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いつか、どこかで君と出会った  作者: 鷺岡 拳太郎
第18章

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第81話

 

「5月13日 水曜日


 上原祐樹様。

 あなたが働いているコンビニに、野中智恵さんという同僚がいるそうですね。

『野中』という苗字にどこか見覚えがあったので、どこで見たのだろうと自分の記憶を思い返していました。すぐに、思い出しました。私の家の近くにコンビニが一店あって、仕事からの帰りが遅くなったときはそのコンビニで夕食を買ったりもするのですが、つい先日そのコンビニでパスタを買ったとき対応してくれた店員の名前が『野中』でした。制服の胸の部分に付けられた名札には苗字しか書かれていなかったので下の名前は分かりませんが、もしかしたら『智恵』だったのかもしれません。私の対応をしてくれた『野中』さんも、学生と思しき若い女性でした。あなたの同僚の野中智恵さんは看護学校の学生とのことなので、見た目も合致します。

 私のいる世界線にもあなたのいる世界線にも『野中智恵』という女性が近くにいて、私のいる世界線ではコンビニで私の買物の対応をしてくれて、そしてあなたのいる世界線では同じコンビニで同僚として働いている。

 もしかしたら、『日記』以外でも、『野中智恵』という女性を介しても、二つの世界線はつながっているのかもしれない。

 あなたの昨日の日記を見て、そのようなことを考えていました。


 前回の日記で私は自分の抱えている『問題』について書いたのですが、実は、前回の日記では書かなかった、もう一つの『問題』があります。『問題』というほどでもなかったので前回は書かなかったのですが、あなたの昨日の日記を見て、もしかしたら、と思いました。

 この『問題』は二つの世界線が分かれてしまった『きっかけ』にも関係しているのかも知れません。

 私の身に発生した記憶の欠落を診てもらうためK中央病院にいったときのことでした。そのときのメンタルヘルス科の担当医に次のような質問をされました。

『今現在の杉原さんの生活や仕事、あるいは学生時代を振り返ったときに、自分の性格について、どのような性格だとご自身では考えていますか?』

 その質問は、私の性格や心理特性を探るための質問だったのだと思います。私は自分の職場での様子を振り返り、『責任感が強い、ということはあるかもしれません』と答えました。そして自分の学生時代を遡ろうとしたのです。

 大学生の私、高校生の私、中学生の私、そして小学生の私。

 その子どもの頃の自分は、どのような子どもだったのか。それを時間を翻るようにして思い出そうとしたのです。大学生の自分、高校生の自分は難なく思い出すことができました。かといって何か印象的な記憶があるわけではありません。どこにでもいるような大学生だったし、どこにでもいるような高校生でした。そして自分の中学生時代を思い出そうとしたときに、私は小さな引っ掛かりを感じました。中学生時代の自分が全く思い出せないのです。どのような学校生活を送っていたのか。クラスにどのような友人がいたのか。担任はどのような先生だったのか。まるで底の見えない黒い水の中に沈んでしまっているかのように、全く思い出せないのです。

 もしかしたら、記憶力が低下していて、中学生より古い記憶が私の頭の中から抜け落ちてしまっているだけなのだろうか。私は中学生時代を飛び越えて、小学生時代の自分を思い出そうとしました。すると、その小学生時代の私を鮮やかに思い出すことができるのです。大学生の私、高校生の私、小学生の私。これらの自分は私の記憶の中にしっかりと息づいている。それなのに、なぜか中学生の私だけが私の記憶の中から欠落していました。

 その時はメンタルヘルス科で診断を受けている最中だったこともあり、そのことを深く考えませんでした。きっと、中学生時代の私はそれ以外の時代にもまして平凡な毎日を送っていたから、記憶に残っていないだけなのだろう。そのように自分に言い聞かせて、『中学生時代の記憶がない』という事実に、蓋をしました。


 あなたの仮説を信じるのなら、もしかしたら、私の中学生時代に『きっかけ』が発生したのかもしれない。

 その『きっかけ』により世界線は二つに分かれ、そして私は中学生時代の記憶を失った。私の身に最近起こった二度の記憶欠落が二つの世界線の干渉が原因なのだとしたら、同じように中学生の時の私も、その『きっかけ』によって記憶に干渉が発生してその記憶を失ってしまったのかもしれません。


 私に思い当たる『きっかけ』は、そのくらいです。


 杉原由貴より」


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