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いつか、どこかで君と出会った  作者: 鷺岡 拳太郎
第17章

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第68話

 

 自分にこの文章を書いた記憶が無いのだとしたら、これを書いたのは自分以外の誰かということになる。そしてそのことは、その「誰か」はこの部屋に入り、この引き出しを開け、わざわざ日記の最後にこの文章を書いたということを意味していた。

 でも、誰が……。

 由貴は、自分が家に帰ってきた時のことを思い出そうとする。

 自分が家に帰った時に、確かに玄関ドアの鍵は閉められていた。

 玄関ドアの前でバッグの中に鍵が見つからなくて、どこかで鍵を落としたと勘違いして一度コンビニに戻って鍵を探そうとした。エレベータを待っている間にバッグの中を改めて探してみると、バッグの底に鍵を見つけた。その鍵を使って、玄関ドアの鍵を開けたのだ。鍵を回したときの、カチャという鍵が開いた感触は今でもリアルに手の中に残っていた。もし鍵が開いたままだったとしたら、少なくともその時に気づいたはずだ。間違いなく私が家に帰った時に、玄関ドアの鍵は閉まっていた。

 もしそうなら、その「誰か」は、この部屋の合鍵を持っていたということなのだろうか……。

 由貴は得体の知れない気味の悪さを感じ、一度小さく体を震わせた。そしてあることに思い至り、慌てて立ち上がって玄関ドアに向かう。ドアに鍵がかかっていること、そしてチェーンがしっかりと嵌められていることを確認し、とりあえずほっとする。チェーンがかかっていれば、少なくとも今は「誰か」にこの部屋の中に侵入されるということはない。

 玄関ドアの前から居間に戻ると、念のため、通帳やキャッシュカードなどの貴重品も確認してみるが、特に無くなっているものはなさそうだった。

 由貴はデスクの前の椅子に座り、改めて日記を見つめる。

「あなたは誰ですか……。なぜ、私の夢に出てくるのですか……」

 小さな声で呟くように、日記の最後の文章を口にしてみる。

 誰が何のために、この文章を書いたのか。

 そもそも、この文章の意味が分からない。

 始めの文である「あなたは誰ですか」はまだしも、次の「なぜ、私の夢に出てくるのですか」はどのような意味なのか。「夢」というのは、これを書いた人が見た夢のことなのだろうか。その夢に私が出てきたと言っているのだろうか。当然、そのような心当たりなんてない。そもそも、他人の夢のことを私がコントロールできるわけがない。

 自分が書いた文字の後に突然現れた、見知らぬ文字の書き込み。その文章の意味不明さも掛け合わさって、由貴は背筋が寒くなるような思いを抱きながら、その文字を見つめていた。

 貴重品は特に盗まれていない。この部屋に侵入した何者かは何も盗むこと無く、日記にこの意味不明な文章をただ書き込んだ。そんなことなんてあるのだろうか。

 そのことを考えると、わざわざ警察に通報するのもためらわれた。

 特に盗まれたものはなさそうだし、この部屋の鍵も掛けられたままだった。ただ単に日記に、自分が書いた覚えがない文章が書き込まれただけ。そのようなことを警察に言うと、由貴自身が現在、記憶欠落で精神科にかかっていることもあり、自分の正気を疑われてしまいそうな気がした。

 とりあえず、念のために玄関の鍵だけは交換しよう。

 今日は金曜日なので、明日の土曜日は会社は休みだ。

 明日の午前中に鍵屋に行くことを決め、由貴はベッドの中に入る。だけどその夜は、なかなか眠りは由貴のもとに訪れてくれることはなかった。


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