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 追想行進華 —庭園の足跡—  作者: 玉袋 河利守
2章”貴方が選んだ形、拾い上げた物は
67/70

66”夜が明けて、笑って


 

 焦げた匂いだけが残るシオン村。建物はあらかた壊滅。農作物も芽を生やす物は全てやられ、焼け野原に。シンボルである風車は羽を捥がれ、人々の活力すら削がれ、ただこの光景を眺めた。


 残った数少ない建物。このシオン村の唯一の酒場。扉は蹴破られ誰でも侵入が可能。


 「‥‥‥。また、生きてしまった。‥‥」


 腹を摩りながら、下を俯きながら、気絶してしまった人々を芝が生える所へ移動させて休ませる。そして、暗い暗い酒場の中へ。


 夜は、酒場は賑やかになる。夜は、最も酒場が光りを放つ。そんな空間とは裏腹に、灯りも人の声も聞こえない。あれだけの事があり、夜である事すら忘れていたが、この酒場に入り、実感する。


 「‥‥いない。‥‥何処に‥」


 誰かを探す。此処にいる筈だと信じて踏み込んだ。だが、誰もいない。


 「‥‥?。」


 外とはまるで違う。綺麗に並べられたテーブルと椅子の数々なのだが、一つだけ、水溜りを作る場所。椅子は倒れ、テーブルの上には花瓶が倒れてしまっている。


 「‥‥。」


 無言で、椅子を立て直し座る。水が満杯に入ったグラスを手に取り、一口喉に通すと、呼吸を整える。この席は窓に近く、思い出せば此処でシキミと一緒にジュースを飲んだこの席。


 「‥‥。‥。雲‥‥。」


 窓から外へ、シオン村を抜けて小さな丘を更に向こう。其処には、雲が、雨雲が其処だけに出来ていた。雲だけではなく彼の目には、遠目で蒼光が微かに見えた。


 「‥‥、そうですか。また、貴方様が‥‥。ふぅ。私は‥‥私だけは‥‥残りました。‥‥お姉様‥‥これが‥私の証明でございます。」


 ‥‥——————————————————


 ある者が眺める丘を越えて、存在するポッカリと空いた穴。其処には雨に打たれる一人の男。


 「‥‥。ちょうどいい。雨だ。」


 強い雨、傘を差さなければと手が動くのが道理。しかし、この雨に焦る事もせず、余裕さすら見せる。


 「‥もう良いよ。ありがと、」


 雨はピタリと止んだ。雨雲はちぎれてゆき、月の光りをこの場所に通す。


 雷が落ちた。その衝撃で湖の水は全て蒸発。ポカリと穴が空いた場所に変わる。しかし、降った雨のお陰で、この穴には水が溜まり、元の形へと姿を取り戻す事が出来た。


 そして、雨を止めた男は、歩く。

 

 元に戻った湖の上を、足跡の残らぬ湖の上を、歩く。


 「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。」


 足を濡らさず、湖を出て、丘を越えて、現実が広がる。


 半年前の日に見た、同じ光景に言葉を失う。


 家も、芝も、畑も、風車も、ぐちゃぐちゃ。


 村。村だった筈。村だった筈の場所を。


 彼は、ただひたすら歩く。


 あれも‥‥これも‥‥‥それも‥‥‥


 どれも、焦げ見るも無惨な形へと成り果てる。


 彼は、ただひたすら歩く。


 「‥‥。」


 村を入って、少し歩いた所だろうか。彼は足を止めた。この村の広場で見つけた。変わり果てたこの村で、形を保つ彫像の前で。


 「儂の所だけ‥‥、カッカッカッ」

 「‥‥‥。」

 「‥なんだぁ?儂の男前の面じゃあ、ダメか?」

 「‥‥‥いえ、良き、面構えでございました。」


 笑う笑う。背中が揺れ肩が浮く。その姿を背後で見届ける者。


 「‥‥、お姉様が気絶しさせた人々は、無事です。」

 「‥カッカッカッ。そうか‥‥そうか‥‥それなら安心だ。」

 「‥お一つ‥‥宜しいでしょうか。」


 振り向かない彼、残された彫像に触れる彼の背後で、膝をつき下を向く。


 「‥何故、私を助けたのでしょうか?‥。私が此処にいなければお姉様もまた、この場所には来なかった。」

 「‥‥‥。カッカッカッ。しかしよく出来てる。作ったアイツらには感謝だな。」

 「何故、私をあの森から連れてきたのですか‥‥なぜ、私を見つけたのですか。‥‥何故、」


   連れだろ?‥‥以上だ。


 「‥‥‥。」


 顔を上げて、彼の背中を見る。声を聞いて、視界が歪む。彼の背中が歪んで見えた。だから、また下を向く。


 「‥カッカ、そこに水やって、花でもあるのか?」

 「‥‥‥。」


 数分、沈黙が続いた。一度も彼は振り向かなかった。笑い、肩を揺らす彼と同じく、カミラもまた身体が小刻みに揺れていた。


 「‥‥。なぁ、カミラ。行ってくるな。」

 「‥‥‥。?。」

 「‥このシフォンの‥」


 背後から、強く抱きしめる者。


 「‥アンタ‥‥アンタって奴は‥‥。」

 「‥‥うぅ‥相変わらず力がつえぇ。」


 恰幅のいい女性。この村に住むティアラである。彼女は、細い身体の彼を強く抱きしめて、髪を撫でる。周りでは、皆、目が覚めたのかこの広場に全ての住人が集まる。


 「おい大丈夫だったか?」

 「怪我はねぇのか?」

 「えぇ!?髪色が!?」

 「今はそんな事どうでもいいでしょうが!!」


 「‥‥‥‥。」


 

