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ジュヒの日常

高級百貨店のブランドフロアで働く私は、昨日のことを注意されていた。


「ジュヒさん、お客様がお見えですよ。


もっと早くこちらへ来ないと。


何を考えていたんですか?」


「申し訳ありません、マネージャー」


仕事に集中できていなかった。


売り場で働いているスタッフは、私を含めて五人。


決して大きな売り場ではないが、高級ブランドフロアということもあり、


お客様が来店されるたびに、左右に二人ずつ並んで挨拶をするのが基本だった。


もちろん例外もある。


すでに接客中のスタッフは列には加わらない。


そのため、タイミングによっては一人か二人だけでお迎えすることも珍しくない。


副店長は基本的に接客には入らず、マネージャーも接客に出ることは少ない。


その二人は主に入口付近に立ち、お客様が入店されるたびに挨拶をしていた。


売り場では、いつも両手をお腹の前で重ね、九十度の角度で美しくお辞儀をしなければならなかった。


お客様がお帰りになるときも同じだ。


笑顔は絶やさないこと。


化粧は派手になりすぎないこと。


ストッキングの色までは決められていなかったが、だからといって華美なものは認められない。


それが、この売り場のルールだった。


もちろん、こうした決まりそのものがつらいわけではない。


ただ、八センチもあるハイヒールを履いたまま、いつも笑顔で九十度のお辞儀をすること。


そして、ときには膝を半ば折るような姿勢で、お客様を見上げながら接客をしなければならないこと。


それだけは、どうしても体にこたえた。


「ジュヒさん、昨日何かありましたか?


