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違和感

痛みをこらえながら仕事を続けた。

今ごろ、ハヨンは何をしているんだろう。

もしかしたら昨日のことを後悔して、今夜のために特別なサプライズでも用意していたりなんて。

もちろん、そんなのは私の勝手な思い込みなんだけど。


ハヨンが私を抱きしめていたのに、突然我に返ったように腕をほどいたことを思えば――

きっと私にひどいことをしてしまったと後悔しているんだ、そんな気がした。

もしそうじゃなかったら、あんなふうに途中でやめたりなんてしなかったはずだから。


不思議なことに、昨日の出来事には腹も立ったし、傷つきもした。

それでも、どこかで彼の気持ちを理解できるような気がしていた。

……本当は、嫌だったわけじゃない。そんな気持ちも、少しだけあった。


もし昨夜の出来事を誰かに相談していたら、きっと「今すぐ別れなさい」

とか「その家を出たほうがいい」なんて言われていただろう。

でも、普段の彼との関係は悪くない。むしろ一緒にいるときの私は、本当に愛されているような気持ちになる。

その感覚は、これまで付き合ってきたどの男性からも感じたことのない、温かさだった。


ハヨンが急に変わってしまうことがある。もしかしたら、それは私のせいなのかもしれない、そんな考えも浮かんでいた。

そんなふうに思い始めると、最近の私たちの関係を邪魔しているものが何なのか考えずにはいられなかった。


けれど、考えるまでもなかった。

ハヨンが「裕福な家の生徒を教えに行く」と言っていたこと。

それから最近、誰かから電話を受けたあと――

ハヨンはその相手を「昔からの友達だ」と言っていた――

その頃から様子がおかしくなったのは事実だった。


その中に、私の知らない何かが確かに存在している。

私はそう結論づけた。


「まさかあの生徒と……? それとも、そうじゃないなら“その友達”っていう人が危険な人物なのか? でも、ハヨンが荒っぽくなったことと何の関係があるっていうの?」


私はそのことをずっと考え続けていた。

退勤まで、まだあと5時間もある。

途中でトイレに寄って、痛む腰のあたりに湿布を一枚貼った。

さすがにふくらはぎまでは貼れないけれど、私のロッカーにはいつも湿布や絆創膏、

それに常備薬がいくつか入っている。


湿布の匂いがしていたら困るけれど、いつも香水をつけているから問題ないと判断した。

絆創膏は私にとって必需品でもある。

履き慣れているはずのパンプスも、まだ完全には馴染んでいない。

も両足のかかとは、いつも絆創膏に隠されていた。



トイレから戻り、急いで売り場へ復帰する途中、入口で一人の男性に声をかけられた。


身長は180センチほどに見える。髪型は落ち着いていて、かなり高級そうなブランドのスーツをきちんと着こなしている男だった。


彼は一人で、腕には高そうな時計をしていた。

私の腕を掴もうとしながらも、途中でためらったのか、腕を上げたまま少しぎこちない姿勢で口を開く。


「あの……こちらの売り場のスタッフの方でお間違いないでしょうか?」


「はい、そうですが」


私は笑顔で対応した。


「それで、どうかなさいましたか? 何かお探しでしょうか」


「はい。実は通りかかるたびに、対応している様子を何度かお見かけしていまして」


「そうでしたか。お客様」


男性が具体的な用件を言わなかったので、私のほうから尋ねることにした。


「私にご用件でしょうか。それとも売り場でお探しの品がございますか?」


「ああ、はい。そうです。実は母の誕生日でして、バッグを一つ贈りたくて……このように突然お声がけしてしまい、失礼しました」


男の説明によると、母親は今でも彼が8年前に買ってあげたバッグを使っているらしい。

エナメルの入った赤いバッグで、ブランド物ではなかったが、当時としてはかなり高い金額で購入したものだという。


バッグの金具が当たる部分や表面はすでに擦り切れていて、そろそろ買い替えてほしいと思っているのに、母親は「まだ使える」と言って絶対に手放そうとしないらしい。


「今では母にバッグの一つくらい買ってあげられる余裕もあるんですけど、それでもあのままでして。ですから念のため、ロゴのない商品を中心に見せていただけますか?」


8年前。あの頃、私は何をしていただろうか、とふと思った。


