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落ちこぼれ公爵の守り獣  作者: 秋月
第二部

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12,荒療治

 アンシェ王女と守護獣が戯れていると扉がノックされ、侍従が姿を見せた。


「ロザロス公爵様。陛下がお越しです」

「はい」


 侍従が一歩横に下がる。その傍を通り抜け、堂々と室内へ入ってくる人物が一人。

 俺はすぐに膝をつき、頭を垂れて迎えた。


「よい。立て、ギルベール。――アンシェがいたのか。さてはギルベールの守護獣狙いだな?」

「えへへ……。それじゃあ私は失礼します。またね、ギルベール様。守護獣もまたね」

「うきゅ」


 陛下はソファに座り、殿下は礼をすると部屋を出ていく。

 俺は立ったまま見送りつつも、扉が閉まってもまだ室内に残る明るさを感じていた。


「ギルベール。座りなさい」

「失礼します」


 陛下が示すのは向い合うソファ。そこに浅く腰かける。俺の守護獣は座面をえいせえいせと歩いてくると、俺の側にぺたんと座った。


「アンシェはすっかりおまえの守護獣が気に入ったのだな。私のを見たときは驚きで口が開いて、あまり近づこうともしなかったというのに」


 懐かしがるような面白がるような声音と笑みが語る。

 ……幼かっただろう殿下が怖がるのも無理はないと思うが、それは陛下も承知だろう。


「殿下がお望みとあれば」

「断ることも大切だぞ。おまえは断らないだろうが」

「……」


 否定はできない。俺はどのような命でも、陛下の、王家のそれに従うつもりだ。


 俺の表情からそれを察したのか、その点はすでに承知の上なのか、陛下は少し困ったように息を吐き、背もたれに身を預けた。


「ギルベール。今度の御前試合についてだが」

「はい」

「貴族や鍛錬の見学者の間には、すでにおまえが通説とは異なる守護獣を持っていることが知られている。そして、御前試合は守護獣の力を使うことが認められている」


 ……話が読めた。しかしそれは、俺が第九師団で否定した内容だ。

 ちらりと傍にいる守護獣に視線を向ければ、話を聞いていない様子で俺の膝に乗ろうともぞもぞと動いている。短い手で隊服を掴み、短い脚を上げようとしているがなかなか上がらない。「うぎゅぅー」と苦戦している様子に陛下が喉を震わせた。


「……陛下。私は未熟で、守護獣の力の使い方すらまだ分かりません。しかも私の守護獣の力はご報告したとおりであり、御前試合で行使するにはあまり向かぬかと」

「うきゅ?」

「確かに。報告にあったそれをそのまま行えば被害が出るだろう。――しかしギルベール。私とおまえにしかできぬこともある」


 守護獣が、自分のことを話しているのかと問うような目で俺を見上げ、動きを止めた。

 目の前の陛下は、口角を上げて好奇心あふれる目で俺を見る。


「おまえの守護獣は、普段のその姿は仮の姿だという話だったな」

「……御前試合は、騎士たちの日頃の鍛錬の成果を皆に見てもらうと同時に国を守る力を示すもの。誉あるその席で私が必要以上のことをすれば……皆が恐怖と混乱を抱きます。子どもや女性を恐怖のるつぼに陥れたくもありません」

「ほお。それほどか。それはなお見たいものだ」

「……」


 これは……諦めてくれないようだ。

 動きを止めた守護獣が俺と陛下を交互に見ている。


(とはいえ、こいつの本来の姿は戦場でこそ強大で頼りになるものとして映っただけだ。普段の……まあ、御前試合の場とはいえ、あの見目のものがあの大きさで突然現れるとなると……)


 あまり、想像したくない。

 御前試合とはいえ、していいことにも限度がある。


「……陛下。重ねて申し上げます。私は未熟者です」

「ならば守護獣の力はこれまでどおりでよい。民に披露だけしてくれ」

「……分かりました」


 これ以上食い下がることはできない。

 もとより試合で用いるつもりも本来の姿をさらすつもりもなかったが、陛下のご命令とあらば仕方ない。


 俺は内心で息を吐き、視線を守護獣へ向けた。俺の膝に乗るよりも会話の内容が気になったのか、じっと俺を見上げている。


「御前試合でおまえの本来の姿を皆に視せたい。かまわないか?」

「うきゅ? うきゅきゅ!」

「……視せるだけだからな? おまえの力を試合で使うつもりはないぞ」

「うきゅ!?」


 ……張り切っていた様子が一転、愕然とした面持ちに変わった。それを見た陛下が遠慮なく笑う。


「ははっ! 守護獣はそれほどやる気なのか。では、あとはギルベール次第だな。しっかりと力の行使を学んでくれ」

「はい。部下の中で同属性の力を持つ者からも話は聞いているのですが、実践は王都から離れて行おうかと」

「それがよさそうだ。風属性ならばフィリーシアもそうだ。分からぬことがあれば聞くといい。おまえの守護獣を愛でる機会ができれば喜ぶだろう」

「過分なお心遣い、感謝申し上げます」


 陛下はいつもそうだ。弟が反逆を起こし、俺はその息子だというのに、こうして俺を気遣ってくれる。

 その懐の深さと、時に厳しく俺を試す行動。だから俺は陛下のために尽くしていくことができる。


「では本題も終えたことだ。少し世間話をしよう。――ああ。せっかくだから守護獣には克服を頑張ってもらおうか」


 陛下の言葉を合図に、その傍に顕現した三つ首の獣。

 瞬間、俺の守護獣が「ひぎゃ!」と悲鳴を上げて俺の腕にしがみついた。ぷるぷると震えているが、そんなことにお構いなく、陛下の守護獣はこちらへ近づいてくる。後退するように俺の守護獣が肩へ頭へと避難していく。


「……」


 頭へ手を持っていけば、助けと思ったのか俺の手にひしりとしがみつく。――陛下の守護獣の前へ差し出した。


「うぎゃう!? うきゅきゅきゅ!」

「……少し頑張って、仲良くできないか?」

「うー」


 涙目になられると手を引っ込めてしまいそうになる。


(あまり嫌なことはさせな――……いや。これもこいつの成長のためだ)


 頭の中で「守護獣に甘い」と俺を叱る声が聞こえた気がした。

 俺の手にひしりとしがみつく様にこれ以上無理を言えないでいると、陛下の守護獣がぱくりと俺の守護獣を咥えた。そして俺たちから少し離れて床に伏せると、俺の守護獣を解放させ、手で押さえつける。俺の守護獣が逃げようとすれば手で押さえつけ、泣きそうになれば頭を叩く。


(あ、荒療治だな……)


 しかも三つの顔があるので、俺の守護獣は少々怯えているようだ。……無理もない。

 守護獣たちの様子を見て小さく笑う陛下は「これで少しは慣れるといいな」と気楽な様子だが、俺としては悪化しないか非常に不安が増した。






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