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落ちこぼれ公爵の守り獣  作者: 秋月
第二部

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18,第九師団の戦線

 第一試合は五戦とも行われ、第六師団が勝利した。王族観覧席から惜しみない健闘の拍手をフィリーシア妃殿下が送っているのが見えた。

 そして第二試合も終了。第三試合が進行役によって宣言される。


「第三試合。騎士団第九師団、対、近衛隊第四部隊」

「い、いよいよ旦那様の番ですね……! なんだか緊張しちゃいます」


 リアンの拳にも力が入っているようだ。ハインは少しだけ気づかわしそうに舞台を見ている。

 進行役が第一戦から順に戦う騎士たちを紹介する。


「第一戦、騎士団第九師団トニス・クミルトン。近衛隊第四部隊ジョーン!」


 名前を呼ばれた騎士が中央に出る。堂々と胸を張って相手を見据え、この瞬間から戦いは始まっていると言いたげに。

 トニスのそんな表情は悪くない。まだまだ若いとはいえ頼もしくもある。


 第二戦は第九師団からはイーサン、第三戦はガードナー、第四戦でリグテールが続けて紹介される。

 それを見て少々考えた。


(他師団なら参加者は部隊長格でそろえることもあるだろうが、やはりギルベールはそうしないか……。副官君とリグテールはともかく、最初の二人に経験を積ませることが狙いかな)


 第三戦や第四戦に経験の浅い者を据えると、重圧を感じることもあるだろう。そして経験にならない可能性もある。かといって全員を平騎士にしてしまうと、やる気がないだのなんだと言われかねない。

 最初に負けても後で取り返す――というふうに見せられるということだろう。


「第五戦、騎士団第九師団ギルベール・ロザロス。近衛隊第四部隊ブライアン・シェルバン!」


 歓声――……ではなく、少しのざわめきと動揺。

 民の間にあるロザロスの名と反逆者王弟の情報のせいか、それともギルベールの肩に乗ってやる気いっぱいで背を伸ばしている守護獣のせいか。

 ギルベールは全く気にした様子なく歩み出て、近衛隊のブライアンは少々眉根が寄っている。


「ふふっ。従者君、眉間に皺が寄っているぞ」

「……失礼しました」

「それでは第三試合を始める!」


 進行役の声に従い、第一戦を戦う者だけが残りあとの者は下がる。

 舞台には戦う二人と審判役のみ。そしてその審判役が勢いよく腕を上げた。


「第三試合第一戦、開始!」


 トニスの側に守護獣のスズメが顕現する。つき主を助力するため、ぱたぱたと小さな体で飛び立つ。

 相手騎士ジョーンもまた守護獣アザラシを顕現させる。


 守護獣には剣で攻撃しても効果はない。攻撃を放たせない程度の一瞬の時間稼ぎにしかならず、守護獣と戦えるのは守護獣だけ。

 トニスのスズメとジョーンのアザラシが、風と水を同時に放つ。が、力の弱いスズメの風を水が打ち破った。


 その瞬間を狙いトニスが前へ出る。

 すぐさま距離を詰め、剣を打ち出す。相手も冷静にそれに対処。


 近衛隊騎士だけあって防御がうまい。トニスも日々ギルベールにしごかれているんだろう、剣で攻撃しつつも相手の守護獣を意識しているようだ。


 守護獣はその姿を模している動物とは違い、人間と意思疎通が図れるほどに賢い。

 指示を受けてそれを実行、日々鍛錬していれば言葉なく連携も可能だという。


(第九師団は守護獣の力の弱い者たち。それにギルベールが守護獣なしであったから、守護獣の力の鍛錬や連携に関しては他師団よりもできていない)


 そこが第九師団の課題だろう。


 そう思いながら見ていると、スズメがアザラシに押された。小さな体を生かしてうまく逃げていたが、一撃食らってしまったようだ。

 トニスは一瞬息を呑みつつも、視線をすぐに相手に戻す。


 ――いい判断だ。相手に隙を与えてはいけない。

 そういうことはギルベールの指導あってこそだろう。


 観戦しているギルベールの守護獣のほうがショックを受けたようで「うぎゅっ!?」という悲鳴と動揺している様子がわたしの目に映った。ギルベールが安心させているようだ。なかなか面白い。


 アザラシはその身でスズメの動きを封じる。スズメは小さな体を封じられながらも頭を必死に動かしているけれど、自力で抜け出すのは難しそうだ。

 トニスは落ち着いて相手の剣に対処している。攻撃の手はトニスのほうが多い。決して悪くない。


 数度の打ち合い。観客の目も守護獣の目も、剣を打ち合う騎士たちに向く。

 ――瞬間、アザラシの守護獣が痛みの声を上げた。


 ばさばさと翼を打ち、スズメはアザラシから逃げる。すぐに追いかけようとするアザラシだが、スズメはその小さな体で必死に飛ぶ。


(進行方向は相手騎士がいる場所。スズメの飛び方がうまい)


