69”《終》『想い追い掛け彼らは足音を鳴らす』(上)
人には、目的があると。
今持つ、その命を使ってまで動いた。
出会い、と言う形があるから。そうさせた。
生まれた事に意味を持つ生き物など存在しない。
‥しては行けない。そして、探してはいけない。
歩き疲れた時、夢が見えなくなってしまった時。
人は、動かなくなる。
何故、ここまで来たのか、出会い魅了されただけなのに。
意味を求めた。
今、足は動いていないのに、意味などを求めた。
足を徐に動かせたのは、出会いのお陰。
動かぬ体。自由に動かせるのは目、耳。
その状態で、再確認出来る証拠を探す事。
魅了されたモノ達の足跡を探すだけ。
ある村が燃えた‥‥‥。
‥‥‥あれから二日。
「これもあれも!!いらないだろうがぁぁ!!捨てろ捨てろ!!」
「何言ってんだ!!必要な物ばっかりじゃねぇか!!」
「‥これ、ワシにも荷物をよこせ!!若者ばかりに持たせてたまるか!!」
「良いんですよ貴方は、ただ真っ直ぐ歩いて下さい。」
「舐めとるのかワシを!!」
此処は、トロイアス大陸。大きな大陸に一粒、小さな村が存在した。名をシオン村。
しかし今となっては、壊滅的な状況に、生き残る建物を探す方が至難の業。
廃村と言った方が似合っているそんな村で、廃村とは思えない様な活気を見せるこの場所。
「こうするだろ?‥んで、ココにコレを挿す!!‥‥ハッハッハ!!ほら入った!!」
「‥全部入っても‥持てなかったら意味ないでしょ?」
「‥何言ってんだ!!コレぐらいなら‥うぅ‥軽々‥くぅ‥‥」
「‥ほら‥‥無理じゃん、」
想像を絶する程のこの光景とは裏腹に、忙しなく、陽気に、荷造りをするシオン村の住み人達。
「‥‥。んぁ?タビラ、さっきから紙と睨み合って何してんだ?」
「‥‥‥。‥、」
「ん?」
陽気溢れるこの空間で、ただ独り大きな岩の上に座り『号外』と書かれた一枚の新聞を開き読んでいたタビラは、無言のまま酒を浴びるノゲシの新聞を渡す。
「‥。ふん。‥‥でたなぁ‥。」
「‥‥、これでこの大陸は、ひと段落したんじゃないかい。」
「‥出鱈目ばっかりじゃねえか。‥」
「‥始まりと終わりさえ知れれば、安心する物だよ。‥‥内容なんてどうでも良いんだ。」
「はぁ!!」 (ドォン!!
声と共に、二人が座るこの岩が大きく揺れ、真っ二つに割れると、転がり落ちてしまう。
「‥いててぇぇ」
「何すんだ!!ティアラ!!」
「何、じゃないわよ!!昼から酒を浴びて、黄昏て、お前こそ何してるだい!」
二人の手元から離れた新聞は、風に乗り飛んでいってしまうと、礼装を来た男の手元に降ってきた。
そんな新聞には、こんな事が書かれていた‥
『英雄と救世主』
二日前の夜。
位置を、秩序範囲外国家リズル•ゴールド王国にて、
突如として、無数の魔獣が出現。
魔獣の侵攻は、一般の市民や資格の持たない護衛兵では太刀打ち出来ず、半年前に起きた【一変の豪華】を彷彿とさせる事件であった。
リズルに住む人々は皆、スイレ王国の様になる。そう、蹲る中、ある一人の男が立ち上がる。
名を、天傘 敦紫。
彼は、この世界には無い魔法を巧みに扱い、リズルの国を魔獣の魔の手から民達を救う。
国全域に、観測史上初の氷魔法を放ち魔獣の大群を最も鎮圧。
鋭く、慈悲の与えぬ剣捌きに眼光は、周りで見ていた人々にすら寒気を与えた。
その事から、リズルの国を救った英雄並びに、彼の立ち振る舞いや言動を掛け合わせ、人々は
【冷傑】と読んだ。
そして、同時刻。
位置を、惑わしの森近辺、唯一の村 シオンにて、
【一変の豪華】を引き起こした異世界人が姿を現した。
半年前の姿とは違い、人とはかけ離れた化け物に成長し、一つの村を滅ぼした。
居合わせた 花君の都 フリーシア王國騎士団 団長 ゴール・ドクレス並びに、八器統戦 第8項 アスター”アニスが手を取り合い、死闘の末、最悪な結果は免れた形となった。
死者はたったの‥‥
「‥‥、。」
懐中時計を開けて、閉じる。開けた記事に目を通して、また懐中時計の開閉音が鳴る。
「‥、一名。‥‥、ですか‥誰と誰が‥手を合わせて?‥‥ふふ、‥‥。」
ビリ‥‥ビリ‥ビリ‥‥。
「‥、彼の方には必要のない仮想の物語。‥。不必要な名前‥‥、貴方は‥貴方様の物語を‥‥。」
破った記事は、細々と。
