破 【桜影】
俺は知らない。俺じゃない。俺は悪くない。そうだ、これは捨ててあったものだ。たまたま俺が見つけただけなんだ。だから、俺は悪くない……。
綠桜はもともと孤児で、誰も頼るものもない子供だった。
人の物を掠め取って生きるくらいしか、生き方を知らなかったのだから仕方ない。
盗人、スリ、悪いことと知りながらそれでも自分が生きるためなのだと割り切って生きてきた。まだ幼い頃からそうして人のものを盗んで生きてきたのだ。
しかし。
そんな生活にもとうとう最後が訪れた。
背だけひょろっと伸び始めた12歳の頃だった。
金持ちそうな男から財布を摺って、さっと横道に隠れた綠桜だったが……。
そこに、まさか警邏がいるとは。
二人組の警邏は、はしっこく逃げようとした綠桜をのがしてはくれなかった。
過去の罪を数えれば、かなりの数にのぼった。
当然斬首刑もありうると怯え牢屋で縮こまっていた綠桜。
ただ、盗みはすれど、人を傷つけたりましてや殺しには絶対に手を出さなかったことが判明したからか、罪を減刑するとの判決が出たのだった。
背がひょろりと大人並みに伸びていたせいで、まだたった12歳の子供だとは思ってもらえなかったのだろう。
減刑、と言っても、処せられたのは宮刑。
男では無くなった事に絶望したものの、命あってのものだねだと、少しは真面目に生きようと決意するも……。
世間は思った以上に過酷だった。
まず、男の仲間には入れてもらえなくなった。
筋肉も落ち、大の大人がする力仕事にはついていけず。
髭も生えず肌ものっぺりとして女のようにみられ。
やっと見つけた飯場でも、女の代わりを求められる。
囲ってやるから、そういう親方もいた、けれど。
やっぱりそれだけは、いや、だったのだ。
だから、ここ、後宮に宦官として潜り込んだのだったのに。
また、やってしまった。
まさかこれが花蓉宮から盗まれたというお宝だなんて、思いもしなかった、のだ。
ただ、綺麗な玉だなと、なんでこんなところにあるのだろうと、そう思っただけだったのに。
祠にはたまにお供えとして食べ物が置いてあることがある。
今やっと15になった綠桜は、与えられた食事だけでは足りずいつも腹を空かせていたから、たまにここにきてはお供えの饅頭とかをいただくのが常だった。
今回もそうだ。
ただ、お供えをくすねるつもりなだけだった。
奥に綺麗な布で包まれたものがあることに気がつき、なんだろうと引っ張り出し。
ああ、こんな綺麗な玉、売ればいっぱい食いもんが買える。
そう思ってしまっただけなのだ。
俺は悪くない、俺は、知らなかったんだ、まさかこれが盗品だっただなんて。
だから。
知られちゃいけない。
宿さがりに合わせて持ち出そうだなんて考えは捨てた。
絶対にバレる。
だから、隠し通さなくてはいけない。
知らない顔で過ごすのだ。
綠桜は直接花蓉宮に出入りしたこともなければ、関係もないのだから、黙っていれば絶対にバレることはない。
そう考えて。
うっすらと光るこの玉を、どこに隠そうかと、そちらに意識を移した。




