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 追想行進華 —庭園の足跡—  作者: 玉袋 河利守
2章”貴方が選んだ形、拾い上げた物は
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68”『消えた最後の跡』


  


 「‥‥、見失ってしまいましたねぇ。」


 青髪を靡かせた彼を追いかけて、スイレ王国の中へ入っていたカミラだったのだが、見失ってしまう。探そうにも見当たらない為に、一度村へと戻り帰りを待とう。その選択をした。


 「‥さて、これからどうしてゆくのか。‥‥彼の方は生きてゆくのか‥死ぬのか‥‥何方を選んでも私は責めませんよ。‥‥貴方様の思うがままに。」


 風と共に、シオン村がある方角へ足を動かし空に浮かぶ雲に指を刺しなぞってみる。


 「私は雲‥‥何処にいようが‥貴方の側に‥‥。」


 少しでも。あの人が帰って来れるあの村を綺麗に。

 もう一度、酒場の裏で花でも植えてみようか。


 「‥‥‥、。しかし、あの村に客人がいたとは‥つくづく恐ろしい男だ。」


 彼のリゲイトは、瞬間移動。自分が一度でも存在した場所ならば何処へでも行けるそんな便利なリゲイト。ならば、この場所に移動するのではなく、村へと帰った方が早いのだが‥そうゆう訳には行けなかったらしい。


 合わなくても良い、この世界では、接点を持たなくても良い、客人が村に足を踏み入れたからだ。


 その客人が帰るまで、彼は時間潰しにこの場所から村まで歩く事を選択した。そんな最中、カミラの肩に何者かの手が乗った。


 「‥‥。‥」

 「はぁ、はぁ、はぁ。」

 「‥‥‥。」


 驚く事もなく、カミラは振り返り確認する。


 「‥‥そうですか‥貴方も‥‥。息を上げてどうされたのですか?」

 「はぁ、はぁ、ごめんなさい。人を探してるの‥」

 「‥お人‥‥それは‥‥どの様なお名前でしょうか‥」

 「‥名前はアスター‥はぁ、はぁ、女の子です‥‥。貴方と同じ様な服装で‥片方だけに眼鏡をかけて‥‥」

 「ふふ、女の子‥‥女性ではなくて?」

 「え?」

 「いえいえ、そのお方が今何処に居られるかは存じ上げません。」

 

 風が強く流れる流れる。この一本道で急ぎ、その風に特長的な色を持つ髪を靡かせる女性。


 「‥、そうですか‥‥。」

 「‥お力になれず、申し訳ございません。」

 「いえ、とんでもないです。」

 「‥ですが‥貴方様にも借りはございますからね。‥彼方‥」


 カミラは、指を翳す。その方角は今自分が向かう筈であるシオン村。


 「‥え?」

 「お望み通りの人間はいませんが‥‥、手助けにはなると思いますよ。」

 「‥え?。」

 「名をシオン村。‥‥ある日を境に消失した村。‥‥、凶悪犯だと追われた者同士がぶつかり、散った跡地。‥‥此処から歩けば1時間も掛からないと思いますよ。」

 「?。」

 「‥‥、最期に教えを真っ当した者、最期に‥‥あ、喋りすぎか、‥また、怒られますね。‥」


 ふんわりと、赤毛の女性の頭に手を乗せる。


 「‥お疲れでしょう。送りますよ。空は繋がっている以上、あの人間と出会う資格はございますから‥、」

 

 「え?、え?‥‥


 「‥、私は雲、貴方様もまた、届けましょう。‥あ、それと、全て終わった。と、皆さんにお伝えください。」


 「‥‥え、‥‥ちょっとまっ——-


    絨座(テレポート)


 彼女が立つ位置に砂埃が煌めくと、姿は消えた。


 「‥‥、何故、お姉様の名前を‥‥いや、お姉様もまた、何かを選んだのでしょうか。‥‥さて、ゆっくり、ゆっくり、歩いていきましょうか。‥‥。


 

   私は、水を刺す様な事はしません。

   想い出を下さった貴方の為に、借りを返しました。

   ですから‥‥貴方も貴方で邪魔はしないで下さい。

   借りは無くなりましたからね。

   それでは。‥‥天傘 敦紫。

   

   



 ‥‥‥‥———————————————


 