そして客の気持ちは十分に理解できたので、私はそれ以上確認しなかった。

おそらく、バッグのブランドロゴを見て、母親が“高価なものを買わせてしまった”と負担に感じないようにするためなのだろう。


母と息子の関係は家族でしかないのに、それでも母親を想うその気持ちに、私は小さな感動を覚えた。

どんな母親も、かつては若くて美しく、そして少し恥じらいを知る少女だったのだろう。


昼間に会った、贈り物をする恋人と、母親のために慎重にプレゼントを選ぶ息子を思い出すと、胸の奥が少しずつ高鳴り始めた。

羨ましいという気持ちと同時に、私にもかつて、そして今もなお、愛する人がいるという確信。


母への贈り物を慎重に選んでいるお客様のために、私は求められるまま、細かい説明まで添えながら、自分の持っている知識と考えを伝えることにした。

およそ30分ほど商品説明を終えた頃、彼は突然、別の提案をしてきた。


「こちらの売り場で扱っているスーツを一着買いたいのですが」


「お母様のものでしょうか?」


「いいえ、私自身のものです」


私は少し驚いた。

長々と説明を続けている間、ずっと一人の客に付きっきりでいる私の様子を、内心面白くなさそうに見ていた人がいるのだろうと思っていたからだ。

それだけに、むしろ大きな売上につながるかもしれないと考え、少しだけ安心した。


お客様が帰ったあと、夕方になると百貨店の中は目に見えて人が増えていた。おそらく地下の食品売り場の利用客が増えているのだろう。


あくびを無理やりこらえながら、背筋を伸ばした姿勢のまま腰をひねったり足首を回したりと軽くストレッチをしていると、マネージャーが声を上げた。


「さあさあ、きちんと立って。お客様をお迎えする準備をしてください。VVIPのお客様がご来店されます」


VVIP――その人が誰なのか、私は知っている。すでに何度も見かけており、いつも高価なブランド品を何のためらいもなく買っていく人物だった。


「いらっしゃいませ、お客様。ご来店いただき誠にありがとうございます」


私たちは息を合わせるように、揃って挨拶をした。


「はい。ごきげんよう。みなさんお元気でしたか?」


きっちりと着飾っているわけではないのに、その言葉遣いや歩き方、所作の一つひとつが他の人とは違うと、私は以前から思っていた。

今日はその娘と一緒に、この売り場を訪れていた。


「今日は男性用の財布を一つ贈ろうかと思っているのですが……あまり派手ではないもので」


VVIPの女性がそう言った。


「一つ? もし欲しいものがあるなら、ついでに選んでみるといいわ。この機会に一緒に買ってしまいましょう」


「はい。少し見てみます」


10代後半に見えるハナは、本当に何事もなかったかのように売り場のあちこちを一人で見て回っていた。私はその後ろをついて回るのに精一杯だった。


前にも何度か顔を合わせたことはあったが、彼女はいつも目でじっと見るだけで、商品に手を触れることは決してなかった。だから少し安心していた。


「お客様、何かお探しでしょうか。お申し付けいただければ、すぐにご用意いたします」


私は彼女の年齢を気にすることなく、あくまで丁寧に声をかけた。


「あ、ありがとうございます。でも大丈夫です。お姉さん」


ハナがくるりと身を翻した瞬間、ほのかで優しい花の香りがふわりと漂った。

そういえば、その香りはVVIPの女性からも漂っていたものだった。


——でも、この香水の名前を私は知っている。


しかも、この香りはどこかで一度嗅いだことがある。


「……ハヨン?」


「えっ?」


ハナが驚いたような顔で私を見つめる。


「今、何かおっしゃいましたか?」


「あ……いえ、申し訳ありません、お客様」


私は慌てて頭を下げた。


間違いない。あの香りは、一度だけハヨンの部屋で嗅いだことのある香水だった。


手に入りにくい香水というわけではない。

女性用なのだから、この子から同じ香りがしても何もおかしくはない。


それなのに――。


あの香りを嗅いだ瞬間、どうして私はあんなにも動揺したのだろう。


どうしてハヨンが、女性用の香水を持っていたのだろう。


まさか、このVVIPの女性が……。


「あっ……!」


次の瞬間、私の意識はふっと途切れ、その場に崩れ落ちた。

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