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いつか、どこかで君と出会った  作者: 鷺岡 拳太郎
第17章

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第71話

 

 私は大学を卒業した後に就職することができずに、今は、コンビニでバイトをして過ごしています。いわゆるフリーターというやつです。レジデンス・ノアというマンションの1101号室で、一人暮らしをしています。

 ある日、私は、夢を見ました。その夢には見知らぬ女性が出てきました。ここで私は『見知らぬ女性』と書いたのですが、夢で見たその女性を私の人生のどこかで見たことがあるという感覚が拭い難く私の中に残りました。ただ、その女性とどこで会ったのか、そしていつ会ったのかを全く思い出せませんでした。もちろん、その女性の名前も思い出せません。名前も知っていたはずなのに、今の私にはその女性は『見知らぬ女性』でした。何度も思い出そうとしたのですが、どうしても思い出せないのです。

 私は、忘れてはいけないことを忘れてしまっている。

 そんな感覚が私を苛み続けました。

 その数日後、再びその女性の夢を見ました。その女性は渋谷にある公園の中にいました。私は目覚めると、その夢に導かれるようにして、そして渋谷に行けばその女性に会えるような気がして、実際に渋谷に行きました。その公園では当然、そんな女性は立っていませんでした。ですが、帰ろうと渋谷のスプランブル交差点に立った時、その女性の姿を見たのです。それは一瞬のことで、その女性はすぐに人混みのなかに消えました。私は必死に探したのですが、どうしても見つかりませんでした。本当に一瞬のことだったので、ただの私の見間違いだったのかも知れません。だけど、私の中には『確かにあの夢の中に出てきた女性だった』という確信にも似た思いがありました。

 それから何事もなく日々は過ぎていきました。

 ですが、しばらくして私の日常に、そして私自身にある異常な出来事が起こるようになりました。私にはその出来事の原因もその出来事の意味も分からないのです。そのことで私は今、困った状況にいます。そしてその出来事には、あの夢で見た女性が関係しているのだと考えています。

 その女性とは、おそらく君のことなのです。

 私はその夢の中の女性の名前を思い出せないので、とりあえず『君』と呼ばせてください。

 何か具体的な根拠があるわけではないのですが、この出来事の原因には君がいて、そしておそらくこの異常な問題を解決する鍵も君にあるのです。

 私はこの部屋で昨日、青いノートに書き込まれた君の日記を見つけました。私は君の日記を手に取ることができます。もちろん読むこともできます。君の、記憶の喪失に伴う苦しみも知っています。おそらく君も私がこのノートに書いた文章を読むことができるのではないでしょうか。

 私を苦しめている問題を解決するためには、君の助けが必要なのです。どうか、手を貸してほしい。私を助けてほしい。

 この文章をもし読んだのなら、何でもいいので返事をください。この日記に書いてもらえれば、私は読むことができます。上原祐樹より」



 由貴は半ば呆然としながら、ノートに新しく書き込まれた文章を何度も何度も読み返す。だけどその文章の意味をうまく理解することができない。そもそも、昨夜は無かったはずなのに、なぜ、朝になってこのような書き込みがこのノートにはあるのか。

 この文章を書いた相手は「上原祐樹」だと名乗っている。もちろん、そのような名前に全く心当たりはない。そして、その「上原祐樹」はレジデンス・ノアの1101号室に住んでいるのだという。その1101号室とは、由貴が現在住んでいるこの部屋のことなのだろうか。同じ部屋に同時に、全く別々の二人がそれぞれお互いに気付くことなく暮らしている。そんなこと普通に考えてありえない。何か質の悪いいたずらとしか思えない。「上原祐樹」はどのような目的でこれを書いたのか。文章の中では、困った事態に陥っていて私に助けてほしいと書いている。それも素直に信じることはできない。

 いや、そんなことよりも、「上原祐樹」は、いつこの文章を書いたのか。

 私が昨夜に書いた日記の後に書き込まれている。当然、昨夜はこのような書き込みはなかった。それが朝になってあるということは、昨夜のうちに書き込まれたと考えるしかない。ただし、玄関ドアのチェーンは掛けられていたし、私も浅い眠りでしかなかったので何かの物音がしたら気づいたはずだ。

 由貴は立ち上がり、玄関に向かう。やはりチェーンはしっかりと掛けられていた。そのまま居間に戻り、今度は窓を開けてベランダを確認する。特に異常は無かった。この部屋は十一階なので、外から誰かが侵入したとは考えづらい。そもそもこの窓も鍵は閉められた状態だった。つまり、昨夜はこの部屋は完全に密室だったのだ。それなのに、昨夜のうちに「上原祐樹」はこのノートに不可思議な文章を書き込んでいる。

 起こるはずのないことが、今、目の前で起こっている。

 そのことだけはかろうじて分かった。


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