今日は顔色があまり良くないようですけど」


「何でもありません。


申し訳ありません、マネージャー。


以後、気をつけます」


この売り場で働き始めて、もう三年になる。


そろそろ慣れてもよさそうなものだが、社会に出れば、いつだって予想外のことは起こる。


人と接する仕事だからこそ、毎日出会うお客様は一人ひとり違っていて、同じ一日など一度もなかった。


他の百貨店の売り場と比べて、特別に給料が高いわけではない。


それでも私は、この場所で働き続けている。


世間から見れば、「高級ブランドで働いている」という、それだけのわずかな特別感があるからかもしれない。


良いことがあるとすれば、ブランド品について自然と詳しくなり、実際に手に取る機会が多いことだろうか。


少しくらい物知りにはなれた気がする。


もっとも、それが人生で役に立つ知識かどうかは、また別の話だけれど。


昼休みになるまで、水を一口飲むことさえできなかった。


そのせいで、トイレへ行く回数も、多くても一日に三回ほどしかない。


昼休みは十二時から一時まで。


スタッフは交代で昼食を取ることになっている。


もっとも、休憩といっても食事を済ませ、歯を磨けば、それでほとんど終わりだ。


すぐに売り場へ戻らなければならない。


たとえ休憩時間中でも、指名のお客様が来店されたり、店内が混み始めたりすれば、売り場へ戻るのが決まりだった。


勤務は朝八時に始まり、終わるのは夜九時。


つまり、一日に十三時間近く働いていても、トイレへ行けるのは多くても三回ほどということになる。


そのせいで、私は何度も膀胱炎になって苦しんだ。


休憩時間は限られている。


ようやく窮屈な靴を脱ぎ、痛む足をいたわることのできる、ほんのわずかな時間だ。


だから昼食はできるだけ手早く済ませる。


少しでも長く足をマッサージする時間を作るために。


水をあまり飲まず、トイレを我慢するのには理由があった。


販売職である以上、一人ひとりが売上を伸ばさなければならないからだ。


最初は、来店したお客様に商品を勧めて販売すれば、それで十分なのだと思っていた。


しかし、現実は私が想像していたものとは大きく違っていた。


商品はどれも高額だ。


だからこそ、お客様に「次もこの人から買いたい」と思っていただける存在にならなければならない。


そのために私は、お客様一人ひとりに誠意を尽くし、商品の魅力を伝え続ける。


また来店していただけることを願いながら。


私には、一つだけ心掛けていることがある。


それは、お客様を見た目だけで判断しないことだ。


誰とは言わないけれど、一緒に働いているスタッフの中には、高そうな服を着て、高級バッグを持ったお客様ばかりを積極的に担当しようとする人もいる。


その姿勢を、私はあまり好きにはなれなかった。


もっとも、それがその人なりのやり方なのかもしれないけれど。


今日の昼食もサンドイッチだった。


もちろん、特別なものではない。


ほとんど毎日これを選んでいる。


手軽に食べられて、時間もかからない。


それに、仕事へ戻る前でも汚れにくいからだ。


ハイヒールを脱ぎ、急いで昼食を済ませると、すぐに足を揉み始めた。


今日はいつも以上に、太ももからふくらはぎにかけて痛みが強かった。


昨夜は、いつにも増して乱暴だった。


あんなことがあったからかもしれない。


体も疲れ切っているし、知らないうちにストレスも溜まっていたのだろう。


私は足を揉む手を止め、そっと自分の首へ触れた。


……あんなことは、本当に最悪だ。


時々、あの家を出ようと思うことがある。


けれど、いざ出て行こうとしても、行く当てはどこにも思い浮かばなかった。


私は小さく息を吐いた。


昼食を終え、歯を磨くと、私は売り場へ戻った。


交代を済ませ、正面入口の前で姿勢を正してお客様を待つ。


十分ほど経った頃、一組の男女が店内へ入ってきた。


「ここ?


君が来たがってたのって、このお店?


今日は君の誕生日なんだから、欲しいものは何でも選んでいいよ。


全部、俺が買ってあげるから」


どうやら、彼女の誕生日らしい。


私は笑顔を浮かべ、できる限り美しい姿勢で二人に向かって頭を下げた。


「いらっしゃいませ。


本日はご来店いただき、誠にありがとうございます」


顔を上げた瞬間、不意に左の腰へ鈍い痛みが走った。


けれど、それを表情に出すわけにはいかない。


「バッグを見せてもらえますか?」


「かしこまりました。


それでは、こちらへご案内いたします。


どうぞ、ごゆっくりご覧ください」


私は二人をバッグ売り場へ案内した。


今日の売上につながるかもしれない、大切なお客様だった。


私は速すぎず、かといって遅すぎない歩調で二人を案内した。


ヒールの足音は、できるだけ響かせない。


それも、この仕事では基本の一つだ。


一方、女性のお客様はレオパード柄のハイヒールを履いていた。


私とは対照的に、コツコツと大きな足音を響かせている。


もしかすると、靴が足のサイズに少し合っていないのかもしれない。


ブランドは……どこだっただろう。


そこまでは分からなかった。


男性のお客様は、ごく普通のカジュアルな服装だった。


けれど、腕にはめている腕時計が目に留まる。


高級ブランドと呼ばれるほどではないものの、知名度の高い人気モデルだった。


私はそんなところまで、つい目が行ってしまう。


「こちらでございます、お客様。


どうぞごゆっくりご覧ください。


何かございましたら、お気軽にお声がけくださいませ」


「本当ですか?


じゃあ、このバッグ、持ってみてもいいんですか?」


「もちろんでございます。


お申し付けいただければ、すぐにご用意いたします」


私の説明を聞いていたのかどうかは分からない。


女性は私の言葉が終わるのとほぼ同時に、気になっていたバッグへ手を伸ばした。


私はすぐにスーツの右ポケットから白い手袋を取り出し、素早く身につけると、そのバッグを丁寧に手に取った。


「こちらがお気に召しましたか、お客様?」


笑顔を崩さず、穏やかな口調で尋ねる。


「普段、バッグは右肩に掛けられますか?


それとも左肩でしょうか?」


「私ですか?