風にゆらりて、パラパラと。
流れ流され、紙吹雪。
手を合わせて、目を瞑る男の髪に一切れ。
「‥‥、なんて書いてあったんだ?」
「‥いえ、正味のない戯言でございました。」
「‥‥そうか‥‥。」
花を添えた。
立派で、偉大で、愛する家族の彫刻像に。
一際目立つその髪色は、目の前で称される彼女と同じ色。艶も長さも、瓜二つ。
花柄の甚兵衛を羽織り、草履を履きこなすその姿は、正に時代劇を思わせる風貌。
風が吹くたびに、纏まらない髪が自由に宙を泳ぎ、彼の背後には海そのものを作り出す。
「‥‥‥。」
「‥‥‥‥。なぁ、カミラ。ありがとな、」
「いえいえ。一人より、です。」
膝についた砂を叩き、立ち上がる。
ズリズリ引き摺る草履の音と、それに追い被さるコツコツと音を鳴らす革靴の音。
彼含め、この村に住む人々達は、今日より住処を変える事になった。言わば、引越しだ。
この村を立て直す事も出来る。しかしだ、号外と書かれた新聞が世に出回りシオン村は全ての生き物に認知されてしまった。
認知されたから何なのか。知られたから何が起きるのか。普通であれば、何も問題はない。広まれば広まる程、この村を復旧させようと優しげな人間が集まって来てくれる。悪い事ではない。
しかし、この村にとっては、悪影響だった。
理由はひとつだけ。此処に住む人々数名が、ちょっぴり普通ではないから。
「アンタ酒しか入ってなんじゃ無いか!」
「良いだよ、酒は俺の原動力だからな!」
「まぁまぁ二人ともそう言うのは現地に着いてから!それよりも‥‥」
それよりも、この村を出て何処に行くのか?。
行く当てはあるのか?、皆が行き詰まる中一人の男が手招きする。
「‥まさか‥あの森にねぇ。」
「カッカッカ。シキミにとっては良い思い出ねぇもんな。」
「そんな事はないけど‥‥」
「ふふ、あの時は服が燃えて大変な事になりましたもんね。シキミ様。」
「そうだけど‥‥、カミラさんに出会えたから良い思い出だよ。」
「なんとまぁ。私もですよ。」
そう、惑わしの森である。
人々が恐る禁忌の森。
一般人はまず近寄る事すらしない。
戦鋼番糸が定めた特定禁忌区域である。
定めたからと言って、入ってはいけないそんなルールは存在しない。ただ、何が起きても自己責任。定めた区域に入り、誰かに助けを呼ぼうなら、それが罪となる場所。
そんな場所に、今から住むのか。
普通ならば誰もが反対する筈、入れば二度と帰って来れない、加えて中に入れば方向感覚を失うのがこの森の摂理。
その場所で生活など、夢のまた夢。自殺行為にすら値する。
‥‥ただし、策はあるらしい‥
「カミラ。持って来てくれ。」
コクりと頷き、酒場の中へ入ってゆくと皮で出来たアタッシュケースの様な物をぶら下げ、シキミはこの村人が集まるスペースに机を一つ並べた。
「?。」
「なんじゃなんじゃ、」
置かれた机にケースを置き、開けると此処にいる数十名の村人達と同じ数の懐中時計が輝き現れる。
「‥‥‥?。‥懐中時計?。また、なんで、」
「はいはい、とりあえずみんな持って、」
「時計?俺らは時間に縛られたくなんかねぇぜ。イタイ!!」
ノゲシの頭からは煙が上がり、後ろでは笑顔を作るティアラの手からも煙が出ていた。
懐中時計、手に持っても良しぶら下げても良しそんな時間を確かめる物である。渡された皆は「何故?」と頭に浮かべている最中、彼は皆に時計を配り終わった後一つの指示を仰ぐ。
手渡した時計には長針と短針を操作できる二つのボタンがあった。
「その二つのボタンを同時に押してくれ!!」
「こうか?」
手にあるこの懐中時計は少し特別仕様。
音と共に、蓋が開く。
懐中時計にはそもそも(ハンターケース)と呼ばれる文字盤を外的な汚れから守る他、風防が破れぬ様に保護する開閉式の金属蓋が備えられている。
この金属蓋を開ける方法は、時計により異なるが、長針や短針を操作する摘みを押し、開けるタイプは何処を探してもこの懐中時計のみ。
開け方だけが、この懐中時計の特別な部分ではない。
とゆうよりも‥‥此処からが特別と言える所以である。
摘みを同時に押し、蓋が開いた。‥
‥のではなく。蓋と同時に風防、更に文字盤すらも蓋にくっ付く形で開いたのだ。
全てが開き、裸の状態。針を動かす為の歯車が無数に‥
「‥‥‥あれ?空っぽ?」
「なんだよこれ?」
