20,初めての試合
開始早々、俺は地を蹴った。
アルヴァの守護獣はすでにこれまでの試合で把握している。そのとおり、アルヴァの側に守護獣であるサイが顕現した。
あれは土の属性を持つ。
土の属性を持つ者でいうならばガ―ドナーの守護獣である馬もそうだ。しかし、同じ属性であっても力の強さは異なる。
ガードナーの馬は半径十数メートルの地面を隆起させることができる。
アルヴァのサイが得意としているのはおそらく、そういった力の使い方ではない。
俺が向かう先、サイが両前足を上げ、地面を打った。
瞬間、石の地面に亀裂が走り、砕ける。
その亀裂に足を取られぬように勢いを落とさず走り、剣を振る。俺の剣を受け止めたアルヴァと数度打ち合う。
視界には常に守護獣を入れる。その動きを見逃さないように。
サイが再び地面を打つ。――瞬間、石のつぶてがその周囲に浮かんだ。
それを見て、アルヴァの剣を払って飛びのく。俺に目掛けて打ち出されたそれを目で確認し、避けきれないものを剣で弾こうとして――風が吹いた。
それも瞬間的に吹き荒れる突風のようなもの。石のつぶてが別方向へ吹き飛ばされていく。
「うきゅぅ!」
突風に一瞬意識を持っていかれたが、その正体が分かればなんてことはない。
「ありがとう」
「うきゅ」
愛らしくも頼もしい返事だ。
それを受けて俺は再び地面を蹴る。
足がひび割れる地面につけば、砕けていた石が俺の歩みを阻むようにくっつき、重しとなる。しかしそんな力を、すぐさま足元に発生した風が打ち砕く。
解放された足で、俺は再びアルヴァとの距離を詰めて剣を振る。その傍でサイの石つぶてが俺の守護獣を襲っている。が、俺の守護獣はくるりくるりと軽々と飛行しながらそれを躱す。
(守護獣がいる戦い方というのは、こういうものなのか)
初めて知った。
俺には一切経験がないもので。これまですべてを俺一人で対処しなければいけなかった。
(悪くない)
第九師団の部下のように。頼もしい味方が傍にいてくれるのだ。
俺の守護獣はサイの攻撃を躱しながら、俺をこれまでのように助けてくれる。
この耳に地面に亀裂音が微かに届くことでそれを察知。足場が崩れてもすぐさま風で俺を助ける。身体がすぐにこれまでのように対処しようとするが、大丈夫だというように風が俺を包み込む。
「うきゅ。うっきゅきゅ」
まるで小躍りでもするかのように守護獣が飛んでいる。軽やかに、ひらりと。
風そのものであるかのようで。風を味方につけているかのようで。小さく愛らしい姿だが、どこかそれは本来の姿を想起させる。
サイの力を打ち砕き、俺の剣がアルヴァの首元に添えられ、勝敗は決した。
「勝者、ギルベール・ロザロス。よって第三回戦へ進むは騎士団第九師団!」
「「「おおおぉぉっ!」」」
歓声が上がった。最初こそ守護獣に阿鼻叫喚であったが、観客が沸く試合はできたようで少し安堵する。
俺の肩に乗った守護獣が嬉しそうに鳴き、すりすりと頬にすり寄ってくる。
「……それ、本当に最初のあれなんですか?」
「ああ。そう見えないと思う気持ちはよく分かる」
アルヴァはどこか信じられないような、疑わしいと思っているような目で俺の守護獣を視る。それに対して守護獣は「うきゅ」と胸を張っている。
「第九師団のギルベール様は落ちこぼれ。それがまさかあんな守護獣持ちだったとは」
「うぎゅぅ……」
「な、なんか怒ってます?」
「どうともない。そう怒らないでくれ」
落ちこぼれ。それに反応したのか俺の守護獣がアルヴァを睨む。なんとか宥めれば仕方がなさそうに睨むのをやめ、肩から降りてサイの頭に乗った。「うきゅうきゅ」となにかサイと意思疎通を図っている。
それを見て、アルヴァは大きく息を吐いて俺を見た。
