10 疑惑
友達との再開、リアンが日常生活を復帰できるようにブルクは尽力する
中学の部活動――
防具を纏った生徒たちが木刀で激しく打ち合っている
「やめ!!」
その合図と共に戦いが止まる。面を外したのはリンシルだった
「リンシルは相変わらず強いな」
リンシルの友達のミルがグータッチを求め、リンシルもそれに拳で応える
「勝負が決まるあの瞬間……いつになっても最高だ」
「私も自信はあるんだけど、あんたにはどうしても一本取れないわ」
「じゃあ俺が一番の腕前ってことか?」
「まあね。ビースヘブルの兵への推薦が決まってるんだもの、当然かもね」
「それを目指してやってきたからな」
リンシルはそう笑い、次のリュヒトとライアの試合へと視線を向けた
………………
一方、ブルクの家では
勉強も終わり、思い立ったブルクは器用な手つきで、リアンの髪を短く切り揃えていた
「次友達と会うためにカッコよくしておかないとな。こんな感じでどうだ」
短めに整えられた髪を見てリアンは嬉しがった
その時、トントントンと控えめなノック音が響く
「誰だろうか」
ブルクが覗き穴から確認すると、そこには一人の少女が立っていた
「昨日会った友達か?」
リアンも確認しにいくと、それが誰であるかすぐに分かった
「ジュノだ…!そうか、3人に伝えといてって言ったんだ」
リアンが慌てて扉を開けると、ジュノが目を輝かせて待っていた
「本当にリアンだ…ずっと、心配してたんだよ」
「僕もみんなと会いたかった。話はみんなから聞いてるの?」
「うん、帰りの時間前にヒカリちゃんが教えてくれて、願ったことがこんな長い年月をかけて叶うなんて…!」
「まだみんな学舎で仲いいんだ。ならなんか嬉しいな」
「そう、みんな12歳くらいで中学に上がったから、前とは違う施設になったの。それでね、中学の内装は前と違ってビースヘブルの美術を採用してて凄く綺麗なの、私も美術の才能が開花したみたいな感じで、リンシルなんて部活動での成績でビースヘブル兵隊の推薦が決まるとか」
「(何…言ってるのか全く分からない。でも、ビースヘブルが何とかは聞こえたな)へぇ…そうなんだ」
「絶対に来てね。いや、今ここで私の開花した絵を見せちゃおうかな」
「どうせならその場に行って見てみたいかも」
「えぇそう?分かった。ところでここはリアンの新しいお家?」
「まぁそんな感じかな、ちなみに僕がここにいることは誰にも言ってほしくないんだ。事情があって…」
「そうなんだ…でもリアン、雰囲気変わった感じする……かっこよくなった!」
「え、ありがと。やっぱりジュノは優しいね」
「(優しさで言ってるんじゃないのに…)じゃあ、また会おうね」
手を振って帰っていくジュノ
ジュノが帰っていく際、リアンはふと彼女の背後に視線を走らせた。花壇に水をやる男。ただの作業員に見えるが、リアンの目にはどうしても「監視員」にしか映ってしまう
その瞬間、走ってジュノの肩を引っ張った
肩に手を置いてリアンは言った
「ジュノ…!この村はビースヘブルに支配されている
振興策はそのための口実にすぎない
だから俺達は監視されている次はジュノが誘拐されるかもしれない」
「……どういうこと?」
ブルクの家に戻ったリアンは正直に経緯を話した
「この村は支配されているって伝えたんだけど、驚かれちゃった…」
「そりゃあ子供にそんな難しい話は無理だろう…
だが他の人にそんな話はするな」
「居ても立っても居られなくて」
「それは私のやることだ。リアンがすることではない。もうこんな時間だから、早めに夕食でも作るよ」
次の日の放課後、中学の教室ではジュノが昨日のことを友達に伝えていた
「リアン君が戻ってきたよヒカリ、教えてくれてありがとう」