「てか、針動いてなくないか?」
「それゃあ歯車がねえからだろ?でもなんで」
懐中時計の中身には歯車などなく只々何もない空間が広がっている。
「‥よし、じゃあカミラ‥説明たのんだ!」
「それでは、私、惑わしの森、住人フレスト”カミラがご説明を。そちらは私が徹夜で作った大変貴重な時計でございます。時計といっても針が動かず、見る者、扱う者に時間を知らせない時計を‥時計と呼んでも良いのか定かではございません。しかし!!懐中時計。とゆう名前。目的に伴い名前も変える予定でしたが‥懐中時計‥分かりますよねぇ、何故懐中時計のままで—-(グフゥ!!」
「喋りすぎだって。説明しろって言ったよねぇ?俺。」
カミラもまた頭からは煙が上がり、地面にカカシの様に突き刺さってしまった。
「ゴホン!!それでは早急に端的に説明致しますね。と言うよりも‥‥。先に入れて頂ければと‥‥」
「あぁ、そうだな、そっちの方がはえぇか。」
目を閉じて、深呼吸する。
今は、彼だけが見える物が溢れる世界。
蒼く輝く鱗粉は、花粉の様に舞いキラキラとこの地に宙を漂う。
この鱗粉の名は、【神起朧】。自然の核となる存在だ。
彼だけが目視でき、操作出来るこの神起朧に一つ頼み事を申し出る。
「なぁ、一つ頼み事があるだけど手伝ってくれねえか?」
「何ブツブツ言ってんだ?酒飲んだかアイツ?イタイ!!」
他のものには見えない不思議な物、触れることなく指で彼が操作する様に一粒一粒、皆が手に持つ蓋と文字盤が開いた懐中時計の中に入ってゆくと‥
「カミラ!閉めろ!」
「御意!!」
指示された物から一つづつカミラは迅速かつ丁寧に閉めてゆく。
「ふぅ。はいおしまい。じゃあ、次こそは‥頼むぞぉ‥」
「えぇ、ご期待に添えられる様に‥‥。はい!それでは皆様。只今より、その魔訶不思議な懐中時計がどう言った物なのか‥ご説明させていただきます。それは、懐中時計‥とゆう名前であり、方位磁針としての役割を担う大変貴重な代物でございます。皆様が向かわれるは惑わしの森。あの森は大変見通しの悪い樹海となっております‥‥。どう足掻こうがこのお方以外には」
「長い長い長いって。」
「え?。」
「パッと言えよ。パッと。伝えたいことだけパッと。前にも言っただろう?」
「は!、何と、また私は喋りすぎたのか‥」
「んぁ、分かったならサッと言え!」
「ゴホン!大変お見苦しい所をお見せしました‥‥それでは本題に、そして端的に皆様にお伝えさせていただきます。惑わしの森。これは、遥か太古から危険だと言われた樹海。皆様では迷子が約束された大変危険な場所なのです。兼ねてより伝えておりますが‥私とこのお方以外では、散歩は愚か生活など‥夢のまた夢‥だからこそこの‥(パシィン!!」
「え、え、長いって、え?聞いてた?」
「はい、貴方様の言葉は全て射止めておりますとも。」
「じゃあ、怖いよ。」
「え、何故、私は説明をしていただけ‥‥。」
「はぁ、シキミ!!いけぇ!!」
「え、あ。うん。これがあれば惑わしの森を自由に動きまわれる‥‥そんな感じ?」
「そう!!」
カミラとは違い、上手くまとめて伝えることが出来たシキミの頭を撫でる。
周りの村人達も、「おぉ、」と声が聞こえてくると同時に、ドサっと膝から崩れ落ちるカミラであった。
さて、よく喋るが、内容は薄く。話が長いだけになってしまったカミラに代わり、第三者視点から説明をするよ。
今、皆が手に取る時計。これは、惑わしの森に入る為に欠かせない物品である事。
時間は確認出来ないが、この時計を持つ事により方向感覚を失わない優れものである。
何故、そんな事が可能なのか。あれだけ危険だと、迷い出られなくなる。そう言われてきた惑わしの森。
それがこの時計一つで解決するとなれば、学者は挙ってこの時計に群がるだろう。
しかし、真似は出来ないだろう。
だってねぇ。その事を伝えたかったんだと思うよ。カミラ君は。(‥‥
「よし!!ついたな!!いつ見ても立派な樹だ。輝いて美しい!!」
「そうですね。」
住処が決まればトントン拍子で事は進み、気づけば一向は村を抜けて惑わしの森の前まで辿り着いていた。
然ることながら立派な巨木が逞しげに建っている。
風が煽り、一つの巨木が微かに揺れると連鎖を起こし、この森一帯が強く揺れる。
その音は、怪物の鳴き声も言っても良い程、人に恐怖心を植え付けてしまう。