  「‥‥‥ぐっ‥‥ここは?‥‥‥」


 目を覚ますとこの短い年月で見慣れてしまった光景。

 半壊した建物、焼き崩れ真っ黒に染められた建物それが寝そべる彼の目と思考を覆う。


 「‥もしや、此処は。‥‥一体此処で何が‥‥ぐ、‥‥はぁ、はぁ。」


 いつしか、夜が明けていた事。

 自分の知るあの村である事。

 道中で出会った怪物二名の出来事に一度蓋をして、現状確認。倒れる身体を起こそうとする。

 しかし、あらゆる箇所の致命傷により、動く事は叶わず。

 超えだけが出せる状態であった。


 「‥おい!!誰かおらぬのか!!‥はぁ、はぁ、シフォン殿!!、‥タビラ殿!‥‥ノゲシ殿!!‥‥はぁ、はぁ、ティアラ殿!!‥‥‥。」


 ‥‥‥。

 声は出る。この静かな場所にはドクレスの声が広がる。

 しかし、名を叫んでも誰一人として返答は返って来ない。

 早朝。生き物が活発に動き出す時間帯。

 それは、人も、動物も、何かの音はあるはず。

 それなのに、このシオン村には一切、音がしない。

 村全体に生気が感じない。


 「‥‥敦紫殿‥‥、ヘレン様は‥‥何処に‥」


 彼より先に向かった二人の姿すらない。

 この壊れた村を目に、ある違和感を持つ。


 「‥‥燃えた後‥‥煙は‥‥臭いは‥‥」


 首を動かし、見渡すも、

 燃えていた、

 何が起きた、

 跡、だけ残っている。

 何が起きた、

 形、だけ残っている。


 「‥。あり得るのか‥、たった数時間の話だ‥誰が鎮火した‥‥魔法?‥‥この村全域が燃える火を魔法で‥‥出来るのか‥敦紫殿なら‥可能性はある‥‥しかし焦げた臭いは‥煙は‥‥どう説明する。」


 焦げた建物を見る限り、時間は経っていない。

 燃えた建物全てを鎮火する魔法を、居合わせた敦紫が唱えたとするならば、説明は行く。

 煙だって、時間が経てば消えるかもしれない。

 しかし臭いは中々消えない。

 スイレ王国でそれを知っている。

 

 「‥‥、外だからと言って、此処まで何も臭いがしないのは‥あまりにも不自然‥‥風がずっと吹いたとて‥‥風‥‥」


 此処にくるまでの道中。

 悪夢の様な記憶が、飛び出してくると、

 彼の推理と出会した怪物の力と結びつく。


 「‥もしや‥‥奴‥なのか‥‥ん?」


 音のしないこの村で、草履を引き摺る足音が聞こえてくる。

 微量に残る力を使い、激痛に耐えながら、力を振り絞り身体を起こしながら見渡すが、意識が飛びかけた。

 意識すら保つのでやっと、視界すらぼやけてしまう。

 そんな霞んだ視界に映り込んだのは‥‥。


 「あらら、これは手厳しくやられたねぇ。」


 「‥‥‥貴‥‥殿は?」


 倒れ込む漢はドクレス。

 そして、目の前で立ち、ポケットに手を入れて何かを探す男の姿。


 「‥はぁ、そっか忘れたんだっけ?‥‥はぁぁ」


 ため息を吐くその男は、倒れ込むドクレスの身体に触れて確認する。


 「‥皮肉な物だ。‥‥、近道、よりも真っ直ぐ走った者が先に辿り着くなんて‥‥。重症だよ。‥‥1ヶ月は動けないかもね。‥‥。ちょっかいかけ過ぎだよドクレス君。」


 「なぜ‥‥私の名を‥‥それに触っただけでわかるものなのか‥‥」


 「それゃあ‥まぁ、ね。」


 視界は歪み、霞み、自分の身体を触る男の顔がハッキリと捉える事が出来ない。

 辛うじて、何を着て、それが何色なのかは分かるが‥誰なのかは検討もつかない。

 

 「‥‥。結果は予想通りだ。‥加勢する事も、止める事も出来た‥‥でもこれが‥約束なんだ。‥‥。」

 「‥やく、そく?」

 「‥‥こっちの話だ。気にしないでくれ。さぁ、帰るとしようか。‥‥次は‥彼の子のネックレス。それで最後だ。じゃあね、ドクレス君。」


 

