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落ちこぼれ公爵の守り獣  作者: 秋月
第二部

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26,生まれたときから一緒である意味

「どういうことだ?」

「つき主と守護獣は生まれながらに共にあり、その成長度合いも同じ。それを証明しているのは君と君の守護獣だ」


 彼女だけでなく騎士たちの視線も俺の守護獣に向く。

 撫でていた手が止まったことに不満があるのか、俺の手にぐいぐいと頭を寄せている守護獣。撫でを再開させれば非常に嬉しそうな顔をする。


「それは……共に成長しているから、力の制御や行使も行えるようになるということだろう? だから、二十年間いないと思っていた俺にはそれができない」

「この子は視認されずとも君の側にいた。だが成長できていない。――つまり、視認されるというのは守護獣にとって非常に重要な最初の一歩だ。それがあって初めて、共に成長の過程を歩むことができる」

「……ああ」

「そして、想像力が守護獣の力の行使になにかしらの影響を与えるとなると……」


 彼女の視線が俺を見る。

 まっすぐで、どこか確信に近いものを持っているのではないかとすら感じさせる瞳が光る。


「守護獣とつき主は、生まれながらに傍にあるというだけの関係ではなく――もっと深いところに繋がりがある」


 そう言って、とんっと俺の胸を軽く叩いた。

 微かなその衝撃に俺は僅か目を瞠る。そんな俺を見て彼女は口端を上げた。


「だから成長が同じなのだろう」


 胸に落ちた小さな衝撃が体の中にまでしみ込むように感じる。そんな俺を守護獣が不思議そうに見上げている。


「これは獣人にも近いことがいえる」

「と、いうと?」

「獣人の半身を守護獣だと想像してみてくれ。己の半身は己だ。獣人は肉体として、人間種は肉体ではない部分に己を持っている」

「それが、シルティ様が言うところの『深い繋がり』なのですね?」


 リグテールの言葉に彼女は頷いた。


 そう言われれば俺にも理解できる。

 獣人は守護獣と同じように力が使える。そしてオスカー殿は言っていた。――守護獣はファルダ国から流れたものなのだと。


(ならば確かに、獣人と守護獣は近い存在ということになる)


 肉体に繋がりを持つか、そうではない部分に繋がりを持つか。


「えーっと……つまり、どういうことです?」

「守護獣の力を正確に行使させたければ、君たちの想像を鮮明に思い描き、守護獣に伝えろ。ということだな」


 眉間に皺を寄せて思案顔だったトニスに、彼女が笑みを浮かべながら伝える。彼女の言葉には他の騎士たちも真剣に、興味深そうにしている。

 そんな騎士たちを見てから、彼女はリグテールに視線を向けた。


「守護獣への指示の内容を具体的にイメージして出す場合と、そうでなく言葉だけで伝える場合。検証してみてくれるか?」

「! やってみます」


 リグテールがすぐに立ち上がる。俺たちも気になる検証に立ち会うことにする。

 これは彼女も気になるのだろう。靴を履いてリグテールの側へと向かう。


 リグテールはすぐに守護獣であるキツツキを顕現させた。翼を広げたその守護獣はリグテールの肩に止まる。

 準備万端であるのを見て、後ろで見ている俺たちの中、彼女が告げる。


「先ほどギルベールが守護獣にやらせようとしたこと、やってみてくれ。まずは指示だけで」

「分かりました。――落ちている枝や葉を風で集めてくれ」


 リグテールの指示にキツツキが動く。

 肩から飛び立つとまずは地面を確認。翼を広げ風を生み出す。


 俺の守護獣がやったような強さの暴風ではない。そよぐ程度の風だが枝葉がふわりと動かされて集まっていく。

 リグテールの守護獣の力は決して強いわけではない。その風が及ぶ範囲はリグテールを中心に狭く、キツツキはぱたぱたと飛びながら周囲を移動して、時間をかけて枝葉を集める。

 やがてリグテールの前に集められた枝葉の小山ができた。

 肩で守護獣が「うぎゅぅ」と少々不満そうな声を出した。……これをやってほしかったのだが、やはり加減は難しい。


 一度集められた枝葉だが、リグテールが再び「散らしてくれ」と言えばぶわりと舞う。それが地面に落ちてから、彼女が「では次の方法」と続きを促す。


「やるぞ」


 リグテールは、ただそう言った。

 ――それだけで、キツツキが動いた。


 ふわりと風が吹く。先ほどよりも迷いのない、少しだけ強い風が。

 そして、再び枝葉の小山ができた。


 その結果に彼女はやはりと言いたげに頷き、騎士たちも少し驚きつつもどこか納得したような顔をみせる。


「奥様。俺もやってみていいですか?」

「俺も!」

「皆で検証してみてくれ」


 彼女の掛け声でそれぞれが守護獣を顕現させて検証を始める。属性はばらばらだが、やはりどれも彼女が言ったとおりの結果を生んでいく。

 それを見ながら、気になっていることを彼女に問う。


「……ファルダ国での訓練法か?」

「いや。ファルダ国に守護獣はいないからな。獣人の力だって幼い頃からの自己鍛錬だ。君たちとは違う」

「なら、なぜその結果にすぐにたどり着いた?」

「可能性だ。オスカーが言っていたように、守護獣というものとファルダ国獣人が持つものは、結局は同じものだからな」

「……守護獣はファルダ国から流れたもの、という話か?」


 検証中の騎士たちに聞かれないよう潜めた声に彼女が頷いた。


 守護獣とは神が人に与えた力だと言われている。人間が神から守護獣という力を授けられたなら、獣人もまた同じようなものということだろうか?

 ではなぜ、守護獣という存在と、獣人という存在に区別されるようになったのだろうか?


(ただの神話とされるおとぎ話だが……ファルダ国ではロドルス国よりも詳細な伝承があるのだろうか?)


 だから彼女は、王族である彼女は、それを詳しく知っているのだろう。

 そう思う俺の隣で、彼女が俺の背を軽く叩く。


「それよりほら。君もやってみるといい」

「あ、ああ」


 言われ、俺も前へ出る。それを見た騎士たちが己の検証をやめて下がる。


 肩に乗る守護獣を視ればその丸い藤色の目が俺を見る。そして、ひょいと地面に降り立った。


「うきゅ」

「やるか」

「きゃーう」


 やる気があるようでなによりだ。フンッと鼻息を荒くさせる守護獣に小さく笑い、俺は守護獣にしてほしいことの想像を開始した。


 ――結果。


「「「あー……」」」

「……俺の想像力が乏しいのか?」

「加減は経験でしか培えないということだな、これは」


 行動は俺の想像どおりだったが、風の加減は想像どおりにはならず、やはりあちこちに葉や花びらや枝が散乱した。そんな中で俺の守護獣が「できた」と言わんばかりに胸を張っている。


「うっきゅ」

「……ちょっと違う」

「うきゅ!?」

「守護獣に甘い。かなり違うだろう?」

「うぎゅっ……!?」






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