「守護獣がすべてだとは言いませんが……苦労しますよ。あれじゃ」
「ああ。俺はまだまだ未熟だからな」
「それもですが……。まあ、いっか」
「?」
少しだけ悩まし気な顔をしたアルヴァだが、ふるふると首を振ってから身を翻した。
「次も頑張ってください。それから、次回もぜひ試合できることを祈っています」
「ああ。こちらもだ」
サイの頭から俺の肩に戻ってきた守護獣と共に、俺も第九師団のもとへと戻るため身を翻した。
♢
第三回戦へ進んだ第九師団だが、次の試合で激突した第六師団にこてんぱんにされて敗北した。試合も三戦だけ、つまり一戦も勝つことができなかった。
その結果に第九師団の面々は心底悔しがっていた。第六師団は強力な相手なのでこの結果も無理はないが、「次は勝つ!」と意気込んでいる面々の心意気には俺まで触発されてしまう。
「いやあ。他の騎士も観客も驚いてましたねえ。師団長の守護獣に」
「そりゃ驚きますよ。俺も初めて視たあのときは腰抜けるかと思いましたもん!」
「あれはなかなかの迫力だからな。二度目とはいえ鳥肌が立った」
……少々居心地が悪い。
俺はそう思うのだが、俺の肩に乗る守護獣は「そうだろう!」とでも言いたげになぜか誇らしげだ。……阿鼻叫喚にあれほど不機嫌だったのに。
試合が終わった俺たちは第九師団用の天幕に集まっている。
御前試合はすべての試合が終了し、騎士団長直属隊が優勝した。あそこは猛者揃いなので妥当な結果だった。
「今回は決勝が騎士団長直属隊と近衛隊第一部隊だったなあ。準決勝で団長のトコと第一師団があたったからどっちが決勝出てもおかしくないと思ったけど」
「やっぱ強いよなあ。団長のトコ」
「いやいやいや。うちの師団長の守護獣が最強」
「「「俺も思うわ~」」」
……あまり言わないでほしい。
俺の守護獣がさらに得意げになっている。……ひっくり返るぞ。
「あまりそういうことは言うな。俺が目立つのはよくない」
「はーい。でも、次の御前試合じゃ、師団長も守護獣と一緒にもっと戦えますね。きっと」
「……そうなれるよう努力しよう」
守護獣を視ると、なんとも嬉しそうな顔をして「うきゅうきゅ」と鳴きながら俺に短く太い腕を伸ばしてきた。抱っこをせがむときの行動なので、俺は守護獣を持ち上げ、膝に乗せた。
嬉しそうにしている守護獣に団員たちも頬が緩んだとき、天幕の外がにわかにざわめいた。
「なんだ?」
イーサンが怪訝としたとき、垂れ布が勢いよく開けられガードナーが入ってきた。
「どうした?」
「師団長。陛下がお見えに」
聞いてすぐ、俺たちは天幕を出た。
参加隊の控え天幕は大広場の裏側に点在している。場内にも部屋はあるが、貴族の観覧用に個室を幾室も使っているので参加隊分までは補えない。騎士は試合の被害が観客席に及ばないよう警備面も担っているので、待機場所さえあればさして問題ない。なので、天幕という形がとられている。
そんな騎士しかいない場所に国王陛下が護衛を伴い現れた。周囲の騎士たちも片付け中だったのだろうがその手を止め、慌てて跪く。
天幕を出た俺も後ろに第九師団の部下を従え、迷いなく陛下の前に膝をついた。
陛下は騎士たちを見回し、悠然としたまま告げる。
「皆の者。実に見事な試合だった。日々のそなたらの研鑽をこの目で見ることができ嬉しく思う。そなたらがいればこの国は安泰だ。また次回も楽しみにしている」
「「「はっ! 身に余るお言葉にございます」」」
わざわざ労いの言葉をかけにいらした……わけではないだろうな。
陛下は騎士たちに解散を告げると、その足でこちらへやってくる。その目が興味津々に俺の肩に注がれているので、ああやはりな…と思う。
(あまり周囲を刺激なさらないでほしいんだが……)