 ゆっくりと腰の曲がった男は草履の音を鳴らしながらまたどこかへ歩いていく。

 ドクレスは最後の力を振り絞りながら、もう一度自身の腕を支えにして起きあがろうとする。

 その動作の音に気が付いたのかこちらに振り向きながらも


 「弱った体で無理すれば死ぬよ?‥‥無茶すれば今度こそ死ぬよ?」


 「‥‥ぐぅ。はぁはぁ、一つ聞いても良いか。」

 「‥‥。忙しいんだ。手短かに。」

 「‥‥。貴殿は、この村がこうなる事を予想していたのか。‥」

 「‥‥。」

 「私がこの村に来る道中。‥‥ある青年と出会った。」

 「‥‥あらら。はは、君が一番最初か。」

 「その反応、彼の子と面識があるのだな‥‥では何故手を差し伸べなかった。‥‥あの青年がどう言った存在か、何故この村がこんな事になっているのか、検討がついた。」

 「‥‥。」

 

 「何故だ‥‥何故だ。悲しい背中をしていた。‥真っ直ぐと歩けてすらいなかった。‥‥あの目、‥口調、全てが震えていた。‥貴殿は何かを知っているのだろう?‥何故、何故‥手を‥」


 「何故?‥‥そんな事しなくちゃいけない。」


 「な、何故だと?あの青年は‥歩いて行った方角的に天馬‥スイレの国だ‥‥このままでは、また‥‥」


 「‥‥はぁぁ。」

 

 その男はため息を吐きながら

 その寝癖がついた頭を触りながら

 また止めた足を動かして男の姿は遠のいていく。


 「どこへ!、‥‥」


 その言葉に一度男は振り返り


 「君に話す事はないよ。‥‥、だが、偶然を打ち破った君に賞賛の言葉を送るよ。」


 「‥‥?」


 しかしだ。君には君の大切な人がいるだろう?其方に集中すれば良いさ。‥今まで通り。さすれば、導きの言う通り君が彼の子の最後の鍵となるだろう。


 「‥‥‥どう言う意味だ。」


 忙しいと言っただろう?。真っ直ぐに生きれば良いさ。下手な気持ちで動かない事。君の人生に置いて関わらなくても良い事は沢山あるんだ。


  触らぬ神に祟りなし‥。じゃあね。


 

 「また、訳の‥‥わから‥‥ぬ‥‥ことを‥‥‥」



 等々、ドクレスは力を失いこの濡れた冷たい土の上で気絶してしまった。




 —————————————————————


 


 「これは一体‥‥‥。ヘレンさん!」



 辿り着いた時にはもう遅く。馬から降りれば、隣で着いてきたヘレンは無言のまま、走り出してしまう。全壊したこの村に残る唯一の建物の中へ一直線に走って行った。


 「‥‥、どうして‥燃えた跡‥‥、」


 嫌な予感と言うのは的中するのが相場だ。

 先日、訪れたこのシオン村はスイレ王国よりも悲惨な物に。

 家は崩れ、風車も全壊、道端に生えていた花も姿を消し、扉が無くなった酒場だけが唯一残っている。



 「‥‥‥やっぱり、‥‥アイツなのか‥‥。」



 少しだけ歩いてみた。

 すると、酒場以外にも残る建造物が一つ。


 「‥‥シフォンさん‥‥。?‥それと隣は‥」


 広場、先日来た時は布を被せ、正体が分からなかったが、この村に住むシフォンさんの彫刻像だった。でも一つ気になる事がある。

 シフォンが掘られた像。その隣には無駄に空いた空間。

 パッと正面から見れば、バランスが悪いと思ってしまう。


 「‥‥手?‥‥?‥」


 シフォンの彫像が少し上げるその手には、誰かの手。

 握る手しかなく、誰の手かはさっぱりだ。


 「‥‥夢‥‥姉と弟。‥‥そうか。」


 彫刻像の下には、文字が描かれている。

 そこには、『私の夢の続き。姉と馬鹿な弟』

 そう、刻まれていた。


 「‥そう言えば‥シフォンさんの口から名前を聞いたっけ。」


 空間。左側にはシフォンの像、そして右側にシフォンの手を握る何者かの手と足だけが残る。

 顔から胴体にかけては崩れ、自分の足元を見るにこの彫刻像であった石の素材が破片となり散り散りとなっている事から、誰かに壊されたのだと予想する。


 「‥シフォンさんの隣が‥本当に弟なのか‥‥それとも異世界人なのか‥‥」


 この際、今はどうでも良い。

 アイツを、アニスを見つけ出し結朱華の居場所を‥。

 時間がもうないのだ。


 

 結朱華が仮に今日や昨日、この世界に転移してきたのなら、まだ間に合うかもしれない。しかしそれが少し前の話なら、命の危機になる‥元の世界に戻るなど二の次なのだ。

 

 「‥墓を建ててやれって言ってたけど‥‥」



   敦紫くん?