右です。右に掛けます」


二十代前半くらいの女性は、嬉しそうに答えた。


今日という日のために、何時間もかけて身支度を整えてきたのだろう。


私には少しだけ大胆なメイクにも見えたけれど、それもきっと彼女なりのおしゃれなのだと思った。


私はバッグを手に取り、女性のお客様の右側へ回った。


「失礼いたします。


少しだけ腕を上げていただけますか?」


そう声を掛け、バッグのストラップを肩へそっと掛ける。


「いかがでしょうか、お客様。


お似合いだと思いますが」


ちょうど正面には大きな鏡があり、三人の姿が一度に映っていた。


「うーん……。


バッグはかわいいんだけど、今日の服には合わないのかな」


女性はバッグを右肩から左肩へ掛け替え、不満そうに眉をひそめた。


「え? 俺は似合ってると思うけど。


じゃあ、ほかのも見てみようよ。


別のバッグもお願いします」


男性の判断は早い。


こういうタイプのお客様のほうが、むしろ接客しやすい。


恋人同士なのだろう。


年齢も雰囲気もよく似合っていた。


「でしたら、お召しになっているお洋服と、お履きになっている靴を拝見した限りでは、こちらのデザインはいかがでしょうか」


私はレザーのストラップではなく、ゴールドチェーンをあしらったモデルを取り出した。


色は、どんな装いにも合わせやすいブラックだ。


「ご存じのとおり、当ブランドは華やかなデザインも魅力の一つですが、ブラックはどのようなお洋服にも合わせやすいお色でございます。


さらに、このゴールドチェーンが上品さと高級感を引き立ててくれます」


そう説明しながら、私はバッグを差し出した。


「よろしければ、こちらも一度お試しになってみませんか?」


少しだけ言葉遣いを柔らかくした。


『ご存じのとおり』という一言を添えるだけで、お客様は自分がブランドをよく理解しているような気持ちになってくださる。


もちろん、そのことに気づかれない程度に自然に。


「えっ、本当だ」


男性が感心したように言うと、隣にいた女性は満足そうに微笑んだ。


「そうなの!


私、このブランドのこと結構知ってるんだ。


友達もこの前、似たバッグを買って、『やっと買えた!』ってすごく自慢してたの」


「ですが、お客様。どうぞご安心ください。


同じデザインではないかとご心配いただく必要はございません。


私がお持ちしたこちらは、当ブランドの新作でございます」


「これだ!


私、これがいい!」


「じゃあ、これにしよう。


そんなに欲しかったんだろ?」


お二人の気持ちは、すでに決まっていた。


あとは、一番難しい瞬間だけ。


価格をお伝えすることだった。


「ありがとうございます。


それでは、こちらの商品でお決まりでよろしいでしょうか」


「はい、お姉さん。


これにします」


「ありがとうございます。


こちらの商品は、税込二百八十八万六千ウォンでございます」


「えっ……?」


男性は一瞬だけ表情を強張らせた。


けれど、バッグを大事そうに抱きしめる彼女の姿を見ると、小さく笑って言った。


「これでお願いします。


お会計はどちらですか?」


「ありがとうございます。


それでは、新しい商品をご用意いたしますので、少々お待ちくださいませ」


私は新品のバッグを取りに行くため、売り場奥の二階へ向かった。


階段を上っている途中、また左の腰に鋭い痛みが走る。


私は足を止めることなく、そのまま歩き続けた。


「ああ……今日はどうしてこんなに痛むんだろう」


お客様をお待たせするわけにはいかない。


そう自分に言い聞かせながら痛みをこらえ、倉庫へ入って新品のバッグを取り出すと、再び売り場へ戻った。


用意された椅子でお待ちになっているお客様の前に、私は片膝を軽く折るようにしゃがみ、箱を開ける。


「改めてご確認をお願いいたします。


お買い求めいただいた商品はこちらでお間違いございませんでしょうか」


「はい。間違いありません」


立ち上がった瞬間、また同じ場所に痛みが走った。


まずい……。


この時間では、仕事が終わる頃には病院も閉まってしまう。


私は唇をきゅっと噛み締め、そのままレジへ向かった。



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