 ‥‥‥


 ‥‥‥‥。



 雨のお陰で、冷めていたのに。人の暖かさに触れて、全部蘇って来やがった。

 カミラは自分を責めていたが、違う。

 こんな事が起きたのに。こんな有様なのに。

 結局は、俺が事の発端だっただろうに。

 誰も、責めようとはしなかった。

 誰もが、俺に声を掛けてくれた。



 「何処いくんだ?か—-」

 「‥よしな、タビラ。」


 

 「‥‥‥‥。」



 俺は、また足を動かした。このままでは外れてしまうから。

 抱きしめてくれた手を解き、掛けてくれる言葉に返答もせず、歩き出した。

 もう、口を開ける事は出来ない。精一杯なんだ。


 「‥‥ふぅ。」


 嫌な臭い。焦げた臭い。

 この臭いは、この世で最も嫌いだから、風を起こして臭いを吹き飛ばす。

 村全体に風が行き渡り、吹き荒れる。

 少しは呼吸が出来るようになった。


 「‥‥‥‥。」


 俺は、歩く。

 ひたすら、歩く。

 あの場所を目指して、一人で歩く。

 

 


 —————————————————————



 

 いやぁぁぁぁぁぁ!!!



 「落ち着いてください!!ヘレン様ァァ!!」

 