 「‥‥‥‥‥。」


 リズルの国で確かに聞こえた声がまた、僕の耳に。

 この世界では、確かに聞こえるはずのない声。

 僕はその声に首を動かす。


 「‥‥‥‥。」

 「‥敦紫くん‥‥だよね?」


 ゆっくり、ゆっくり、首を動かす。

 今度は、しっかりとその声の持ち主と目が合った。


 ずっと、ずっと、この世界では独りだったから。

 生きる目的が元の世界にあるから、今まで生きた。

 彼に逢う事をやめて、戻る事を決意した。


 「‥‥‥ゆ、‥‥ゆ‥‥」

 「‥‥(タッタッタっ、」


 救世主だと謳われた。

 正義感もない、この世界の事なんてどうでも良い。

 死を選ぶ事だって出来た。

 それでも、元の世界へと帰る為、動いた。


 「‥‥‥‥」

 「‥‥(タッタッタ!!」


 何故だと思う?、

 彼の墓に花を添える為。

 間違いはない。‥‥でも‥‥、


 「‥‥‥(バサァ!」

 「‥‥‥。敦紫君‥‥敦紫君‥‥」


 今、僕の腕の中で涙を流す彼女とゆう存在がいたから‥

 元の世界に帰りたかった。


 「‥くしゃくしゃな顔で泣いたら‥可愛い顔が台無しだよ」

 「‥あづしくん!!‥‥」


 恋心なんて、軽はずみな感情じゃない。

 僕に取っては、それ以上に大切な人。

 幼馴染であり、

 彼と過ごした時間を共有出来る人。

 僕が生きるこの世で、たった一人の存在。


 思い出(かれ)を語り明かせるたった一人の友人。


 「生きててくれたんだね。‥‥ありがとう。」

 「‥‥、行方不明になって‥心配‥‥したんだから‥‥」

 「‥ごめんね。ちゃんと僕も‥逃げてなんかいないから。」

 「‥うぇぇぇぇぇんん!!‥‥ズゥ‥‥あ!」

 「?。」

 「敦紫君!!ちょっと来て!!」

 「切り替え早や‥‥」


 結朱華に手を掴まれると、僕の身体は無抵抗になり連れていかれる。

 こんな状況なのに、懐かしい気分になってしまった。

 いつも、いつも、天然な彼女に振り回されていた記憶‥


 「敦紫君!!‥これ‥‥」

 「‥なんだい急に慌てて‥‥‥。‥!‥。ドクレス!!」


 ドクレスが目を瞑って倒れていた。

 脈を聞くが、命はある。

 軽い気絶状態だった。


 「‥、此処に飛ばされて‥目の前でこの人が倒れてたの‥」

 「そう‥‥、?。飛ばされた?」

 「うん!親切な男の人に。執事みたいな格好してたよ。」

 「‥‥執事みたいな‥‥‥もしかして!」


 肩を強くて持ち、聞いてみる。

 その格好をした人物は、他にはいない。

 結朱華を苦しめたアイツだ。

 アスター”アニス、だ。


 「‥‥痛いよ‥‥」

 「‥ごめん‥つい、怒りがね、」

 「‥‥、それに‥私を此処まで送ってくれた人は‥アーちゃんじゃない。」

 「‥あーちゃん?」


  いやぁぁぁ!!嘘よ!!嘘よ!!離してぇぇ!!


