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恋を知らない演劇部エースと告白練習〜「演技」のはずだったのに、外堀を埋められて本気で恋人になりました〜  作者: 天月瞳


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朝のおはようから

ピローン。


聞き慣れない通知音がスマホから鳴り、ぼんやりとしていた意識を呼び覚ました。


要は重い瞼をこじ開け、スマートフォンの画面を覗き込む。


【おはよ〜。起きてる?】


夏奈からのメッセージだった。


要はぼんやりと画面を見つめる。


誰かから「おはよう」なんてメッセージをもらうのは、いつ以来だろうか。



【まだ寝てる?】


その一言で、眠気が完全に吹き飛ぶ。


要は慌てて身体を起こし、急いで文字を打ち込んだ。


【おはよう】


【起こしちゃった?】


要は少し躊躇ってから指を動かした。


【いや、もう起きてた】


【それなら少しお話ししてもいい? 忙しかったら無理しなくていいから】


要はふっと微笑んだ。


【もちろん、大丈夫だよ】



許可を出した次の瞬間、スマホが激しく震えた。

画面に表示されたのは「夏奈」の二文字。

要は慌ててスマホを取り落としそうになりながらも、なんとか通話ボタンをスワイプした。



「もしもし? 聞こえる?」


「……あ、ああ、聞こえるよ」


耳元から、少女の弾むような明るい声が響いてくる。


「おはよう。朝からごめんね」


「ううん、大丈夫」


「本当に? 迷惑だったらちゃんと言ってね」


「迷惑ってほどじゃないけど……でも、どうして急に?」


「前に少し話したでしょ? 私って体験派だから、実際に体験してみたくて」


夏奈曰く「恋人がする日常のやり取りをリアルに体験してみたい」と。


「そうなんだ」


「だから本当に、嫌だったら言ってね。私、こういうの初めてだから、どこまでがセーフなのかラインがわかんないの」


「……それを言うなら、俺もわからないけどな」


二人は話し込んでしまい、危うく登校時間を忘れるところだった。


要は学校へ向かいながら、自分に何度も言い聞かせる。


(朝のあれは、あくまで演技の練習だ。勘違いするなよ、俺……)


しかし、夏奈の「練習」という名の攻勢は昼休みになっても続いた。


昼休みを告げるチャイムが鳴り響く。


「夏奈、一緒にご飯食べようよ」


夏奈の友人たちが声をかけた。


教室内で交わされる賑やかな会話を聞き流しながら、要は一人で教室を出ようとした。


「ごめん、今日はちょっと用事があるから。みんなで食べてて」


夏奈は周囲の友人たちへ手を合わせた。


「へぇ、珍しいね」


要はコンビニ袋を提げたまま教室を出ようとする。


「待って」


背後から声をかけられ、要は不思議そうに振り返った。


「ねえねえ、一緒にお昼食べよう?」


夏奈は小さな八重歯を見せて無邪気に笑う。

周囲の友達が驚愕の表情でこちらを見つめていることなど、全く気にしていない様子だ。


「えっ!?」


「夏奈、まさかあんた!?」


普段はクラスで半ば空気のような存在だった要は、一斉に注目を浴びて居心地の悪さを覚える。


「その……大丈夫なの?」


要は少し身を引きながら、夏奈の隣にいる友人たちを見て恐る恐る尋ねた。


「平気平気!」


夏奈は手をひらひら振りながら、友人たちへ再び手を合わせる。


「というわけで、今日はみんなだけで食べてね」


「……もしかして、彼氏?」


遠巻きに聞こえたクラスメイトの探るような声に、夏奈はあっけらかんと答えた。



「違う違う。ただ真宮くんに用事があるだけ」


その言葉に、要の胸の奥がほんの少しだけズキリと痛んだ。

と同時に、勝手に期待した自分を心の中で激しく叱責する。


変な期待をするな。


「真宮くん、それってお昼ご飯?」


「え? あ、まあ……」


要は曖昧に頷いた。


袋に入れたのはコンビニの値引き弁当だ。



「真宮くん、いつもどこで食べてるの?」


「……中庭」


要は小さく答える。


あそこは普段ほとんど人が来ない。


要にとって数少ない落ち着ける場所だった。


「じゃあ行こっか」


夏奈は要の腕を引き、中庭のベンチまでやって来る。


そして可愛らしいランチバッグから小さなお弁当箱を取り出した。


「これ、お母さんが作ってくれたんだ。どう? 美味しそうでしょ?」


自慢げな夏奈に、要は素直に頷く。


夏奈の瞳は好奇心で輝いていた。


「真宮くんは?」


要がコンビニ袋から値引き弁当を取り出した瞬間。


夏奈の表情がわずかに曇った。


「真宮くん、毎日コンビニなの? この前公園で会った時もそうだったよね」


「うん、まあ。バイト先の店長がよく譲ってくれるんだ。安く済むし、助かってるよ」


要は淡々と答えた。


「お家では、お弁当とか用意してもらえないの……?」



「……まあ、今は一人暮らしだから」


「そうか」



夏奈はそれ以上深くは踏み込まず、ポンと手を叩いた。


名案を思いついたとでも言うように。


「それだと栄養が偏っちゃうよ。そうだ、少しおかず交換しよう!」


「えっ、いや……悪いよ」


そう言ったものの、結局は夏奈に押し切られてしまった。


おかずをトレードすることになった。


料理の味付けはどちらかといえば薄めだった。



特別豪華な料理ではない。


けれど、一口食べるたびに胸の奥がじんわりと温かくなっていく。


気がつけば、鼻の奥が少しだけ熱くなっていた。


「ありがとう。美味しかった」


「えへへ」


母親の料理を褒められ、夏奈は嬉しそうに笑う。


「あ、そうだそうだ。肝心なこと忘れるところだった」


「ん?」


「真宮くん、今度の休みって空いてる?」


「休み? ……今週はシフト入ってないし、うん。空いてるけど」


「やった!」


夏奈は胸の前で指先を合わせ、首をかしげながら言った。


「じゃあさ……今度デートしない?」


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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