 おそらくギルベールの指導だろう。

 守護獣はつき主を助ける故、つき主がいると攻撃を迷う。それが可能になるには相応の訓練が必要だろう。


 トニスと打ち合っていたジョーンはすっかりスズメの存在など忘れていただろう。いきなり視界に入ってきた存在に意識がそれた。

 その瞬間を、トニスは見逃さない。剣が鳴り、相手の手から抜け落ちた。


「勝負あり! 勝者、第九師団トニス・クミルトン!」


 観客から歓声が沸いた。

 トニスも集中していたんだろう。勝利宣言を受けて大きく解放的に息を吐き、守護獣のスズメに声をかけてねぎらっている。そのままジョーンに手を差し出すが、その手を払われる。


(第九師団の騎士に負けることがそれほど恥か……)


 そんな様子を見ていると馬鹿馬鹿しくて笑ってしまいそうになる。


「すごい! スズメちゃん頑張りましたね!」

「小さな体をうまく活かしているように思えます」


 リアンもハインも普段騎士の鍛錬や試合を見ることがないから感嘆の声を出している。わたしも非常に感心した。


 トニスはまだ若い。過日の辺境領での戦も、最初はどこか緊張した様子だった。

 だが、ギルベールが団員を気にかけてしかと目を向け声をかけたおかげか開戦時には体に余計な強張りもみえなかった。あの経験を得てからの成長は目を瞠るものがある。

 あの戦場を経験した第九師団の面々の鍛錬をここしばらくずっと見学していたが、トニス同様にそう感じた者が少なからずいた反面、戦を経験したからこそ不安定にみえた団員もいた。ギルベールもそれを分かっていて気にかけていた。心配はいらないだろう。


「第二戦を開始する」


 近衛隊第四部隊の第二試合相手はなかなかに強力な相手であった。イーサンは決して悪くない動きで敵に攻めていたが、惜しくも敗れた。

 続く第三戦、第四戦で見事第九師団が勝利。ギルベールが出ることはなかった。


(そういえば……陛下はギルベールの守護獣の披露を願っているらしいが、ギルベールが出場する前に師団が負ければそれまで、というつもりか?)


 もしや、その折には第九師団の訓練場へ行って見せてもらうつもりだろうか?

 ギルベールがこれまでしなかったことだが、機会がなくなればつくるという可能性もある。「ギルベール。視せてくれ」「陛下……」と頭の中で笑う陛下と言い返せないギルベールという様子が想像できてしまう。


(陛下は守護獣への興味が強いようだが、御前試合はひとつの機会として利用するつもりか……)


 陛下自身が開始宣言の折に己の守護獣を視せている。言ってしまえば、あれだけでも充分なのだからおそらくあれは保険。下手をすればギルベールの守護獣は逆効果となりかねない。

 とはいえ、そこを陛下は知らないから無理もないんだが。ギルベールも強固に反対はできないだろうし。


 少々考えてしまうが、その最中にも試合は進んでいく。

 陛下の護衛を担う近衛隊第一部隊は難なく勝ち上がったり。バートハート殿率いる第二師団も勝ち上がったり。強者同士の戦いは観客も息をひそめて真剣なまなざしで見つめ、勝敗がつけば歓声があがる。

 カフカント令嬢のひそかな想い人、アーク・マリダリー伯爵子息は個人的に勝利を収めていたが、隊としては敗北となった。


 第一回戦が終われば少しだけ休憩を挟む。そのときには騎士団の面々を慰労しに向かう者もいるが、わたしは席を動かずにハインとリアンとともに軽食を口にしていた。

 そして第二回戦が始まる。


「第二回戦第二試合、騎士団第九師団、対、騎士団第八分隊!」


 分隊と呼ばれるのは地方からの選出者たちの隊だ。各地にいる者たちがそれぞれ予選を勝ち進み、隊を結成して本戦であるこの場での試合に臨む。

 地方選出者とはいえ侮れない。とくに国境で日々勤務している者となると腕もいい者が多く、苦戦するだろう。日々それだけの緊張に強いられながら仕事をし、実力がなければ使い物にならない。そういう厳しい場で戦っている者たちだ。


 その隊が第九師団第二戦目の相手。

 第一戦のトニス、第二戦のイーサンは惜しくも敗北。第三戦のガードナー、第四戦のリグテールは勝った。


「い、いよいよ旦那様の出番ですね……!」


 リアンも緊張と興奮を覚えているようだ。ハインもどこか緊張しているように会場を見つめている。

 わたしも見つめる先で、進行役の案内に従ってギルベールが出てきた。






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