 雷が降った。人々を気絶する程の音を鳴らして、地を揺らして、雷が落ちた。遠く彼方の距離ではあるが、その衝撃は、この国にも甚大な被害を齎していた。


 外にいた人々は愚か、城の中へ避難していた人々すらも、残り残さず気絶。辛うじて、意識があるのは敦紫と二人の王国騎士。


 「離して!!!」

 「‥落ち着いてくだされぇぇ!!」


 雷が降った方角に目を向ける敦紫。その目の前では、取り乱し、暴れ出すヘレンと落ち着かせようと肩を持つドクレス。


 この国で、立っているのは僕たち三人だけ。ペンドラゴラムでさえ、声をかけても応答がなく。地に刺さったまま。


 「あの場所には、あの場所にはぁぁ!!」

 「‥‥‥‥。」

 「敦紫殿!!見ているのなら、手伝ってくれぇ!、!」


 筋骨隆々なドクレスが、一人の可憐な女性を止めるだけで額に汗をかいている。彼女の力はどれほどなのか。あの巨漢なドクレスの足が引きずられる程。


 「‥‥。」


 気が動転しているのだろう。あれだけの雷だ。女の子なら怖がるのも仕方がない。


 「‥‥雷の位置‥‥、矢が飛んできた方角‥‥。矢‥‥誰の‥‥、もしかして‥。」


 「ヘレン様ぁぁ!!何処へ行かれるのですかぁ。グヌヌヌ‥敦紫殿ぉぉ!!」


 「いいよ、離してあげて。」



 気づけば、彼女は動いていなかった。だから、そっと肩から手を離す。


 バタ、


 膝をつき、唖然とした表情。生きてるのか怪しい程に、その瞳は霞みがかっている。


 「‥また、‥‥まただ。‥‥まただよ。あれからずっと同じ。‥また居場所を間違えた。‥‥‥ねぇ、ドク。」


 「‥‥どうされたのですか‥‥」


 「まただよ。またおんなじ。‥‥ドク‥‥また、私は‥‥」


 「お嬢様‥‥‥、」


 膝をつき、涙を流す彼女。その言葉が、この表現が、強く強く、ドクレスの心に突き刺さる。だが、


 「‥‥わたくしは‥‥」


 「クロリス!!しっかりしなされ!!」


 「‥‥‥‥。」


 痛みも感じぬ様にその大きな手で、器用にほっぺをつねると、鼻息を荒げ、立ち上がり指笛を鳴らす。すると、彼方から馬が二頭、勢いを付けてやって来た。


 「、シフォン様でしょう。‥あの世にも可笑しな術が降り注いだのは、方角を見れば分かりますとも。」

 「‥‥‥‥。」

 「早とちりにも程がありますぞ。貴方のその目で確認するまでは、何があっても諦めてはいけない。そうでしょう。‥」


 馬の手綱を持ち、ヘレンに手渡す。そして、真剣な表情を見せて、敦紫に自分の手綱を渡す。


 「‥‥?。」

 「私がご一緒にしても足手纏いだ。‥だが、私も直ぐに後を追う。お嬢様を‥‥あの村を‥見て来てほしい。」


 手綱を握りしめるドクレスの手をじっと見つめる。


 「‥。タダでとは言わない。敦紫殿には、目的がある。私はずっと貴殿の邪魔ばかりしている。‥だが、頼む。頼れるのは敦紫殿だけなのだ。‥」

 「‥‥‥。」

 「貴殿がほしい情報は全て話す。審界の件も帳消しでいい。私個人であれば、貴殿の目的に尽くす。」

 「‥‥ドクレスは、ほんと真っ直ぐだね。良いよ。貸して‥‥」


 ドクレスから手綱を引き受ける。顔を寄せてくる馬を優しく摩り、跳ね上がり座り込む。隣には目を真っ赤にしたヘレンを見て、微笑む。


 「‥お嬢様に真っ直ぐだ。‥あと、交換条件なんて過雑な事しないでくれるかい?」

 「?。」

 「約束して、審界に足を運ぶと決めたんだ。帳消しなんて、約束の意味がなくなるでしょ?‥それに僕に付きっきりなのも勘弁だ。」

 「‥‥敦紫殿。」

 「でも、勘違いしないでね。これは優しさじゃない。僕の目的と合理的だったから。この結果になった。それだけさ。」


 一つ気になること。


 「‥あの村に行く予定が?」

 「‥うん。アイツがいる。‥アニスがいる。」

 「‥なんと。やはり、種を呑む同士、位置がわかるのですか?」

 「?。いや、そんな事出来ないけど。」

 「?。ならどうして。」

 

 「どうしてって、‥‥なんでだろ?‥‥んー。勘かな。」


 パチン!と、音が上がると、彼とヘレンの姿はもう遠くに。


 「‥不器用なお方だ。‥‥。さぁ、私も全力で追いかけようか。リゲイト‥‥‥



 ‥‥‥、———————————— 



 馬を走らせる両者、英雄と救世主。


 彼らは、あの、村に向かう。


 このゴツゴツとした一直線の道に、馬を走らせて向かう。


 しかし、このまま馬を走らせても、少しばかり時間が掛かってしまう。ペンドラゴラムがいれば空を飛び向かうことが出来たが、ペンの応答はなく。馬を走らせる。


 「早く、早く、早く、」


 敦紫の隣で、声を出し続ける彼女。


 「‥‥‥。」


 雷が降ってから実に三十分は経っている。これだけの時間が経てば、最悪な状況だけが残る形すらある。急いであの村に行かなければ、アニスはまた何処かへ身を隠す可能性も高い。


 目的は違えど、両者、急がなかればいけない理由がある。


 だが、此処から時間が更にかかる。


 リズルの国があり、大きな森を回って、更に向こう側。


 その先にシオン村がある。


 なんと言っても、この森を外回りしなければいけないのだが、中々の時間を有する。森の中は、馬を走らせる事は出来ない。よって、こうして遠回りをするのだ。‥‥。


 「‥‥森。‥‥此処って確か‥ヒヨドリの森?‥‥あ。」


 手綱を引き、馬の足を止めさせる。直後、先頭を走るヘレンにも停めるよう声をかける。


 「‥停まってどうするのですか!!、早く行かないといけないのに、邪魔をするんですか?。」


 停まってはくれたが、正気は保てていないようだ。


 「‥、急いでいるんでしょ?。」

 「えぇ!!、急いでいますとも!だから貴方は‥」

 「近道知ってるよ。‥まぁ、そのまま今までの道で行きたいなら止めはしないが‥どうする?」

 「‥‥‥‥。」

  

 着いてくるように指示を出す。だが、あろう事か敦紫は、来た道を戻り出した。


 「ふざけているのですか!!、来た道を戻るなんて‥‥‥え。‥‥これは、」

 

 「‥覚えているかい?‥貴方と初めて出会った場所。‥貴方がリリーさんを助けてくれた場所だ。」


 来た道へ返す。此処はリズルゴールド王国に隣接するヒヨドリの森。


 此処は、敦紫が扱う武器を探す為に、足を踏み入れた森。


 色んな事が起きた場所。魔獣と出会い、兵器を連れ出し、種に見つかり、そして、この森を抉った。そんな場所。


 力のままに振るった剣は、形を作り飛ぶ斬撃へと変わる。マルクワを囲む魔獣に目掛けて振るったつもりだったが、加減知らず、その空飛ぶ斬撃は、この森を抉り倒し彼方へと姿を消した。


 一直線に抉られた森は、道となり、大きな身体を持つ馬でさえ、勢いを落とさず走らせる事が出来る完璧な道と言えるだろう。


 回り道せず、このヒヨドリの森が近道となった。


 「‥まさか、此処が近道になるなんてね。さぁ、いくよ。」

 「‥‥はい。」


 敦紫が切り開いたこの道に、彼女らはまた馬を走らせる。


 その一方で、近道の存在など知らないドクレスは、ヒヨドリの森の外周を走り、逸れる事なく真っ直ぐ走っている。


 「ハァ、ハァ、鎧ぐらいは脱いでくるべきであった。はぁ、はぁ、リゲイトの力があれば速く走れるが、体力自体は変わらない。‥‥はぁ、はぁ、走り込みも大切とゆう訳だ‥はぁ‥はぁ、‥‥?。‥‥うん?‥あれ‥は‥敦紫殿か?」


 ‥‥‥。


 彼自身が切り開く道。

 その道は、従来、人々が通う道よりも遥かに早く目的地へと到達出来ると予想させる。

 では何故、人々はその森の外周を走り態々、遠回りするのだろうか?

