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落ちこぼれ公爵の守り獣  作者: 秋月
第二部

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4,勲功授与式

 鏡を前に自分の出来栄えをチェックしていれば、鏡を通してメイドたちが見える。その中にはリアンとロイジーもいて、「ほわぁー……」「奥様綺麗……」と、まるで放心しているようだ。まだ子どもともいえる年齢の二人は反応が素直で微笑ましい。


 わたしは他の貴族と違ってイアリングも香水もつけない。まあ、今回は勲功式典だからそんなものは不要だが、わたしの場合は夜会でも同じだ。身を飾るのはドレスと薄い化粧、あっても首元のネックレスくらい。じゃらじゃらするのは好きじゃないし煩いからちょうどいい。


 よし。メイドたちが気合を入れてくれただけある。

 準備も終わったことだしギルベールのもとへ行こう。そう思っていると耳が音を拾った。


「リアン。ギルベールが来たようだ」

「! はい」


 リアンがすぐに扉を開けて廊下を確認。わたしの感じたとおりだったのかギルベールとのやりとりが聞こえる。

 そして、リアンが室内にいるメイド長に確認をとってから、ギルベールを室内へ招き入れた。


「……」


 メイドたちはすっと壁際に下がり、ギルベールは扉の前で目を瞠る。その肩にはいつものように守護獣が乗っていて、いつもと違う屋敷の空気にきょろきょろしている。

 しばし沈黙。


「……よく、似合っている」

「ありがとう。君の騎士の礼装もよく似合ってる。やはり社交の正装とは空気が変わるな」

「そう、だな……。こっちは騎士として出る場でしか着ないから」

「ふふふっ。つまり、そんないつもと違う君の隣で君自慢をすればいいんだな?」

「なぜそうなる!?」

「心配するな。いかに君が騎士として素晴らしく国のために尽力し陛下の御代に貢献しているか、このわたしが語り尽くしてやろう」

「やめろ! なにもせずに大人しくしていろ! 余計に何を言われるか分からん!」


 ギルベールは今日も元気なようだ。よろしいよろしい。

 待ち受けるものに気乗りしない顔をしがちな彼だ。少しくらいは元気になれる要素が傍にあるのだと知ってもらわないと。


 盛大なため息をついた後、ギルベールはくるりと身を翻す。


「そろそろ出発するぞ」

「そんな時間か。では皆、いってくる」

「「「いってらっしゃいませ」」」


 準備をしていると時間が経つのが早い。少々驚きつつもギルベールとともに部屋を出る。


「第九師団の面々は出ないんだったな。式が終わったら様子を見にいけるか?」

「夜会の準備はいいのか?」

「少しくらいなら問題ないだろう」

「……時間がとれそうなら」


 普段から騎士団の者と会う機会はそうない。しかしせっかくできた縁だ。時折しか結べない希薄なものにしておくのは少々もったいない。

 勿論、あくまでギルベールの妻としてであり、国家戦力としてわたしが使うことはできないから個人交流に留めておくけれど。


「……頼むから大人しくしてくれ」

「君は毎度そればかりだな」

「毎度守られていない気がするんだが?」

「そうか?」


 そんなことを言い合うわたしたちを使用人たちが笑顔で見送ってくれた。






「はあ……。旦那様と奥様がああして仲睦まじくされる日が来るなんて……。感慨深いわ」

「ええ。本当によかった……。奥様は以前と雰囲気が変わられたけれど。いいわね。旦那様も奥様とお話されているときは見たことない表情だもの。騎士団ではああなのかしら? だとしたら、奥様が思い切って旦那様にお近づきになられた成果よ、きっと」

「お似合いだわあ……。獣人は――なんて言う人もいるけれど、奥様全然そんなこともないし、労いも感謝もくださって、そのへんの夫人や令嬢なんかよりずっと素敵! 雰囲気に呑まれちゃう!」

「本当に。辺境領から戻って、騎士たちに混じって剣術の鍛錬をなさってたわ。そのお姿も凛々しくて……」

「奥様が皆を変えていく……!」

「奥様すごいっ!」




 ♢




 城にある謁見の大広間。

 授与式なんかの際にこの場が使われ、玉座に陛下、その隣に妃殿下、一段下の左右に王子王女の面々が立ち、広間の左右には国の重鎮や貴族たちが立つ。


 天井は遥か高く、大きなシャンデリアが吊り下げられている。二階部分にあたる左右の大きな窓からは燦燦と日の光が降り注ぎ、光だけでシャンデリアを煌めかせ、光の筋は玉座の後ろにある王家の紋を神々しく照らす。

