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落ちこぼれ公爵の守り獣  作者: 秋月
番外編2

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後日談 世界を広げろ その7

 ♢




 あれから日が経った。

 守護獣についてはなにも進展はないけれど、私はあの騒動の翌日にラースと一緒に街を回ってお礼を伝えにいった。……ラースに「行くぞ」って連れ出されたから、仕方なく。


『おお! 元気そうだな、よかったよかった!』

『盗賊捕まえたサルヴェルとラースに見つけてもらったんだって? 遭遇しなくてよかったなあ』

『もう迷っちゃだめだよ? 迷子になりそうだったらあたしらに聞きな!』

『ははっ。迷子になっても総出で探してやるさ!』


 ……私、迷子になったって思われてるんだけど。

 ちょっといらっとしてラースを睨みつけたらわざとらしく逸らされた。絶対スワダント商会の奴らの仕業だわ。


(にしても、本当に人間も獣人も声をかけてくるんだから)


 お礼に回ったときのことを思い出してため息が出る。

 でも、体は動かす。今は商会内の荷物の整理中。納品日の近い物を出したり、午後に持っていく物を荷馬車に積んだり、皆も動き回ってる。


「おら嬢ちゃん。もう二箱くらい乗せねえと終わんねえぞ」

「乗らないわよ」


 この腕で運べるのは一箱だけなの。筋肉だらけの人とは違って箱を重ねて四箱も五箱も持てないの。


「いきなりごめんだけど追加注文入りましたあ!」

「そういうの安易に引き受けるなって言ったじゃない!」

「はいっ、今日も嬢ちゃんの元気いただきましたあ!」


 は、腹立つ……!

 言うだけ言って逃げだす男に怒ってると、なんでかどいつも笑うからまた腹立つ。


 腹立たしくなりながら荷物を運んでたとき「嬢ちゃん」って声をかけられた。

 山積みの紙の山に囲まれてるヒュリオス。商会の一人が「ヒュリオス今日それ終わらせるまで寝ちゃだめね」って言って、ヒュリオスが「……マジか」って絶望してたのは今朝のこと。


(山、あんまり減ってないわね)


 あれじゃ今日は寝られないんじゃない? ヒュリオス、最近隈がひどいわよ。手伝ってあげない――……違った。手伝えないの。私新入りだから。


「なに?」

「嬢ちゃんの守護獣の件だが、辺境領(こっち)へ来る前、王都で最後に守護獣顕現させたとき、何かしたか?」

「なにかって……」


 最後に守護獣を顕現させたのは――……。


「……ロザロスの…」

「えーっと、公爵様? 奥様?」

「……」

「あ、うん。その顔は奥様だな」


 勝手に読み取らないでほしいわ。合ってるけど。

 ヒュリオスの目が「で?」って言いたげに私を見てる。他のメンバーも気にしてるように私を見てるのを感じる。


「…………た…」

「ん?」

「……攻撃、しかけた……」

「「「……」」」

「嬢ちゃん……――あの奥様に攻撃とか、やるな」

「奥様一度見たことあるけど、ありゃ手出ししたらやべえって人だろ。やるな」

「感心したふうに言わないで! してないわよ! してやろうかって――……思っただけで、でも! 守護獣がしなかったの! がくがく震えて!」


 どいつもこいつもしみじみとした変な目をこっちに向けないで!

 私が声を大に言っても全然堪えた風がない。どいつもこいつも、私が口利いてやるようになった途端親しすぎるのよ。私貴族なんだからね。


 大きく息を吐いてると、ドンッて音がして視線が向いた。

 ヒュリオスが、机に頭を打っていた。


「ちょっ、なにやってるの!?」

「いや……。嬢ちゃんのこの件、ちょっと奥様に知恵借りるわ」

「はあ!? なんで!」


 嫌よあいつにだけは知られたくない!

 是が非でも止めてやろうって口を開こうとする私に、ヒュリオスは顔を上げて私を見る。


「獣人ってな、守護獣に詳しいんだ」

「……なんでよ。獣人は守護獣なんて持たないじゃない」

「そう、持たない。でも詳しい。ロザロス公爵様の守護獣知ってるか?」

「ええ」

「あれ、獣人は気づいてた。公爵様自身が守護獣を知るより先に」

「は……?」

「獣人と守護獣ってなにか繋がりがあるんじゃねえかなって、俺は思ってる」


 獣人が守護獣と……? でも、ならなんで獣人は守護獣を持たないのよ。

 よく解らない。でも、もしそうなら、あの女がなにか知ってる可能性はある。――あの女、獣人たちの頂点に立つ王族の姫だもの。他の奴らが知らないことを知ってる可能性は、ある。


「……つまり、あの女が何かした、ってこと?」

「いくら獣人でも他人の守護獣にどうってことはできないと思うが、あの奥様だから。なんか知ってるかもしれない」

「……分かったわ。手紙でも書くの?」

「ああ。早馬飛ばして聞いてみる。それから……」

「?」

「家族に手紙、届けたいなら届けるけど、どうする?」

「!」


 身体が固まって、でも胸の内には喜びが生じる。……自分のことなのに、どこか離れたものをみるように、そう感じた。


 おじい様やお父様、お母様に手紙……。書きたい。

 書きたい。けど――……。


「今はいいわ。でも……元気にしてるってくらいは伝えたいから、あなたが何か書いておいて」

「……。あいよ」


 どうしてか、ヒュリオスは微かに口端を上げて了承した。


「おい、新入り」


 商会の扉から顔を出したのは、私の教育係のラース。

 今日は朝早くからあちこち出てて姿を見てなかった。……いいんだけど。どうせ商会内の仕事だし。


「その呼び方、どうにかならないの?」

「今はならないな。それより出るぞ」

「……今日はどこ?」


 毎日あちこちへ行く。それは……少しだけ新鮮で、悪くない。

 最近そう思えるようになってきた。


(知らないことを知るって、こういうことなのよね。きっと)


 知らない人と会うこと、一から関係をつくること。獣人と話をすること。荷を仕入れること。交渉すること。売るための手段。

 知らないことが、私には山ほどある。


 荷積み作業を止めてラースの側へ行くと、彼は身を翻しながら私を見て言った。


「市場と砦、ファルダの商隊と交渉。突っ立ってないで学べよ」

「分かってるわよ」


 これまでずっと立ってるだけで学ぶつもりもなかったから、私がなにも学んでないって知ったラースが「おまえの教育計画を見直さなきゃならなくなっただろうが」って怒ってた。……声を荒げないから、怒ってるときのお父様みたいで、ちょっと苦手。


 怒られるのは嫌だから、学ぶ。

 勉強は嫌いじゃない。淑女教育だって、侯爵家の娘として相応しくあるために頑張った。

 だけど商人のいろいろなんて貴族教育にはなかったことだから、正直、分からないことが山ほどある。

 でも、本を引っ張り出してるとラースだけじゃなく商会の他のメンバーもいろいろ教えてくれる。……そういうお人好しばっかりなのよね、スワダント商会って。


「私が学べる仕事をしなさいよね」

「不足だらけがよく言う。ちっとは知識つけてから言え」


 鼻で笑うようにそう言ってラースが荷馬車に乗り込む。その隣に私も乗った。

 すぐに荷馬車が出発する。


 今はもう、この乗り心地の悪さもあまり気にならない。






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