 何故、森を切り開き、貫通させるように道を作らなかったのか?。

 そう聞けば、誰もが同じ答えを出す。

 そこに道があったからだ。

 

 何かを目指し、人は歩き出す走り出す。

 前を向けば、道はあるものだ。だからその道を使う。

 以上だ。

 道があるのだ。歩けば、足を動かせば、この道を辿れば必ず着くのだ。それが道であるからして。


 それなのに何故、また別の道を作らないと行けない。

 ましてや、森を貫通させて道を作る?

 そもそも、思いつきすらしない。

 労力もかかり、時間だってかかる。


 但し、この世の中には存在する。

 考え尽くされた計算の元、行った訳でもなく。

 意図した物でもない。


 ごく僅か、同じ道を歩いている人間だとゆうのに、人とは違う効率を生み出し、最短距離で目的地へと進んで行くような生き物が存在する。


 その物に聞いたって、

 『特別な事はしていない。みんなと同じ様に歩いているだけ。』

 と、己の異常さに気づけておらず、聞いた此方側が唖然とする事が多いのだ。


 「天才。」


 人はそう呼んだ。


 天才とは、その技量を示した生き物の名前ではない。

 同じ種族の中で、より速く、より的確に近道を作り見つけ到達する。

 決して、普通の人間では到達出来ない所には天才もいない。

 根本は同じなのだから。


 歩く道の少なさ故、知る事の出来ない経験だってある。

 その生まれ持った天賦の才は、操作する事は叶わず、その者に異なって使い勝手が悪いらしい。



 贅沢な悩みである。



 人は皆、天才と呼べる。

 しかし、今歩く道では、どうも運が悪いらしい。

 環境、性能、相性。

 この三つが欠如していると、才能がないと笑われてしまう。

 天才とは、その道に、【偶然】その三つが適し走り抜く事が出来た生き物なのかもしれない。


 中には、この理論をぶち壊す存在もいるが‥それはまた別のお話に‥‥

 

 —————————————————————




 「‥‥何処へ‥‥行かれるのでしょうか。」



 フラフラと先頭で歩く男の背を見つめながら、呟いてみる。


 長い長い長い長い道。彼は人を追っている。自分の命を救った恩人を追っている。この道にできた足跡を頼りに。


 ‥‥‥。


 「‥‥‥。」


 微かな音を出し、歩く。


 「‥‥‥、。」


 ひたすらに、歩く。

 下を向けば、終わってしまう。

 だから、前を向いて、歩く。


 「‥‥懐かしいなぁ。此処で‥拾われたんだ。」


 一度、足を止めてみた。

 大草原と言える大地にポツンと生える木が一本。

 半年前、国に居られなくなった俺が彷徨いながら辿り着いた場所。

 疲れているのもあり、あの木の木陰が心地良さそうに見えた。

 だからあの場所で、一眠りしようと道を抜けて、あの木に向かった。


 「‥先客がいたんだよな。‥‥イビキを描きながら気持ち良さそうに寝てたんだ。‥‥。」


 ‥、また、あの木に行けば、あの人は馬鹿みたいな顔をして寝てるんじゃあないかって。

 だから、覗いてみた。


 「‥‥、おぉ、びっくりした。‥」

 「(すー、すー。」

 「‥‥すまねぇ、すまねぇ。」


 また、先客がいて驚いたよ。

 シフォンではなかったが、綺麗な女性が一人、スヤスヤと眠っていた。

 幸せな時間を壊すのは良くない。俺は、忍足で木陰から飛び出し、道へと戻った。


 ‥‥そして、俺はまた、足を動かす。



 「はぁ、もう‥会えねぇのか‥‥辛れぇなぁ。」



 もう、無意識でその言葉が出てしまう。

 崩れるのも、時間の問題だ。

 速く、速く、あの場所に‥行かないと。


 「?。」


 鎧を着て全力で走ってくる大男。会釈をしながら、俺の横を通り過ぎた。


 「‥。ごきげんよう!旅人よ、お一つ尋ねても良いだろうかぁ!」

 「‥‥‥‥。」


 声が聞こえた。しかし、足は止めない。



 ‥‥‥————————————



 「はぁ、はぁ、はぁ、」


 随分と走った。速度も上げて、先に行った二人の姿を追っているが、中々二人の影すら見えてこない。リゲイトの力を使い、速さだけで言えば、同じぐらいだが‥。


 「あの村で‥はぁ、はぁ、何も無ければいいのだが‥はぁ、はぁ、」


 前を向いて、手を振って、走っている。すると、人影が二つ見えてくるではないか。


 「おぉ!敦紫殿‥‥?。‥いや、違うか‥」


 足を止めている暇はない。私の邪魔をせぬ様に、脇道に身体を動かしてくれた旅人に、会釈をしながら走り去る。


 「ご気遣い感謝する。(タッタッタ 」

 「‥‥‥。(スタ、スタ、スタ 」


 「‥‥‥‥。」


 足を止めた。振り返り、通り過ぎた旅人を見てみた。


 「ごきげんよう!!旅人よ!お一つ尋ねても良いだろうかぁ!」

 「‥‥(スタ、スタ、スタ 」


 声が聞こえないのか、ユラユラと身体を揺らしながら足を止めず返答がない。


 「君が来た道に。馬に跨った二人の人間を見なかっただろうかぁ!」

 「‥‥(スタ、スタ、スタ、 」


 やはり返答がない。‥世の中にはそう言った人間も沢山いる。気にすることなく、私はまた前を向き、その足を動かそうとするが‥


 「‥来た方角‥‥、ボロボロの服‥‥。‥」


 予想。そして、揺れるその背中を見て、確認する事にした。


 「停まってくれぬか?」

 「‥‥。」

 

 無礼を承知の上、旅人の肩を触り、足を止めてもらう事に‥‥


   !?!?!?!?


