公爵になりたいんだ」


「そっか! 頑張って! そうだ! 気晴らしで私とパーティーに行かない? 今日から四日間お休みでしょ?」


「なんのパーティーだ?」


「ジュエルドラゴン全員が集まる王城定期パーティーよ。王妃様は最近体調が悪いから欠席だけどね」 


 ジュエルドラゴンとは、宝石のようなジュエルアイを持つドラゴンだ。彼らは侯爵、公爵、竜王家のみに存在する。


 つまり、ジュエルドラゴン全員が集まる王城定期パーティーとは、公侯爵家と王族全員が集まるパーティーだ。


 最高の権力舞台だ。これは行くしかない。


「私が行っていいのか? 私はジュエルドラゴンじゃないぞ?」


「うん。アメシスト様から、家族を呼んで良いって言われたんだ。アヤナお姉さまとギョクリンお兄さまとマキュナは仕事だし。エンナお姉さまが来たら、レディが喜ぶもの」


――ルージュナ、ありがとう! 人脈を作らせてもらうよ!


「行く! 連れて行ってくれ!」


◇◇◇ 

 私がパーティー会場に入ると、レディたちが歓声を上げた。


「見て! エンナ=ファル=ワルシャワ卿よ!」

「うわぁ……。イケメンだわ!」


 レディたちが色めき立つと、先にペアで入場していたルージュナと第三王子が歩み寄って来た。


「エンナお姉さま! 来てくれてありがとう」

「お久しぶりですね。エンナ卿」


 第三王子に礼をしようとすると、第三王子が手で制した。


「堅苦しいのは止めてくれ。もう少しで義姉ですからね」


「そうか。妹を泣かせたら、容赦しないよ」


「お姉さま! かっこいい!」


 ルージュナがはしゃいだ声を上げると、第三王子がルージュナを抱き寄せた。


「泣かせたりしないよ。そんなことをしたら、父上にも義姉さまにも、誰にでも言いつけてくれ」


 第三王子は愛おしそうにルージュナを見つめた。ルージュナは嬉しそうに笑った。


――こいつに妹を任せて大丈夫かな?


 私はじっと第三王子の目を見つめた。


 許容範囲ではあるが、支配欲と独占欲が強い男の目をしている。


――まあ、ルージュナが好きなら仕方ない。最悪、レディネットワークで守ればいいな。


 そう思ったときだった。


 会場の扉が開き、二人の男性が現れた。


 ストロベリーブロンドに、ルビーのようなジュエルアイを持つ男性――皇太子と、ストロベリーブロンドの髪にダイヤのようなジュエルアイを持つ男性――竜王だ。


 会場の全員が、二人に一斉に礼をした。


「ドラゴンの国の太陽と次期太陽にご挨拶いたします」


 竜王は機嫌良さそうに笑った。


「楽にしなさい。今日は楽しんでくれ」


 私たちが顔を上げると、竜王と皇太子は私たちの元へ真っ直ぐに歩いてきた。


「やあ。エンナ卿。来てくれて嬉しいよ。これからは竜王家とワルシャワ家は姻戚だし、気兼ねなく話してくれ」


「竜王様、光栄です」


 私は騎士らしく、隙のない所作で一礼した。すると、皇太子がクスリと笑った。


「何かあったら、私にも遠慮なく言ってくれ」


「ありがとうございます」


 私は一礼すると、まじまじと皇太子を見つめた。


――皇太子は、ドラゴンの国一番の剣の使い手と名高いな。いつか、対戦してみたいな。


「どうした? 私に何か言いたそうだね」


 皇太子は柔らかく微笑んだ。私はぎくりとした。


――流石は権力の猛者。鋭いな。嘘をついたら一発でバレるな。……正直に言うか。


「皇太子様は剣聖と名高い方。もしよろしければ、いつか手合わせしてみたいです」


「なんだ。そんなことか。なら、今やるかい?」


――パーティー会場でバトル!? いいのか?


「会場も盛り上がるし……。義妹の姉の頼みだしね」


――まじか!? よし! 皇太子だろうが遠慮はなしだ。絶対に勝つ!


「手合わせ、お願いします!」


◇◇◇ 

 テーブルやソファを使用人にどかしてもらい、広いスペースを作ると、私たちは向き合った。


「エンナ卿! 頑張って!」

「皇太子様! 頑張ってください!」


 レディたちは私に、男性たちは皇太子に声援を送った。


 第三王子とルージュナと竜王だけは、わくわくした顔で、黙ったまま私たちを見つめている。


 どちらか一方を応援するのを避けているのだろう。


「女性人気が凄いね。各国にエンナレディファンクラブがあるって本当かい?」


 皇太子は興味深そうに聞いてきた。私は冷ややかな笑みを浮かべた。


「料金を払うファンクラブはありません。しかし、ファンは大勢いますよ」


「そうか。噂通り大人気だね。試合で私がレディに応援されないなんて、初めての経験だよ」


 皇太子は楽しそうに笑った。


――こいつ、超ナルシストだな。


 考えてみれば当然か。皇太子という至高の地位。圧倒的な政治力。絵画から抜け出したかのような美貌。身長は百九十五センチ。モテない方がおかしい。


 私は詠唱すると、魔力を右手に収束させた。


 詠唱が完了すると、右手に氷の剣が現れた。


 次に、皇太子が詠唱した。詠唱が完了すると、皇太子の右手には光の剣が現れた。


 私たちが剣を構えると、会場はしんと静まり返った。


「では、はじめ!」

 

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