此処は外。中や外と言った概念がない筈の自然だと言うのに、この巨木の裏手は木があるのかすら分からず真っ暗。
それが、戦鋼番糸が態々定めた特定禁忌区域の一つ。
惑わしの森である。
そんな、特定禁忌区域と呼ばれる場所に今から彼らは住むのだ。
「本当に行けんのかよ‥‥っておい!!ティアラ!!」
腰が弾けても仕方がないのだが、彼やカミラそしてシキミが何食わぬ顔で入ってしまうと、続々と村人達も続けてこの森に呑まれて行く。
「おいおい!ちょっと待ってくれよ!!クソ!!どうなっても知らねえぞ!!うらぁ!!!‥‥‥‥‥。‥‥‥‥あれ?」
外から見れば別世界ともとれた。その惑わしの森の中。
これだけ間近で見ても何も見えない真っ黒に染まった影に覆われ、中の様子など何も見えない。
意を決して、ノゲシは目を瞑りこの樹海に走り侵入した。
そして、恐る恐る目を開けると‥‥
「‥‥‥‥。」
「みんな、考え過ぎなんだよ。何一つ怖い事なんてねえんだ。」
そこには、只、ただ、自然が広がっていた。
それだけだった。
少し背の高い樹。同じく広がる樹冠。
空を塗り替えて、緑一択。光りは通さず暗いと言えば暗い。
だが、光りが無いと言うのに足元が確認出来る。先に入った仲間達の姿も捉える事が出来る。
どれだけ見渡そうが、自然が広がるだけ。
此処は、只の森。‥何が、怖いと言うのか。
「惑わしの森‥‥下手な名前広めやがって‥‥広めるならもっとカッコいい名前にしろよな。ったく。」
「‥では、変えられてみては?」
「‥‥ん?‥いや、いいよ。シフォンと‥もう一人だれだ?これ?‥まぁ、とりあえずだ。シフォンが決めたんだ。変える気はねえよ。」
「ふふ、そうですか。‥‥では皆様!!この私が特定の場所までご案内致します!!。皆様は言わば、蝋燭を持った状態に過ぎませから、逸れぬよう、離れぬ様、お気をつけ下さい。そして!注意事項も御座いますので‥‥‥
「どうだ?惑わしの森なんて誰かが下手に名前をつけただけだ。何も怖いもんなんてねぇだろ?カッカッカ!!本当みんなは考えすなんだよ、」
「よし!行こうぜ行こうぜ!!案内してくれ」
「なんだか落ち着く場所だねぇ。」
「村長!貴方は荷物を持たなくていいよ!」
「何を言ってんるんじゃ!!わしはまだまだガァは!!」
「あ‥‥‥の、‥‥‥」
カミラの話を途中で中断させる様に皆は一斉に動きバラバラに話し出す。カミラは悲しそうに手を伸ばすも誰も見てもくれない状況に肩を落としてしまうと、
「僕らは考え過ぎだったみたいだけど、カミラくんは喋り過ぎだね。」
「はい‥‥‥。」
彼の肩に触り優しく言って見せたのはタビラであった。
とほほ、と音を出して切ない面持ちでカミラは皆が先早と森の奥地に向かう列の最後で大人しく着いていくのであった。
—————————————————————
「‥‥デマばっかり。これは何処の世界も同じなのかな。」
「‥そうだねぇ。嘘だけで塗り固められたこの記事を信じる者たちは進み、忘れ。真実を知る者たちは、立ち止まり取り残され‥酷く残酷だ。」
読み上げた記事を丸めて、ゴミ箱に投げる。
此処は、リズルゴールド王国の城。その一角。
煌びやかに装飾された壁や天井は、眠気すら吹き飛ばす程の光沢を放ち、数名では贅沢にも使い幅に余りを出してしまう長い卓とソファー。
「ドクレスの調子は?」
「良好だよ。足が折れているからと、無事であった片手で懸垂をしていたよ。まったく脳筋を体現した人間だ。」
「はは、元気で何よりだよ。‥‥。」
湯気の立つ紅茶に手をつけず、背伸びをするとその拍子に窓辺から外の様子を確認出来た。
半壊した建物の数々。子供が遊んでいたであろう噴水広場、立ち入り禁止の看板と区画を設けられ誰もが入れない状態。綺麗なガラスが目立った教会も風通しが良くなってしまい、この時間になれば聞こえてくるピアノの音ももう聞こえない。宛ら‥‥
「‥スイレと同じ事になってしまったね。敦紫君。」
「‥マシだよ。大分。」
「それも‥‥そうだね。マシ‥‥だね。」
ある国と同じ光景。
しかし、違う点を挙げれば、行動が早く適切だった事。
高い壁もない、頑固で傲慢な王でもない、誰もが出入りできるこの国は、色んな助けを呼ぶ事が出来た。
ドクレスの母国からも、応援を要請し迅速な対応。