 「ぬぁァァァ!?」


 「‥‥‥。」


 見えた。‥見えては行けぬモノが見えた。出会っては行けない存在が見えてしまった。


 「うぅ、はぁ、うぅ、はぁはぁ。」


 呼吸が上手く出来ない。デカすぎる‥‥とにかく、デカすぎるのだ。‥‥私がちっぽけ過ぎる。‥何をどう足掻こうが‥この生き物の前では‥茶番。‥‥、


 「‥‥‥。」

 「(‥怖い‥‥だが‥‥」


 背から大剣を抜き取り、無言で立ち尽くす人間に似た何かにその剣先を向ける。


 「‥‥。、‥。」

 「‥‥、名をお聞きしても良いだろうか?」

 「‥‥。」


 「‥‥、君が来た方角で、世にも可笑しな術が振り降りた。‥。この範囲。国に住む一般人は全て、気絶しているとの情報まで回っている。‥‥何故、君は、動けている。」


 原因は目の前にある。そう身体が叫んでいる。だが、根拠もなく、証拠もなく、責め立てるのは三流がやる事。私は‥私の耳で聞いたことしか、信じない。


 「‥‥‥邪魔‥‥するなよ‥‥」


 「?。」


 「震えるぐらいなら、‥邪魔するなよ。‥‥」



   鬱陶しい。‥‥ふぅ。



 風が飛んできた。吹いた、のではない。飛んできた。表現としてそうするしかなかった。風がこの目に見えたのだ。見える筈のない風が、私に向かって飛んできた。


 風と言っていいのかすら。その力が故に混乱してしまう。宙に浮きながら実感する。


 「ぐふぅあ!!」


 着地すらできなかった。


 剣を向けた相手が起こす風に、腕を交わせ防ごうとする。だが、相手は風、防ぐ事は愚か、自分の体が風にぶつかり吹き飛んだ。


 風が身体にぶつかった拍子に、己の身体の至る所で損傷が見えた。もう、立つ事は出来ない。


 いや、たったあの瞬間で、私の身体は瀕死を遂げた。


 「‥う、‥‥何処へ行く。‥‥貴様は‥‥。一体‥‥、」


 「‥‥‥。(スタ、スタ、スタ 」


 「待てぇ!!」


 もう、成す術はない。しかし、手を挙げて、あの生き物の足を止めさせたかった。‥危険だから?‥異質だから?‥奇妙だから‥?‥‥違う。‥‥違うのだ。


 触れた時は、確かに信じられない生き物に見えた。

 しかし、今は違う。


 遠く、遠く、私の元から距離を離し歩いて行くあの者の背中は、小さく、小さく、悲しみだけを帯びた一人の青年に見えた。だから、私は‥‥



 「待てぇぇ!!‥‥君は‥‥君は‥」


 

 身体は動かぬが、魔胞子はまだ見える。

 彼の足並みを止める為、私は魔法を唱える。

 

 

 「土属性魔法‥‥ロック‥がぁ!!」



 魔胞子を操作する私の手を、力のままに踏み躙る者。



 「‥‥、。何をされるおつもりで?‥その手で、その魔法で、誰を‥狙うおつもりで?」



 「ぐぁぁぁ!!」


 私の手の骨は、バキバキと音がなり。魔法は中断を余儀なくさせられる。 



 「‥‥」

   

 「貴様も‥‥はぁはぁ‥仲間か‥‥‥」


 「だったら?どうしますか?」



 私の手を踏んだこの男もまた異質。雰囲気だけでも分かる。私達と同じ類の生き物ではない。


 

 「はぁ、はぁ、貴様が‥彼の子の仲間なのなら、伝えてくれ。‥‥。」

 「?。」

 「悲しみに満ちたその背中、顔色。歳だけ見れば、まだまだ若い筈だ。‥その若さで、あれ程の負を纏って何故平然としていられるのか。」

 「‥‥‥。」


 「検討はついている。彼の子が何者なのかも。‥‥だからと言って私は言いふらさない。‥‥半年前から今日まで‥‥彼の子の身に何が起き‥‥‥。」


 私の話を遮る様に、黒服に包まれた男は、私の口元に人差し指を当てる。


 「あなた達人間はすぐ知りたがる‥知ってどうするのですか?何かを変えるおつもりで?‥‥ふふ、笑わせないでください。それと偏った知識で‥‥私たちの範疇に入らないで下さい。」


 「私は!!」


 「喋らないでください‥‥‥近寄らないでください‥触れないでください‥‥


  無理に寄り添わないで下さい。」


 ‥‥‥。


 「貴方の事は存じ上げませんが‥決して貴方様の事が嫌いだからと‥発言している訳ではないのです。‥‥これは、単なる忠告。‥‥、触らぬ神に‥祟り無し。‥ですね。」


 「さわらるかみに‥?‥一体何を言っている‥」


 手を叩きながら、微かに笑みを浮かべながら、動けぬ私の額に指を押し当てる。


 「‥これだから脳筋は‥‥。ですが‥、貴方は染まらぬ人。今日の事は忘れ、今まで通りの生活を。忘れず、探し、見つけ、会う事があれば‥‥次は敵やも知れません。私は構いませんが‥あのお方の負担になる事があれば、問答無用で殺しに行きますよ。‥お気をつけを。