 結朱華との会話に水を刺す悲鳴。

 何やら、酒場の前では騒がしくなっていた。

 僕らは、会話を止めてヘレンさんが泣き叫ぶ酒場の前まで足を動かすのだが‥彼女の大きな声、ジタバタとする身体を抑える恰幅な女性の声で、察してしまう。


 シフォンさんは死んだ。‥‥と、


 僕らの言葉も届かなかった。

 

 後に聞いた話。

 結朱華の口から伝えられた『全てが終わった』とゆう意味。

 僕らよりも遅いはずのドクレスが全治一カ月と言う重症を負い倒れていた事。

 シフォンさんの死。


 不可解な点が沢山ある中、僕は此処に住む村人に聞いてみようと、声をかけてみる。


 この村で、雷が降ったのだ。

 なら、一番近くでその光景を見ていた人に聞くのが一番話が早い。

 

 「‥、これはこれは救世主様まで‥何用でしょうか?」


 この村の村長が近づく僕に逸早く気づいた。

 

 「‥一体ここで‥何が起きたのですか‥」  


 長い顎髭を解きながら、崩れたこの村をそして空を見上げては口を開ける。


 「なに、ちと騒ぎがあっただけじゃよ。貴方様が気に留める必要はございませんよ。」

 「‥少し‥?。」 


 少しな訳がない‥僕の目の前で喋る老人も顔に擦り傷や、来ている服もドロドロになっている。

 その状態で少しの騒ぎだと?

 

  「そうは言っても。みなさん怪我をされています。この町中が燃えた後もある。決して少しの騒ぎでは片付けられない‥‥シフォンさんが死んで‥少しなど‥‥



   救世主様!!



 あとは朽ちるのを待つだけである覇気のない老人がこれでもかと大声を上げ彼の言葉に歯止めを掛ける。


 「それ以上、それ以上の言葉は自身の胸の内に閉じ込めておいて欲しい。これ以上‥‥これ以上‥‥あの子を苦しめないでほしい。無駄な詮索はやめてほしい‥‥‥」


 「村長‥」横で見ていた女性はその老人の肩を掴むと何か言いたげな表情に「わかっておる」そう言い、また敦紫に向けて話し出す。


 「次に来た時には茶や菓子、酒だって出しおもてなしだってする‥‥わしの様な棺桶に脚を入れている老耄じゃ、そんな老耄の小さな願いを叶えてくれんかの‥‥」


 「‥‥‥?」


  今日は真っ直ぐ自国に帰ってくれんかの。


 「大変無礼な事は承知じゃ、じゃが今日はこの村に住む人たちも‥‥‥」


 「わかった。」そう吐き捨てて、

 ヘレンさんに至っては、酒場の裏側に行き帰って来なかった。

 無理やり連れ出すのは野暮だ。

 眠ったドクレスを担ぎ、結朱華と一緒にこの村を跡にした。


 ‥普通に考えればそうなんだ。

 僕には関係のない事だ。

 シフォンさんが死んだのが事実だとして‥悲しいそれで終わりだ。

 家族でも、友達でもなんでもない。

 だから、なにが起きて、何があったのかなんて、知らなくても良いんだ。

 知った所で、元の世界に戻れるとは到底思えない。

 だから、気にしなくても良いんだ。

 ‥結朱華と逢えたんだ。それで良いんだ。‥‥

 これで良いんだ‥‥。僕には関係ない事なんだから。


 でも‥‥‥。

 でも‥‥‥。



 何故か気になってしまう。

 

 この村に来ると、モヤモヤするんだ。

 何故かはわからない。でも、何かを探してしまうんだ。


 それに‥‥。


 彫像の前で、足を止めて、シフォンの隣に出来た空間の足元に目を向ける。シフォンさんの弟である人の残った足だけの箇所に触れて漏れてしまう。


 「‥‥、君は何処にいるんだい。‥‥お姉さんがこんな事になって‥何故君はいないんだい?‥恩があるのだろう?‥‥匿ってくれたんだろう?‥‥何故君は‥‥」



 僕よりも先に来た‥異世界人に苛立ちを覚えてしまった。


   

 ———後日。


   

 日を改めて僕はまたシオン村に訪れる事にした。

 あの光景が夢ではなかった事。

 建物は丸焦げ、風車は壊滅。

 しかし一つだけ、この前とは違う変わった点があった。

 それは、この村に人の気配が一つもなかった。

 このシオン村は、もぬけの殻となっていた。

 全てが置きっぱし、畑を手入れする道具も、花壇も全て。

 しかし、一つだけ無くなっていた物があった。



 それは、『私の夢の続き、姉と馬鹿な弟』と刻まれた彫像だけが無くなっていた。

 


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