この国の名物をこよなく愛する者たちが各国から集まり、無償で手助け。
手を貸してくれる人の多さが、スイレとは違った点だった。
外の風景を眺め、僕はこの部屋から出ていく。
長い長い廊下。あの豪勢な部屋から映し出す景色とは違い、廃れた花壇と復旧を終えた訓練場が見える。
包帯をグルグルに巻いたドクレスが、マルクワを担ぎ懸垂している姿。それらを眺めて笑みを浮かべるリリーの姿。
「‥‥‥。泥々だよ。‥まるで‥‥」
そして、一人で、借りたドレスがドロドロになりながら花壇の真ん中で作業する結朱華の姿。
まるで、あの頃の景色を見ているかの様に、麦わら帽子を被り、土がついた手で汗を拭い、丸まった背中。
僕は、窓に手を付けて見惚れてしまった。
「‥‥‥。ふふふ。」
枯れ果てた花壇だった。
この国にやってきた頃とは様変わり、土に栄養が行き届き命を吹き還す。
スコップすらないこの国で、彼女はその綺麗な手で土を掬い種を植える。
当然ながら、ジョウロもなくバケツに水を汲んで行ったり来たり。
全てが、学生時代に見た事がある光景。
‥‥、結朱華もまた彼に花の美しさを教えてもらった人。
だから、僕とは違い、花の育み方を心得ている。
彼に似た‥‥結朱華の背中に‥僕は‥‥
「おぉーーい!!結朱華ぁぁ!!!」
記事に描かれた【冷傑】とは縁もゆかりもない様な満面な笑みと大声を出して手を振るった。
——————————————————
「おらぁぁぁ!!いけいけぇ!!」
「ンゴ!ンゴ!ンゴ!‥‥プハァ!!」
「‥広さは十分だね。じゃあ此処に建てるかい?」
「そうさねぇ。でも、私たちの住む家はそこそこで良いわよ?」
「監督!!これ設計図ですぜ!」
「うむ。‥‥馬鹿野郎!!この寸法じゃ、柱の数が変わってくるだろうが!」
「ほれ、ワシにも酒をよこせぇぇ!!」
「駄目ですよ。飲み過ぎは‥‥」
此処は、森。
皆が知り、一度を見て、体験した事がある森。
名前だけが、人々を惑わす森。
この森の中心点、半壊した家の前で大きなテーブルを広げて、酒を飲み騒ぐ者に、未来の事を考える者。
この大陸に住まう生き物が、考えもしない様な形で陽気に笑う人々。
此処は、惑わしの森。
「‥プハァァ!!‥てか、アイツらは?」
「ん?シフォンさんの像の置く位置を決めるって二人で何処か行っちゃったよ?」
「おお、そうか。宴会だって言うのに‥まぁ良いか。ほら、シキミちゃんも飲むか?」
「‥‥いや、僕未成年。」
「あぁ、そうだったなぁ。ハッハッハ!!」
「‥‥うぅ、酒臭いよ‥‥」
惑わしの森中心部。
此処は、以前カミラが衣食住していたであろう場所。
惑わしの森では、唯一空を拝め、光りが照らす場所。
元々は、小さな平地であった。小さな煙突のついた家屋や、小さな池と小狭な庭。
その三点だけで、この平地のスペースはいっぱい。
だったのだが、明らかにこの木が生えぬ空間が広がっていた。
円状に大きなスペースから細長い道が出来上がり、最新部にはまた、大きな家屋を建てれる程のスペースが設けられていた。
上空から見上げれば、鍵の様な形をしている。
‥なぜ、これだけのスペースが惑わしの森に出来たのか。
‥‥‥。
「よし!。こっちも良いか?‥‥ありがと‥。ふん!!」
スパァン。と、音がこの森に響き渡る。
「‥‥貴方様も脳筋ですねぇ。」
「?。そうか?そんな事ねぇと思うけどな。」
「‥はぁぁ、誰がこの巨木を手刀で切るんですか。それに痛くないんですか?貴方様の手は刃物ですか?‥‥理解が追いつかない。」
「‥‥。痛みはねぇ手を貸してくれてるからな。‥‥ただ、手は刃物にだってなんだってなる。使い方次第だ。」
「ふふふ、心に射止めておきましょう。」
皆が騒いでいた広場から細い道を数分歩き、抜けた先に二人の男。花柄の甚兵衛を羽織る者は丸太を担ぎ、一箇所に集まる。そして、重い彫刻像を背負い眺める者が一人。
「よいしょ!!これで行けるかな‥‥。」
「此処に貴方様のお家でも?‥」
「ん?いや、酒場で寝るよ俺は。」
「はて、では何故この様なスペースを‥‥」
「よく聞いてくれたカミラ君よ。‥この大きなスペース‥‥頭が切れる君なら分かるはずだ。」
「‥‥大きなスペース‥‥‥。」
「‥まだまだだねぇ君は‥‥何を隠そう!!此処は!!」
「‥‥‥(ゴクリ‥」
花畑だぁぁ!!!