「ジュノ、今日のあんた気色悪いわ。でも以前の感じが帰ってきて嬉しいけど、そういえばどんな会話したの?」
「中学について色々教えてあげたよ。あぁ楽しかったなまた喋りたいな。あ、後この村がビースヘブルに支配されてるって言われたけど…よく分からなかった」
リンシルの顔が固まった
「何でリアンがディラシキ派みたいなことを…」
「分からない…言わない方が良かったかな?」
ラミルが悩みながら言う
「リアンを支配するトラウマが、ビースヘブルについての何か一要素と関わっているからだろう。まぁ、パニック状態が続いて支離滅裂な発言をしてしまう可能性も捨てきれないが…」
スバルは信用していた
「でもリアン君が嘘つくなんて考えられないから…」
「長い間誘拐されていた人の精神状況を考えた時、勝手に幻想を生み出してしまうのかもな。その場合あくまでも虚像、何も考えなくていい」
「ただ、リアンの奴大丈夫とか言ってたのに…やっぱり隠してしまうものなのか…」
「私、もう一回聞いてくる…!」
ジュノは走って教室から出ていった
「ジュノ急ぎすぎだよ…」
「俺らも追うぞ、俺だって真相は知りたいところだし」
4人は帰る支度を始め、下駄箱へ走っていった
夕暮れの中学付近
ジュノはリアンの家を目指し、学舎を飛び出した
振興策エリアである村の西側は、総督府を中心にレンガ造りの建物が立ち並び、街灯が明るく整備されている。しかし、西と東を隔てる長い川の橋を渡り、自然の多い東側に入ると、街灯の数は極端に減り、薄暗い住宅街へと風景は一変した
その時だった――
「うわっ…!」
人通りのない路地裏から伸びた1本の手がジュノを掴んだ
体を打ちつけたジュノ、立ち上がろうとしたその時、目の前に黒尽くめの男が2人立っていた
「君、昨日リアンって子と会ったりしてない?もし会ってたら教えて欲しいんだ」
「何なの?なんでそんなこと言わないといけないの」
「教室内でリアンの名を口にしたと情報を聞きましてね…ただ情報だけでいいんですよ」
「あなたはリアンの何なの…?」
「行方不明事件があったでしょ?何か手がかりになると思いまして…」
「あの事件はそうそうに手を引いたはず、そもそも知らない人に個人情報は伝えないようにと習いました」
「であれば…吐くまでお前を殴る」
そう言うと、男の1人がジュノの腹部を殴った
「ぐふっ…!!」
ジュノはその場に激痛でうずくまる
「可愛げのある女の子だ。これは楽しめるな」
「誰か助けて…!」
「口を塞げ小娘が!」
蹴り上げられるジュノ、彼女の額から血が伝って滴り落ちる
「じゃあやるか、お前は服を破れ」
ゆっくりと2人は近づく
「ならお前は拘束しろよな。ゲヘヘ」
服に手をかけようとしたその時、背後から怒号が聞こえた
「お前らジュノに何してる!!」
そこに現れたのはリンシル達4人だった
「あまり騒ぎは立てたくないが…いい獲物を逃すのはもったいないな」
「ちょうどこれを持ってるもんだからさ…」
リンシルは木刀を抜いて男達に向ける
「あんたらをボコボコにしてやるよ」
「こいつが喚くせいで…仕方ない逃げよう」
走ってリンシルは追いかけようとしたが、逃げきられてしまう
「くそ……逃げられた」
リンシルは悔しげに地面を叩き、すぐにジュノのもとへ駆け寄った
「ジュノ、しっかりしろ! 一体何があったんだ」
「……男たちが、リアンの場所を……聞き出そうとしてた」
ラミルは考えた
「何故リアンを…あの情報が知れ渡るのを防ぐためにこんなことを?やはりリアンの言うことは正しいのか…」
「次は俺達かもしれない…どうにかして、どうにかして身を守る方法を…」
リンシルの言葉は周囲に重く響いた。彼らは恐怖に震えながらも、どうやってこの身を守ればいいのかを必死に探そうとしていた