 では、さようなら。


 真っ直ぐなお方よ。


 ‥‥。


 その言葉が最後、私の視界には焼き爛れた建物達が集まる場所にやって来ていた。瀕死の身体、思考が追いつかない景色の変化に。私の記憶は此処で途切れた。


 ドクレスが消えたこの一本道。黒服に身を包んだ男は背を伸ばし、目を細めて空を眺める。


 「‥あら、もう朝ですか。」

 

 月は下がり、気づけば朝日が顔を出していた。空は青く染まって行くその空を眺めながら、深呼吸し、気持ちを整える。


 「‥ちょうど良い。‥‥夜明け。‥‥素晴らしいき言葉でございます。」



 —————————————————————



 「はい!どうぞ!!」



 高い城壁の外側で睨みを効かせる門番兵。列を作り一人一人に持ち物検査、並びに身分の証明、そして目的。それらを聞き出し、良かれば入門させて行く。


 此処はスイレ王国。  


 

 スイレ王国の入国審査の厳しさは、この大陸でも一番。


 半年前の事件を境に、一番とゆう称号を手に入れた。


 ネズミ一匹、入る隙はない。


 ‥だったのだが‥‥。


 

 「お疲れ様でございます!アビケ副師団長殿!」

 「よして下さいよ。仮ですから仮。」

 「はは、何を言いますか。‥貴方様のお陰で我らスイレ王国の活気は戻りつつあるのですよ。」

 「いえいえ。」

 「それにしても、昨日の音‥聞きました?」

 「ん?、あぁ‥‥うん。目が覚めちゃったよ。」


 アビケ。元スイレ王国騎士団。現在は只の一般市民に属する者。‥なのだが‥‥人々は彼を王国騎士団含め、副師と言う立派な役職をつけて彼の名を呼ぶものばかり。


 資格は剥奪された一般市民は、日々、国の騎士としての役割を果たしていた。


 「しかし、すごいですなぁ。」

 「‥?。」

 「いやいや、検問がかなり厳しかった数日前とは、明らかに人の量が違いますぞ。」

 「‥うん。そうだね。」


 厳重な検問は、この国に足運ぼうとする物だけではなく、この場所で、この中で住まう人々にすら被害が起きていた。

 

 少し前にも話した事はあるが、スイレ王国には事件以来、高い高い壁が建てられた。侵入者が入ってこない様に、二の舞にならない様に。


 ぐるっと周りを囲む城壁。入り口は、三つ。


 検問を行う大門。騎士団達が出入りする小門。

 そして、ある家族だけが知る秘密の小穴。


 一般人がこの国の中に入りたければ、この厳しい入国審査を完了しなければいけない。それだけなら、目を瞑り我慢できたのだが‥


 国王レカン”スイレ=セドウスは、入国審査の条件を跳ね上げた。それもまた理不尽に。


 怪しい雰囲気を出している者がいれば、躊躇いなく追い返せ、と。


 ただ、それだけの理由で追い返される者が増える日々に、皆はスイレから離れてしまい、日々日々、この国に訪れるものの数が激減した。


 商人、流通関係、図書館の利用者、観光客。


 その大半が、スイレ王国を見放してしまい、経済の悪化、食糧難、復旧作業の人員不足。


 後は、待つだけで滅んで行くのだろう。そう誰もが予想した。


 「‥はい。はい。大丈夫です!どうぞ!」

 「はーい!此方もどうぞ!!はい大丈夫ですねー。」


 だが、今は、違うようだ。


 このスイレ王国の大門から、先が見えぬ程に列を作る他国の者たち。検問は行うが、身分証があれば通過は可能。検問基準をスイレ王国が引き下げたのだ。その噂を聞きつけた商人、運び屋、学者達は足を運ばせた。


 何故、これだけ変わったのか。


 これはたった数日の出来事。


 「しかし、セドウス国王が行方不明とは、」

 「そうだね。彼の方は一様、国の王様だから捜索は毎日されているけど見つからないみたいだね。」

 「一様って‥」

 「‥はは、一般市民だからね。何を言っても大丈夫だよ。」


 数日前、この国には、歴史に残る災害が起きた。


 風が殺意を帯び、鉄球の様な雨が降り、この国に甚大な被害を与えた。‥‥のだが

 この国の形は、より良い形で戻りつつある。


 「しかし、誰が予想したでしょうか。半年前に起きた事件で国はボロボロ、復旧作業が難航する日々。先日に続けて【嵐】と言う物が起き、国王は行方不明。戦鋼番糸の見定めが入り、秩序の執行対象になったとも噂されておりました。等々この国は終わったと誰もが思った事でしょう。」