「‥‥。‥‥」
「カッカッカッ!!!」
「‥‥‥。‥あ、‥素晴らしいぃぃ(パチパチパチパチ!!」
「だろぉ?まぁ、酒の原材料である梨の畑も作る気であるが‥‥まぁ、それはちょこっとだ。」
かくして、
彼らは再び、拠点の再築に取り掛かってゆく。
中心部の広場には、皆が住む家屋と酒場を。
そして、繋がる長く細い道には花を植え、
抜けた先には、花畑を作る。
此処には陽を隠す原っぱは無い。
花が良く育つ場所だ。
この場所一帯に花を埋め尽くす。
ただし、中央には空間を設ける。
「‥して、このシフォン様の像は‥‥。」
「‥真ん中だ。‥‥」
「ふん!!ふぅぅ。この真ん中に置いて‥花を囲む訳ですねぇ。」
「‥そうだ。‥俺の好きな花畑と同じ形にする。‥いつでも‥あの風景を見れる様に‥‥。あの場所を越える事出来なくとも、似た様な物は作れる‥‥。毎度毎度、あの国に行ってられねぇんだ。‥‥」
‥‥それは‥元の世界でございますか。
?。元の世界?。違うよ。スイレだ、スイレ。
はぁ。スイレ王国。あの国に‥その様な場所など検討も付きませんでした。
‥まぁ、な。俺とヘレンしか知らねぇ場所だから。
‥‥そうですか‥それでは私は邪魔を致しませんよ。‥
??。‥‥あ!、そうだ。お前も見とくか?
‥私の様な者が‥宜しいのですか?
何言ってんだ。お前だから良いんだよ。
「‥‥‥‥。」
花の育て方知ってんだろ?‥一目で分かったよ。
「‥‥‥。」
独学か?‥それとも誰かに教わったのか?
「‥‥‥いえ、形を‥姿を‥‥魅せられました‥‥」
ほぉ、そうか。ならそいつは相当だな。
「はい。相当。‥‥貴方と同じ‥です。」
「カッカッカ!!そうか、なら仲良くなれそうだなぁ‥」
「どうでしょうかね。それは。」
「‥なんだよ‥まぁいいや。じゃあ行くぞ。
スイレ王国に。」
彼は、足を動かし、足音を鳴らす。
‥———————————————
(ザッザッザ‥
‥‥?。
「僕も手伝うよ。」
「‥‥うん。」
??‥‥。(‥‥パタン
リズルゴールド王国。
訓練場と隣接した形で設置された花壇。
広大な敷地に建てられた花壇では一人の力に限度がある。
水を組み、土を掘り、種を植える。
この動作だけで、日が暮れてしまう。
「‥‥‥、少しは落ち着いたかい?。」
「‥‥。落ち着きたいから‥してる。」
「そう‥‥。」
彼女がこの世界に来ていた事を知らされた。
彼女がこの世界で生きていてくれた。
それも全て、あのアニスのお陰だった。
彼女に、彼女の身に何があったのかを全て聞いた。
アニスとゆう人物がどう言った人間なのかを聞けた。
「‥‥、記事に描かれている事は嘘ばっかりだ。もしかしたら‥」
「‥‥、‥見えないの‥アーちゃんの色が‥‥何処にも‥。」
彼女もまた、彼と似た体質を持っていた事を思い出す。
結朱華と、彼だけが見えている謎の色。
この世界に来ても、それが見えているらしい。
人は似た様な色をしており余り区別が付かない。
でも、アニスの色はハッキリ人とは違った色だった。
「‥‥そうか。‥‥」
「‥‥‥。」
「‥ふぅ。彼女もまた何かを真っ当したんじゃないかな。」
「‥‥‥‥?。」
「僕の大切な結朱華を守ってくれてた事。‥それとは別で‥‥助けてくれたんだ。‥‥自慢の矢で‥ね?」
「‥ほんとにそれはアーちゃんだったの?」
「‥確証はないかな。‥‥勘かな‥勘。」
「‥‥‥珍しいね。敦紫君が勘なんて‥ふふふ。」
重い作業は僕に任せてと、水を組み直す為バケツを持ち立ち上がる。
