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いつか、どこかで君と出会った  作者: 鷺岡 拳太郎
第18章

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第82話

 

「5月14日 木曜日


 杉原由貴様。

 今日はコンビニでのバイトの日だったので、同じシフトに入っていた野中さんに尋ねてみました。すると、数日前、夜に一人の女性客の応対をしたことを覚えていました。なぜかその女性客は野中さんの目に止まって、記憶の片隅にとどまっていたらしいのです。そしてその女性の様子を聞いてみたのですが、不思議なことに、私が夢で見ていた見知らぬ女性の雰囲気とそっくりだと感じました。ショートカットで、どこか影のある表情をしている。私が夢で見ていた女性はそのような人だったのですが、野中さんが応対した女性客も同じ印象だったそうです。

 君が書いてくれたように、野中さんを介しても私のいる世界線と君がいる世界線は繋がっているのかもしれません。あるいは、二つの世界線に別々の『野中智恵』が存在し、その二人の『野中智恵』の記憶についても何らかの干渉が発生しているのかもしれません。


 君は中学生時代の記憶を失っているとのこと。

 君が日記に書いてくれたように、『記憶の欠落』という点で現在君が抱えている問題とも共通しているし、その間には何か重要なつながりがあるのかもしれません。そしてその中学生時代に、世界が二つの世界線に分かれる『きっかけ』が起こったのかもしれません。

 きっと、その『きっかけ』が何かが分かれば、二つの世界線に分かれた原因も分かるし、また、現在発生している二つの世界線同士の干渉を解消するための方法も見つかるかもしれない。

 君の中学生時代について知るための、何か手がかりはありませんでしょうか。

 例えば同級生に話を聞いてみるとか。

 あるいは、中学生時代、君が君の両親に自身のことを話していたのだとしたら、君の両親も君の中学生時代についてなにか知っているかもしれません。


 私にも少し希望が見えてきました。

 お返事をお待ちしています。


 上原祐樹より」




「5月15日 金曜日


 上原祐樹様。

 私の中学生時代を知るための手がかりについてです。

 前回の日記には書かなかったのですが、K中央病院でメンタルヘルス科の担当医の診察を受けている際に、一つ思い出したことがあります。『思い出した』と言っても、微かな記憶が私の頭の片隅に漂っているようなものなので、何か明確なエピソードが頭の中で蘇ったというわけではありません。


 担当医から『日記を書くようにして下さい』と勧められた時、私は、学生時代に日記を書いていた習慣があったことを思い出したのです。ですが、いつ頃書いていたのかは思い出せませんでした。ただ『日記を書いていた』ということだけが微かに頭に浮かんだのです。私は『いつ頃書いていたのだろう』と自分の記憶をたどりました。大学生の自分は大学の授業やバイト、就活で忙しくて日記を書く習慣なんて無かったし、高校生の自分は、部活や受験勉強に追われていて日記なんて書いていなかった。そして小学生の頃の私は、習慣的に日記を書くということすら考えたことがなかった。書いたとしても、夏休みの宿題としての『絵日記』くらいでした。

 日記を書いていた自分は小学生の自分でもないし、高校生、大学生の自分でもない。

 そうなると、残るのは中学生の自分です。

 おそらく中学生の自分は日記を書いていた。

 中学生の自分のことは全く思い出せないのに、日記を書いていたということだけは覚えているのです。

 もしかしたら、中学生の私はその『きっかけ』に遭遇したことも、その『きっかけ』に何を思い、そしてどのように行動したかについても日記という形で書いていたのかもしれない。中学生時代のことを忘れていても『日記を書いていた』ということだけを覚えているのだとしたら、きっと中学生の私にとってその日記は大きな意味を持っていたのだと思います。

 その日記を読めば、『きっかけ』についても分かるかもしれません。

 問題はその日記が今も存在するのか、ということと、存在するのだとしたらどこに存在するのか、です。

 これに関しても、私は一つしか思い当たりません。

 実家の私の部屋。大学に進学して実家を離れてからは、その私の部屋は物置になっています。それでも学生時代に使っていた机はまだ置いてあるし、キャビネットも本棚も置いてあります。あるとしたら、その私の部屋のどこかにあるのだと思います。中学生時代の私にとってその日記が重要なものだとしたら、中学生時代の私はその日記を他の人に見つかりにくいような場所に隠していることも考えられますが、中学生時代の私も私であることは代わりはないのだから、きっと今の私ならその日記を見つけ出せると思います。


 ちょうど今日は金曜日。

 明日から土曜日、日曜日と二日間会社は休みになるので、この週末の時間を使って一度実家に帰ってみようと思います。

 そして、中学生の私が書いた日記を探してみたいと思います。


 杉原由貴より」


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