25,守護獣の力の訓練
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ぶわりと風が吹き、散っている草や野花が舞い上がる。どこからか木の葉や枝まで飛んできた。
そんな光景を風をこらえながら見つめ、なんとも言えない感情を抱く。
「こらー。強くさせすぎだ」
離れた場所から大して怒っていない声が飛んでくる。俺の側でそれを聞いているトニスとリグテールも苦笑いが浮かんでいる。
(そう言われてもだな……)
空を見上げればぱらぱらと草だの枝だのが落ちてくる。手で払っていると、その巨躯で飛ぶ守護獣の姿がよく視える。
ため息を吐く俺とは違い、守護獣は非常に満足げにひとつ鳴いた。
戦後処理も片づき、御前試合も無事に終了した。落ち着けるようになってやっと騎士団での仕事が非番の日。俺はトニスとリグテールに無理を言って王都のはずれまで共に来てもらった。
守護獣の力を訓練するためだ。二人は俺と同じ風属性の守護獣持ちなので助言をもらおうと考えた。
そして、それに同行したのが彼女だ。「守護獣の訓練というものに興味がある」と言ってついてきて、なにをするでもなく草の上にシートを敷いて座り、訓練をただ眺めている。
馬で小一時間ほど走った王都から離れた場所。草を敷き詰めた地面と離れて茂る木々。
喧騒から離れた静かで長閑な場所に似合わない暴風と他に見ない巨躯。地面に降り立って俺をじっと見つめる白い守護獣。
「……」
訓練を始めてまだ三十分ほどだ。しかしすでに一番近くにある樹は枝が折れているし、咲いていた野花は花を散らした。ばらばらと土や枝や葉が地面に落ちている。……少し前にこんなものはなかったんだが。
「……少しはできている、のだろうか?」
「ど、どうでしょう……」
「なんていうか、思いっきり吹かせようと思うけど師団長が抑えるように言うから抑えてる感じ?」
「「……」」
トニスがはっきりと言ってくれた。……つまり、できていないというわけか。
それを聞いて俺も項垂れるしかない。
(守護獣の力をいかに行使させるか……。指示だけ与えるというのは難しいんだな)
俺の周りでもっとも近い守護獣持ち、その力を行使させることが多いのは第九師団の部下たちだ。
俺は守護獣の力について教えられることはなかったから、そこは個人同士の鍛錬か時折合同演習をしてくれたバートハート殿に頼むことが多かった。
だから、俺自身は守護獣の力をどう使えばいいのかが分からない。
「トニス。リグテール。おまえたちは守護獣にどう指示を出しているんだ?」
「普段であれば、してほしいことを明確に告げるようにしています。例えば……枯葉を一か所に集めてほしいというように」
「俺の守護獣はいろんなことができるほど強くないんで、いつもだいたい全力です!」
その守護獣の強さによって違うのだろう。してほしいことを明確に伝えるというのは守護獣にとってもイメージしやすいかもしれない。
そう思い、試しに守護獣に同じことを言ってみる。
「まきあげた枝や葉を一か所に集めてくれるか?」
俺の指示にひとつ鳴くと――風が荒れた。再び舞い上がってばらばらと地面に落ちる。
「「……」」
「あちゃー…」
おかしいなと言わんばかりに守護獣がこてんと首を傾げている。もう一度翼を広げようとするので慌てて止める。
公爵家から連れてきた護衛騎士にも同じように助言を求めるが、どれもうまくいかない。それを見かねたのか、眺めていた彼女から「休憩にしないか?」と声がかけられた。
リグテールとトニスもともに、俺たちもシートの上に座る。俺の守護獣も小さくなってとんっと座り込んだ。
シルティの供として今日はメイドが二人――マリンとアステナ――同行してくれている。その二人の手で休憩用の茶と菓子が用意される。
俺の守護獣も待ち遠しそうにして、それを見て小さく笑うマリンが小皿に菓子をとって守護獣の前に置く。待ってましたと言わんばかりに食べる様は本当に子どもらしい。
とくにマナーなど気にしないのでトニスにもリグテールにも好きに食べるよう伝え、俺は小さく息を吐く。目敏い彼女がそんな俺を見て小さく笑った。
「守護獣の訓練というのは大変だな」
「ああ。……どういうふうに力を使えと言えばいいのか、全く分からない」
生来の守護獣持ちであるリグテールやトニスでも、俺のこの状態には助言が難しいようだ。
それとも、二十年間いないと思い込み、守護獣が成長しきれていないからなのだろうか? だとするなら、守護獣がきちんと成長できてからでなければ難しいかもしれない。
そう思って無意識にため息がこぼれると、足に微かな感触を覚えた。
視線を下げれば嬉しそうに菓子を食べていた守護獣が、不安そうな泣きそうな顔で俺を見上げている。
「大丈夫だ。少しずつ頑張ろう」
「うきゅぅ……」
撫でてやればいつも喜ぶのに、今だけは少し泣きそうだ。
そんな俺と守護獣を見て、彼女は視線をリグテールとトニスに向けた。
「守護獣の力の訓練というのは、幼い頃から行うものなのか?」
「そうですね……。子どもは多くが幼いころに守護獣の力で悪戯なりなんなりすることも珍しくありませんので、家で親が見ながら訓練させるというのがほとんどです」
「俺やったかなあ?」
「とはいえ、成長に伴い自然と守護獣と連携できるようになることがほとんどですので、日常生活外に必要な訓練となるとそれこそ騎士団のような場合でしょうが」
そういうものなのか。ということはやはり、俺は二十年分の成長不足が痛いのだろう。
守護獣の力は、強ければ強いほど日常で使うこともあまりないだろうと思われる。トニスが過去を思い出そうとしているのもおそらくそれに近い。トニスの守護獣は風属性の中でもかなり力が弱いから、おそらくは悪戯をするほどの力も、制御法を学ぶために必要な時間もさほどなかったのだろう。
「君たちは?」
「私も似たようなものです。子どものころはどうしても加減が難しく、大人になってくれば守護獣も主同様に落ち着いてきますので」
「でも、火をくれって言うだけでも思ったとおりのものをくれたりしますね」
リグテールや公爵家の騎士から彼女が話を聞いている。俺もそれに耳を傾けつつ、小皿を引き寄せてきて俺の側でむしゃむしゃ食べている守護獣を撫でる。
茶を一口飲んだリグテールが、興味深そうにしている彼女を見た。
「守護獣の力をより上手く行使するには想像力が大事だ、とも言います」
「想像力?」
その言葉には俺が聞き返してしまった。リグテールが俺を見て頷く。
「騎士の中ではとくにそうですが、戦闘中に細かな指示を出せるとは限りません。守護獣自身が独断で援護してくれることもありますし、連携をとれるよう日々訓練もします。ですが、こちらが思う行動を起こさせる一番は、主自身の想像力を守護獣が読み取ることだといいます」
「それなら確かに俺も聞きます。俺のスズメはいっつも全力だけど、どういうことをしてほしいっていうのは案外端的でも解ってくれて」
「それなら俺も経験があります」
トニスに続いて公爵家の騎士も心当たりがあるというように声を上げる。それを聞きながら、そういうものなのかとひとつ理解する。
(つまり、俺もしてほしいことを想像すれば、それが守護獣に伝わる……)
「――……なるほど。だから成長が同じなのか」
非常に納得したような彼女の声に視線を向けた。




