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いつか、どこかで君と出会った  作者: 鷺岡 拳太郎
第20章

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第94話

 

「11月30日


 本当の闇は、私の気付かないうちにクラスという海の深い底を静かに広がっていた。その海の水面を漂うように過ごしていた私は、そのことに気づきもしなかった。静寂と孤独の毎日を、息をひそめるようにして過ごしていた。

 始めに異変に気づいたのは、あるクラスメートの言動だった。

 授業の合間の休憩時間、カバンから次の授業で使う教科書とノートを取り出し終えると、私は黙って時間をやり過ごしていた。私の周りには誰もいなかったし、私はただ、楽しそうにおしゃべりをしているクラスメートを眺めていた。

 その時、クラスメートの一人が私の方を見ていることに気づいた。私のことを見て、相手と何かこそこそと声を潜めて話している。その言葉は当然私には聞こえない。だけどそのクラスメートの顔には、嘲笑のような、そして軽蔑のような嫌な笑いが浮かんでいた。見ていると気分が悪くなるような笑いだった。

 え……?

 私は心のなかで呟いた。

 その笑いの意味が分からなかった。

 私のことを見ながら話しているということから、おそらく私のことについて話しているのだということは分かった。だけど、なぜそのような嫌な表情をしているのか、そして何を話しているのかは分からなかった。

 その光景は一人のクラスメートから始まり、徐々にクラスの中に広がっていった。

 休憩時間、私を遠巻きに囲みながら、多くのクラスメートが私を見ながら嘲笑と軽蔑の笑いを口の端に浮かべて、何かをこそこそと話をしている。彼らの中には飛鳥も、真由美もいた。そして二人とも、彼ら以上に嫌な笑いを浮かべて、私を見ていた。そして私について何かを話していた。


 彼らは何を話していたのか。


 それを教えてくれたのは、クラスメートの一人の中村静香だった。

 静香は2年3組の学級委員をしていたいわゆる優等生で、彼女の中に残っていた微かな正義感が、彼女をその行動に駆り立てたのかもしれない。

 昼休み、静香は教室の隅に一人座っていた私に近づき、「ちょっといい?」と言葉をかけてきた。私はいきなりの言葉に驚きながら、「何?」を返す。

「ここじゃ話しにくいから、ちょっと、教室の外に付き合ってもらえる?」

 私は静香の言葉に従って、二人で教室の外に出た。

 私たちの様子を、他のクラスメートは黙って見ていた。

 廊下を黙って歩き、教室から離れたところまで来ると静香は立ち止まった。

「杉原さんのことが2年3組の裏サイトに書かれているけど、知っている?」

 私は静香の言葉に驚いた。

 2年3組の裏サイトが存在するということは以前に耳にしたことはあった。だけど、私は特に興味はなかったし、その当時の私はまだ、飛鳥、真由美、私という三人の仲良しグループの一員であり、クラスの中で孤独を感じることもなく過ごすことができていたので、わざわざそのサイトにアクセスしようとはしなかった。どのようにアクセスすればいいのかも知らなかった。

 その場で静香は私に、そのサイトへのアクセス方法を教えてくれた。

 その日、家に帰ると、私は自分の部屋に閉じこもった。そして2年3組の裏サイトを開いてみた。

 そこでは、私の実名とともに、本当に酷いことが書かれていた。

 あまりに酷くて、あまりに残酷で、あまりに救いがなくて、ここに書く気にはなれない。以前、飛鳥や真由美に話したことが、悪意を持って捻じ曲げられて書き込まれている。そしてその書き込みに誘発されるかのように、私にまつわる酷い虚言が次から次に書き込まれていた。始めは「2年3組のS」と匿名で書かれていたが、誰が見てもそれが「杉原由貴」のことだと分かるような書き方だった。途中からは匿名を装うことさえやめて、「杉原由貴」と実名で書かれていた。

 私は、始めにその書き込みをしたのは真由美なのだと思った。

「由貴からノートなんて受け取っていないよ」と平気を嘘をついて飛鳥に取り入ろうとしたときの真由美の、どこか自慢げな顔を思い出していた。

 次の日、私は周りに誰もいない機会を待って、真由美に話しかけた。

 真由美はいつものように私の言葉を無視したが、私が、「2年3組の裏サイトに私のことを書いたの、真由美でしょ」と言ったら、真由美は立ち止まり、私の方を見た。あの時と同じように、自慢げな顔をしていた。そして、自分が書いたことをあっさりと認めた。私は真由美という人間を通して、人間という生き物の醜さを嫌となるほど見せつけられたような気がした。

 だけど、それで終わりではなかった。

 真由美は、自分が書き込んだのは飛鳥に指示をされたからだと白状したのだ。


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