 「‥‥‥だね。」

 「‥ですが、その嵐に国王が攫われ、不在となったスイレ王国は、枷が外れたかの様に、自由になりました。」


 嵐が起き、セドウスの姿が消えた。

 国としては一大事のはずだのだが、この状況を上手く使った人物がいる。


 「‥どれも、これも、貴方様が的確な指示の元行ったからでございますよ。ルドルス副師団長。」

 「いえいえ。動いたのは皆さんですよ。」


 それが、アキレイア”アビケ。

 国王が不在なことをいい事に、王立図書館の入場料を一時撤廃。セドウスがルガルド王国から派遣した騎士団を叩き直し、入国審査の引き下げ、他国からの救助を要請した。


 「‥みんな、国は好きなんだよ。じゃないと動かない。それに来てくれない。これが答えだったんだよ。」

 「そうですねぇ。しかし、セドウス様が帰還すれば。どうなることやら。」

 「その時は、僕が全責任を負うよ。みんなは僕に指をさしてくれたら良い。追放でも、死刑でも、何なりと。

 「ですが‥‥。」

 「‥それに、セドウスが次、この国に帰ってくる頃には少しだけ丸くなってると思うよ。」

 「‥‥‥?はて?‥それは‥‥何故‥‥」

 「んー。内緒。」


 門番が検問をし、次々とこの国に来訪者が入って行く姿を見届けるアビケと一般兵士。前と比べれば、検問の速度も上がっており、流れはスムーズなのだが‥どれだけ人を入れても減らない列。


 遠くを拝見しても、列の終わりすら見えない程。


 「それにしても早朝だと言うのに、凄い人の数ですぞ。」

 「そうですねぇ。入り口増やします?」

 「なぁ!?無茶苦茶ですぞ!」

 「はは、冗談、冗談ですよ。」


 笑いながら、城の中ではなく、列を作る方角へ足を動かして行く。検問が変わった日から彼は毎日毎日、並ぶ来訪者達の顔を一度確認すると言う習慣を行っている。


 「‥‥。おはようございます。」


 一人一人、並ぶ来訪者に挨拶をして行くアビケ。

 彼のこの習慣は、防犯対策として行ってる訳ではない。


 ただ。ある人の来訪を持ち浴びているだけ。


 アビケとゆう人間がこの国を変えたと言っても過言ではない。しかし、それは正義感の表れでも、この国のより良い未来の為でもない。


 たった一人の恩人が活力となり、彼はここまでは動けた。


 「‥‥。はぁぁ、」


 この国で、いや、この世界で、半年前から今までに至る事件の真実を知るたった一人の人間。


 「‥アニスが、壊し‥‥、彼の方も壊し‥‥、スイレ王国の良き兆しが見えてきました。不器用な方々だ。」


 アニスの素性。並びに転移したスイレの勇者の素性を知る者。


 「‥そう考えると、‥‥私は‥人が思っているより、アニスが悪い奴とは思えませんよ。‥‥それは、彼の方も同じく。」

 

 ようやく、この列の最後尾が見えてくる。一人一人の顔を確認し、会釈を払い、また先に進む。


 「はぁぁ、今日も居られない‥‥。?。芽?」


 最後尾で待つ来訪者の確認を済ませて、城に帰ろうとした直後、その道の先には、道の際に生える芽と目が合う。


 「‥なんとも珍しい。‥‥おぉ!旅人様、!」


 また、来訪者が此方に歩いてくる。フラフラとした足並みは、際に生える芽にその足が向いている。

 この芽を踏ませては行けない。そう思い、フラフラと歩く旅人に声をかける‥‥


 「フラフラと、お身体大丈夫ですか?服もボロボロ‥この先に何か起きた‥‥?。‥‥‥あ、」

 「‥‥‥。」

 「‥か、か、‥‥か」

 「‥?。おぉ、元気か?」

 

 彼が待ち浴びた存在。


 「‥‥。」


 逢えた。また、この国に来てくれた。喜びが込み上げてくると、同時に違和感も上がってきた。


 「‥‥カッカッカ。お勤めご苦労さん。」


 自分が慕う恩人。それは間違いない。だが数日前に顔を合わせた時はまるで違う風合い。髪の長さに髪色に。前方にいる彼の姿に戸惑いを見せてしまう。


 「‥‥?。どうした?」

 「‥‥は!失礼しました。‥‥えっーと。今日はどう言ったご用件で‥‥」

 「‥‥花‥‥摘みにな。」

 「‥‥‥そうですか‥ですが今の国には花どころか‥緑と言える自然自体‥‥」


 言葉を途中で飲み込んだ。

 先ほど浮上した違和感の正体が分かった。

 最初は、彼の様変わりした見た目に覚えた違和感だと思っていた。しかし、違った。


 ‥一体いつからだろう。と、

 彼の表情は、ずっと微笑んだ姿。目を細め皺を作り、頬に力を入れて口角を上げた状態。その状態で、今、彼と会話をした。


 一度たりとも、その表情に変化はなかった。

 一度たりとも、この会話の中で、口を開けていなかった。

 その細めた目で、前をしっかりと視れるのだろか。

 その開かぬ口元で、何故、今、自分と会話が出来たのだろうか。


 微笑んでいるとゆうのに、不気味さが混じった表情。

 ‥‥陽気さはまるでない。

 見た事もない、彼の姿に。

 アビケは、只事ではないと、生唾を飲み込んだ。


 「‥‥‥こちらへ。」


 事情は知らない。それでも聞こうとはしなかった。

 今、自分が出来ることは、彼をスイレ王国の中へ。

 

