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いつか、どこかで君と出会った  作者: 鷺岡 拳太郎
第20章

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第95話

 

「確かに書いたのは私だけど、私も飛鳥に言われたから書いただけ」

 真由美は、吐き捨てるように言い放った。

「え? 嘘でしょ……」

 私は小さくつぶやいていた。

 あの日、飛鳥は私の言葉ではなく、真由美の嘘を信じた。だけど私は心のどこかで飛鳥のことを信じていた。飛鳥ならば、いつか私の言葉のほうが正しいと分かってくれる。飛鳥は真由美に騙されているだけなのだ。確かにこの世界は悲しみと怒りと欺瞞で満ちているのだけど、飛鳥は決して悪ではないし、そもそも本当の悪など存在しない。私はそう信じていた。だけど、それは私の幼い幻想でしか無かったのだということを思い知らされた。

「嘘じゃないよ。なんなら、飛鳥自身に聞いてみれば?」

 真由美はその言葉を残して、私の前から立ち去った。後ろを振り返ることすらしなかった。

 私はふらふらとした足取りで教室に戻った。

 教室には真由美がすでに戻っていて、飛鳥の席で二人で何やら話をしていた。私が教室に入ってきたことに気付くと、二人は視線を私に向けた。そして二人とも口元に嫌な笑いを浮かべながら、なにやらこそこそと話をしていた。私はその二人の姿を見て、何かを蔑むような嘲笑を浮かべる飛鳥の姿を見て、さきほどの真由美の言ったことが本当だったのだと知った。

 悪は、この世界に存在していた。

 しかも、自分の身近に、気付かないうちに忍び寄っていた。

 外面は巧妙に善人を装い、誰からも好かれている。だけどその裏では自分の手を汚さずに、自分の意にそぐわない相手を徹底的に叩き潰す。今まで私の周りにはそのような人間なんて一人もいなかったから、そのような人間が実際にこの世界に存在するのだということを私は知らなかった。だけど私はその悪魔の手の中に、いつの間にか堕ちていた。

 クラスの中で無視から始まった私へのいやがらせは、やがて嘲笑に変わり、そして実際の物理的な攻撃に変わっていった。

 実際に私にどのような攻撃が加えられたのか。思い出したくもないから、ここでは書かない。


「もう、学校には行きたくない」


 何度、両親にそのように言おうとしたか。

 だけど私は、私がそれを言うことによって両親を心配させたくなかった。何よりも、両親の中にある「杉原由貴」というイメージが壊れてしまうことを恐れた。小学校までの私は学校で問題を起こしたこともなかったし、私自身のことによって両親の手を煩わせたこともなかった。そのことが私の中の密かな誇りだった。本当にちっぽけな誇りだったのだけど、その当時の私はその小さな誇りを宝物のように大切に胸に抱いていた。それが壊れてしまうことを私は恐れた。もしそれすらも無くなってしまうと、自分の存在価値も無くなってしまうような気がした。たとえ学校では地獄のような毎日だったとしても、せめて家の中では今まで通りの「杉原由貴」でいたかった。

 私は結局両親には何も言わなかった。

 ただひたすら、学校での地獄の日々を耐えることを選んだ。

 

 選ぶしか無かったんだよ。」



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