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落ちこぼれ公爵の守り獣  作者: 秋月
第二部

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3,放り込むから頑張って

 ♢




 彼女にさして動きも見えないまま日が過ぎていく。その日の流れを証明するように勲功の形がみえてきた。


「三日後に勲功授与式があって、一月後には御前試合か。しばらくは社交になりそうだな」

「……そうだな」

「あまり気乗りしない?」

「……」


 俺の表情はどうなっているのか、笑う彼女を見ているとなんとなく想像できてしまう。とはいえ、こうなってしまうのだから仕方がない。

 三日後の勲功授与、俺には報奨金が授与されることになっている。比較的規模は小さな戦だったのでそれほど大々的に目立つものにはならないだろうとは思っていたが、聞いたときにはほっとした。


 正直なところ、授与式よりもその後の夜会がため息の原因だ。

 当然だが、隠形したがらない俺の守護獣も同伴することになる。そうなれば皆の目に触れる。陛下も同じように存在しない姿の守護獣を持っているとはいえ、俺と陛下では向けられる目がもとから違う。


「あなたへの勲功は本当になにもなしでよかったのか?」

「いい。夫婦で国から金をもらうつもりはないし、わたしに与えるなどどいつも嫌がるだろう」


 ……否定できない。

 今回の戦のことは当然報告がされている。――彼女の活躍も。


 獣人もまた守護獣のように力が使える。それは俺も知っていたが、彼女が複数属性の力を使えることは知らなかった。

 そして彼女自身、それを伏せている。


(報告は戦の概要についてであり、往路での光属性による馬の行軍はガードナーと俺しか知らない。彼女が使った力は火の力のみ――……としろというのが、勲功なしの交換条件だったとはいえ、わざわざ陛下を通して勲功に口出す羽目になるとは……)


 無論、陛下にだけは本当のことを報告しているし、それは彼女も承知だ。

 獣人は複数の属性の力を使える。――今はまだ秘しておいたほうがいいというのが、俺と陛下の結論だ。


(とはいえ、獣人と組んだ他の隊からはそんな話を聞かなかったからこそできたことなんだが……。やはり獣人たちも隠しているのか?)


 戦闘においてかなり有利な特性だ。だからこそ隠したいというならそれは理解できる。


 彼女が決めたことなら余程に外れたことでない限り止めるつもりはない。……そう簡単に止まる人でもないのはよく理解している。

 息を吐いた俺に、彼女はテーブルの上の菓子を一つ手に取ると、その視線を控えるメイドへ向けた。


「ロイジー。わたしは後で兄の元へ行くから、渡したい物があれば持ってきなさい」

「はい! ありがとうございます、奥様」


 兄に渡したいものがあるのか、ロイジーが早速部屋を出ていった。


 およそ二月前に屋敷へ来た三人はそれぞれに進路を決めた。

 その中の一人ロイジーは現在、この屋敷でメイドとして働いている。当然だが、ロイジーを守るために正式に雇用契約を結んでいる。住み込みの仕事で休日でもない限りは外出しないが、狙われる危険性を伝えた上で、外出には護衛騎士を二名以上つけている。

 ロイジーはその条件に申し訳なさそうだったが「君の兄を安心させてやりなさい」との彼女の言葉で、外出時はちゃんと彼女に許可を得ているとのことだ。聞き分けのいい娘で助かっている。


 ロイジーの雇用に関して兄妹でなにか話でもしたのかロイジー自身が決めたのか、詳しくは知らない。だが、雇用という形を選んだことで雇用主は俺となった。

 雇用条件に関して、ロイジーは読み書きができないとのことだったので兄であるアラン同席のもとで、アランに雇用契約書を読んでもらった。俺が読むよりも安心だろうと思って。

 以前の契約については読めないロイジーにはさっぱり内容が分からなかったようだが、今回アランが読んでくれたことで安心し、分からないことはきちんと質問もしてきた。アランが紙に書いた自身の名前を真似して署名し、契約は成った。……以前の契約書はおそらく彼女の手にあるか燃やされたか、俺もどちらか知らない。