 壁には紅色の生地に金糸の刺繍が施された垂れ布がいくつも並び、床もまた同じように紅色だ。


 長いように感じる、中央へと歩むべき進路。左右から感じる視線。


 堂々と歩むのは先の戦に向かった第二、第三、第九師団の師団長、各副師団長と代表騎士が数名ずつ。わたしがいるのは第九師団の中だ。

 騎士に混じるわたしは確かにおかしなものだろう。もしかすると、わたしが同行したことを知らぬ下っ端もいるのかもしれないが……知らないのは為した事のほうかもしれない。


(とはいえ、噂程度にでも出ているだろうと思うが……)


 眉唾ものだと思われている可能性もある。まあいいけど。


 玉座からは充分に距離をとり跪く。陛下の傍にいる側近か、それともこの式典の責任者か、それらしい男性の声で授与式が始まった。


 今回の戦。敵を最前線で止めた第九師団がその功績の大半を占める。とはいえ、それでは均衡がとれない。

 資金や物資面で奮闘してくれたボルダッツ第三師団長を筆頭とする第三師団。中隊として全体を把握しつつ、適時応援や後方支援に回ったバートハート第二師団長率いる第二師団。彼らにもそれぞれ褒賞が与えられる。

 騎士団が向かう以前から奮闘していた国境兵たちにも同様だ。前線で活躍した者は昇進するだろう。

 そして最大の功労部隊といえる第九師団。師団全体として予算アップと個々に特別手当が授与される。

 均衡をとるとはいえ、褒章内容は異なる。それは為したことへの当然の報酬だ。


 それらの内容が明瞭に宣言され、師団を代表して師団長たちが一歩前へ出て膝をつく。

 ギルベールの守護獣はギルベールの足元で大人しく床に足をつけて立っている。移動の際にはギルベールの歩幅に合わせられないからてててっとちょっと足早になり、ギルベールが心なしか足取りを緩めているようにも見える。それを見たアンシェ王女が頬を緩めている。


 褒賞を授与すると読み上げられ、歩み出た師団長たちは頭を垂れた。


「「「謹んで拝受いたします」」」

「うむ。各師団、今後の健闘を期待する」

「「「はっ」」」


 騎士団への授与が終わった。次はわたしだ。


「シルティ・ロザロス夫人。前へ」

「はい」


 前へ。ギルベールたちが授与を受けたその場まで歩み出て跪く。

 周囲から刺さる視線など気にならない。堂々と、けれど視線は下げたまま楚々と。


 御前で跪いたわたしを見てから、その功績が読みあげられる。


「シルティ・ロザロス夫人。戦地において強力な力で味方を援護したのみならず、敵将の一人ドロブスを討ち取りしわが軍への貢献。見事である」


 貴族たちから少し騒めきが聞こえた。おそらく、わたしがしたことをそれほど詳細に知らなかったのだろう。


 貴族の多くは獣人への蔑視が根強い。正確な情報が渡っても、それをありえないと一蹴する姿が容易く想像できる。

 戦地で戦う者でなければ、真に獣人のことを知ることはない。


「シルティ殿。此度はファルダ国との仲介も見事に果たしてくれたと聞いている。そなたを向かわせて正解だった。ギルベールとともに、今後も我が国のため尽力してほしい」

「感謝するわ。シルティさん」

「本来なら、そなたには第九師団に劣らぬ褒章を授けたいところだが……」

「お心遣いに心からの感謝を。陛下。わたしに故国の者に息災なことを伝えさせてくださり、それだけで、充分にございます。夫ギルベールが身命を賭して守り尽くすこの国と王家と民のため、わたしも夫とともに力の限り尽くす所存にございます」

「そうか……。そなたがそれでよいと言うならば」


 頭を下げて告げ、自分がいた場所まで戻る。

 わたしに褒賞はない。貴族たちからこそこそと言い合うような声や空気を感じつつも、授与式は粛々と終わった。


(堅苦しいのは疲れる……)


 そう思いながら外へ出ると、ボルダッツ師団長は鼻を鳴らして先に第三師団の騎士を連れて去っていく。そして、ギルベールと一緒にバートハート殿が後ろに部下を連れてわたしの傍にやってきた。

 ギルベールを見てわたしは腰に手をあてて堂々と告げる。


「どうだ? ちゃんと大人しくしていただろう?」

「威張るな。陛下の御前でなにかしてみろ首が飛ぶ――……やめろ。想像だけで胃が痛くなる……」

「こら師団長。そんなことでどうする」

「あなたにだけは言われたくない!」


 心外だ。顔に出すわたしにギルベールは眉根を寄せて非常に不服気だ。そんなわたしたちを見てバートハート殿が「ハハハッ!」と軽やかに笑っていた。


 その後、第九師団に顔を出して軽く挨拶をしてから屋敷へ戻った。帰宅早々から夜会へ向けて忙しい準備に振り回されたのは言うまでもない。

 ……疲れた。






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