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華の龍とモブの巫女。  作者: 友坂 悠


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宝玉。

 部屋に帰ると、まず鍵を閉める。

 ここの鍵はもともと物置なだけあって基本は外から閉めるものだけれど、中からでも開け閉めができるようになっている。

 中で誰かが作業してる間に閉じ込められてしまったら大変だから、という理由だろう。

 だから、綠桜が中から鍵を閉めようが、この宮を管理するものであれば開けることは可能だった。

 しかし。

 鍵があるとないとでは安心感が違う。


 以前、やはり個室をあてがわれていたときはあったけれど、その時には夜中の侵入者に怯えて暮らさなければならなかった。


(男も、女も、どいつもこいつも一皮向けば一緒だ。俺を性欲の対象としてみやがる)


 あれがあろうがなかろうが、そういう者たちにはなんの防波堤にもならないということを、綠桜は嫌という程経験してきていた。

 だから。


(この宮はマシだ。部屋にこうして鍵もかけられる。女官どもも、宮のあるじの意向には逆らわない。その分俺に粉をかけてくる者も、よそより少ないからな)



 中に入り着物をぬぎ。手ぬぐいで体を拭く。


 かなり汗がでていたのだろう。着物もぐっしょりと濡れてしまっていた。


 それを風通しのいい場所にかけ、開かずの納戸にむかう。



 腹掛けだけになったその姿が、納戸の前に放置された荷物にあった姿見にうつった。


 ひょろっと身長だけ伸びた、痩せた身体。

 筋肉はほぼなく、ふんわりとついた皮下脂肪は指で押さえれば簡単に沈むくらいには柔らかい。

 狭い肩幅、白い身体。


 胸にもうっすら脂肪がついている。


(どうして、だよ……)


 男でなくなったのだとは、覚悟していた。

 だからと言って、女になりたいわけじゃない。


 もちろん、女のような機能はこの身体にはない。

 しかし。


(ここまで女に見えなくてもいいだろうよ……)


 絶望とも、諦めともつかないそんな感情に苛まれつつ、開かずの納戸の引き戸を、ズズッと開ける。

 コツは、ちょっとだけ傾けること。

 角度が合わないどびくともしない、しょうがない納戸ではあるのだけれど。


 いまの綠桜にとっては、ちょうどいい加減な隠し場所だった。


「あった……」


 目の前の棚に鎮座するそれをみて、安堵する。


 可能性はあまりないとは確信してはいたが、それでも実際にこの目で見るまでは安心できなかったのだ。

 宝玉がなくなってしまったら……。

 そう思うと気がきでない。


(そうだ、いまの俺にはあれがある……。あの玉が、あるんだ……)


 子供の頭ほどの大きさの真円。

 ずっしりとした重みも、まるで赤子のようにも感じる。


 虹色に鈍く光るその玉。


(また、あんな風になっちまうかもしれない……)


 そう思っても、この衝動を止めることができない。


(あれに、触れたい。あれを、思いっきり抱きしめたい。あれは……)


 抱きしめた宝玉からは脈動を、感じていた。

 まるで生きているかのような、そんな。



 手を伸ばすと、胸の奥から金色のもやが溢れてきて、そのまま宝玉に吸い込まれて行った。


(あれは……、昼間の……?)


 あの、小さな天使から湧いた光のもや。


 バチ!!


 静電気のような衝撃が走った。

 いや、普通の静電気じゃない。

 これは……。

 なんだ――


 わからない。

 しかし、それが尋常ではないことだけは、理解した。


 もう一度手を伸ばす。


 バチ!!!


 触れようとした直前、先ほどよりも強い衝撃が走る。


「嘘だろ……、なんでだよ!! お前まで、俺を拒否するのか!!」


 思わずそう叫んで。


 ハッと気がつくと、自分の体の薄皮一枚分のところに、何か金のもやが絡みついている。


「なんだよこれ」


 まさかと思い、姿見の場所まで戻ると、そこには金色に光る自分の身体。


 ああ、間違いない。


 なんだよ。


 なんでこんな邪魔、するんだよ!


 あんた、天使じゃなかったのか!!


 俺を、救ってくれるんじゃなかったのか!!!



 心の底からそう叫んだ時。それは聞こえた。


 ――あれ、危険。


 ――あたしたち、綠桜救う。


 ――だから、触っちゃ、だめ。


 羽虫のように金色の粒が綠桜の周囲をとぶ。


 それは、細く、囁くような声だったけれど、そう聞こえてきた。


「何勝手なこと言ってやがる! てめえら、俺のじゃますんじゃねえ!」


 ――だって、姫さまに頼まれたもの。


 ――あたしたち、綠桜をまもるのよ。


「それが邪魔だと言ってるのがわかんねえか!」


 ――だって、だって。


 ――あれ、怖いのよ。


 ――ひとの身じゃ、耐えられないわ。


「そんなことはどうだっていいんだ! 俺は、あれのそばにいなきゃならねえって言ってるんだよ!!」


 ――本当に?


 ――綠桜、ほんとにいいの?


 ――あれの、ママになる?


「バカヤロウ。俺は男だ! ママってなんだよ!!」


 ――だって。


 ――産まれるのよ。


 ――漆黒の龍よ。


 ――ママじゃなきゃ、吞まれちゃうわ。


「ふん! わけのわかんねえこと言いやがって。ああ、あれのそばにずっといられるなら、ママでもなんでもやってやる! 男に二言はねーさ」


 ――わかった。


 ――だったら止めない。


 ――その代わり……。


「その代わり?」


 ――あたしたち、あなたになる。あなたと、龍になる。だからお願い。あたしたちを受け入れて――



「お前、なんなんだよ……」


――あたしたちは、キュア。ギアの精霊。よ?



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