『仕事内容に読み書きの会得も入れるか? 講師を雇わずとも使用人たちで教え合えるだろう』

『そ、そそそそんなことまで……!?』


 ……非常に恐縮したように手と首が振られた。ある程度仕事に慣れれば、仕事中に学べる環境を作れないかと思い、セバスにもそう伝えてある。


「……そういえば、あの二人は山で修行中だったか」

「うん。あの山は獰猛で気配にも敏感な動物が多いから襲われるだろうが、まあ、頑張ってもらおう。後は自給生活とおいおいの戦闘訓練かな。ふふっ。育て甲斐がある」

「……」


 ……不憫な。

 生死を分けた修行を課され、昼夜問わずに襲撃に備え、己の身を己で生かしながらも死にそうな訓練が今後も続く……。さすがに騎士団でもそこまでしないぞ……。


 一月ほどで怪我も治り動けるようになった二人。当初はその回復力に俺も驚いた。しかし問題はないようなので口はだしていない。

 そんな二人は怪我が治って早々、山へ連行された。


 暗部というものは相当な教育を施されるものなのだろうが、彼女のそれはどの程度になるのだろうか……。


「……俺なら逃亡を図るだろうな」

「問題ない。山を出ようとすれば罠に捕まるから。先日はゼノンが引っかかっていたから放り込みなおした」

「……」


 ……憐れ。逃亡すら許されないとは。

 彼女の掌に乗ってしまった以上、捨てるかどうかは彼女が決めるというつもりだろう。……末恐ろしい。


「今夜は帰らないからそのつもりで」

「二人のもとへ?」

「うん。ちょっと寝込みを奇襲してくる」

「……他の男の寝込みを襲うと言われて男のほうを憐れに思うことになるとは」

「ん? 焼いてくれたなら嬉しい」

「俺は奇襲など受けたくない」

「そうか……。順番を間違えていたな。分かった。今夜は君の寝室に――」

「なっ……! 断る!」






 ~*~*~*~*~*~






 朝から準備をし、鏡に映るロドルス国風のドレスをまとった自分を見る。

 ファルダ国の物には肩を出すような物はなく、腕もグローブで覆うのが一般的だそうだ。対してロドルス国は肩や腕も肌を出す物が多い。当初は戸惑ったとシルティの日記には書いてあった。


(獣人としての性かな。無防備すぎるのはどうにも落ち着かない)


 心が感じるのは、おそらくシルティが感じていたんだろう頼りなさ。わたしとしては前世のおかげか、心が少々落ち着かずともそれは抑えられる。

 とはいえ、今回は正式な国の式典。派手なものは好まれないし、場に合うものでなければいけない。

 スカート部分は柔らかく広がり、幾重にも布地が重ねられている。ファルダ国は尻尾があるからあまりスカート部分が広がるものはないらしい。……だからなのか、どうにも腰下が落ち着かない。


 鏡を見て他人事のように感じるが、着替えを手伝ってくれたメイドたちはほぉっと息を吐いている。


「奥様のすらりと高い背と凛々しい立ち姿……」

「柔らかく落ち着いた薄緑の清楚なドレス。それに合わせた、誉の場に相応しい金糸の刺繍。派手になりすぎずそれでいて陛下の御前に出るに相応しく! 旦那様の黒を合わせられないことだけが惜しいですわっ……!」

「ご安心ください奥様! 夜会ではしっかり旦那様の色を加えますので!」

「う、うん……。そこは任せる」

「「「お任せください!」」」


 使用人一掃の一件から、屋敷に残っている使用人たちは獣人にも大して侮蔑を向けることのない者ばかりだ。わたしも必要なことはちゃんと伝えているからとくに不便も不快も感じることはなかった。

 それが少し変わったのは、辺境から知り合いの使用人たちを雇い、ギルベールが使用人たちに声をかけるようになってからじゃないかと思う。知り合いがいれば声をかける。自然なそれは屋敷に残った面々にも次第に適応されるようになったようだ。


 ギルベールにとって、ただ知り合いに声をかけていったことによる偶然の産物なのか、それとも、教訓として行っているのか、それはわたしにも分からない。

 だけど、引くべき線をきちんと引いているなら問題はないだろう。


 そんな使用人たちとの関係は、ギルベールの守護獣のおかげでさらに縮まった。証拠に、辺境領から戻って以降メイドたちは非常に楽しそうにしている。


(あの子がすぐに使用人たちを虜にしたおかげで視線も以前とは変わった。……とはいえ、見送りも出迎えも茶の時間もわざわざわたしに勧めず、好きに見にいってくれればいいんだが)


 メイドたちから「そろそろ旦那様がお帰りですね」「お出迎えに行きますか?」「旦那様も奥様とお話していると楽しそうです」なんてことをよく言われる。わたしが動けば動きやすいし、おだてておこうとするのは理解するが、わたしもギルベールも別に咎めないんだけどなあ。

 ギルベールの守護獣には皆が「可愛い~」のオンパレードだから、今度愛でる会でも開催させたほうがいいだろうかと少々悩んでいる。今度ギルベールにも意見を聞こう。






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