水を汲むには少しだけ距離が離れており、筋トレをするドクレスたちの横を通らないと行けない。
汗を流し、全治一カ月の損傷を背負った漢とは思えない様な過度なトレーニングに、少しだけ笑みを溢す。
「‥‥‥。」
何故ドクレスがあれだけの傷を負ったのか。
彼に聞くが、濁されてしまう。
今朝の新聞に書かれていた事が本当なのかすら、定かではない。
結朱華から聞いたアニスの性格的に、誰かと手を組んで戦うなんて想像は付かない。
比べては悪いが、此処で起きた事とシオン村で起きた事。大きさだけで見れば後者だ。
国か、世界かの話。
現にドクレスとアニスが止められなければ、今ごろこの世は沈んでいた。
終いには、死んでしまったシフォンさんの事は書かれていない。
「‥死者はたったの一人?。‥‥、誰があの場所で死んだ‥‥あれ、一人?‥‥ならシフォンさんも‥スイレの勇者も‥‥」
ドン!!
下を向き、考え込む。
自ずと、前方への注意は出来ずこの城の柱にぶつかってしまった。
「‥‥‥‥。」
「‥‥‥え‥‥。」
「‥?。‥‥。」
ぶつかった物は、柱では無かった。
「‥?。なんだ?私の顔に何か付いているか?」
「‥‥‥‥。」
「‥?。‥‥。」
ぶつかってしまった。‥‥化け物に。
僕の腹を一振りで引き裂いた‥化け物に。
身長は2mを軽々越える高さ。
体付きも、あのラーガすら引けを取らない大きさ。
「‥‥‥何か喋ったらどうだ。‥種よ。」
「‥‥‥。」
白シャツ白ボトムス、白い革靴。
そして、腰元には自分の命を裂いたあの刀。
丸眼鏡の向こう側、光る眼光は白さを増し、
その瞳に映し出されるのは、あの時の映像。
呼吸は更に早くなってゆく。
トラウマ、、とゆう奴だ。
「‥‥‥。」
「‥はぁ、‥‥はぁはぁ。(コトン‥」
敦紫の手から落ちたバケツを目で追う化け物。
視線が移動したその瞳を確認すると、敦紫は腰を落とし体勢を瞬時に整える。
「そうかそうか‥大変じゃったじゃろう。マリーちゃんも。‥イテェ!!」
「‥‥‥。」
「何つったんとるんじゃ!!エピス!!‥ん?‥ォォ、敦紫!」
「‥‥‥。」
巨人の足元からは小さな老人がヒョコッと顔を出し、手を上げる。名はケイジュ、戦鋼番糸の長である。
話を聞けば、騒動を聞きつけこの国にやって来ていたとの事。
そして、この巨人もまた戦鋼番糸の一人‥ではなく。
戦鋼番糸 並びに
センテインピードの主 【百手】。
名を、ロータリー”エピス。
「まぁ、また此奴に裂かれんよつに気をつける事じゃ、して、オーランは何処じゃ」
「‥‥自室にいるけど‥」
「‥そうか、どれ、エピスもくるか?」
「‥‥‥。いや、要がある。」
「珍しくついて来たと思ったら、なんじゃこのチンケな国に?」
「残り香だ。‥私の嫌いな臭いだ。(ザッザッ‥」
「‥‥そうか。なら仕方ないのぉ。無茶苦茶するでな—-」
ケイジュの言葉は、エピスの足踏みで掻き消えた。
この場所に暴風が起き、城全体が揺れる。
辺りは、その影響で砂埃が舞い咳をする者が多数。
砂埃が晴れた頃には、あの怪物の姿は何処に見当たらず、ケイジュに聞いても、お手上げだとゆう表情を取っていた。
とりあえず、気を取り直し水を汲み結朱華の元へと帰ってゆく。
「‥あのエピスって人のせいで‥何考えてたか全部吹っ飛んだよ‥‥。」
色々と考えていた筈。
嘘だらけの記事。雷。まだまだ可笑しい事が山ほどある。
自分が使った種の力を強制的に解除された事。
結朱華がこの世界にいる事‥
事実上、死人は‥‥
ピタ。
!?。
「‥また、固くなってるよ。敦紫君。」
「‥‥、」
「ねえ、敦紫。」
