ママ。
だめ! だめダメダメ!!
お願いキュア、彼を守って!!
おもてから訪ねるわけにもいかない、と、香嬪宮の裏手に回ってみた時だった。
キュアたちが騒いでいるのを感じ、心を研ぎ澄ましてみると――
いた!
いや、あったと言ったほうがいいか。
探していた龍玉の気配がした。
それも、そのそばには昼間の綠桜もいる。
危ないくらいに龍玉が活性化しているのを感じて。思わずキュアに助けを求めていた。
なんとか綠桜がこれ以上龍玉に近づかないように抑えてくれている?
でも、あの龍玉、もう龍玉なんかじゃなくなっている。
まるで卵だ。
壁が隔てた向こう側のはずなのに、ここまで脈動が響いてくる。
もちろん、真那の波動を感じる小凛だからこそではあったけれど、それでも、だ。
(どうしようどうしようどうしよう。このままじゃ……)
悩んでいても答えは出ない。
(表から訪ねる? ううん、そんなの怪しいって思われて入れてもらえないよ……)
月が少し傾いてきた。
あの龍玉も、この月に反応しているはず。
月が隠れて仕舞えばもう少し大人しくなるだろうか?
だめだ。そんなの、待ってられない。
(もう、強行突破、しかないかも……)
そう覚悟した、時。
「こい! 小凛!」
(え?)
振り向くとそこには。
大きなフクロウの脚につかまって、夜空から舞い降りてきた唯月。
ばさっとフクロウの大きな翼が広がり、目の前をおおう。
そのまま小凛は唯月の腕に体を任せた。
ブワッと体が浮く感触。そのまま香嬪宮の高い壁を超える。
「どうして……」
「お前のことだ。じっとなんかしてられないだろ?」
「もう、唯月ったら」
「そろそろ口をつぐめ。舌を噛むぞ」
唯月は空中でフクロウの脚を離す。
小凛をしっかりと抱きしめたまま、地上に落ちる。
トン!
「あれ?」
どしゃんと勢いよく落ちるかと思ったけれど……。
「風霊を呼んだ。風の膜を足下に張ったおかげだ。俺一人ならともかく、お前に怪我をさせるわけにいかないからな」
(風霊、アウラを呼んだんだ……)
龍の魔法、空を飛ぶ魔法、風の精霊アウラの権能を解放する方法だ。
唯月の真那は龍帝のようには強くはない。
でも。
「これくらいなら、俺でもできる。だから、頼れ? な」
「もう……」
小凛を抱きしめたままそういう唯月に。
どんな顔をしていいのか、わからなかった。
◆◇◆
「何?」
「奥が騒がしいわ」
「どうしたのでしょう」
唯月の落下音は流石に宮殿のどこにいても聞こえるほどだった。
落ちたときの音、というよりも、フクロウのフェイの風切音が激しかったせいだろう。
ざわざわと人が集まってくる気配はした。
「まずいな。小凛、場所はわかるか?」
「うん。多分あっちだよ」
小凛は、まだ唯月の腕の中だった。
普段だったら、恥ずかしくてすぐにもおろして欲しいと言う所だったけれど、いまはそれどころじゃなかった。
唯月も、もうこのほうが走りやすいとでも言わんばかりで、小凛の手が指し示す方向へ、彼女を抱いたまま走った。
◆◇◆
小蝿のように飛び回っていたうるさい光の粒は、一部は綠桜の中に、大部分は宝玉の中に吸い込まれるように消えて行った。
「な!」
七色に鈍く輝いていた宝玉は、ドクン! と、強く脈打つと、その表面の模様が渦巻き。
(回っている!!?)
その場で、回転を始めた。
「ちくしょう、騙したのか、あいつら……」
あの小さいのたちは、綠桜が宝玉と一緒にいられるようにしてくれるんじゃなかったのか!
そう吐き捨て宝玉に駆け寄る。
激しく回転を始めた宝玉を宥めるように、両手を伸ばした。
「大丈夫だ。大丈夫。お前を害するものなんて俺が追いやってやるから……」
そう言って優しく触れる。
先ほどまでのバチっという音はしなかったけれど、熱を持って回転する宝玉は、綠桜の手のひらの表面を削りながら、その回転を弱めていった。
痛い。
そんな感触、もうどうでも良かった。
ようやく回転をとめた宝玉はまだ熱を持っていたけれど、構わず拾い上げ抱きしめる。
俺は――
俺は――
これは、俺の、だ――
一瞬、意識が身体を離れ、ただただ宝玉を抱きしめるそんな姿が見えた。
(やっぱり、女のよう、だよな――)
まるで身籠ったお腹を守るように、優しく抱きしめる妊婦の姿に見える。
――ママ? ママなの?
お腹の中から聞こえるような、そんなささやきが響いてきた。
(え?)
さっきの小蝿か、そう思ったけれど、違う。
声の質が、違う。
それだけはわかる。
それに。
これは、玉の、声だ――
――ママ、いた。ママ。
熱かった宝玉は、いつの間にか少しさめ、ほんわかと温かく、柔らかくなっていた。
柔らかくなった宝玉は、ドクン、ドクンと脈打っている。
それがなんだか嬉しく感じ。
綠桜は、ゆっくりと宝玉をさすって。
「大丈夫だ、大丈夫。お前は俺が守ってやる」
もう、あの、身体が蝕まれるような感覚はない。
心を食らい尽くされるような気持ち悪さも、ない。
(もしかしたら、これはあの金色たちのおかげ、なのか?)
以前とは違う。
麻薬のような感覚とも違う。
これは、あの天使に治療をしてもらった時のように、心地よい。
お腹の中から湧き上がってくる、そんな心地よさに、陶酔してしまう。
――ママ、まま、ままぁ。
甘えるようなそんな声も、愛おしい。
離さない。もう、絶対に離さない。
綠桜は、そのまま宝玉を抱えたまま、その場にしゃがみ込んだ。
ガタガタ、と、扉が開く音がしたけれど、もうそちらを振り返る気にはなれなかった。
今はただ、お腹に抱いた“これ”から目が離せなかった。




