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落ちこぼれ公爵の守り獣  作者: 秋月
番外編2

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後日談 世界を広げろ その2

 ♢




 ここに来て数日が経った。


 生活している場所は商会の二階。同じようにここで生活している者もいる。だけど、部屋は狭いしベッドは固いし、ろくな環境じゃないわ。

 朝は早くに起きて粗末なご飯を食べる。それからはラースに連れまわされる。時々ヒュリオスが様子見にくるけれど、動いてるラースから少し離れてこっちを見てるだけ。


 スワダント商会の動きはある程度分かるようになってきた。

 スワダント商会は規模も小さいし人もいない。その割に扱う品が多いから、いつも全員が動き回ってる。


(馬鹿じゃないの。身の丈に合ったことをしなさいよ)


 いつか潰れるわね。この商会。

 欲を出しすぎなのよ。なにもかもに手を出せばいいってものじゃないでしょうに。


「行くぞ」


 不本意な命令。だから無言で後に続く。

 そんな私なんて気にせずにラースはさっさと動く。他の奴らの視線だけは背中にしっかり感じた。


『あの娘さん、大丈夫か?』

『さあ。ヒュリオスが引き受けてきたことだしな。体よく押しつけられた感じだけど』

『でも、なんで奥様はこっちに預けたんだろうな? 貴族のお嬢さんならお屋敷で奉公させるとかあるだろうに』


 なんて、言ってるのも聞いた。


(私が知りたいわよ。帰りたいし)


 こんなところ、いたくない。

 いつか絶対逃げ出してやる。王都に帰って、そしたらきっとおじい様もお母様も仕方ないって言ってくれるもの。


 ラースは荷馬車に荷物を積み込むと御者台に乗った。その隣を私に示す。……仕方ないから、隣に座った。

 そうすればラースがすぐに手綱を捌いて、馬を歩かせる。


 舗装されている道を荷馬車が進む。私たちの間に会話はない。


「これから砦に向かう。国境を守ってる場所で、数か月前にあった戦で人員を出した場所だ」


 その戦なら私も知ってる。……ロザロス公爵が指揮をとって、あの獣もどきが勲功を授与されることになった戦。


 ラースはそれ以上をなにも言わずに荷馬車を進める。

 荷馬車は舗装された道を終えてむき出しの土の地面を進む。がたがたしていて乗り心地が悪い。

 思わず体に力が入って、舌を噛まないように奥歯をかみしめた。






 砦というものは初めて見た。

 近づくほどに圧迫感があって、そこにいる騎士たちを見ると無意識に体が強張る。

 彼らが国境を守っているのは理解しているけれど、王都で見る騎士とは全然違う。王都の騎士はもっと優しい感じがするもの。


 ラースは門前で騎士となにか話をして、先へと進ませてもらった。

 砦の敷地内を進んだ荷馬車が着いたのは、たぶん、出入り商会の荷物搬入用の場所。そこで馬車を止めて私たちは御者台を降りる。


「よお。ラース。久しぶりだな」

「ディザルバさん。お久しぶりです」


 体格のある年配の騎士とラースが握手をしている。

 知り合いみたいね。まあ、このあたりに拠点を置いているスワダント商会だし、辺境の砦とは深い仲だってことは想像できる。


 ディザルバと呼ばれた人は、荷馬車の側に立つ私を見て首を傾げた。


「おまえの――……娘か?」

「違いますね。どこをどうみてそう思うんですか。見えても妹でしょう」

「それもそうか。ハハハッ! 若いもんみるとどうもな!」

「年寄り装っても無駄ですよ。まだまだ現役だって知ってるんですから」


 ラースは呆れてるというより、仕方ないなってふうに柔らかい表情で肩を竦めてる。……初めて見た。あいつの表情が動いてるところ。

 ディザルバって男も失礼ね。ほんと、辺境って嫌な奴ばっか。


「で、うちからの納入品なんですが――……」

「おう」


 荷馬車から騎士たちが荷を下ろしていく。その傍で仕事の話が始まった。それはもうラースの領分だから私は知らない。


 二人の会話なんて耳から排除して、なんとなく周りを見る。

 どこからか騎士の鍛錬する声が聞こえる。……王都で聞いていたあの人の声が、なんとなく思い出される。


 だけど、思い出して、嫌な顔まで思い出した。


(あいつ、あの人に似てたのよね……。あの獣もどきの知り合いみたいだったし。うちに潜入してたのかしら)


 考えるだけで腹立たしい。だから頭を振って追い払う。

 ちらっとラースとディザルバを見れば、二人はなにか真剣な顔をして紙を見ながら話してる。


 私はただ立って待ってるだけ。退屈で仕方ない。

 そう思ってると、こっちへ走ってくる騎士が見えた。


「団長! 西の村から救援要請です!」

「第四部隊のケツ叩け! 五分で出るぞ!」

「言うと思って叩いときましたよ!」

「でかした!」


 言ってからすぐに騎士が駆けて戻っていく。それを見て、荷を下ろしていた騎士たちもそれを途中で放り出して駆け出す。

 そんな光景を呆気に取られて見ている私の前で、仕事の話をしていた二人が動く。


「悪いな、ラース」

「謝ってる暇があるなら行ってください。後のことは紙読んでくださいよ」

「了解だ」


 ラースから紙を受け取ったディザルバが動く。

 その横顔が、数秒前までとまったく違って、息を呑んだ。


 表情も、顔つきも、空気も。全部が変わった。――あの一瞬で。


 去っていく背を見ているとラースが傍へ戻ってきていた。


「この砦は国境も当然だが、西と東、南にも防衛しなきゃならない村がある。どこもかしこも盗賊なんかの被害は少なくない」

「……」

「今回はまあ、終盤まで品の確認説明と新作の推薦ができて上々だったな」


 ……終盤までできて上々? いつもあんなふうに途中で遮られてるの?

 ありえない。納入品のことで話をするだけの数十分のことじゃない。


(なにを大袈裟に言ってるのよ)


 呆れた。私にあてつけかなにかのつもりか知らないけれど、騙されはしないわ。


「荷、降ろすか。おまえもやれ」

「……」


 軽々と荷を持ち上げるラースの側で、私は重さに耐えながら荷下ろしをさせられた。






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