「???。」
「『適当に生きやがれ、引き摺るな、適当にだ。』」
「‥‥‥。」
「‥だよ?敦紫君。」
赤い瞳に、赤い髪。
口を開けず、ただ座っていれば人形の様な美しさ。
僕の大切な友人。赤羽 結朱華。
なんども、概念を通り越して彼に頭を冷やしてもらった。
でも。今度は目の前にいる。居てくれている。
「‥‥はぉ、悪い癖だねぇ僕も‥」
「‥ほんと、何も変わってないよ敦紫君は‥良い意味でも‥悪い意味でも‥‥。」
そうだった。
‥何を考える必要があったのか‥‥
こうして、目の前に彼女が居てくれている事。
もう、それだけで十分だ。
この世界に何が起きても関係はない。
僕は、僕がこの世界来て望んだ答えを探す。
その為にだけに‥‥この世界で探す。
「‥ねぇ、結朱。」
「なーに。」
「覚えているかい?彼の事。」
「勿論。死んでも忘れない。」
「‥僕は元の世界に帰って、彼の墓に花を添えて上げたいんだ。」
「‥‥うん。」
これが、元の世界に帰る理由。
大事で、大切な彼の墓に‥花を‥‥。
ねぇ、結朱。
なーに。
アニスの事は好きかい?
んー。アスター!!
あぁ、ごめんごめん。ごめんね。
ふん!!嫌いな訳ないでしょ!!親友なんだから
親友‥‥そう。かれは‥いや、彼女は花は好きかな?
普通‥かな。
じゃあ、好きな物って何なのかな?
‥‥ママ。‥ママの事ばっかりだった。
ははは!!そう、
「もう!何が言いたいの!!」
「‥独りを貫いた。‥‥そんな彼女だ。なら、せめて最後ぐらいは大好きな人の元へ、墓を作ってあげようかなって‥」
「大好きな人‥‥でも、ママは‥‥」
「大丈夫‥色々とオーランから話は聞いてる。烏滸がましい事ではあるけど‥どうする?結朱?。」
「‥作る‥‥作って上げたい‥‥」
「ふふ、なら早急に行かないとね。」
「何処に‥?。」
「‥ん?アスターのお母様が育った母国。
スイレ王国に。」
‥‥‥。(パラ‥‥
確認するべき音や跡は、其処には無く。
それでも命があれば、足は動いてしまう物だ。
夢一度、誰かのお陰で流れた時、
再び、活力を取り戻す物だ。
それは、夢とはかけ離れた物であっても、
いつしか、辿り着く物だ。
偶然とは実に、恐ろしい生き物だ。
かくして‥‥
「‥‥一つ、二つ、三つ、‥‥四つ?。」
敦紫と結朱華は‥‥
「どれだけの種が、あの一夜で存在した。この小さな国に。‥何があるこの国に。何故集まった。‥悪意の無い種が二つ‥‥」
あの国に向かう。‥もしかすれば‥
「悪意に満ち溢れた種が二つ‥‥染まった臭いと‥嫌いな臭い。‥そして、まだ残っている。‥‥
付けた付箋を剥がすかもしれない。彼が‥彼の子の名を叫んでしま‥‥
「‥ふん。騙せると思うな、偽り通せると思うな。着いて行けると思うな。少し調子に乗り過ぎだ‥一度此処で断ち切っておこう。」
この者達の物語は‥‥、?。‥!?。
「直ぐにまた、あの男を見つけて、導くのだろう?‥‥染まり切ったお前は‥。人の道を思うがままに語るなど、況してや主導権を握るなど、無礼に値する。」
‥まて、‥‥まて、まてまてまて、まてぇぇ!!
「貴様らは思うだろう。思い浮かぶだろう?‥だがそれも仕方がない事だ。‥それがこの刀の意であるからして‥‥」
ま———-/-‥‥‥。
「‥‥。何故、お前に目をつけたのか。‥‥何故、私は手を貸しているのか。私にもよく分からない事だらけだ。‥‥だが人の目は想いを写す。その想いだけは私にも理解出来る事がある‥‥。一時的、呪縛は解いた。
想いのままに、叫んでみせろ。天傘 敦紫。」