 「アビケ副師。その方は一体‥‥」 

 

 列を越え、彼を案内する事に、

 すると、先ほど会話をしていた一般兵士が声をかけてくる。

 長い髪の毛、ボロボロの服に、草履を履いた彼を見て、怪しそうな眼差しを向ける。


 「‥あぁ、申し訳ない。伝えるの忘れていたよ。この人、僕のお兄様でねぇ。今朝、この国を見て回るって連絡が来たんだ。」

 「あぁ、そうですか。」

 「ほんと、この人、自由で手を焼くよ。」

 「いえいえ。まさか。アビケ殿にお兄様がいるとは‥‥ささ、中へお入りください。おい!門番兵!この方はアビケ副師の親族だ!無礼は許さぬぞ!」


 お辞儀をし、彼はこの大きな城門を抜けてフラフラと歩いて行く。敬礼する門番兵に笑いかけながら会釈すると、彼の姿は小さく小さくなっていった。


 「アビケ殿?、行かなくても良いのですか?」

 「‥‥大丈夫ですよ。仕事をしっかりと終わらせてこいと言われましたから‥」

 「そうでしたか。アビケ様が真面目に育った意味もわかりますね。‥それにしても、笑顔が素敵なお方だ。アビケ殿の活躍に微笑んでいたのでしょう。」


 「‥‥笑顔かぁ。‥‥」

 「‥‥?。」

 「あ、いえいえ、そうですね。」

 

 彼が消えたあの向こう側から、数人の兵士が走りアビケの名を叫ぶ。


 「アビケ副師!!」

 「はい?どうされました?」

 「命令通り、城の裏側に位置する場所。ルドルス団長の思い出の地の整理が完了致しました!」

 「おぉ、早いですね。ありがとうございます。」

 「‥それと‥‥あの裏庭で整理していた兵士が‥ある物を見つけまして‥」


 アビケを囲み、数人の兵士と業務連絡を交わす中、何やら、城の外、入国を待ち浴びている来訪者の行列が騒がしくなっていた。


 「おいこら、順番抜かしするな!、」

 「いて!何ぶつかってんだよ!やんのか!」

 「おいおい聞こえてねぇのか!、」


 「ごめんなさい。あまりルールが分からないので」そう言い、この行列をかき分け手を後ろに組みながらこちらに歩いてくる1人の男。アビケとその兵士は気づかずまだ話を続けているが‥‥


 「‥穴?‥‥何故またそんな所に‥‥。」



   「‥‥ご機嫌よう。私も中に入れてもらって宜しいですか?」



 「!?」


 アビケは驚き腰元にある剣を握る。背後でそう語ったのは不適な笑みをした黒い服を着た男、今まで見てきた人間とはまた違う異質なオーラを放つ。


 「貴方は?」

 「‥警戒してます?ふふふ。」

 「‥‥‥。何故、この国に?」

 「何故?‥理由?‥‥目的に理由。‥貴方達はそれがないと行動に移せない種族なのですか?‥まったく。」


 剣を抜きかけるアビケ。背後で戦闘体制に入る一般兵士達には、持ち場に戻るように指示を出す。

 何故、そんな事したのか。怪しさ満点の男。何をしでかすか分からない。そんな人間が目の前にいるのに、何故他の兵士を持ち場に戻らせたのか。


 アビケの目は正確。不気味な表情を取るこの男は危険。

 数では、太刀打ち出来ぬ様な存在。

 力だけなら、この国の転覆する未来すら見える。

 この男を止めれる様な人間はこの国には、いない。

 そう踏んだ。だから、逃したのだ。


 「‥‥。震えてるではありませんか。‥威嚇するなら‥するで、ハッキリしてください?半端な人間。」

 「!?!?。」


 異様な雰囲気に、身体の震えは加速する。額には汗が滲み出る。男の表情で、男の声色で、劣勢となった。


 「‥この国に‥入りたければ‥‥目的と‥身分証を‥提示する‥それが決まりだ。‥‥守らないのなら、此処は通す事は出来ない。」

 「‥。決まり。ルール。んー?。では、何故私よりも先に来たあのお方は入れたのですか?‥‥ねぇ?可笑しい?そう思いませんか?」

 「‥‥それは‥‥‥。」

 「‥‥応えれない。‥‥やはり好きにはなれないな。人間は。‥‥しかし、貴方は彼の方と接点があるとお見受けします。」

 

  

   そうですねぇー。私は先に来たあのお方の全てを知っています。



 「‥‥。全て‥‥」

 「えぇ、何が起きたのか。何を背おられて生きているのか。‥‥その、全てを‥‥‥。」

 


 目を見開くアビケにまたその黒い服を着た男は不適な笑みを浮かべ頭を小刻みに前後ろへ揺らす。


 「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。ではどうぞ。」


 「どうもご親切に。」


 アビケは握る剣を解き、その道を譲るとまたその男は手を後ろに組みゆっくりと入っていく最中。


 「頼みましたよ。‥‥」


 「‥‥‥ふん、何がですかね。‥‥」


 その男もまた姿を消していく。


 「アビケ殿。‥‥‥」


 「うん?あぁ、彼の人もね。今日は賑やかになりそうだね。」


 「彼の方も‥‥‥」


 「はい。今日は二人のお兄様が来てくれました。」


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